【インプレッション・リポート】
ルノー「ウインド」

Text by 日下部保雄


 

 ルノー「ウインド」は手軽な2シータークーペだ。特徴は開閉がわずかに12秒で可能なハードトップで、オープンエアとクローズドクーペの2通りのボディ形態をシチューションに応じて使い分けることができる。

 基本形態はオープンを満喫する2シーターだが、ハードトップがトランクリッドの上に収納されるスタイルを取るために、本来のトランクスペースを邪魔することはない。積極的にオープンにして出かけようというコンセプトが読み取れる。

 ベースとなったのは「トゥインゴ」で、これをベースとしてレーシングカーなどの開発を手掛けるルノー・スポールが開発した。

 ボディはトゥインゴベースだけにさすがにコンパクトで、5ナンバーサイズに収まっている。全長はわずかに3835mm、全幅は1690mmで、全長こそトゥインゴより225mmほど長いが、全幅は変わっていない。トゥインゴにはスポーツハッチバック、ゴルディーニがあるが、大雑把に言えばウインドはそのゴルディーニをベースとして、その名のとおり風を感じて走らせるスポーツモデルである。ホイールベースは2365mmでこちらもトゥインゴと変わらないが、ボディ重量は1190㎏と、1120㎏のゴルディーニよりはオープン化に伴って重くなっている。

 エンジンは79.5×80.5mmとほぼスクエアなボア×ストロークを持った自然吸気の1598ccで、出力は98kW(134PS)/6750rpm、トルクは160Nm(16.3kgm)/4400rpmとなっている。自然吸気らしい出力だが、このスペックからもわかるように実用性の高いエンジン特性だ。

 

自然なドラポジ
 トランクリッドの下にルーフを収納する構造になっているために、デザインは猫背気味だが、サイドビューは独特の形状をしており力強い印象を与える。これはロールオーバーバーを兼ねたBピラーと、そこからリアに伸びる面が特徴的で分厚いことから、コンパクトでかつボリューム感のある印象を与えている。

 インテリアは3連メーターを中心とした、ウインドに相応しいスポーティな雰囲気を出しており、サポートをしっかりしながらフランス車らしく体をふわりと包んでくれるバケットシート、5速MTのレザーシフトノブ、アルミ製のペダル類など、スポーツモデルらしさを出している。

 そう、ウインドは左ハンドルの5速MTのみで、右ハンドルやATの設定はない。5速MTはもちろん3ペダルで、はやりのツインクラッチではない。ABCペダルもオリジナルの左ハンドルなのでレイアウトは自然だ。左ハンドルを右ハンドルに置きかえた場合、時としてペダルレイアウトが不自然になることもあるが、ウインドにはその心配はない。あるべきところにペダルがあり、フロアもフラットでシューズが引っ掛かることもないので安心して楽しくペダル操作できる。

 本来は日本で乗るには右ハンドルがよいのだが、コンパクトなウインドはビッグサイズの左ハンドルほどは不便はなかった。ちなみにハンドルはやや左に向いているが許容範囲で違和感にはすぐ慣れる。

高速なトップの開閉
 注目の電動ハードトップはシンプル。他モデルがリアウインドーも含めて複雑な動きをするのに対して、ウインドはトップだけが移動してトランクリッドの下に入る。したがって、常にトランクリッドとトランクルームにはこのトップが収納できる空間が確保されている。クローズド時はデッドスペースとなっているが、トップそのものも薄いのでそれほど無駄にはなっていない。

 この開閉はシンプルなだけに速く、電動収納だけなら12秒で可能だ。ちょっとした信号待ちでも躊躇なくオープンにしたり、クローズドにしたりできるのは便利だ。操作はハンドブレーキを引いてルーフにある手動のラッチを外し(ワンタッチで簡単)、ダッシュボードセンターの大きなスイッチを下げると、トランクリッドが持ち上がってその下にハードトップが滑り込んで終了。ルーフを閉じた時にたまにラッチ不良のインジケーターがついたが、しばらくガチャガチャしているうちに自然治癒した。これもご愛嬌だ。

 トランスミッションは、欲張らないで軽量な5速MTのみとなる。シフトレバーの位置も自然に腕が伸びたところに配置されており、シフトフィールは適度な重さを持っている。ロードスターのようなカッチリとしたものではないが、ウインドに似つかわしく、軽くすんなり入るところが好ましい。リバースは一番右へ押し込み、引っ張るタイプになるが、やや入りにくい時があるものの、他のゲートはシフトミスすることもない。

誰でも堪能できるハンドリング
 エンジンの特性は低中速トルクのある実用性の高いもので、街中でも2速でとろとろと低速で走らせることもできる。かと言って、高回転まで回してもそれなりにパワフルで楽しめるのもウインドらしい。またエンジンの回転フィールはそれほど硬質なものではなく、やや振動を伴うが、トップエンドの6500rpm付近まで回しても不快感はなく、それはそれで楽しめるパワーユニットになっている。

