【インプレッション・リポート】
シトロエン「C4」

Text by 河村康彦


 特殊な山型をした歯車「ダブル・ヘリカルギア」の優秀性を見抜いたアンドレ・シトロエンにより、自動車メーカーとして1919年に設立されたのがシトロエン。コーポレート・マークはダブル・ヘリカルギアをモチーフとしたデザインだ。

 日本では、そんなこのブランドを「ちょっと変わったクルマを生み出すメーカー」と認識する人が多いかも知れない。が、そもそもアンドレ・シトロエンが目指したのは、かつては高価で一部の富裕層の“玩具”に過ぎなかった自動車を、「より多くの人々の生活を豊かにする道具として普及をさせる」という事柄であったという。

 なるほどそれは、「こうもり傘に4つの車輪を付ける」が基本コンセプトで、「シルクハットを被った正装で過ごせる居住性と、バスケットに入れた卵を割る事なく悪路を走破出来る走行性」が求められた、同社の大ヒット・モデルである、1948年に発表の「2CV」を思い浮かべれば至極納得の行く事柄でもあるだろう。

 同時にこのブランドは、量産車に前輪駆動方式を世界で初めて採り入れ、現行モデルも用いる「ハイドラクティブ」へと続く油空圧式サスペンション「ハイドロニューマチック」を採用するなど、独創の技術を躊躇なく使い、同時にまるでショーカーのような際立って特徴的ボディー・デザインを一般市販モデルに採用するといった、先進イメージの強さでもその存在を知られている。

DS4

DS4と“棲み分け”る新型C4
 一方で、そうした“個性豊かな過去の歴史”が、現代のクルマづくりにおいては固有の難しさをもたらしている事も、このメーカーならではの特徴として見逃せない。すなわち、より大きな顧客層を狙おうと普遍的なクルマづくりを行えば「らしくない……」と評され、それではと個性的なクルマづくりにチャレンジをすれば、それは自ら市場への門戸の幅を狭める事にも繋がりかねないという、シトロエンというメーカーならではのジレンマの存在だ。

 そうした状況の中で生まれた最新のモデルが、2004年の初代モデル誕生以来、初のフル・モデルチェンジを実施した「C4」。いわゆる“ゴルフ・クラス”のカテゴリーに導入された初代C4は、弟分である「C3」とともにこのブランドを支える重要な屋台骨の1モデルへと成長した。

 そんな従来型と新型の大きな違いは、まずは「クーペ」と呼ばれていた3ドア・バージョンが姿を消し、5ドア・バージョンのみへと整理された事にある。

初代C4には3ドアモデルがあったが、2代目では消滅

 実はこの点については、単なる車種の削減ではなく「3ドアの“発展的解消”」と解釈をすべきだろう。何故ならば、この新型C4と同タイミングの開発で「DS4」という強い血縁関係を備えるブランニュー・モデルが存在。基本骨格やデザイン・チームを共有するこの両者にはそれぞれ、「基幹モデルのC4に、より個性派のDS4」というキャラクターが振り分けられる事になったからだ。

 すなわち、従来の3ドア・モデルの実質的後継ポジションを受け持つ事になるのが、C4に続いてデリバリーが開始をされるDS4と受け取れる。既存の価値観にとらわれない新たな時代へのクルマづくりを模索するというのが、「DS3」でスタートをしたシトロエンの「DSライン」の目的。同じ5ドア・ハッチバックの形態を取りつつも、だからDS4ではより自由で、個性豊かなクルマづくりを行えるはずと、そのように解釈できるわけだ。

実用性と質感が向上
 新型C4のボディー骨格は、従来型のそれを基本的にキャリオーバーした。4.3mをわずかに超える全長は従来型比で5cmほどのプラスだが、ホイールベースは同一。こちらは“コンパクト”とは言い兼ねる1.8mに迫る全幅は、従来型比では2cmほどのプラスという関係を持つ。

 そうしたディメンションの中で興味深いのは、従来型からの全体のプロポーションの変化と、前後オーバーハングの割合の変化。端的に言えば前者は「丸味を帯びた造形からロングルーフ型へと変わり」、後者は「フロント・オーバーハングが減少してリア・オーバーハングが増加した」のだ。

