【インプレッション・リポート】
ダイハツ「ミラ イース」

Text by 日下部保雄


 

 マツダの「スカイアクティブ」と並んで注目を集めているダイハツの「e:Sテクノロジー」。そのe:Sテクノロジーを搭載した「ミラ イース」が発売され、正式なメディア試乗会が開催された。正式な、というのはすでに7月にe:Sテクノロジーとしてまだマスキングを施されたプロトタイプの燃費体験試乗ができたからだ。今回は細部を仕上げた量産車による、2回目の試乗会ということになる。

 ティザー広告も含めたキャンペーンもさることながら、エコカーの市場での人気は高く発売から僅か2週間にも満たないのに2万台という受注ができていると言う。

イースの3つのテーマ、「Economy」「Ecology」「Smart」
 ではイース(e:S)にはどんな意味が込められているのだろう。Energy Saving Technologyをモチーフに、プレスリリースには「Eco&Smart」の略とある。そして、ECOにはEcologyとEconomyの両方の意味が込められていると言う。つまり環境意識があってシンプルでスマートなカーライフを送るすべての人々に、という願いがこもっている。

 クルマの開発にはフィロソフィーは大切だ。芯が通ることでクルマのコンセプトが分かりやすくなる。ミラ イースはこれら3つのテーマに向けて開発され、軽が当初持っていた「ECO」に立ち返ることを目標としている。この裏には軽の高価格化と、ハイブリットをはじめとする小型車に対して燃費のアドバンテージを急激になくしていることが挙げられる。

最上位グレードの「G」。アルミホイール、ターンシグナルランプ内蔵電動格納ドアミラー、オートエアコン、キーレスエントリー、革巻きステアリングホイールなどを標準で備える。カーナビはオプション

 「Economy」は徹底した原価の低減を行い、スタートで80万を切る価格を実現した。「Ecology」はJC08モードで30㎞/Lの燃費。「Smart」は4人乗りで5ドアの実用性と、シンプルで飽きのこないデザインを標榜している。

 この3つのテーマに対して、使われた技術はプラットフォームやエンジンの見直しから始まり、細部に至るまで目標達成に向けて考え抜かれた。

 まず車体の軽量化だが、現行ミラに対して60㎏の軽量化が図られている。アンダーフロアは「ムーブ」と同じものを使っているが、メンバーなどの徹底した見直しで、剛性を変えずに30㎏の削減を達成しているのが素晴らしい。さらに超高張力鋼板を減らしてコストも削減していることが軽らしいユニークな発想で面白い。超高張力鋼板は溶接に高い電圧を使うので、この面でもコストがかかるという。剛性確保ポイントは数あるが、リアのハッチゲートまわりの構造を見直したことが大きいと言う。

 この他でも内装材のフレームを直線的に配置して剛性をアップしつつ、部材数を削減したりするなどで20㎏の軽量化が図られている。

 余談だが自分もかってノーマルボディーを軽量化するために、軽量孔を開けたり、アスファルトシートを剥がしたりなどしたことがあるが、思った以上に軽くならなかったことにがっかりしたことがある、だからこそボディーシェルと内装材で50㎏の削減は驚くばかりだ。

 さらに10㎏はCVTユニットのチェーン幅を狭くしたりするなどで達成しており、トータルで60㎏になる。

形状や高張力鋼板配置の見直しで、コストと重量を削減した

 エンジンは、ミラなどに搭載している3気筒12バルブ「KF型」(ボア×ストロークは63×70.4㎜)をベースに、ヘッド周りの冷却性をよくして耐ノッキング性能を向上させ、圧縮比を10.8から11.3に上げている。

 またインジェクターノズルを長くすることで、燃焼室の奥に微粒子化した燃料を吹き、燃焼しやすくしている。さらに、イオンによってEGR量を細かくコントロールすることができるようになり、大きく燃費向上に貢献できたようだ。もちろんメカニカルロスの低減はさらに徹底してやっている。

 最高出力は38kW(52PS)/6800rpm、最大トルクは60Nm(6.1kgm)/5200rpmで、ミラの43kW(58PS)/7200rpm、65Nm(6.6kgm)/4000rpmからはパワーを落として、燃費に振っている。

KF型エンジンイオンでEGR量を制御する

 

CVT

アイドリングストップや減速エネルギー回生も
 トランスミッションはCVTで、こちらもロックアップ領域を広げ、抵抗の低減など適合が著しい。ファイナルドライブは軽量化もあって5.333から4.523にハイギアード化され、こちらも燃費向上の要素になっている。軽の使われ方を考えるとストップ&ゴーが多く、エンジンの効率のよいところを使えるCVTは、ガソリン車の燃費にとってはベターだと思う。

 また燃費向上にはアイドリングストップ機構「eco IDLE」(エコアイドル)も大きな効果を上げている。アイドリングストップは欧州車ではかなり普及しているが、まだ日本車はこれから普及していく過程にある。ミラ イースは当然新しいECOカーとしてアイドリングストップ機構を積極的に取り入れて、アイドリングストップもかなりの時間するようになっている。

 燃費改善技術は数多くあるが、減速時にオルタネーターから発電する電気を、新規の改良されたバッテリーに取り込む減速エネルギー回生も行い、通常走行時のオルタネーターによる発電量を減らし、負荷を減らしている。

 また転がり抵抗の低減は大きな効果を上げているが、その一例として試乗車の装着タイヤはヨコハマの低転がり抵抗タイヤ「ブルーアース」だった。サイズは155/65 R14のみである。

