【インプレッション・リポート】
シボレー「キャプティバ」

Text by 岡本幸一郎


 3列シートのSUVが欲しいと思っても、日本車では、ランクルとプラド、パジェロと、かろうじてアウトランダーぐらいしか選択肢がない。輸入車を含めると、だいぶ選択肢は増えるものの、価格が高めだし、日本で使うにはサイズが大きすぎる。もっと手頃な価格とサイズで3列シートを持つSUVがあればいいのにと思っている人は少なくないことだろう。

お手頃なサイズと価格
 そんな人にとって待望の1台となるであろうニューカマーが登場した。車両価格が354万円で、ボディーサイズは4690×1850×1790mm(全長×全幅×全高)。この春に社名変更したばかりの、韓国の「GM大宇」が生産するミドルサイズSUVのシボレー・キャプティバだ。

 ニューカマーといっても、日本での発売は初めてなのだが、同車のデビュー自体は2006年のこと。2011年初頭にビッグマイナーチェンジを受け、そのモデルが日本に導入されることになった。

 基本的には欧州市場をメインに開発されたモデルであり、パワートレインの種類や駆動方式、5人乗りと7人乗りなど、いくつかバリエーションがある中から、日本では、2.4リッターガソリンエンジン+6速AT、4WD、右ハンドル、7人乗りという仕様のみが販売される。

 マイナーチェンジ前のキャプティバというと、いささか地味なデサインのクロスオーバーSUVだった。ところが今回、日本に導入されることになったマイナーチェンジ後のモデルは、大きなグリルの中央に配された、シボレーを象徴する「ボウタイ」エンブレムのサイズが大きく、色もゴールドとされており、アグレッシブなフロントマスクが印象的。

 丸味を帯びたフォルムのボディーのボトムやフェンダーに装着された材着のプロテクターもよく似合い、19インチの大径タイヤを履くなど、より「SUV」らしさをアピールしている。ただし、日本仕様では左フェンダーに、けっこう目立つ補助ミラーが付いてしまうのが残念だ。

余裕ある室内
 こうしたクルマだから地上高はそれなりに高いものの、ドアを開けると乗降性への配慮からかサイドシルが低めに抑えられていることに気づく。

 手頃なサイズとはいっても、日本では大きめのボディーサイズだから、室内空間には余裕がある。運転席、助手席はもちろん、2列目は横3人掛けもそれほど苦にならないほどだ。

 シンプルな構成のインパネは、輸入車の右ハンドル仕様の宿命で、ウインカーレバーが左側、ATセレクターのゲートも左側に動かすタイプとなっているが、メーターやスイッチ類のレイアウトは直感的にわかりやすく、収納スペースも豊富。ダッシュ中央やステアリングコラム右下に小物入れがあり、オーバーヘッド部にはグラスホルダーが備わり、多彩な使い方のできるセンターコンソールも重宝しそうだ。

 欲をいうと、もう少し樹脂部品の質感が高いとありがたいところではあるが、プラス35万円で、レザーシートとフロントシートヒーター、電動スライディングルーフの付く「ラグジュアリーパッケージ」が用意されているのはありがたい。

 3列目に乗り込むには、2列目シートの肩部にある専用のレバー(リクライニング用のレバーの下に別に設定)を引いて、シートをダブルフォールディングさせればよい。2列目の座面が跳ね上がることで空間が現れるため、3列目へのアクセス性はまずまずだ。

 各列のシートは、1列目から徐々にヒップポイントの高くなるシアタースタイルレイアウトになっているおかげで、後席でも見晴らしはよい。ただし、3列目はさすがにフロアが高いため、ヒール段差(フロアから座面まで距離)が小さく、足の収まりがあまりよろしくないのは否めない。それでも、シート自体のサイズや頭上空間は比較的広く確保されており、それほど長時間でなければ、いざ3列目に人を乗せることになったときでも、3列目の乗員はそれほど苦痛を感じることはないだろう。

 また、人や荷物の積載状況によって、リアの車高が下がったときに自動的に車高を調整するセルフ・レベリング・ショック・アブソーバを標準装備していることも、お伝えしておこう。

 ラゲッジの使い勝手のよさも、キャプティバの大きな魅力のひとつだ。まず、テールゲートのガラスハッチ部分を単独で開閉できるのがありがたい。あったほうが絶対に重宝するものなのに、最近はなぜか同機構を持つクルマが減ってきているのだが、キャプティバにはちゃんと採用されている。