 実はこうした変化は、新型がより実用的な扱いやすさを目指したモデルであるという事も示唆をしている。前述のようなリファインの手法は、居住性を向上させ、ラゲッジスペースを拡大するための常套手段でもあるからだ。なかでも、従来型に対して容量を一気に2割増しまで引き上げたラゲッシスペースは、新型C4での大きなセールスポイント。これまでは「クラス最小」に甘んじていたというそのボリュームを今度は「クラス最大」へと挽回し、後席アレンジ時の最大容量は1183Lに達すると言う。

 実際、そんな新型C4のラゲッジスペースを目にすると、「とにかく広い!」というのが第一印象。一方で、室内空間は従来型に対してそこまで劇的に改善されたという感覚はないが、それでも大人4人が快適に長時間を過ごすに相応しいレベルは、しっかり確保をされている。

 それにしても、そんな新型C4で驚かされたのはインテリア各部の質感がとても高いことで、それはそうした分野ではもはや定評のあるゴルフと直接横比較をしても、もはや何の遜色も感じない水準。

 また、フランス車といえばシートの機能性の高さ、クッション性のよさが評価されるものが少なくないが、それはこの新型C4も例外ではない。一部モデルに用意されたフロント・シートのマッサージ機能なども、新型C4ならではのトピックとなりそう。

 全方向に視界が広く、特に“三角窓”が斜め前方の視界確保に意外に有効で、ドアミラー・ケースの造形が巧みでそれが生み出す死角が気にならないのも、なかなか好感が持てるものだった。

車室とラゲッジルームが拡大サイドウインドーの根元に三角窓が見える

 

上質な乗り味と高い静粛性の“小さな高級車”
 北欧で開催された国際試乗会に用意されたのは、全6タイプが揃うエンジンのうちの3タイプ。うち、ガソリン・バージョンは最高156PSを発生する1.6リッターのターボ付きユニットを搭載したモデルに限られた。

 「EGS6」を名乗る2ペダル式6速MTと組み合わされるこのモデルに加え、日本には1.6リッター自然吸気の120PSエンジン+4速トルコンATバージョンも導入予定というが、残念ながらこちらは試乗車の用意がなかった。

 構造的にはMTで、そのクラッチ操作を“ロボット”が肩代わりするのがEGSだが、EGSの生み出す加速感は、やはり独特だ。変速のたびに加速力が途絶えるのは構造上止むを得ず、「同じ2ペダルなんだから」と通常のAT同様の加速感を期待してしまうと、そこでの違和感は避けようが無い。

 一方で、MTと同様の“直結感”に富んだ加減速のフィールは、トルコン式ATやCVTでは絶対に得がたい。もちろん、BMWとの共同開発ユニットが生み出すオーバー150PSのパワーはおよそ1.3tの重量には十二分で、アクセルワーク次第ではかなり活発に走り回る事が可能だ。

 しかし、実はそんな新型C4の走りで最も好感を強く抱けるのは、あらゆる路面を問わずどんなシーンでも快適なその乗り味に関してだ。シトロエン車らしい正確なハンドリングと上質な乗り味の両立は、間違いなくこのモデルの走りのハイライト。加えれば、静粛性の高さも相当なもので、これもまた新型C4の走りの上質なイメージを引き上げてくれる。すなわち、まさに“小さな高級車”というフレーズを使いたくなるのが、このモデル走りのテイストなのだ。

 ダッシュボード上面に着陸した小さな宇宙船ばりの照明透過式メーターや、パッド上に配されたスイッチを操作しやすいセンターフィックス式ステアリング・ホイールなど、従来型が備えていた数々の個性が失われていたのは寂しい、という声も確かにあるだろう。が、前述のようにそのあたりに対する期待は今後はDS4が担って行くことになるわけだ。

 惜しむらくは120PSモデルに組み合わされるトランスミッションが「この期に及んで」の4速ATに留まることで、これは、例え欧州ではこのクラスのモデルもMTで乗るのが当たり前という事情を知ったうえでも、6速ATへのアップデートを声を大にして要求したい部分だ。

 そんな新型C4が日本にやって来るのは、2011年春とのこと。実用ハッチバックとしての要求に応えつつも、ちょっとオシャレなエスプリの効いた新型C4は、「日本でも販売好調」が伝えられるC3に続いてのヒットとなる予感十分だ。

ステアリングホイールやメーターは一般的なデザインに

2010年 11月 1日