【インプレッション・リポート】
BMW「3シリーズ」

Text by 日下部保雄


 BMWの中核となる「3シリーズ」、現行のE90型が発表されてからすでに5年が経過しているが、絶え間ない改良でますます魅力的なモデルになっている。私事だが、最初に乗った330iの素晴らしいシャシー性能には、文句なく感激させられた。東名高速の山北付近をなめるようにライントレースしたのは、これまでのセダンでは味わえなかった感触だった。

 その3シリーズがマイナーチェンジして、さらに内容が濃くなった。セダンはすでに2年前にフェイスリフトされていたが、今回はクーペもセダンに準じるスタイルになった。

 今回のマイナーチェンジでもっとも大きな変更は、2リッターエンジンが一新されたこと、マイクロハイブリットシステムが取り入れられたことなど、エココンシャスを指向している点だ。

320iセダン

さすがエンジン屋、優れものの新型2リッターエンジン
 まずエンジンが一新された320iを紹介する。燃費と動力性能を両立する「エフィシエント・ダイナミクス」のコンセプトに沿って、新しい2リッター4気筒エンジンは直噴かつリーンバーン(希薄燃焼)として、さらに吸排気可変バルブタイミング機構「ダブルVANOS」を採用し、10%の出力アップとともに、MT車では45%の燃費改善が図られている。ちなみに10・15モード燃費は18.4km/Lと優秀だ。

 MT車には、M3も含めてアイドルストップ機構が装着されている。AT車に関しては来年以降に装備される予定だ。

 マイクロハイブリットは、ブレーキ時にエネルギーを回生してバッテリーに溜め込み、オルタネーターの負荷を減らすシステムで、今まで捨てていたエネルギーをきめ細かく回生し、あわせて無駄なエネルギーを使わない。この思想はエアコンや電動パワーステアリングにも及んでいる(一部は335iのみ採用)。

 さてこのように多くのテクノロジーが投入された320iだが、実際に乗ってみると熟成の域に入ったことがよくわかる。

 アイドリング時には、直噴特有の“カンカンカン”というポンプノイズがやや大きく響く。アイドリングノイズを気にする日本車と違って、それほど気にしていない欧州車らしいところだ。

 出力特性は素直で特にパンチを感じることはないものの、2リッターの自然吸気エンジンとして考えると、低中速トルクがあって使いやすいエンジンだ。また125kW(170PS)/6700rpm、210Nm(21.4kgm)/4250rpmと言う性能は、BMWらしく走らせるには十分な数値で、軽い4気筒エンジンのおかげで6気筒と比べるとハンドルの初期応答性がよく、軽快なフットワークを持っている。

 従来のエンジンも低速トルクがあって、さすがエンジン屋のBMWが作るだけのことはあるなと思わせたものだが、新しい直噴エンジンは従来と比較してもトルクがあって、優れものだった。実は試乗前は、リーンバーンのうえに従来よりも最大トルクの発生回転が高くなっていたので、燃費と引き換えにドライバビリティで不利になるかと思ったていたのだ。ドッコイ、BMWのエンジニアリングはその上を行っていた。ガソリンエンジンの進化はまだまだ続いていく。

シャシーとエンジンのバランスでスポーツを表現
 2リッターエンジンと組み合わされるのは6速のトルコンATだが、エンジンとの相性もよく、ギア比も適切だ。Dレンジでも、ワインディングロードの大抵のコーナーに適合するギアがアクセルのコントロール次第で選択できるので、結構スポーティに走れるし、積極的にセレクターレバーを操作してギア選択をすれば、さらにスポーティセダンとしての素質も十分に楽しめる。

 エンジンとともにBMWの素晴らしいところは、シャシー性能だ。“ドライビング・ファン”を自認するBMWらしく、ステアリングのインフォメーションが高く、スッキリした切れ味にBMWの真骨頂がある。とは言うもののクイック過ぎないところが多くの人が乗るセダンとしての分別をわきまえている。

