インプレッション

トヨタ「エスティマ」「エスティマ ハイブリッド」(2016年マイチェンモデル)

 スタイリッシュミニバンの筆頭、トヨタ自動車「エスティマ」が大幅なマイナーチェンジを受けて注目を集めている。エスティマは初代モデルから数えると大きく分けて3代目となるが、現行型は2006年1月に発売されており、デビューから10年が経過しているロングセラーモデルだ。エスティマは初代から他のミニバンと一線を画した優れたデザインで強いブランド力を持ち続けているが、とくに現行型は10年経っても少しも古さを感じない鮮度を保ち続けている。

 今回のマイナーチェンジは大掛かりなもので、最近のトヨタのデザイントレンドを取り入れつつ、ゴージャスになっている。

 変更ポイントは、伸びやかなエスティマのフォルムを強調するフロントフードやグリル、フェンダー、ヘッドライト、リアコンビネーションランプなど、大きく印象を変えたエクステリアデザインを始め、インテリアも合皮を使ったより上質なものになって、これまでエスティマユーザーが物足りないと感じていた部分を上手にスクープアウトした巧なモディファイだ。

 ブラッシュアップされたエクステリアと同様にインパクトのあるのは2トーンカラーだろう。ミニバン初となるルーフをブラックとした2トーンカラーが3色用意され、特にレッドマイカは特徴的だ。

エスティマ アエラス スマート。ボディサイズは4820×1810×1745mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2950mm
ミニバン初の設定となった新しい2トーンカラーの「ブラック×レッドマイカメタリック」(5万4000円高)をボディカラーに採用。ピラーから上がブラック塗装となり、スタイリッシュさを追求。なお、全車のボディカラーで小さな擦り傷などを自己補修する「セルフリストアリングコート」をクリア塗装に使用している
エスティマ ハイブリッド アエラス スマート。ボディサイズは4820×1810×1760mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2950mm
ボンネットフードやフェンダーまで形状変更する大がかりなフェイスリフトを実施。ヘッドライトは「Bi-Beam LEDヘッドライト」に変更され、縦長デザインのLEDアクセサリーランプを新たに採用した
ボディカラーは「ブラック×アイスチタニウムマイカメタリック」(5万4000円高)
リアコンビネーションランプも形状を変更したほか、ライン発光するLEDストップランプ、面発光するテールランプを新たに採用。ランプ側面にはエアロスタビライジングフィンが装着されている
タイヤサイズは215/60 R17。2トーンカラー車のホイールは切削光輝アルミ ブラック塗装となる

 キャビンはスエード調シート表皮の「ブランノーブ」や合皮などを効果的に使い、これまでデザイン性はあるがプラスチッキーだった車内が一変。インパネにもアクセントステッチ付きの合皮が設定されて上質感が格段に増している。ドライバー席前のグローブボックスが廃止された代わりにアッパーボックスが用意され、スマートフォンなどを置けるように配慮されている。また、スタータースイッチはこれまでのインパネ左側から右側に移動。一体感のあるインパネデザインとなっている。ステアリングホイールの変更でドライブの質感も上がっているが、さらにオプティトロンメーターのデザイン変更を行ない、センタークラスターに新設されたタブレット形状のナビ一体型ディスプレイ(純正オプション品)が目新しい。

 一方で、これまでちょっと収納操作しにくかった3列目シートには電動床下格納機能が追加され、さらにガラスには、アエラス スマート以上のグレードに99%以上のUVカット機能を持つ旭硝子製の製品が採用されるなど、使い勝手の向上に大きな気配りがされている。

エスティマ ハイブリッド アエラス スマートのインパネ。内装色は全車ブラックで、シートカラーにベージュ(写真)、ブラック、バーガンディ、ホワイト、ブラック&ゴールドの5種類を用意。グレード別に設定する
メーターパネルは意匠を一新。半円形状のスピードメーターとバータイプのタコメータのほか、左側に4.2インチTFTカラーディスプレイのマルチインフォメーションディスプレイを設定
ステアリングホイールはアエラス プレミアム Gのみ本革巻き&木目調となり、写真のアエラス スマートなどそのほかのグレードは本革巻きとなる
インパネにアクセントステッチを使った合成皮革のトリムを装着。見た目と触感で上質感を演出している
センタコンソールではカーナビやエアコン、シフトセレクターなどをピアノブラックのパネルで一体化。標準仕様は全車6スピーカーのオーディオレスとなり、試乗車にはディーラーオプションのT-Connenctナビ 9インチモデルが装着されていた
単眼カメラとレーザーレーダーをコンビネーションで使う「Toyota Safety Sense C」が全車に標準装備されたことも大きなトピック
ステアリングの右奥側に「衝突回避支援型プリクラッシュセーフティ」「レーンディパーチャーアラート」「オートマチックハイビーム」などのON/OFFスイッチをレイアウト
リッド付きのカップホルダーなどを用意するハイブリッドコンソールボックス
リアゲートを開けたラゲッジスペース左側面に3列目シートを電動格納&展開するスイッチを設定
3列目シートを格納すると、シートバック後方がフロアとフラットに連続。シート格納スペースは3列目シート展開時にはラゲッジスペースとして活用できる
格納した3列目シートを電動展開するシーン(32秒)
シート表皮は合成皮革。2列目シートはシート一体型オットマンを備え、前後左右にスライドする
ハイブリッドの運転席は全車8ウェイパワーシートとなる
3列目シートは運転席側が大きい6:4分割タイプ。背もたれのリクライニングは電動式となる

