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NXP、世界初の「NCIベースNFCコントローラ」をサンプル出荷開始

2017年型「キャデラック」にNXPのV2Xソリューションが採用

NXPの半導体が採用されているV2Xモジュール
2014年10月17日発表

 半導体メーカーのNXP Semiconductors(以下NXP)の日本法人となるNXP セミコンダクターズ・ジャパンは10月17日、東京都内で記者説明会を開催し、同社の自動車向けソリューションの解説を行った。

 このなかで同社は、車載用としては世界で初めて「NCI(NFC Controller Interface)」に対応した車載用NFCコントローラとなる「NCF3340」、およびキーレスエントリーやイモビライザーなどの機能を1チップで実現する「NCF29A1」を発表し、自動車メーカーなどにサンプル出荷を開始していることを明らかにした。正式な出荷開始は2014年度の第4四半期を予定している。

 また、これに加え、先月デトロイトで行われた「ITS World Congress」のなかで同社の「V2X(自動車からさまざまな機器に対する通信のこと)」ソリューションが、2016年に米ゼネラルモーターズ(GM)から発売される2017年型「キャデラック」に採用される予定であることを発表したと説明。このV2Xに関するデモを行ったほか、デジタルラジオ向け半導体、LEDドライバ、OPEN Allianceの業界標準仕様に基づいた車載イーサネットのコントローラなど、今後提供を開始する予定の半導体製品のデモを披露している。

NCIベースのNFCコントローラや超小型スマートキー向けICを発表

NXP セミコンダクターズ・ジャパン オートモーティブ事業部 事業部長 濱田裕之氏

 Car Watch読者にとっては、NXPという社名を見ても知らないという人も多いだろう。しかし、NXPがオランダの総合電気メーカーであるPhilips社の1部門「Philips Semiconductors」という半導体メーカーが母体になっている会社だと言えば、ある程度理解できる人も増えるのではないだろうか。NXPは半導体メーカーとしては世界でトップ10に入る大手で、「自動車向け」「ID認証向け」「通信向け」など多種多彩な半導体製品を提供していることで知られている。

 その日本法人となるNXP セミコンダクターズ・ジャパン オートモーティブ事業部 事業部長の濱田裕之氏によれば、「日本法人の売り上げの約7割は自動車向け」とのことで、主に日本にある自動車メーカーに対して販売、サポートなどを担当しているのが日本法人の役割ということになる。濱田氏は「NXPは、これまではエンターテインメント、キーレスエントリー、車内ネットワークなどに強かった。しかし、近年はADAS(エイダス:次世代ドライバ・アシスト・システム)のような分野にも進出しようとしており、さまざまなソリューションを展開している」と述べ、今回の記者説明会では、そうしたNXPがこれから参入しようとしているソリューションを紹介していくと説明した。

NXPの事業規模(2013年現在)は、グローバルで48億1500万ドルで自動車は22%。日本では自動車だけで68%とほぼ7割を占める
従来のNXPの自動車向け製品はエンターテインメントなどが中心だったが、今後はADASなどにも力を入れていく
NXP Semiconductors セールス・マーケティング・オートモーティブ担当 上席副社長ドゥルー・フリーマン氏

 NXP Semiconductors セールス・マーケティング・オートモーティブ担当 上席副社長ドゥルー・フリーマン氏は、同社が今回の記者説明会に合わせて発表した2製品を紹介した。1つはNCF3340と呼ばれるNFCコントローラ。NFC(Near Field Communication)は日本では「おサイフケータイ」「Suica」などに利用されているFelicaの上位版となるような近距離無線通信技術のことで、決済手段やデバイス間の近接通信などにおける利用が見込まれている。現在はスマートフォン、タブレット、PCなどのコンシューマ向け機器で普及が進みつつあり、将来的にはNFCを利用した支払いやユーザー認証などのさまざまな用途に応用されることが期待されている。同社はNFCのコントローラでは、グローバル市場で他社を大きく引き離してシェア1位となっており、同社の車載向けソリューションが広がることは、自動車へのNFC搭載が進む要因の1つになり得ると言える。

 今回発表されたNCF3340は、NFCの標準規格を策定しているNFCフォーラムで規定されているNCIに対応した初めての車載規格対応NFCコントローラになる。NCIは、NFCコントローラとSoC(Sytem on Chip)などのアプリケーションプロセッサ間が通信するやりとりを標準化した規格。今後はNCIに対応した製品が主流になると考えられており、その車載規格に対応した製品が登場したことの意味は小さくない。

 NXPによれば、対応する通信モードは「NFC-DEP(P2Pモード)」「NFCIP-2」「ISO/IEC 14443」「ISO/IEC 15693」「ISO/IEC 18000-3」「MIFARE」「Felica」となっており、現在のNFCで必要とされるほとんどの通信モードをサポートしている。