 さらにこのステアリング・フィールに加えて、ハンドルを切った時のロールがスムースで、クイとノーズが入っていくバランスが素晴らしい。前述したように軽いノーズのためにステアリングの追従性に優れているところが、320iの持ち味だ。

 乗り心地は、BMWは全体に硬めだが、高速になるとぴたりと収束する設定になっている。硬めと言ってもかつてのようにゴツゴツした突き上げがあるというものではなく、洗練されている。今や硬いけどスポーティと言うものではなく、シャシー性能とエンジン性能のバランスでスポーツを表現している。乗り心地を犠牲にしたセダンと言う発想は、BMWにない。装着しているランフラットタイヤの特性で、タイヤが転がる初期の硬さはあるが、ランフラットは技術も規格もかなりこなれてきて、スマートな乗り心地を提供してくれる。

 1つ1つを解説すると上記のようになるが、最初にステアリングを握ってテストドライブを終了してクルマを返すまで、320iは一貫して好印象で、むしろその魅力に惹かれていくような感触さえ持った。

 価格は445万円。マニュアルでは434万円のプライスタッグが付く。これから触れる335iとは違った味と魅力を320iは持っているといえるだろう。

こちらは320iクーペ。同じパワーユニットを積む

 

335iクーペ

心豊かにしてくれるクーペ
 さて335iクーペもトライした。クーペはフェイスリフトによって前後バンパー、グリルなどが変更を受け、よりアグレッシブな顔つきになっている。さらに3リッター直6エンジンも新しくなっている。

 従来はパラレルツインターボを採用していたが、新型はシングルのツインスクロールターボになっており、直噴、バルブトロニック、ダブルVANOSも搭載されてさらに進化した。エンジン以外でも、3シリーズ全車に搭載されているマイクロハイブリットは335iクーペも例外ではない。さらに335iでは、ステアリング操作時のみ電気を消費する電動パワーステアリングが採用されている。

 もう少し省エネの話をすれば、エアコン非作動時にコンプレサーを切り離してエネルギーを節約するシステムも使い、極めてきめ細かいケチケチ省エネに徹している。この結果335iクーペは10・15モードで10.6km/Lと言う高い燃費を実現している。

 このエンジがしびれる。小型ターボを使ったダウンサイジングエンジンのカテゴリーに属しているが、黙ってハンドルを握ればターボと気づかないアクセルレスポンスのよさを実現している。ツインスクロールの小型ターボと直噴の相性の良さ、それに加えてバルブトロニックとダブルVANOSの複雑な制御を、精緻にコントロールした成果だ。最後の味付けは排気の課程での燃料供給で、これによってレスポンスはさらに向上しているのだ。思わずうならせるシステムである。

 出力は225kW(306PS)! しかもトルクは1200-5000rpmの幅広い回転域で400Nm(40.8kgm)と言う強大なトルクを吐き出す。このトルクなら335iがいかにアクセルに忠実に吹っ飛んで行くかがわかろうというものだ。回転のトップエンドは6000回転だが、その領域まではあっと言う間に到達する。

 しかもアクセルを戻した時に発するボッと言う燃焼音は素晴らしくドライバーの心を誘惑する。このエンジンにはまったく降参である。

 シャシーはこのパワーを活かすのに相応しい。初期の335iでは大トルクでリアが暴れることもあったが、シャシーもチューニングが上手になり、しなやかなグリップでスマートなコーナリングが楽しめる。いやサーキットのような走りをするというわけではない、ただ普通にコーナーを回っただけでもちょっとワクワクさせる、ドライバーを魅了するポイントを持っているのだ。

 パワーを持つクルマは謙虚に扱うべきだが、335は真摯に付き合えばそれに応えてくれ、しかも心豊かにしてくれるクーペだ。

 やっぱりBMWはドライバーの心が分かっている!

 

【お詫びと訂正】記事初出時、320iのエンジンに「バルブトロニックを採用」と記述しましたが、正しくは採用されておりませんでした。お詫びして訂正させていただきます。

2010年 10月 29日