【インプレッション・リポート】 フォルクスワーゲン「ザ・ビートル」 |
「Kiifer(ケーファー)」はドイツ、「Bug(バグ)」はアメリカ、「Maggiolino(マジョリーノ)」はイタリア。ポルトガルのリスボンで開催された試乗会のプレゼンテーションでは、世界中から親しまれているビートルの愛称が紹介された。日本ではもちろん「カブトムシ」である。
そんな世界で最も有名なクルマであり、クルマのアイコン的存在のフォルクスワーゲン「ビートル」は、今回のフルモデルチェンジでまた新しい名前を手に入れた。ニュービートルから「ザ・ビートル」へとチェンジしたのである。
その全貌は、昨年12月の東京モーターショーで日本初披露されている。欧州ではすでに2リッターモデルが発売されていて、どこから見てもその印象は間違いなくビートルでありながら、実はさまざまな進化を遂げているというリポートが届いていた。
日本でもいよいよこの4月から受注開始となり、6月に正式デビューを控えているが、ひと足先に欧州では1.2リッターと1.4リッターのガソリンエンジン2種と、1.6リッターのディーゼルエンジンが追加設定された。そのうちの1.2リッターガソリンエンジンモデルが日本に導入されるということで、早々に試乗させてもらったのだった。
■より初代ビートルに近く
プレゼンテーションでプロダクトマネージャーは、「ザ・ビートルはケーファー(初代ビートル)の直系の後継車であり、ケーファーの成熟した姿です」と語った。
それがよく表れているのは、まずデザインだ。サイズとしては、全長が4278mm(ニュー・ビートル比+152mm)、全幅が1808mm(同+84mm)と大きくなっているものの、まったく肥えた印象を与えないのは、全高が1486mm(同-12mm)と低くなっていたり、サイドクラスターの張り出しが薄くなっているせいだろうか。
正面から見ると、フェンダーの誇張された丸みが控えめだったり、ボンネットの高さが抑えられているのがわかる。そしてサイドから見ると、ルーフラインのカーブがシャープになっており、Cピラーとリアウインドーがツルリと一体化されている。全体的に、ドーム型パーツが誇張されていたニュービートルよりも、初代ビートルのフォルムに近くなっていると感じた。
リアビューはとてもシンプルだが、アーモンドのようなテールランプが愛嬌のあるヒップラインを創っている。リアゲートは、フォルクスワーゲンのエンブレムを押すと開くお馴染みの仕組みで、余計なスイッチなどがないのもシンプルさの要因だ。
また、トレッドはフロントが1578mm(ニュー・ビートル比+63mm)、リアが1544mm(同+49mm)とワイドになっているので、堂々とした安定感がただよっている。これはビートルらしさを損なわずに、最新の安全性と環境性能を兼ね備えることに成功した、とても秀逸なデザインだと感じた。
ザ・ビートルには3つのキャラクターが設定されており、主にホイールのデザインやインテリアの素材、カラーコーディネートが違うものになる。1つめはベーシックモデルの「ビートル」。ホイールは16インチの6スポークで、インテリアはモノクローム・ブラックでシックなイメージだ。
2つめは「デザイン」で、ホイールは16インチの10スポークアロイ。インテリアにはボディー同色のパネルがコーディネートされ、個性的な空間を演出している。
そして3つ目は「スポーツ」で、ホイールは17インチのスピンタイプ。インテリアではボディー同色パネルのほかに、カーボンパネルが使われているので硬派な雰囲気だ。
さらに特別仕様のRラインでは、専用のサイドパネルやスポーツステアリング、18インチの軽量ホイールが装備されて、よりハードなビートルが楽しめる。
■乗っても初代っぽい
さて、そろそろ試乗に移ることにしよう。試乗車は1.4リッターと1.2リッターのTSIエンジンに、6速MTが搭載されたモデルだ。日本に導入されるのはデュアルクラッチトランスミッションの「DSG」になるので、完全に日本仕様とはいかなかったが、2リッターとは違う走りを味わうことができた。