 車種体系としては3.5リッターのV型6気筒が廃止されて、すべて2.4リッターのコンベンショナルエンジンとハイブリッドに統一された。また、バリエーションもエアロパーツを標準装備としたアエラス系に集約され、アエラス内でのグレード展開となった。

 エンジンが2.4リッターの2AZ型に据え置かれたのはちょっと残念。ハイブリッド系もアップデートされて最新のものになっている2.5リッターの2AR系に変更してほしかったが、やはりマイナーチェンジの枠内では難しいところだろう。シートの意匠も変わり、アエラス スマートでは夏は熱くなりにくく、冬は冷えにくい素材を使っている。インパネを一新したキャビン、それにエクステリアも新しくなったエスティマだが、快適性や乗り心地、ノイズについてもチェックしてみよう。

2AZ-FEエンジンは最高出力125kW(170PS)/6000rpm、最大トルク224Nm(22.8kgm)/4000rpmを発生。エスティマ アエラス スマート(2WD車)のJC08モード燃費は11.4km/L
2AZ-FXEエンジンは最高出力110kW(150PS)/6000rpm、最大トルク190Nm(19.4kgm)/4000rpmを発生。エスティマ ハイブリッド アエラス スマートのJC08モード燃費は18.0km/L

荒れた路面での突き上げがマイルドになった

 まず、走り始めて気づくのはハンドルの操舵力が重くなったことだ。手応え感があってしっかりしている。従来のエスティマも軽めの操舵力で違和感はなかったが、マイチェン後のモデルで重くなってみると、進歩の度合いを感じられる。ハンドリングは基本的にミニバンのセオリーに則って、どっしりした安定感のあるもので直進性を重視したチューニングで、これまでからさらに磨きがかかった印象だ。

 また、アエラス プレミアム以上のグレードにはフロントノーズにパフォーマンスダンパーが装着され、「ボディ剛性が強化されているため、ハンドルの応答性が向上した」とされているが、残念ながら試乗したアエラス スマートには装着されておらず、効果について実感できなかった。パフォーマンスダンパー以外の部分でアエラス スマートに従来モデルと大きな違いはなく、ミニバンらしい設定ではあるものの大きな進化は見られない。

 乗り心地は、荒れた路面での突き上げがマイルドになっているのが従来モデルと異なるところだ。段差の大きな路面での入力はサスペンションの受け止めかたにそれほど大きな違いはないが、2950mmのロングホイールベースを持つエスティマらしい比較的おとなしい動きで、収束性もわるくない。

 さてノイズ。ミニバンはキャビンがドンガラなだけにロードノイズの共鳴などがあり、セダンなどに比べると条件が厳しく、効果的な遮音材の配備などで考慮されるところだ。現行型エスティマの登場時も、条件によってはロードノイズが煩わしく感じることがあった。マイチェン後のモデルでも基本的には大きな違いはないが、エンジンノイズのカットは少し向上しているように感じられた。高速クルージングではロードノイズは増加するが、許容範囲にある。ハイブリッドは後輪をモーターで駆動する「E-Four」になるため、4輪を制御する優れたVDIM機能で路面状況が変化しても安心してドライブできる。半面、重量が大きくなり、その差は同グレードのガソリン FFモデルと比べると200kg前後の違いがある。

 コンベンショナルのガソリン FFモデルはその重量差どおり、ハイブリッドより軽く動くのが大きな違いだ。乗り心地もフラット感が高くなり、同時にハンドリングも軽快感が高い。このコンベモデルにも4WD仕様があり、こちらだと重量差は130kgほどになる。機構的にはFFベースで、路面状態に応じて瞬時に後輪にトルク配分するアクティブタイプである。ハイブリッドは機構上アイドルストップもするため、とくに市街地での燃費に優れているが、購入に際しては生涯燃費と価格差を考慮すると、コンベモデルとの選択で悩ましいところだ。

 今回、エスティマには「Toyota Safety Sense C(TSS-C)」が標準採用された。車格的には全車速追従機能付きのレーダークルーズコントロールを包括したTSS-Pが望ましいが、車体の関係で今回は見送られた。ミニバンにこそ安全デバイスはマストで、今後さらに高度なデバイスの標準装着が望まれる。

 これまでの解説でお分かりのように、今回のエスティマのビッグマイナーでは走行機能などの向上は限られているが、内外装の質感向上や使い勝手などの装備充実が一番のポイントで、スタイリッシュミニバンの筆頭であるエスティマのポジションを堅持する強い意志の表れだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一