 ちなみに最大トルクは4400rpmなので、決して低回転型のエンジンではなく、トルクの盛り上がりを積極的にドライビングに反映すると、ライト・スポーツらしい軽快なパフォーマンスを味わうことができる。トップエンドのパワーは余分にあるわけではないが、ウインドにとっては必要にして十分なパワーソースだ。

 ハンドリングはホイールベースが2365mmと短く、これに対してトレッドは1450/1430mmなのでスクエアなスタイルをとっているが、ハンドル操作に対して過敏な反応はしない。フロントがストラット、リアがツイストビームのサスペンションは固められはしているものの、ロールを徹底的に抑え込むようなタイプではなく、適度にロールを許容するので、自然なロールでハードなコーナリングをしても不安感はなく、安心してウインドのハンドリングを楽しめる。

 ウインドのハンドリングはFFらしいもので、ロードスターのようなある意味で剃刀のような、繊細なステアリングとアクセルワークを要求するものではない(これがロードスターの醍醐味でもある)。現代のFFらしくアクセルだけで姿勢変化をさせるようなセッティングではなくて適度に鈍く、そして適度にクイックな、誰でもウインドのハンドリングを堪能できる味つけにしてある。装着タイヤはブリヂストン「RE050A」でサイズは195/45 R16を履き、オプションで17インチを選択できる。16インチに乗った感想ではマッチングはこれで十分と感じた。

 ちなみにオープンとクローズドではわずかにステア特性が異なり、クローズドの方がカチリとする。オープンの宿命で、トップをしまうとボディ剛性が僅かに変わり、ハンドリングとしては緩い方向になる。もともとフロアの振動などはオープンらしく持っているが、スカットルシェークのような大きな振動はなく気にならない。しかし、トップを閉めるとカッチリ感はかなり上がり、持ち前のコンパクトでタイトな感じが強く出て、オープン時とは違ったクーペの鋭さを感じることができる。

 ブレーキはフロントがベンチレーテッド、リアがソリッドのディスクで、ストロークはやや大きい。絶対的な制動力は問題ないが、速度の低い時のブレーキに逆に神経を使った。もっともこれは個体差の可能性もある。

ぐっとくだけたオープン
 いろいろな理屈をつけて、ウインドはオープンで乗りたいクルマだ。シートポジションもクルマの低さ(全高1380mm)からしても相対的に高めで、ウインドシールド上縁から顔を出すような感じになり(実際はしっかりとウインドーシールドの中にかくれているのだが)、風の流れを直接的に感じることができる。

 実際には、トップを降ろしても風の巻き込みは少なく、コックピットのナビゲーターズシートに置いたものも、通常のクルージング程度であれば暴れることはない。もちろんサイドウインドーを下げると風は容赦なく入ってくるが、それはそれで気持ちがよい。

 サイドラインが高めのデザインからも分かるように、コックピットは潜り込むような感じを受けるのだが、それでもウインドに乗ると開放的な気分にさせられるのは、視界のよさとコックピットの雰囲気のせいだろうと思う。

 そのコックピットのメーターだが、バイクのメーターのようなイメージ。スピードメーターは大きく見やすいものの、その左側にあるタコメーターはフードが邪魔でちょっと煩わしい。

 そして前述のようにバケットシートはフランス車の真骨頂で、座った時のクッションストロークが絶妙で、しかも造形もカチカチのものではないので、乗降性は悪くないし、ロングドライブでもシート形状が合わないことからくる疲労は殆どなかった。

 しかもホールドは適度にタイトなので、コーナリングでも腰と上体のサポートは上々だ。乗降の際に、強く寝たAピラーに頭をぶつけるのがこの種のオープンの常だが、ウインドはウインドーシールドが前方からせりあがって、それほど後方まで伸びていないので、それほど注意する必要はない。

 ちなみにトランクだが、ルーフの収納にかかわらず270Lが確保されており、いわゆるCCモデルの中では望外の容量を誇る。さすがにゴルフバッグのようなかさばる物は無理でも、2人分のツーリストバッグを飲み込んでちょっとした旅行も可能。しかも気分が乗ればいつでもオープンにできるのは嬉しい限りだ。

 そして価格は255万円というグッドプライスを付けられている。この価格にはESPやEDD(制動力電子分配装置)、エアバッグをはじめ、16インチアルミホイール、CD一体型オーディオなどが含まれる。なかなかお買い得感があると思うがいかがだろう。

 稀代のドライビングマシン、マツダ・ロードスターとは、同じオープン2シーターでも性格が異なる。ピュアなロードスターに対してこちらはぐっとくだけたオープンで、それぞれ魅力に溢れている。


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2011年 11月 7日