インプレッション
トヨタ「エスティマ」「エスティマ ハイブリッド」(2016年マイチェンモデル)
2016年8月18日 00:00
スタイリッシュミニバンの筆頭、トヨタ自動車「エスティマ」が大幅なマイナーチェンジを受けて注目を集めている。エスティマは初代モデルから数えると大きく分けて3代目となるが、現行型は2006年1月に発売されており、デビューから10年が経過しているロングセラーモデルだ。エスティマは初代から他のミニバンと一線を画した優れたデザインで強いブランド力を持ち続けているが、とくに現行型は10年経っても少しも古さを感じない鮮度を保ち続けている。
今回のマイナーチェンジは大掛かりなもので、最近のトヨタのデザイントレンドを取り入れつつ、ゴージャスになっている。
変更ポイントは、伸びやかなエスティマのフォルムを強調するフロントフードやグリル、フェンダー、ヘッドライト、リアコンビネーションランプなど、大きく印象を変えたエクステリアデザインを始め、インテリアも合皮を使ったより上質なものになって、これまでエスティマユーザーが物足りないと感じていた部分を上手にスクープアウトした巧なモディファイだ。
ブラッシュアップされたエクステリアと同様にインパクトのあるのは2トーンカラーだろう。ミニバン初となるルーフをブラックとした2トーンカラーが3色用意され、特にレッドマイカは特徴的だ。
キャビンはスエード調シート表皮の「ブランノーブ」や合皮などを効果的に使い、これまでデザイン性はあるがプラスチッキーだった車内が一変。インパネにもアクセントステッチ付きの合皮が設定されて上質感が格段に増している。ドライバー席前のグローブボックスが廃止された代わりにアッパーボックスが用意され、スマートフォンなどを置けるように配慮されている。また、スタータースイッチはこれまでのインパネ左側から右側に移動。一体感のあるインパネデザインとなっている。ステアリングホイールの変更でドライブの質感も上がっているが、さらにオプティトロンメーターのデザイン変更を行ない、センタークラスターに新設されたタブレット形状のナビ一体型ディスプレイ(純正オプション品)が目新しい。
一方で、これまでちょっと収納操作しにくかった3列目シートには電動床下格納機能が追加され、さらにガラスには、アエラス スマート以上のグレードに99%以上のUVカット機能を持つ旭硝子製の製品が採用されるなど、使い勝手の向上に大きな気配りがされている。
車種体系としては3.5リッターのV型6気筒が廃止されて、すべて2.4リッターのコンベンショナルエンジンとハイブリッドに統一された。また、バリエーションもエアロパーツを標準装備としたアエラス系に集約され、アエラス内でのグレード展開となった。
エンジンが2.4リッターの2AZ型に据え置かれたのはちょっと残念。ハイブリッド系もアップデートされて最新のものになっている2.5リッターの2AR系に変更してほしかったが、やはりマイナーチェンジの枠内では難しいところだろう。シートの意匠も変わり、アエラス スマートでは夏は熱くなりにくく、冬は冷えにくい素材を使っている。インパネを一新したキャビン、それにエクステリアも新しくなったエスティマだが、快適性や乗り心地、ノイズについてもチェックしてみよう。
荒れた路面での突き上げがマイルドになった
まず、走り始めて気づくのはハンドルの操舵力が重くなったことだ。手応え感があってしっかりしている。従来のエスティマも軽めの操舵力で違和感はなかったが、マイチェン後のモデルで重くなってみると、進歩の度合いを感じられる。ハンドリングは基本的にミニバンのセオリーに則って、どっしりした安定感のあるもので直進性を重視したチューニングで、これまでからさらに磨きがかかった印象だ。
また、アエラス プレミアム以上のグレードにはフロントノーズにパフォーマンスダンパーが装着され、「ボディ剛性が強化されているため、ハンドルの応答性が向上した」とされているが、残念ながら試乗したアエラス スマートには装着されておらず、効果について実感できなかった。パフォーマンスダンパー以外の部分でアエラス スマートに従来モデルと大きな違いはなく、ミニバンらしい設定ではあるものの大きな進化は見られない。
乗り心地は、荒れた路面での突き上げがマイルドになっているのが従来モデルと異なるところだ。段差の大きな路面での入力はサスペンションの受け止めかたにそれほど大きな違いはないが、2950mmのロングホイールベースを持つエスティマらしい比較的おとなしい動きで、収束性もわるくない。
さてノイズ。ミニバンはキャビンがドンガラなだけにロードノイズの共鳴などがあり、セダンなどに比べると条件が厳しく、効果的な遮音材の配備などで考慮されるところだ。現行型エスティマの登場時も、条件によってはロードノイズが煩わしく感じることがあった。マイチェン後のモデルでも基本的には大きな違いはないが、エンジンノイズのカットは少し向上しているように感じられた。高速クルージングではロードノイズは増加するが、許容範囲にある。ハイブリッドは後輪をモーターで駆動する「E-Four」になるため、4輪を制御する優れたVDIM機能で路面状況が変化しても安心してドライブできる。半面、重量が大きくなり、その差は同グレードのガソリン FFモデルと比べると200kg前後の違いがある。
コンベンショナルのガソリン FFモデルはその重量差どおり、ハイブリッドより軽く動くのが大きな違いだ。乗り心地もフラット感が高くなり、同時にハンドリングも軽快感が高い。このコンベモデルにも4WD仕様があり、こちらだと重量差は130kgほどになる。機構的にはFFベースで、路面状態に応じて瞬時に後輪にトルク配分するアクティブタイプである。ハイブリッドは機構上アイドルストップもするため、とくに市街地での燃費に優れているが、購入に際しては生涯燃費と価格差を考慮すると、コンベモデルとの選択で悩ましいところだ。
今回、エスティマには「Toyota Safety Sense C(TSS-C)」が標準採用された。車格的には全車速追従機能付きのレーダークルーズコントロールを包括したTSS-Pが望ましいが、車体の関係で今回は見送られた。ミニバンにこそ安全デバイスはマストで、今後さらに高度なデバイスの標準装着が望まれる。
これまでの解説でお分かりのように、今回のエスティマのビッグマイナーでは走行機能などの向上は限られているが、内外装の質感向上や使い勝手などの装備充実が一番のポイントで、スタイリッシュミニバンの筆頭であるエスティマのポジションを堅持する強い意志の表れだ。