【インプレッション・リポート】 ルノー「トゥインゴ ゴルディーニ ルノー・スポール」 |
初代トゥインゴは、愛らしい個性的なスタイリングが特徴のクルマだった。そして、初代のデビューから14年が経過した2007年に2代目トゥインゴが登場し、翌2008年秋には日本にも導入された。
車名こそ受け継ぐものの、共通するのは車体がコンパクトであることくらいで、初代とは違う路線のクルマになったのは明白。その2代目トゥインゴには「GT」や「RS(ルノー・スポール)」という初代にはなかったホットモデルがラインアップされた。さらに、このほど「ゴルディーニ RS」なるモデルが、トゥインゴの最上級バージョンという位置づけで発売された。
「ゴルディーニ」というのは、往年のルノーのチューナーである故アメデ・ゴルディーニ氏のことで、ルノーではこれまでも度々このネーミングをスポーツモデルの上級バージョンに与えてきた。
■レーシングマシン「R8ゴルディーニ」をリスペクト
ゴルディーニ RSでは、1960年~70年代に活躍したレーシングマシン「R8ゴルディーニ」をリスペクトしたアレンジが加えられている。唯一設定された車体色であるブルーマルトメタリックのボディーパネルにホワイトの太いストライプが入るのも、まさにR8ゴルディーニに由来するものだ。
よく見ると、ホワイトのストライプにはゴルディーニを意味する「G」マークがエンボス加工されている。ストライプだけでなく、フォグランプフレームやドアミラー、リアスポイラーもホワイトのアクセントとなっており、逆にホイールはリムやスポークの脇までブルーでペイントされているという、ゴルディーニのならではの凝ったコーディネートとなっている。
インテリアもブルー/ホワイトのタコメーターをはじめ、ステアリング、ゴルディーニロゴの入ったブラック&ブルーレザーシート、シフトノブおよびシフトブーツ、ドアトリム、フロアマットのパイピングなど各所にブルーがあしらわれている。外も中も見た目のインパクトはかなりのものだ。
また、トゥインゴの他のモデルが、通常のRSを含め右ハンドルのところ、かねてから左ハンドルが欲しいとの要望が多かったことに応え、左ハンドルのみの設定とされたのもゴルディーニRSの特徴だ。
価格はゴルディーニ RSは245万円。RSの250万円よりも5万円安い。ちなみにRSでは、スポーツシートの生地はファブリックだし、装着したクルマをよく見かける大胆なサイドデカールはオプション(3万6750円~4万2000円)だ。
それに対し、ゴルディーニ RSではストライプやレザーシートなどの付加価値を標準で装備しながら、なぜか5万円も安くなっているのはポイントと言えよう。また、RS以外のトゥインゴに対しても、1.2リッター自然吸気エンジンを積むスタンダードモデルが198万円、1.2リッターターボエンジンを積む上級モデルのGTが240万円なので、GTに対しても5万円しか高くないことになる。いかにゴルディーニRSがお買い得か、ご理解いただけることだろう。
ルックスだけでも楽しめるクルマであることに加え、ゴルディーニ RSは走る楽しさに満ちている。通常のRSでは「シャシーカップ」と呼ばれるサーキット走行にも対応するセッティングが施されているのに対し、ゴルディーニ RSでは、シャシーカップからサスペンション剛性を10%落とした「シャシースポール」を採用。さらに、ステアリングギア比を15.9と比較的クイックに設定している。この組み合わせが絶妙なのだ。
ちなみに2代目トゥインゴのプラットフォームは、先代ルーテシア(欧州名クリオ)がベース。つまり日産とのアライアンスの産物ではなく、ルノーオリジナルであり、もともと評判のよいこのシャシーは直進安定性が高く、ロードホールディング性にも優れるなど、コンパクトカーらしからぬ落ち着いた乗り味が特徴で、筆者もそのように思っていた。
そこに、前述のセッティングが施されたおかげで、高速巡航時はドシッと構えながら、ステアリングを切ればキビキビとした反応を楽しめる仕上がりとなっている。シャシースポールによる足まわりは、コーナリング時の姿勢変化も小さく、スポーティな雰囲気を楽しめる。それでいてスパルタンすぎることはなく、乗り心地はしなやかで、快適性が十分に保たれているところが好印象だ。いかなるシチュエーションにおいてもスポーティテイストを堪能できる、大きなドライビングプレジャーを秘めたクルマなのである。
■トルク重視のエンジンと節度感のあるシフトフィール
エンジンおよびトランスミッションは通常のRSと共通で、直列4気筒DOHC 1.6リッターエンジンは最高出力98kW(134PS)/6750rpm、最大トルク160Nm(16.3kgm)/4400rpmというスペック。これに5速MTを組み合わせる。
エンジン特性はどちらかというとトルク重視で、瞬発力に優れる印象。適度にショートストロークで節度感のあるシフトフィールや、半クラッチを探りやすく、踏力の軽いクラッチペダルなど、MTに乗る上で重要な操作系がとても扱いやすく仕上げられているところがよい。
そして何よりもHパターンを左ハンドルで楽しめるところが、このクルマの大きなポイントだろう。一般的にHパターンのシフトというのは左側から右手でシフトチェンジしたほうが操作しやすいし、トゥインゴの場合は左ハンドルのほうがドライビングポジションも自然。日本で左ハンドル車に乗ることについては是非の議論もあるところだが、筆者としては難しい話は抜きにして、このクルマは左ハンドルでよかったと思う。
ただし、惜しいのはMTが5速であること。1~5速までギアのステップ比はよいのだが、5速、100km/hで走るとエンジン回転数が3100rpmを超えてしまい、やや騒々しくなる。上にもう1速あるとなおありがたいところだ。
■見た目は小さくとも室内は最大効率
もう1つ、このクルマについて改めて感じるのはパッケージングの巧さだ。無論、絶対的なサイズが小さいので物理的な限界はあるのだが、外から見て小さいからこそなおさら室内空間の造りがとても効率的に感じられるのだ。室内のカラーコーディネートが凝ったものであることはお伝えしたとおり。装備される4つのシートは、このクラスに装備されるものとは思えないほどサイズが大きく、しっかりしたものが備わる。
フロントだけでなくリアも左右独立したシートが備わり、それぞれ前後スライドが可能となっているので、必要に応じてアレンジしやすい。また、後席の居住性についても、ルーフエンドが後ろまで伸びたボディー形状となっているおかげで、頭まわりはむしろ余裕があるほどだ。室内空間の大きさを重視する人は、最初からトゥインゴを選択肢に入れることはないかもしれないが、いざというときにこのスペースは頼りになるし、こうした合理性を備えたクルマであることもお伝えしておこう。
■走りに唸らされるルノー車
現在、Bセグメントの欧州車にホットハッチと呼ばれる車種はいくつも存在し、それぞれが魅力を兼ね備えているわけだが、その中でもゴルディーニ RSはなかなか面白い選択肢だと思う。ルックスが好みにはまればそれだけでもOKだろうし、走りのまとまり感は筆者の記憶にある中では1、2を争う仕上がり。そしてこの希少性もまた魅力の1つとなるだろう。
こと走りについては、このところメガーヌRSや標準のメガーヌ、カングー・ビボップ、ウインドなど、ルノー車にはドライブする度に感心させられっぱなしなのだが、このゴルディーニ RSにも、大いに唸らされた次第である。
全長3.6mの小さなフレンチホットハッチは、その実大きなインパクトを持っていた。限定販売ではないが、日本に導入される時期や台数にはそれなりに制約があるとのことなので、興味を持っている方々は、早めにアクションすることをおすすめしたい。
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2011年 10月 25日