インプレッション
BMW「523d ブルーパフォーマンス」
(2012/12/3 12:15)
日本ではエコカーというとハイブリットカーがフォーカスされるが、走行パターンの違う欧州ではハイブリットは少数派。もっぱら新世代ディーゼルが幅を利かせている。実際に欧州ではモデルの半数以上はディーゼル車と言う国も少なくない。
BMWも例外ではなく、欧州における彼らのモデルのディーゼル比率は、約7割に及んでいる。日本では考えられないデータだ。勢い、ディーゼルエンジンにかける意欲は高く、高効率の新世代ディーゼルの開発に拍車がかかる。
日本ではディーゼル乗用車の認知度が低く、走らない、うるさい、汚い、のイメージが強くて長年拒否されてきたが、日産「エクストレイル」にクリーンディーゼルエンジンが搭載されて復権の兆しが見え、さらにマツダのクリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」が「CX-5」に搭載されて、にわかにディーゼルが注目され始めた。好調のCX-5のディーゼルモデルの受注比率は8割にも及ぶ。
ドライビングプレジャーを第一に掲げたエンジン
今回紹介するのは5シリーズに設定されたディーゼルモデル「523d ブルーパフォーマンス」である。523dに搭載されるディーゼルエンジンは基本的には3シリーズのディーゼルモデル「320d」のそれと変わりはない。2リッターの4気筒DOHC直噴 可変ジオメトリーターボで、ネーミングは「523」と「320」だが、共通のエンジンである。
この新しいクリーンディーゼルエンジンは、競争の激しい欧州で鍛えられたものだけあって、BMWらしく実力十分だ。「BMWらしい」というのは、ドライビングプレジャーを第一に掲げたエンジンということ。日本では知られていないが、BMWは1983年に最速のディーゼル乗用車を発売しており、以来ディーゼルエンジンの開発には余念がない。2011年には、3ステージターボと2200barの噴射圧力を持つ最新のディーゼルエンジンを発売している。
523d ブルーパフォーマンスの新世代クリーンディーゼルエンジンは、アルミのクランクケースを使った軽量エンジンで、圧縮比を16.5:1としている。かってのディーゼルエンジンに比較するとかなり圧縮比は下がっており、鋳鉄を使わなくてもよくなった。マツダSKYACTIV-Dの圧縮比14:1には及ばないが、いずれも以前より低圧縮比で着火させている技術は興味深い。余談だがSKYACTIV-D に関してはBMWのエンジニアは「コンセプトが違う」と言っていたが、かなり興味津々のようだった。
話を戻そう。技術的には新世代エンジンの常識となりつつあるコモンレール・ダイレクトインジェクションで燃圧は2000bar。相当高い燃圧でディーゼル燃料を微細化して、排気ガスのクリーン化を促進している。
さらに可変ジオメトリーターボを採用することで、エンジン回転に応じた過給圧をコントロールして、ターボとディーゼルの相乗効果によって生じるレスポンス遅れを解消している。同時に高いトルクを幅広い回転域で出すことを狙っている。さらに燃料を節約することができるので一石二鳥でもある。
メンテナンスフリーの排ガス処理技術
ディーゼルで問題になるのは排気ガスの処理技術だが、BMWのクリーンディーゼルエンジンは世界でも最も厳しい日本の「ポスト新長期規制」に適合する。もちろんベースは欧州の「ユーロ6」規制で、これによって日本にクリーンディーゼルが導入しやすくなったと言える。
加速時の黒煙や煤は排出ガス中の微粒子が原因だが、エンジンの噴霧圧力と共にDPF(粒子状物質除去フィルター)を装着して吸着する。ディーゼルのもう1つの問題点である窒素酸化物(NOx)は、吸蔵還元触媒で処理する。この触媒でNOxを触媒内に吸蔵して、水と窒素、二酸化炭素に分解して排出する。いずれの触媒もメンテナンスフリーである。
BMWでは4気筒2リッタークラスのディーゼルはNOx吸蔵触媒で処理するが、大きいクラスのディーゼルエンジン、例えば「X5」に搭載する6気筒のディーゼルエンジンでは、尿素還元触媒を使っている。こちらは「アドブルー」と呼ばれる尿素をDPF通過後に、選択還元触媒の前に噴霧して処理するやり方だ。アドブルーを定期的に補給しなければならないが、処理能力と出力には有利と言われる。
さてディーゼルエンジンは大きなトルクがあることはよく知られている。ただ回転数の頭打ちと「ディーゼルノック」と呼ばれる大きなノイズと振動は、圧縮比の高いディーゼルでは不可避的に持っていた。BMWのようなプレミアムブランド、特に日本での販売にあたっては避けなくてはならない問題だ。
まず気になるアイドリング状態での音と振動だが、当然ながらガソリンと比べると少し大きく、車内では軽い振動と共に僅かなガラガラ音が伝わってくる。しかし長時間に渡っての乗車、例えば渋滞などでも疲労を感じることはないだろう。そのくらいのレベルのものだ。車外ではノイズはもう少し大きくなり、5シリーズに期待されるものよりは若干大きいかもしれない。個人的には320dでは気にならなくとも523dではもうちょっと、と感じるところもある。
走り始めてしまうとディーゼルの振動感はほとんど感じない。よく遮音され、かつ振動も制御されていると感心する。この点では320dを上回っているようだ。
