NXPセミコン、NFC対応の次世代自動車キー用チップ発表 NFCで鍵とPCや携帯電話が情報をやりとり |
NXPセミコンダクターズジャパンは6月10日、自動車用多機能キー向けシングルチップソリューション「NCF2970」(KEyLink Lite:キーリンク・ライト)の生産準備が完了したと発表、都内で報道関係者向けに説明会を開催した。
次世代自動車キーの内部(右)。電源はボタン型電池のみ |
■自動車の鍵を介して情報をやり取り
「キーリンク・ライト」は、パッシブキーレスエントリーの発展形。パッシブキーレスエントリーとは、鍵を携帯していれば、クルマのドアハンドルに触れるだけでドアロックが解除され、車内でスタートボタンを押せばエンジンが指導するシステム。自動車メーカーによって「スマートエントリー」や「キーフリーシステム」といった名称が付けられている。
キーリンク・ライトはこのパッシブキーレスエントリーに、携帯電話やパソコンと情報をやりとりするインターフェイスを付加するもの。
このインターフェイスには「NFC」(Near Field Communication:近距離無線通信)が採用されている。NFCはSUICAやEdyなどの非接触ICカードにも用いられている技術だが、ISO14443として国際的に標準化されており、欧州ではノキアなどの携帯電話に搭載されているほか、今後はAndroid端末に標準搭載されることがアナウンスされている。
キーリンク・ライトの使用事例の1つに「カーファインダー」がある。駐車場にクルマを停めてエンジンを切る際に、クルマのカーナビから鍵へ、従来のパッシブキーレスエントリーのインターフェイスを介してクルマの位置情報が転送しておく。鍵を持ってクルマの外に出たユーザーが、クルマをどこに停めたか分からなくなったら、鍵を携帯電話にかざすと、クルマの位置情報が携帯電話のディスプレイに表示され、どこにクルマがあるか分かるというもの。さらに携帯電話にハンディーナビ機能があれば、それを使ってクルマまで誘導してもらうこともできる。
あるいは鍵の中にガソリン残量(EVであればバッテリー残量)、走行距離などのデータ、タイヤの空気圧を始めとするメンテナンスデータを転送しておき、鍵を携帯電話やパソコンにかざせばこれらの情報を見ることができる。
次世代自動車キーの使用事例である「カーファインダ」。鍵の中にクルマの駐車位置情報を入れておき、携帯電話でクルマをどこに停めたかを見ることができる | |
携帯電話を鍵にかざし、PINコードを入力すると鍵に記録された情報を携帯電話で見ることができる | |
位置情報だけでなく、メンテナンス情報などの車輌情報が記録してあれば、それらも表示できる |
携帯電話を鍵にかざし、鍵の中の情報を表示するデモ | こちらはGoogleのAndroid端末「Nexus S」で鍵の中の情報を表示したところ |
事前にパソコンなどから鍵に読み込ませておいたルートプランをクルマのカーナビに読み込ませるという使い方も | NFCインターフェイスをクルマにも搭載すれば、カーシェアリングなどで利用できる | NFCで携帯電話を自動車の鍵にするソリューションも考えられるが、セキュリティの面などで次世代自動車キーとして独立させるほうが有利という |
NXPセミコンダクターズジャパンの林氏 |
■NFCは使い勝手、消費電力などで有利
NXPセミコンダクターズジャパン オートモーティブ事業部マーケティングの林則彦氏は、自動車の情報を鍵を介して外部の媒体とやり取りすることの優位性を「トヨタなどで携帯電話を使ってクルマの情報を表示することが考えられているが、クルマに携帯電話で使うインターフェイスを入れるのは、ハイエンドのクルマではよくても、安い車ではなかなかそこまでいかない。しかし鍵は必ずクルマにあり、かつパッシブエントリーなどのインテリジェントキーはすでに50%以上普及しており、携帯電話もみなさん持っている」と説明した。
またNFCをインターフェイスに選んだ理由を「まず(パソコンや携帯電話とのインターフェイスとして)考えられるのがUSBやBluetoothだが、これらを鍵につけるとかなり利便性がよくない。鍵にUSBのようなメカニカルなインターフェイスを持たせるのは利便性がよくないし、Bluetoothは消費電力がすごく高い。鍵は携帯電話のように毎日充電するような機器ではないが、自動車メーカーの要求では、鍵の電池は2年以上(車検ごと)もたせる必要がある。そう考えると、ISO14443のNFCインターフェイスを鍵に持たせることで、今後普及するであろうNFCケータイとのやりとりや、パソコンとのやりとりが実現できるだろう」「NFC通信は携帯電話から電力をもらってデータをやり取りするので、鍵の消費電力がゼロになり、バッテリーのライフタイムの心配がない」と説明した。
また鍵自体にディスプレイを持たせれば、携帯電話などとのインターフェイスが不要になるが、ディスプレイの消費電力が大きく鍵のバッテリーがもたないこと、携帯電話のディスプレイはカラーでより大きいこと、ディスプレイが無ければ鍵をポケットに入れたまま洗濯してしまったり、落としてしまっても壊れにくいことを優位点としてあげた。
次世代自動車キーはイモビライザーキーやリモートキーレスエントリー、パッシブエントリーなどから発展したもの。クルマと鍵は従来のパッシブエントリーのインターフェイスを使用する | キーリンク・ライトのメリット |
キーリンク・ライトでクルマが携帯電話やパソコンとつながる | しかしそのインターフェイスがUSBやBluetoothでは使い勝手がわるい | ISO14443(NFC)の非接触インターフェイスで利便性が高まる |
NXPセミコンダクターズジャパンの濱田氏 |
■登場は5~6年後に
NXPセミコンダクターズは2006年にフィリップスからスピンアウトした半導体メーカーで、本社をオランダに置く。オートモーティブ事業全体のシェアは世界第5位だが、CANなどの車載ネットワークやイモビライザー、キーレスエントリー、ラジオなどのカーエンターテインメントのシェアは1位、ABSなどに使われる磁気抵抗センサーは3位となっている。
同社オートモーティブ事業部の濱田裕之事業部長は「朝、どの駅でも皆さん携帯電話を見ている。皆、常にどこかと繋がって情報を得ながら自分の行動を確認して動いている。そういう意味ではクルマを運転しながらでも常に外界と繋がっていたい。外からのデータをクルマに取り込んで、いかに気持ちよく過ごす時間を増やすか」と、現在のクルマとドライバーを取り巻く状況を説明。また、安全やエネルギー消費の効率化、カーシェアリングなどの新しいクルマの利用形態への対応といった目的もあり、同社は「コネクテッド・モビリティー」というコンセプトでこれに取り組んでいるが、NFCを使った自動車の鍵もその一環だ。
次世代自動車キーの実現は、携帯電話におけるNFCの普及が前提となるが、これには今後2~3年かかると見られている。「今日お話しするのは、これから5年先、6年先に、今、開発しているものやできあがった製品が、実際にお客様の車に入り込んで製品化されていくというものが中心」ということで、次世代自動車キーが製品として登場する時期もその頃ということになりそうだ。
同社の車載事業の概要 | |
説明会では同社のITS車載器向けソリューション「C2X」も解説。車車間、路車間などの通信に同社が持つベースバンドチップ「MARS」を利用、各国のITSの規格にも柔軟に対応できる |
(編集部:田中真一郎)
2011年 6月 10日