ニュース
アルプスアルパインとフリービット、CASEやMaaSの事業領域で包括的提携
明日の自動車はブロックチェーンを活用した安全なスマホ鍵で解錠する
2019年7月24日 07:00
- 2019年7月23日 開催
アルプスアルパインは、7月23日にフリービットの本社(東京都渋谷区)において記者会見を開催し、アルプスアルパインとフリービットがCASE(Connected, Autonomous ,Share & Services )やMaaS(Mobility as a Service)などのITを利用した次世代の自動車時代に向けて包括的提携を発表した。
アルプスアルパイン 代表取締役 副社長執行役員 米谷信彦氏は「CASEやMaaSの時代を前に自動車メーカーは困惑している。それはわれわれにとっては危機でもあるがチャンスでもある。そのためITに強く、これまでもビジネス的な関係があったフリービットと資本提携を含めた業務提携を決めた」と述べ、アルプスアルパインとフリービットが包括的に提携していくことで、CASEやMaaSという本格的なIT化された自動車時代に求められるコンポーネントを自動車メーカーなどに提供していくと説明した。
また、記者会見では1月に米国ラスベガスで行なわれたCESで公開した、アルプスアルパインとフリービットが共同開発したブロックチェーンを利用した自動車向け「デジタルキー」ソリューションとなる「Car Key Platform」の解説やデモが行なわれた。
アルプス電気とアルパインが経営統合して誕生したアルプスアルパインとフリービットが提携
アルプスアルパインは、電子コンポーネントを製造・販売する「アルプス電気」とカーナビゲーションなどの車載向け電子コンポーネントを製造・販売する「アルパイン」が2018年の12月に経営統合してできた新会社だ(なお、アルプス電気がアルプスアルパインとなり、旧アルパインはその子会社という位置づけで法人としては存続している)。
本誌の読者にとってはアルパインは自社ブランドのカーナビをアフターマーケットで販売していることもありお馴染みのブランドだと思うが、アルプス電気に関しては名前は聞いたことはあるけどどんな会社が知らないという人も少なくないだろう。アルプス電気は、各種の電子機器向けのパーツを製造している企業で、今読者がこの記事を見ているノートPCのキーボードや端子などを製造してPCメーカーに納めたりしている。つまり、知らず知らずのうちにアルプス電気の製品を使っているということは実は少なくない。そうした電子機器向けのパーツに強いアルプスと自動車向けのアルパインが1つになることで、電子化の進む自動車産業でのプレゼンスをあげていく形になる。
そうしたアルプスアルパインだが、ハードウェアの製造に関しては旧アルプス電気時代/アルパイン時代から強みを持っているが、ソフトウェアや最新のITという意味では、強みがある訳ではない。しかし、すでにCASE(自動車の常時ネット接続、自動化、共有やサービス化という次世代のトレンドを示す言葉)やMaaS(移動手段のサービス化、スマートフォンなどで自動車やバスなどをオーダーしたり乗ったりなどを示す言葉、次世代移動サービスのこと)といった時代への備えが重要になって来る中で、そこを拡充する必要がある。
ブロックチェーンを利用したデジタルキーソリューションとなる「Car Key Platform」
そのアルプスアルパインの提携相手に選ばれたフリービットは、2000年に創業したベンチャー企業で、インターネットを活用した各種のサービスを提供することで成長してきた。2018年4月末時点での社員数は242名、連結対象の子会社までを入れると989名となっており、会計年度2019年4月期のグループ全体での売上高は約503億円となっており、前年同期と比較して30.3%の伸びとなっているなど、成長を続けているネットベンチャーの1つだ。
フリービット 代表取締役会長 石田宏樹氏は「トヨタ自動車がMaaSの導入を勝つか負けるかではなく、生きるか死ぬかだと表現したが、今後MaaSやCASEの導入が重要になっていく。その中で、フリービットはXaaS(ザース)と総称される各種のクラウドベースのサービスを提供してきたが、その強みを自動車向けにもCaaS、Car as a Serviceとして提供していきたい」と述べ、フリービットの開発してきたインターネット上の各種サービスを、自動車向けとしてアルプスアルパインと協力して提供して行きたいとした。