アイドリングストップはガソリン同様に行い、比較的早めにエンジンを止めに行くので、信号などではかなりの確率でアイドリングストップが入る。アイドリングストップに慣れると、停車中にエンジンが止って静寂の世界が広がらないと不安になってくるから不思議だ。
ガソリンエンジンと遜色ない気持ちよさ
エンジンの最高出力は135kW(184PS)/4000rpm、最大トルクは380Nm(38.7㎏m)/1750~2750rpmで、パワーはともかく、トルクは幅広い回転域で十分なトルクを出していることが分かる。
320dとまったく同じパワートレインだが、320dは重量が軽い分(1620㎏)だけ瞬発力もある。523dでは1860㎏と260㎏増えているだけに、320dに比べるとかキビキビ感は薄れるが、ディーゼルの本領はその分厚いトルクを低回転から出せるというところにあり、山道でも粘り強い加速ができるので、力不足を感じることはまずない。
BMWでは「ツーリング」と呼ぶワゴンモデルでは、荷物や人を乗せることも多いと思うが、そんなシチュエーションでもこの大きなトルクは魅力的だ。ディーゼルで歯がゆいのはエンジンの伸びがないことだが、新しいディーゼルエンジンはそんな痛痒もほとんど感じさせない。最高出力を発生する4000rpmを超えてもさらに回ろうとするので、ガソリンエンジンと遜色ない気持ちよさだ。
さらに高速クルージングはディーゼルの得意とするところだ。100km/hでのエンジン回転数は僅かに1600rpm、120km/hでは1900rpmまでしか上がらず、いずれもほぼ最大トルク発生回転域なので、追い越し加速でも上り坂でも力強い走行ができ、精神的にも実際の疲労という点でも余裕がある。
トランスミッションはトルコン8速ATで、常にトルクのある回転域で変速しており、この点でもディーゼルのよい点を引き出すことができる。ただし変速ショックはほとんど感じないとはいえ、常に変速しているのでビジー、つまりちょっと煩く感じることもあるのも事実だ。
ちなみに8速ATのギヤ比はどのディーゼル、ガソリンのどのモデルでも共通で、ファイナルドライブで適正に調整している。523dはトルクフルなディーゼルの特性を活かして、ツーリングで3.077、セダンで2.929という、ガソリンエンジンの523iよりも高いファイナルドライブが与えられている(523iはセダン、ツーリングともに3.231)。
ロングツーリングの相棒に
523dにも523i同様にダイナミック・パフォーマンス・コントロールが装備され、ドライブモードを選択できる。エンジン出力、エアコンなどへの出力を抑えて燃費を向上させる「ECO PRO」モード、スタンダードの「COMFORT」モード、エンジンレスポンスなどをよりスポーツライクに変更する「SPORT」、そしてSPORTに加えて横滑り防止装置「DSC」などを解除する「SPORT+」の4つのモードを選択できる。
テスト中、いろいろなモードを試したが、ECO PROモードで走ってもそれほど不自然な感じではない。ただアクセルのツキが鈍く、ついつい踏み込んでしまう場面もあるので、COMFORTで余裕を持って走るのがベターだろう。
SPORTは低いギアに保ち、例えば100㎞/hクルージングではエンジンは2100rpmにキープされる。またキビキビ感も増す。ドライブモードはカスタマイズできるので、好みに合わせたセッティングを最初に行っておくのもよいだろう。
またテスト車には、オプションのダイナミック・ダンピング・コントロールが装着されていたが、これはダンパーの減衰力を走行状態に合わせて自動的に調整する優れもので、モードドライブに関係なく最適な乗り心地を得られるように調整する。後席に乗員がいる時やラゲッジルームに荷物を積んだ時に、ピッチングなどを抑えられ効果をさらに実感できるだろう。
取り回しについてはBMW得意のインテグレイテッド・ステアリング・システムを持っている。簡単に言えば低速では逆相に、高速では同相に入る4WS(4輪操舵)だ。低速ではホイールベース2970㎜のクルマとは思えないほど小回りが効く。またステアリングの操舵量も速度に応じて変わるので、低速では少ない操舵量で大きく切れ、高速では大きな操舵量で少し切れることになる。
BMWはこのシステムに熱心だが、低速から高速に変わる時に操舵感がずれて、慣れないとちょっと違和感がある。ただ慣れてしまうと非常に楽なシステムだ。
ハンドリングは、ツーリングはセダンに比べるとリア荷重が大きいと思われ、ハンドル操舵時の回頭性などは少しゆったりとしているが、BMWらしく気持ちよくスッキリしているのが印象的だ。じっくりと粘り腰だがフットワークはよく、狭いワインディングも苦にならない。
さてツーリングならではの広いラッゲージルームは夢があってよい。テールゲートは、リアウインドーだけを開くこともできる。
ラッゲージルーム内は両サイドを整形しているので長尺物を横にして収納することは難しいが、シートバックを分割で倒して荷物に合わせて収納できるので実質的な能力は高い。またリアシートバックが4:2:4で倒れるのでスキーの様な長いものでもセンターを倒して収められる。
ついでながら後席はドイツ車らしく少し硬めだが、ホールドはよく安心感がある。そしてレッグルームも広く快適な後席空間だ。
523d ブルーパフォーマンスは、ほかのBMW車同様にドライビングの喜びを堪能できるテイストを持っていた。ロングツーリングの相棒にしたいと思わせる1台だ。