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NXP、自動運転実現に向けた車載コンピュータ「BlueBox」を日本で初公開

2016年5月24日 開催

 NXPセミコンダクターズN.V.の日本法人であるNXPセミコンダクターズジャパン(以下、両社合わせてNXP)は5月24日、東京都内で記者発表会を開催し、5月に米国 オースティンで開催したプライベートイベント「NXP FTF」で公開した自動車向けのソリューションなどを紹介した。

 NXPは元々はオランダの家電メーカーであるフィリップスの半導体子会社としてスタートしたが、2015年の12月7日にはモトローラから半導体部門が独立したフリースケール・セミコンダクタと合併。新生NXPとして新たなスタートを切った世界的な半導体メーカーだ。とくに自動車向けのアナログRF、マイクロコントローラ、MEMSセンサーなどに強く、自動車向けの半導体としては世界でシェア1位の半導体メーカーとなっている。日本ではルネサスエレクトロニクス、東芝などの日本半導体メーカーについでシェア3位だが、近年では日本の自動車メーカーへの売り込みも強めている。

 そのNXPは、5月半ばに米国テキサス州オースティンで開催したNXP FTFでADAS(Advanced Driver Assistance Systems:先進運転支援システム)向けのコンピューティングユニット「BlueBox」を発表しており、今回の発表会はその日本でのお披露目といった感のある記者発表会となった。

レーダー、V2X、セキュリティなどを一括提供できる

NXPセミコンダクターズN.V. 上級副社長 兼 オートモーティブ部門最高責任者 カート・シーバース氏

 NXPセミコンダクターズN.V. 上級副社長 兼 オートモーティブ部門最高責任者のカート・シーバース氏は「今回の記者説明会は、フリースケールとNXPが合併して新生NXPとしてスタートしてから初めての日本での記者説明会となる。言うまでもなく、日本は自動車が重要な市場であり、日本法人のビジネスの60%以上を占めている。我々の自動車部門では2500人近くのエンジニアが働いており、NXPの総売上高に対して40%の売り上げを占めている」と述べ、NXPにとって自動車向けの半導体が最も重要なビジネスであると強調した。

 その上で、今後自動車ビジネスは過去20~30年には見られなかったぐらいダイナミックに変わっていくだろうと指摘し、「その変化には3つのメガトレンドがある。1つめは人々の生活をよりよくすること、2つめは交通事故を減らして人命を救うことであり、3つめはCO2削減など環境への配慮だ」と述べ、それらのメガトレンドを実現する要素の90%は電子技術であると説明した。

シーバース氏の言う3つのメガトレンド

 シーバース氏は「NXPは自動車向け半導体でよいポジションにある。車載アナログRF、日本を除く市場での車載マイクロコントローラ、車載MEMSなどの市場でシェア1位になっていて、さらに各種アプリケーションでも技術的なリーダーであり、自動車向けのグローバル市場で市場シェア1位だ」と述べ、日本では現在ルネサス・エレクトロニクス、東芝についてシェア3位ではあるが、マーケットシェアが上昇の局面にあると説明した。

NXPは自動車向け半導体では世界でシェア1位の半導体メーカー

 そうしたNXPのADAS向けにシーバース氏は3つのソリューションを説明した。それがRader(レーダー)、V2X(車車間、路車間通信)、セキュリティの3つの分野だ。

 レーダーは電波を照射することで周囲に物体があるかどうかを調べる装置で、よくSFやアニメなどで索敵に使っているあのレーダーだ。もちろん、自動車では索敵するわけではなく、自動運転や自律運転を行なう場合に自車の周囲に障害物などがないかをチェックするのに利用する。

 シーバース氏によれば、NXPはほぼ切手サイズの基板にレーダーの機能を実装することに成功しており、そこには旧フリースケールが開発してきたプロセッサとパワーマネージメント、NXPが開発してきたトランシーバーとイーサネットなど、合併した両社の資産がうまく生かされているとした。「レーダーの搭載車は今後も増えていくだけでなく、1台のクルマに搭載する数も増えていくので需要は増加する。例えば、現在弊社の製品をフィールドテストしているGoogleは、自社の自動運転車に15~20ぐらいのレーダーを搭載していくと説明している」と述べ、将来的にはADASだけでなく、自動駐車やジェスチャー制御などにも利用されることで、今後3年間で27%の成長を期待。レーダーを構成するのに必要なトランシーバーとプロセッサの両方を持つNXPは、2019年には市場シェア1位になると予測していると述べた。

レーダー製品には旧フリースケールとNXP両方の製品が使われている
NXPが提供している切手大のレーダー製品

 また、V2Xの取り組みでは、レーダーだけではチェックできないエリアをカバーする仕組みとして取り組んで行くという。V2V(車車間)という自動車と自動車が通信して周囲の情報をやりとりする仕組みや、V2I(路車間)という自動車と道路が通信して自動車の先の情報(例えばこの先で工事が行なわれていて車線が減少するなど)を自動車に伝える仕組みなどについてもNXPは積極的に取り組んでいくとした。

