フリースケール、自動車向けロードマップとアルプス電気との協業を発表

Photo01:フリースケール・セミコンダクタのAISGを率いるReza Kazerounian博士(Senior VP & General Manager, AISG)



 米フリースケール・セミコンダクタは10月22日・23日の2日間、都内でフリースケール・テクノロジー・フォーラム・ジャパン2012(FTFジャパン2012)と呼ばれるイベントを開催した。

 フリースケールは半導体業界の中でも車載向けの売上比重が低くなく、それもあって自動車向けの製品やサービスを少なからず提供しているベンダーである。フリースケール・テクノロジー・フォーラム(FTF)自体は6月に米国で開催されるのがメインであり、今年はこれに加えて8月に中国とインド、10月に日本という3個所でも開催されたが、従来のFTFジャパンは本国から何人かのエグゼクティブが来日する程度で、基本的にはフリースケール・セミコンダクタの日本法人であるフリースケール・セミコンダク・タジャパンがメインでの開催であった。

 ところが今年の場合、6月にフリースケール・セミコンダクタに新CEOが着任したばかりということもあってか、本国の各部門のエグゼクティブを引き連れ、そうしたエグゼクティブたちが製品の紹介を行うという、ややグローバルなイベントになった。そんなわけで、まずは22日に行われた、同社の自動車部門の動向を簡単に紹介すると共に、23日に発表となったアルプス電気との提携についてもご紹介したい。

自動車向け製品ロードマップ
 フリースケールの場合、製品は大きく2つのグループに分かれる。1つが携帯電話基地局や民生機器向けの製品/サービスを提供するNMSG(Network & Multimedia Solutions Group)、もう1つが自動車や産業機器、その他の分野向けの製品/サービスを提供するAISG(Automotive, Industrial & Multi-Market Solution Group)で、自動車向け製品はこのAISGが行っている。

 そのAISG(Photo01)であるが、売上規模はAISG全体で24億ドルで、そのうち70%が自動車向けとされている(Photo02)。

 もともと同社はマイコン分野でもかなり多くのシェアを持っており、また自動車向けでも2位のポジションにあり、その意味では自動車業界への影響力は少なくない(Photo03)。同社の場合、車体制御やエンジン制御のECUにかなり大きなシェアを持つほか、ハイブリットカー向けや安全規格、Driver Information System向けに注力してゆくとしている。

Photo02:自動車向けの売上規模は16.8億ドルほどになる。ちなみにもう1つのNMSGの2011年の売上規模は16億ドルで、合計して40億ドルほどなので、フリースケール全体の中での自動車向けの売上規模は4割強となるPhoto03:全世界でナンバーワンは、最近色々話題のルネサスエレクトロニクスであるPhoto04:ハイブリットやEVは、まだマーケットシェアが相対的に小さく、また多くのベンダーが参入している関係で、「どこがNo.1」とは言いにくい要素がある。これはDriver Information System向けも同じ。逆に安全規格は、参入障壁が非常に高いこともあり、そもそもプレイヤーの数が少なすぎるうえ、規格が制定されたばかりでまだこれに準拠した自動車は現実問題として1台も走っていないから、その意味ではシェアを論じるのが難しい。そんなわけで、これらのマーケットはどのベンダーにとってもシェア争いはこれから、ということになる

 ついで説明は、AISGの中で自動車部門を担当するRay Cornyn氏(Photo05)に代わり、いくつかの新製品の発表が行われた。

 今回、氏の説明の中で強調されたのはセンサー部門である(Photo06)。同社は膨大な製品ラインナップを誇るが、日本ではルネサスという競合がある関係で、今のところはこうしたさまざまなセンサー向けに食い込んでいる程度である。それもあってか、もっぱら説明は同社の提供する各種センサーがメインとなった。また当日には幾つかの発表がなされているが、そのうちの1つはイーソルとの協業(Photo07)であった

Photo05:Ray Cornyn氏(VP and General Manager, Automotive Micro-Controller Division)Photo06:ただ東日本大震災の影響やルネサスエレクトロニクスの不調もあって、このところ国内メーカーからの引き合いが急激に伸びているのは事実な模様。ただ自動車業界の場合、車台が既にある状態でも設計開始から生産までは12~24ヶ月かかるのが一般的で、ましてや電装品の基本コンポーネントの場合、設計開始から量産まで3~5年というケースすらある。なので引き合いがあっても当面はまだ売上がたたない、という状態が今後数年間は続くことになるのが辛いところだPhoto07:イーソル(eSOL)は純然たる日本の会社。これはフリースケールのVybridというマイコンに向けたソフトウェアをイーソルが提供するという話で、このプラットフォームを全世界的に展開することで、フリースケールは発表されたてのVybridのソフトウェア環境を充実させられるし、イーソルにとっても自社製品の世界展開が可能になるという相乗効果が得られる