アイドリングストップは停止前から動作する転がり抵抗も低減

 さて、これらの技術を盛り込まれたミラ イースのスタイルは、ケレンミのないスッキリしたものだった。

 軽はサイズの制約があってなかなか伸びやかなスタイルを採るのが難しい。ミラ イースは滑らかなサイド面でCピラーに特徴をもたせており、写真よりも意外と立体的で、飽きのこないスタイルになっている。平凡だが、日本で使うには完成されたサイズ感で、3395×1475×1500㎜の全長×全幅×全高は、多くの軽とほぼ同じところに収まっている。ちなみにミラより全高が30㎜低くなっている。

量販グレードの「X」。ホイールキャップ、マニュアルエアコン、ウレタンステアリングを装備。ドアミラーは電動格納式だが、ターンシグナルランプは内蔵されない

 空力のために寝かされたAピラーだが、これが空気に逆らわないデザインにつながっている。またキャビンへの圧迫感は殆ど感じなかった。

 そのインテリアもシンプルでクリーンだ。横基調のインパネは広がり感があり、明るい室内色もあって、開放的なキャビンを構成している。

 後席の広さは最近の軽の特徴だが、ミラ イースもレッグルームはたっぷりとしている。しかもダイハツ車の特徴でドアは90度まで開くので、例えばチャイルドシート取り付けや、子供をチャイルドシートに乗せるときも重宝する。

 

実感できる転がり抵抗の少なさ
 さて、お待たせしました。イースを街中に連れ出してみよう。視界のよいドライビングポジションは気持ちがよく、シートのサイズは軽としては十分だ。操作系に何も難しいところはない。

 ちなみに最上級グレードの「G」は横滑り防止装置のVSCが標準で着いて112万円、その他のグレードもABSが装着されている(意外とABSの装着は軽は遅れているのだ)。

 アイドリングノイズは特別静かなわけでないが、3気筒の軽としては標準的で煩わしさはない。このエンジンノイズでは速度を出してもそれほど変わらない。つまり相対的に静かで、加速時もガサガサとしていないので、すっとアクセルを踏めるのは好ましい。

 ロードノイズもかなり軽量化されているにもかかわらず、よく抑えられていると思う。少なくとも街中、郊外のバイパスを走った試乗中は風切音なども煩わしくなかった。ノイズとしては十分に合格点だ。

 ちなみに通常走行でのノイズと言えば、アクセルを離したときに減速エネルギー回生をしている「ヒューン」という音が入ってくるが、個人的にはエネルギーを溜めている感じがして嫌な音ではなかった。

 動力性能は14㎏/PSなりで、速くはないが必要にして十分だ。むしろ期待値を超えており、バイパスで交通の流れに乗るためにアクセルを踏み込んだ時も、相応の加速力があって困らない。ターボのような圧倒的なものはもちろんないが、自然吸気エンジンとして納得の動力性能だ。むしろボディーの軽さが効いており、軽やかな加速感に好感が持てる。

 市街地ではもちろんこれで十分。低速での走りでもギクシャク感は全くない。燃費のためにCVTのロックアップ領域を拡大しており、減速時もぎりぎりまで直結しているが、ハンチングのような現象が出る直前でロックアップを解除して、違和感をなくしている。それにしてもよく転がる……ためしにニュートラルに入れてみると、イースはどこまでも空走して止まる気配をなかなか見せない。それだけ転がり抵抗が少ない証拠だろう。

軽さはハンドリングにも好影響
 試乗当日は真夏日で外気温は30度近かった。当然エアコンを使っていたが、信号で停止するたびにアイドリングストップは確実に作動した。特に減速している時に時速が7km/h以下になるとアイドルストップが作動してエンジンを停めてしまう。もちろん停止寸前の状況なので再加速することもあるが、そんな場合でもエンジンは全く違和感なくいつの間にか再始動している。さすがに真夏日にアイドルストップが続くと、キャビンが暑くなる。エアコンの作動も制御しているからで、こんな場面では任意でアイドルストップをカットできる。

 またメーターパネル内にはエコドライブをサポートする表示があり、アイドルストップの時間(イグニッションONからOFFにするまで)が表示され、さらにはアクセルOFF時などにエネルギー回生の表示が出る。また燃費のよい運転をしていると、メーター内の表示カラーがブルーからグリーンになるカラーディスプレイもあるので、燃費運転がしやすい。

メーターパネル内の「エコドライブアシスト照明」。青(左)が通常の状態で、燃費がよい運転になるとグリーンに変化(中、右)する

 ハンドリングをうんぬんするクルマではないかもしれないが、これが意外と軽快だった。やっぱり車が軽いのはいい。スタビライザーを持たないのでロールはソコソコ深いが、ハンドルの追従性は結構よく、フットワークは意外とよい。

 電動パワーステアリングは軽めの味付けだが、接地感は保っており、これも好感を持った。ちなみにサスペンションは常識的なストラット/トーションビームながら、それだけによくこなれていると思う。

 乗り心地は石畳のある道からうねりのある郊外路までを走ったが、バネ上の動きはよく抑えられている。シートにそれほど厚みはないものの、路面からのショックは少ない。大きな段差を乗り越した時にはリアからくる衝撃は小さくないものの、妥当はところだ。

 広いキャビンは使いかってがよく、リアシートベルトアンカーも自立式で装着しやすく、ISOFIXも装備されているのでISOFIX対応のチャイルドシートも装着可能で歓迎だ。1つだけ不満なのは、軽には常識的だが後席ヘッドレストがオプションでも装着できないことだ。

 イースはなかなかまとまりのよいクルマで、軽らしく長く付き合えそうだ。

最廉価グレード「D」。エアコン、ABS、アイドリングストップが着く。エコドライブアシスト照明は、アンバーからグリーンに変化する簡略版ながら、装備される

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2011年 10月 21日