インプレッション
ポルシェ「パナメーラ」(2016年フルモデルチェンジ/ワークショップ)
2016年8月18日 17:46
911のテイストが強まった2代目パナメーラ
911、ボクスター/ケイマンから成る“スポーツカー”シリーズに、カイエンが軌道に乗せた“SUV”シリーズ。それらに続き、ポルシェ第3の柱とも言うべきセダンボディのパナメーラが加わったのは、2009年のこと。以来、7年ぶりとなるフルモデルチェンジが行なわれて発表されたのが、日本でも7月末から予約受注が開始されている2代目パナメーラだ。
従来型のテイストを受け継いだ……と言うより、より911のテイストが強まったと紹介した方がよさそうな新型のルックスは、言うなれば「想定どおり」の仕上がり。すべてのポルシェ車にとって、911シリーズへのオマージュを連想させるデザインを用いるのは、自らのDNAを端的に表現する手段としてこのブランドがかねてからこだわり続ける、いわば必須の要件でもあるからだ。
実際、全長とホイールベースが約30mmずつ延長されたものの、それ以外の寸法は従来型からさほど変わらない新型パナメーラは、「ますます911との共通性が強くなった」と感じられるもの。それは、例えば後ろ下がりとなるルーフ後端位置を、従来型よりも20mm下方まで引っ張るなどと、意図的により濃厚な“911デザインランゲージ”が採り入れられているからにほかならない。
一方で「アドバンストコックピット」と呼ばれる、ブラックパネルとディスプレイ類を多用したダッシュボード周辺などインテリアのデザイン全般は、さすがに初代モデルの誕生から7年という月日を実感させる従来型とは雰囲気が大きく異なる、フレッシュでモダンな仕上がり。
ただし、それでもバーチャル表示が行なわれるメーター類の中で、唯一大型のタコメーターのみは機械式で残された。これもまた、ダッシュボードのドア側にレイアウトされたキーを捻ってエンジンを始動させることと同様に、このブランドの作品であることをアピールするこだわりの1つであるのだろう。
多数のLEDを駆使した高機能のライティング・システムやナイトビジョンなど、従来型には用意のなかった最新のドライバー・アシストシステムが設定されたのは、今の時代を考えれば当然のこと。これまで日本仕様では“お預け”を余儀なくされていた、本社開発によるインフォテイメントシステム“PCM”が、インターネットとのコネクションも可能となった最新バージョンの完成というこのタイミングでようやく導入されることになったのも見逃せないニュースとなる。
グレード構成は?
一方、いかにセダンとはいえ、そこはポルシェの作品。新型パナメーラにも4ドアでフル4シーターのスポーツカーとしての、妥協なき走りのポテンシャルを発揮するためのアイデアが盛り込まれたことは言うまでもない。
その根幹を成すのは、まずはボディ。前述のようにサイズはさほど変わらず、スタイリングも従来型で確立させたイメージを受け継ぐものの、それは完全に新設計のアイテム。従来型以上にアルミニウムの採用割合が増すなど、さらなる軽量化が推進された骨格は、塗装前のいわゆるホワイトボディ状態での重量が335kgと、従来型の405kgに対して大幅な軽量化を実現。“MSB”と呼ばれるポルシェ開発によるこの新モジュラー骨格は、今後のフォルクスワーゲングループの大型モデルにも採用されていくという。
そんなボディに組み付けられるシャシーも、もちろんすべてが新設計。中でも開発陣が自信を持ってアピールするのが、エアチャンバーの容量を大幅に拡大するとともに、3チャンバー構造を採用して選択された走行モードによるフットワークのキャラクターを、自在に変化させるエアサスペンションだ。
918スパイダーや911シリーズで実績を備えたリアのアクティブステアリング・システムも、全グレードにオプション設定。より強化されたブレーキシステムでは、その他すべてのユニットがイタリアの名門・ブレンボ製で占められるのに対し、シリーズ中で“最強”となる10ピストンを備えた“PCCB”(セラミックコンポジット・ブレーキ)のフロントキャリパーだけは曙ブレーキ工業製であるという点が、日本人としてはちょっと誇らしい話題でもある。
日本でも予約受注が開始済みの「4S」「ターボ」というガソリンエンジン搭載の2グレードに加え、欧州市場向けの「4Sディーゼル」と、現在発表されている新型パナメーラの3タイプはいずれも4WDシステムの持ち主。それぞれに搭載されるエンジンも、すべて従来型から一新されたユニットだ。
4Sが積むのはV型6気筒 2.9リッターツインターボ、ターボと4Sディーゼルが搭載するのはともにV型8気筒 4.0リッターツインターボ。ただし、ディーゼルユニットは「アウディから調達され、ポルシェがアダプトを行なったもの」と紹介され、2種類のV8ユニットにモジュラー関係は存在しない。
440PSの最高出力と550Nmの最大トルクを発する4S用、550PSと770Nmを発するターボ用、そして422PSに850Nmと最大トルク値の大きさが目立つ4Sディーゼル用の、3基のV型エンジンに共通するのは、90度という角度のバンク内側に2基のターボチャージャーを収めた“センター・ターボレイアウト”を採用すること。その大きな理由の1つについて、担当エンジニアは「低いフードを実現させるため」と説明する。
4S用の場合、従来の3.0リッターからわずかに排気量を落とした一方で、最高出力と最大トルク値はそれぞれ20PS/30Nmの向上。また、従来の4.8リッターから排気量を大きくダウンさせたのに加え、新たに気筒休止システムも採用するなど、環境性能向上に尽力したことがメカニズム上からも伺えるターボ用でも、最高出力は30PS、最大トルクは70Nmの上乗せが報告されている。
トランスミッションも新設計で、変速レンジの拡大とステップ比の縮小を目的に従来型の7速から8速仕様へと変更されたものの、「快適性と速さの点から、他の選択肢は考えられなかった」と、今回もPDK(DCT)方式を踏襲。ちなみに、いずれのモデルでも「最高速は6速ギヤで発揮するセッティング」と説明された。
超一流のピュアなスポーツカー
こうしてさまざまな新型パナメーラの詳細が、各項目ごとに担当のエンジニアから説明された本国ドイツで開催されたワークショップは、本社テストドライバーが駆る“走りのオプション”をフル搭載したターボ・グレードへの同乗体験で幕を閉じることに。
もちろん、自身でステアリングを握らないとどうにもコメントのしようがないことが多々存在する。例えば、リアのアクティブステリアングとの連携によって、「中立付近での敏捷性を大きく引き上げた」と謳われるハンドリングの感覚などは、その典型だ。
とはいえ、4WDシステムを備えたことにより、ローンチコントロール作動時にはわずか3.6秒で静止状態から100km/hにまで達するというその加速の能力は当然凄まじく、深いドリフトアングルでダイナミックな姿勢をキープし続けるコーナリングのシーンや、前述フロント10ピストンの“PCCB”が発揮する凄まじいばかりのストッピングパワーも、とても「セダンのそれ」とは信じ難い体験だった。
実際にこのモデルが、ケイマンGT4がマークした7分40秒をも上回る、7分38秒というタイムでニュルブルクリンクの旧コースを駆け抜けたと耳にすれば、それが超一流のピュアなスポーツカーであることはもはや疑う余地はない。
「ピュアなスポーツカーと、コンフォータブルなクルージングカーの融合」とポルシェ自身が謳う新型パナメーラ。その“ジキルとハイド”ぶりを実際に体験できる日が、何とも楽しみだ。