プロダクトマネージャーが言うには、「初代ビートルからすると、ザ・ビートルは速度は2倍、燃費は2分の1に進化しました」とのこと。実は、私は初代ビートルを愛車としていた頃があり、その独特の乗り味が大好きだったため、あまりに進化して普通のクルマになってしまうのには抵抗がある。快適に走れるのは大歓迎だが、私が好きだったビートルらしさは、果たして残っているだろうか。そんなことを考えながら、大人3人乗車で海岸沿いの道をドライブしてみた。
運転席に座った第一印象は、三角窓がなくなってもどことなく初代ビートルを思わせる視界で、洗練されたインパネとのギャップが面白い。しかも助手席の前に、初代を模した「ビートルポケット」と呼ばれる収納が復活しているので、初代ファンにはちょっと嬉しい。
シートがとても大きくゆったりと造られており、クッションに厚みがあってソファ感覚というのも、初代に通じるものがあった。加えて、クラッチペダルの踏み込みがかなり深いところも、初代っぽい。ぐにゃりとした昔のペダル感覚が甦ってきて、たちまち懐かしさがこみあげた。
ただ、そのシートとペダルが災いしてか、シートポジションがなかなかフィットしない。クラッチペダルをしっかり踏むためにシートを前に出すと、ステアリングが近すぎる。ステアリングを合わせると、足が浮いてしまう、という具合だ。でも幸い、リクライニングの調整が細かくできることと、日本仕様はDSGだからクラッチペダルを踏む必要がないので、この心配は日本に持ち帰らずに済んだ。
■キュートで快適でエコ
いよいよ走りだすと、まず1.4リッターTSIは発進から元気よく加速してくれて、一般道ではまだまだ余裕が感じられる。一瞬の追い越し加速も十分で、これなら高速でのクルージングも快適なのは間違いない。そして1.2リッターは発進直後こそ1.4リッターのトルクには及ばず、加速がスローな感じはするものの、すぐに穏やかな加速がはじまってなめらかに走ることができた。クルージングに入ると、1.4リッターよりものんびりとした感覚に浸れるので、ビートルらしさが好きな私には1.2リッターの方が好ましい。
足まわりには適度な剛性感があり、カーブでも安定したシッカリ感がありながら、ガチガチすぎないところもよかった。また路側帯に停車する時や車庫入れの時に、サイドの張り出しやボンネットの低さが効いているのか、車両感覚がつかみやすくなっており、運転しやすさがアップしていると感じた。ザ・ビートルは街中から高速まで、最新のビートルらしさと共に快適に走れるようになっている。
居住性と使い勝手の向上も魅力のひとつ。前席はもちろんゆったりとしているし、後席がとても広くなっていることに驚いた。頭上には170cmの大人が座っても余裕があるし、背もたれが肩の高さまであるので、すっぽりと座る感覚だ。さすがに背もたれの角度は直立気味だけど、乗り心地もわるくない。
そして収納では、ビートルポケットのほかにも実用的な大容量ブローブボックスを備え、カップホルダーは前に2つ、後ろに1つ。ダッシュボードに小物トレイもあるので、とても使いやすかった。また、ラゲッジスペースは通常でも深さがあって十分に大きく、後席を倒すと905Lの大容量。大きな荷物が積めるのが便利だ。
こうして見てくると、ダウンサイザーにとってはファミリーユースもOKだし、アウトドアなど趣味の相棒としても、ショッピングのお供としても活躍しそうなザ・ビートル。気になる燃費は、今回試乗した欧州仕様で5.9L/100km(約16.9km/L)ということだが、フォルクスワーゲンは実用燃費のよさに定評があるので、もっと伸びる可能性が高い。
日本には6月に「デザイン」のレザーシート仕様(303万円)から登場し、ちょっと遅れてファブリック仕様が入るとのこと。また年内にカブリオレが登場予定で、その後もいろいろと楽しい企画が控えているらしい。キュートで快適でエコと三拍子そろうクルマとして、ザ・ビートルは日本でも歓迎されそうだ。
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2012年 4月 20日