 シーバース氏は「フリースケールからプロセッサやソフトウェアを、NXPからセキュリティやモデム、イーサネットなどを持ち込んで、NXPは1.5マイルの距離を5ミリ秒のレイテンシ(遅延時間)で通信できる、最高性能でセキュアなV2Xを提供できる」と述べ、すでにアウディが実地試験済みであることなどを説明した。また、V2Xのソリューションは自動車メーカーだけでなく国などにも売り込んでおり、米国では2016年中に義務付けの機能になる見通しであることなどを説明したほか、米国の自動車メーカーであるGMのキャデラック 2017年モデルで採用予定であることなどを明らかにした。

 さらにシーバース氏は「コネクテッドカーの時代になるとハッキングのリスクが高まる。NXPでは4つのレイヤーにおけるセキュリティのソリューションを提供しており、業界最高水準だ」と述べ、自動車メーカーの懸念の1つであるセキュリティに関しても満足のできるソリューションを提供できると強調した。

シーバース氏のプレゼンテーション資料

40Wという比較的低い電力で自動運転を実現できる車載コンピュータ「BlueBox」

NXPセミコンダクターズジャパン株式会社 第一営業・マーケティング本部長 三木務氏

 NXPセミコンダクターズジャパン 第一営業・マーケティング本部長の三木務氏は、5月のNXP FTFで発表したADAS向けの車載コンピュータとなるBlueBoxについて説明を行なった。

 三木氏によれば、日本におけるNXPの売り上げのうち実に65%が自動車向けということで、NXPの日本でのビジネスの焦点が自動車にあることなどを説明したあと、日本でこれから注力していくエリアとして、フリースケールとの合併でよりソリューションが増えた車載情報システムとADASの2つを上げた。

NXPの日本における売り上げの65%が自動車向け

 三木氏は「交通事故の原因の94%はドライバー起因となっている。そうしたヒューマンエラーをアシストによってどのように防いでいくかが重要になってくる。最終的な完全自動運転の実現に向けてステップバイステップで実現していく必要がある」と述べ、その実現に向けて、V2X、レーダー、ライダーなどの各種センサー、さらに車両制御系やメータークラスター向けのそれぞれにNXPが半導体を提供していけるとアピールした。

 その上で、その中心に来るのが車載コンピュータとなるBlueBoxで、「LS2088A」という2GHzで動作する8つのARM Cortex-A72コア(64ビット対応)、DDR4メモリコントローラなどを備えた高性能CPU(GPUは内蔵されていない)がベースになっている。これにより、40W未満という低い消費電力で最大90,000DMIPSという性能を発揮するという。さらにもう1つ、「S32V234」というセーフティコントローラも搭載されており、フォルトディテクション(なにかエラーが起きていることを認識すること)を行なうほか、センサー類を管理して、自動車の安全な走行などを実現する仕組みが提供されるという。

NXPが提供する車載コンピュータであるBlueBoxの概要
BlueBoxの外観
レーダーやライダー、カメラなどと接続して利用できる
BlueBoxの内部構造
BlueBoxのアプリケーションプロセッサとなる「LS2088A」はヒートシンクの下にある。8つのCortex-A72(2GHz)と強力な演算性能を実現している
セーフティコントローラ「S32V234」が実装されている基板

 これにより、BlueBox単体でレーダーやライダー、カメラからの入力などを認識して物体検出を行ない、それにより車両をどこに向かわせるかという運転方向の決定(つまりはステアリングやアクセルの操作)まで行なう。OSはオープンLinuxがベースになっており、開発環境もNXPから提供されるという。なお、このBlueBoxはこのままでも製品化できるが、「基本的に今回の製品は開発版で、現在ロードマップにある製品を使ってもらうことを考えている」(三木氏)とのことで、すでに世界のトップ5の自動車メーカーのうち4社が採用に向けて動いていると説明した。

 今回公開されたBlueBoxは静的デモになっており、実際には動作していない。これは無線部分の認証など日本国内でデモを行なうのに必要な各種認証が間に合わなかったためで、NXP FTFでは実際に動作するデモが披露されたということだった。

NXP FTFでは実際に動作する様子が公開された

 記者発表会の終盤に行なわれた質疑応答では、ディープラーニングのソリューションで先行するNVIDIAの車載コンピュータとの違いについて聞かれ、シーバース氏は「(違いは)3つある。1つめは彼等の製品は250Wの消費電力で水冷式という自動車向けには現実感がないものだが、我々の製品は40Wに過ぎないこと。2つめは、彼等には我々のBlueBox相当の製品しかなく、レーダーなど周辺部分の提供ができていないこと。3つめは我々が自動車ビジネスを長年やっており、自動車メーカーが求める技術要件にも対応していること。例えば安全性の担保という意味では、彼等は我々が2つ持ってるプロセッサのうち、セーフティコントローラに相当する機能がない」と述べ、NVIDIAがディープラーニングだけにフォーカスを当てているのに対して、NXPはセンサーからプロセッサまですべてのソリューションを提供できることが強みだと強調した。

三木氏のプレゼンテーション資料

(笠原一輝)