その具体的な例として石田氏は同社とアルプスアルパインが共同で開発した「Car Key Platform」という具体例を紹介した。このCar Key Platformは1月に米国ラスベガスで行なわれたCESでもすでにデモされているという。
Car Key Platformは、ブロックチェーンという仮想通貨にも利用されている分散型台帳技術を応用して、自動車メーカーなどが自前でサーバーなどを用意しなくても、デジタルキーを実現することができる技術になる。
スマートフォンが自動車の鍵となる「デジタルキー」の技術そのものはすでに実用化されており、カーシェアなどではすでに実際に利用されている。今後それが市販車などにも拡大されることが予想されるが、フリービットの石田氏は現在のデジタルキーのソリューションには重大な弱点があると指摘する。「デジタルキーをオンプレミスやクラウドベースで実現するのはもう難しくない。しかし、問題は自動車のライフサイクル全体を見たときに、その維持コストを誰が払うのかという点には課題がある。新車で購入したユーザーが使うときには自動車メーカーが負担するでいいと思うが、中古車となって2人目のオーナー、3人目のオーナーとなったときにどうするのか」と石田氏は述べ、自動車のライフ全体を考えたデジタルキーの実現が、自動車メーカーにとっても、そして中古自動車となって販売される時にも課題になると説明した。
ブロックチェーンを利用することで、自動車メーカーがシステムを用意しなくてもデジタルキーを実現
そこで、フリービットがアルプスアルパインと協力して開発、実装したのが「Car Key Platform」となる。Car Key Platformはキーの解除や譲渡などの仕組みを、一般的に使われるオンプレミス(クラウドではなく法人内に置かれるという意味)のサーバーやクラウドのサーバーにはおかず、ブロックチェーンと呼ばれるインターネット上に仮想的に展開される分散型台帳の上に置く仕組みだ。自動車メーカーが自前のオンプレミスのサーバーやAmazon Web Serviceなどのクラウドサービスを利用してデジタルキーの仕組みを構築すると、その仕組みを利用する自動車がすべて廃車になるまで、そのサーバーを動かし続けないといけない。それにはサーバーの管理費やクラウドサービスの利用料金が発生するため、自動車メーカーにとっては大きな負担となる可能性がある。
これに対してブロックチェーンを利用すると、その鍵のデータはブロックチェーン上に分散して配置される(ブロックチェーンとは1台のサーバーで動くのではなく、インターネットにつながっているサーバーなどに少しずつ分散しておかれる仕組みになっているからだ)。現在の技術ではこのブロックチェーンを改ざんすることは不可能に近いとされており、セキュリティ的にも安心して利用することが強みとなる。
すべてがインターネット上で処理されるので、例えば中古車として売る場合にも、譲渡先のスマートフォンに表示されているQRコードなどを読み込んで鍵を転送するだけで、鍵を受け渡しできるので簡単だ。また、自動車をシェアサービスで貸し出そうという時にも、期間限定の鍵をレンタルしたユーザーに転送するだけで貸し出すことが可能になるなど、より簡単になるだろうと石田氏は説明した。
なお、石田氏はこうしたブロックチェーン技術を将来にはサーバーなどの管理にも応用するという。ログデータをブロックチェーンに乗せていくことで改ざんを難しくし、例えば侵入者がログを改ざんして自分の痕跡を消すのを防ぐといった技術としても使っていくと説明した。
ただし、デモでは鍵の受け渡しまで1分近く時間がかかっており、石田氏によれば最大で5分程度かかる場合もあるという。開発段階とはいえ、そうした遅延をどうやってなくしていくのかは今後の技術的な検討課題と言えるだろう。
なお、こうした技術を利用した製品はいつ登場するのかという質問に対してアルプスアルパインの米谷氏は「遠い未来ではない、いつとは具体的には言えないが、弊社のブランド製品で投入して、それから自動車メーカーなどに提案していきたい」と述べ、まずはアルプスアルパインがアフターマーケットや特定用途向けなどに投入し、その後で自動車メーカーに採用を促していくという方向性を説明した。