NCF3340のアウトラインを説明するスライド。初めてのNCI対応の車載グレードNFCコントローラだ
自動車で想定されるNFCのユースケース

 フリーマン氏は、自動車でのNFCのユーセージモデルに関して、現在使われているスマートフォンとのBTやWi-Fiを利用したペアリングのトリガーといった容易に想像できる利用方法に止まらず、ドライバー認証(自動車の鍵としてNFCに対応したスマートフォンを利用)や各ユーザーのスマートフォンにエアコン温度やシートポジションなどを保存したワンタッチ設定に加え、カーシェアリングでスマートフォンを認証キー替わりに使うといった使い方が想定されると説明した。

 また、もう1つの製品となるNCF29A1は超小型のICで、いわゆるキーレスエントリーやイモビライザ機能、RF(電波回路)などの機能を1チップにまとめた製品となる。従来製品と比べて70%のサイズ削減を実現しているという。これにより、例えばスマートフォンケース型のスマートキーを作ったり、腕時計型のキーを作るといった応用例が考えられるとのこと。

 NXPによれば、どちらの製品も自動車メーカーなどに向けてサンプル出荷が開始されており、NCF3340は2014年末までに、NCF29A1は2014年度の第4四半期内に正式な販売開始予定となっている。

NCF29A1を説明するスライド。従来製品に比べて70%サイズ削減
従来よりもワイヤレスキーを小型化したり、スマホケースなどに組み込むといったさまざまな応用が考えられる

V2Xは計画段階から実車に搭載される段階まで進化しつつある

 また、フリーマン氏はNXPの自動車事業の概要について説明した。フリーマン氏は「自動車産業には3つの大きなトレンドがある。1つはスマートフォンなどの民生用デジタル機器の体験を自動車でシームレスに実現すること。2つめがADASなど、安全や自動運転などに向けた機能。3つめが化石燃料の使用量やCO2排出の削減といったエネルギー効率の改善だ。NXPはそれぞれのトレンドに向けて製品を投入している」と述べ、NXPが自動車向けに提供しているソリューションについて具体的に説明した。

 そのなかでフリーマン氏が特に時間を割いたのは、ADAS向けのソリューション。9月に米国のデトロイトで行われたITS World Congressで、デルファイのV2X通信モジュールがGMの2017年型キャデラック(2016年に販売開始予定)に採用されると発表されたが、このデルファイのV2X通信モジュールにNXPの半導体が採用されていることを紹介している。

 このほかにもNXPはレーダーや超音波などを使ったセンサー類を提供しているとのことで、フリーマン氏は「こうしたV2Xが実際にクルマに採用されるようになれば、自動車同士が情報をやりとりして事故を避けることができる」と述べ、例えばトラックの影に入っていてドライバーからの死角に他車がいる場合、その存在をドライバーに通知したり、自動的に認識して回避動作に入ることができるようになり、より安全性が高まるとした。フリーマン氏は「2年前はIEEE802.11pを利用したV2Xはまだ構想段階だったが、すでに実際の製品が完成しており、今後はそれを車載製品に組み込んでいく段階にある」と述べ、すでにV2Xが実用段階に来ていると強調した。

NXPが考える自動車業界のトレンド。デジタル家電のユーセージモデルの自動車での実現、ADAS、エネルギー効率の改善が今後も鍵になる
NXPは3つのトレンドそれぞれに向けた製品を投入している
V2X通信では実際の自動車に採用されるとすでに発表されている
V2X、レーダー、車載イーサネットなどのソリューションをNXPが提供
Wi-Fi(IEEE802.11acなど)の仕様を自動車用にしたIEEE802.11pが実用化されれば、V2Xなどを利用して死角に車両がいる場合でもドライバーに注意を喚起したり、クルマが自分で危機回避できるようになる

 また、フリーマン氏は「自動車がインターネットに接続すると同時に、今度は自動車のなかにある半導体がハッカーから攻撃を受ける可能性が出てくるので、それを防ぐことが大事」と述べ、NXPとしても車載向け半導体のセキュリティを高める取り組みを行っているとした。「そうしたセキュリティはソフトウェアだけでなく、物理的に半導体にアクセスするという攻撃からもセキュリティを守る必要がある」と述べ、同社の半導体製品には半導体がセキュアに動作しているかモニターする機能などが追加され、セキュリティを向上させる仕組みが内蔵されていることをアピールした。

 なお、記者説明会終了後には、同社が今後販売を開始する予定の自動車向けのソリューションが実際にデモを交えて紹介された。

自動車がインターネットに接続されるようになれば、セキュリティの確保が重要になる
NXPが検討しているセキュリティを確保するための各種ソリューション
NXPの半導体が採用されているV2Xモジュール
NXPのV2Xのソリューションのデモ
車載イーサネット(OPEN Alliance準拠)のデモ
「マルチチャネルLEDドライバ」のデモ。3つのICで合計5個のLEDがコントロールできる
日本では普及の見とおしが立っていないが、米国や欧州などではそれなりに普及しつつあるデジタルラジオ向けソリューション。方式が異なる国であっても、ソフトウェアを切り替えれば1つの基板でサポートできることが特徴

(笠原一輝)