アルプス電気との協業
 翌23日には改めて記者発表会が会場内で開催され、ここで同社とアルプス電気との協業が発表された(Photo08)。

 今回の内容は、フリースケールが提供するSABREというプラットフォームにアルプス電気がモジュールを提供するという内容である。まずUze社長より、SABREプラットフォームのベースとなる、同社のi.MXシリーズの説明が行われた。

 i.MXシリーズは、もともと携帯音楽プレイヤーとか電子ブックなどに向けたARMベースの製品だったが、車内のインフォテインメント機器の進化に合わせて、i.MXの車載向けの用途も次第に増えつつある(Photo06)。これは別にフリースケールだけでなく、さまざまな半導体メーカーがやはりインフォテインメント向けにARMベースの製品をリリースしており、要するに車載インフォテインメント機器はARMベースの製品を使って開発するのが一般的になってきた、という事でもある。さらに日本ではまだ普及まで今一歩であるが、欧米ではテレマティクスとコネクティビティが急速に普及してゆく状況にあり、ここでi.MXはそれなりのシェアを獲得しているという状況がある(Photo10)。

Photo08:左がフリースケールセミコンダクタジャパンのDavid Uze社長、右がアルプス電気(株)の取締役で技術本部長兼モジュール担当の天岸義忠氏Photo09:i.MXはARMのCortex-Aシリーズのプロセッサコアを搭載する製品。最新型のi.MX6シリーズは、ARM Cortex-A9を最大4つ搭載する。ちなみに前世代のi.MX5シリーズは、例えばAmazonのKindleとか楽天のKoboなど、意外にあちこちで広く利用されている製品でもあるPhoto10:テレマティクスはネットワーク経由での道路状況などの提供で、有名なのがGMのOnStarで、北米はもとより欧州や中国などでもサービスがなされている。コネクティビティは要するにネットワーク接続で、ここはFordのSYNCが非常に有名である

 さて今回の協業であるが、これまではこうしたテレマティクスなりコネクティビティを実現するためには、i.MXベースのプロセッサに別途無線関連モジュールをベンダーが自身で提供する必要があった。こうした無線関連モジュールをアルプス電気が提供し、かつその状態でリファレンスデザインを提供するというのが、今回の提携の肝である(Photo11)。

 フリースケールにとっては、これまで同社が提供できなかった無線関連モジュールに関しても、今後はアルプス電気のモジュールを提供できるようになるというメリットがある。また、自動車メーカーにとっても、こうした無線関連モジュールが必要な認証類を取得した形で入手できるため、要するにモジュールを買ってきて繋げるだけでよくなるために、開発期間の短縮に繋がるというメリットがある。では、アルプス電気のメリットは何か?

 ということで、以下は天岸氏の説明である。もともと同社の場合、子会社であるアルパインまで含めると売上の7割、利益の5割は自動車関連製品によるものであるとする(Photo12)。また1995年あたりから車もバスを使ってのマルチプレクサ化が進んでおり、同社の製品ラインナップもこうしたものに対応したものになっているとの事(Photo13)。また、同社の場合売上の海外比重が高く、例えばBluetoothモジュールは既に2000万個が出荷されているが、この半分は海外向けであるとする。

Photo11:i.MX 6Qというのはi.MX6 Quad-core(4コア)の意味Photo12:最近で言えば、右下にあるハブティックコマンダという操作ノブがかなり広く採用されているとのことPhoto13:接続方法はさまざまであるが、さまざまなコミュニケーション関係モジュールをラインナップしているのが分かる

 こうした状況でなぜアルプス電気はフリースケールと組んだか、に関してであるがこれはフリースケールの国内展開向けに、というよりはむしろアルプス電気の海外展開を考えるうえで、フリースケールと提携することがメリットになりやすいからだとする。

 元々同社は独立系の企業なので、特定の半導体ベンダーの動向に縛られるといった話はなく、むしろ今回のようなリファレンスデザインが提供される場合、国外の自動車関連ベンダーに販売しやすくなるとする。フリースケールは元々全世界的に拠点を持って製品展開をしているから、今回のリファレンスデザインも世界中の自動車関連ベンダーが入手可能であり、この際にリファレンスモジュールという形でアルプス電気のモジュールが採用されれば、新たな拡販のチャンスになる、と考えているようだ(Photo14)。

 アルプス電気は今後提供するモジュールをどんどん増やしてゆくとしている(Photo15)。ちなみにFTFジャパン2012の展示会場では、このSABREプラットフォームを利用しての動作デモも行われていた(Photo16、17)。

 一般に、海外の半導体メーカーによる国内メーカーとの協業、という場合には「日本の自動車メーカーに食い込むため、国内メーカーと協力して製品を作る」というパターンを思い付きがちだが、今回の協業は(先のイーソルとの協業もそうだが)「国内メーカーの製品を海外に拡販する手伝いをする中で、フリースケールの自社製品も同時に販売する」という、国内の半導体ベンダーではあまり見られないパターンであり、今後の動向が楽しみである。

Photo14:中央の緑のボードがフリースケールのi.MX6を搭載したリファレンスボードで、ここに青い基板の形で接続されるのがアルプス電気の提供するモジュールPhoto15:殆どのモジュールは既に量産もしくはサンプル出荷が可能だが、GNSS(GPS以外の測位方式にサポートした汎用測位方式)や、2G/3G/LTEを利用した通信モジュールはちょっと後追いになるPhoto16:中央がi.MX 6のリファレンスボード。これはあくまでも開発用のものなので、実際には不要な機能なども多数搭載されており、なので実際に車に搭載される場合には、このボードの設計を利用して不要なものを削減した、もっと小さなものになるのが普通
Photo17:Photo16のボードの手間に繋がっているのがGPSモジュールと2.4GHzのアンテナ

(大原雄介)
2012年 10月 31日