 ラゲッジスペース容量は、3列目を畳んだ通常の状態で477Lと、Dセグメントのステーションワゴン程度を確保。3列目を立てると、さすがにあまり残らず、97Lとなるが、7人フルに乗るシチュエーションなどあまりないだろうし、3列目も左右独立して前倒しが可能なので、必要に応じてフレキシブルに対応できる。欲を言うと、トノカバーのバーを外さないと3列目シートを上げ下げできないので、こちらのバーがフロア下あたりに収められるようになっていると、なおありがたかったところだ。

 さらに、ワンタッチでフォールド可能な2列目を前倒しすると、1577Lという広くフラットなスペースを作り出すことができる。これだけの広さがあれば、かなり大きな荷物も積み込めそうだ。

 

リラックスして乗れる
 ドライブフィールについては、よい意味で、あまり特徴らしい特徴がないという印象。これは、どこにもあまり気になるところがなくて乗りやすいという、ポジティブな意味に捉えていただければと思う。乗り心地は固くも柔らかくもなく、ちょうどよいところに落ち着いているし、SUVゆえそれなりに重心は高く、バネ下も重いわけだが、それらのハンデをあまり感じさせない仕上がりとなっている。

 また、最近ではSUVでもやたらとスポーティさを強調したものが多々見受けられるが、キャプティバはそうではなく、終始リラックスして乗れる。しかも、剛性感が高く、ステアリングフィールはしっかりとしていて、操舵に対する応答遅れもなく、走りに一体感がある。

 むしろSUVというのは、生まれながらにしてハンデをいくつも背負ったクルマであり、そのわるい部分を何も感じさせないように仕上げるほうが難しく、その意味では、キャプティバはSUVづくりに長けたGMのノウハウが上手く生かされているという見方もできるだろう。

 パワートレインは、最高出力123kW(167PS)/5600rpm、最大トルク230Nm(23.4kgm)/4600rpmを発生する2.4リッター直列4気筒エンジンに、「ドライバーシフトコントロール」と呼ぶマニュアルモード付きの6速ATが組み合わされる。1速のギア比がローギアードに設定されているおかげで出足は良好だ。

 車両重量が1800kgを超えているので、もう少し実用域のトルクがあればなおよいところだが、あまり物足りなさを感じることもなく、概ね必要十分といえる。時代に相応しく、「エコドライブ・モード」が用意されていて、切り替えると明らかに走りが大人しくなり、誰が運転しても低燃費になるよう味付けされている。

 4WDシステムには、電子制御油圧クラッチを用いた最新のアクティブ・オンデマンド4WDシステムを搭載。通常走行時は、ほぼFF状態が基本で、走行状況に応じて100:0から50:50まで自動的に駆動力を最適配分する。

 安全装備について、3列7名分の3点式シートベルトと6エアバッグ、ESC(エレクトロニック スタビリティ コントロール)やBAS(ブレーキ アシスト システム)はもちろん装備。加えて、EPB(電動パーキング ブレーキ)やPAS(パーキング アシスト センサー)や、近年のSUVでは常識となってきた、HSA(ヒル スタート アシスト)や、DCS(ディセント コントロール システム)も標準装備される。

 最新の4WDシステムとあいまって、悪路走破性についても不安はない。さらに、SUVならではの高い重心により、ロールオーバーの危険性が高まることに対しての手当てとして、最近、高価格帯の車種を中心に徐々に採用例の増えつつあるARP(アンチ ロールオーバー プロテクション)も装備される。このように、このクラスでは他に例のないほど、一連の電子デバイスがフルに装備されていることも特筆できる。

 このようにキャプティバは、あるようでなかった、3列シートを持ちながら、ちょうどよいサイズのSUVである点だけでも貴重な存在である上、高い実用性と充実した装備類を身に着けていることも大きな魅力となっている。さらに、この内容で車両価格が354万円に抑えられたコストパフォーマンスの高さも、あらためて痛感させられる。キャプティバのようなクルマの登場を待っていた人は少なくないことだろう。

全長×全幅×全高[mm]4690×1850×1790
ホイールベース[mm]2710
前/後トレッド[mm]1570
エンジン直列4気筒DOHC2.4リッター
最高出力[kW(PS)/rpm]123(167)/5600
最大トルク[Nm(kgm)/rpm]230(23.5kgm)/4600
トランスミッション6速AT
駆動方式4WD
ステアリング
前/後サスペンションストラット/マルチリンク
前/後ブレーキベンチレーテッドディスク
タイヤ235/50 R19
定員[名]7

インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 9月 28日