インプレッション

フォルクスワーゲン「ゴルフ」(7代目)

 「3リッターカー」──排気量3000ccのクルマ……ではなく、日本で言うところの「エコカー」と同様、超低燃費車を示すひと昔前の欧州でよく耳にしたこのフレーズだ。

 それは、ヨーロッパでの一般的な表記が「○○L/100km」──すなわち、「100kmの距離を走行するのに、どのくらいの燃料を要するか?」というところに由来している。冒頭掲げた3リッターカーというのは、すなわち100kmを3Lの燃料で走り切ることができるクルマということ。日本式表記に換算すれば、それは33.3333……km/L。実際、そんなハードルにチャレンジしたモデルも、その低燃費性能を世に問うべく、これまでいくつか姿を現した。

 しかし、今振り返るとそれらは、空気抵抗を極限まで抑えるブロポーションを追求した結果、実用性に欠ける2シーター・パッケージングとなったり、徹底した軽量化に挑戦した結果、高価なアルミ構造のボディを使わざるを得なくなったり、ハイブリッド・システムの助けを借りなければならなくなったりと、量産車に向くとはいえないあくまで“実験車”的な位置付けに留まるものが多かったと言わざるを得ない。実際問題として、これまで世界の市場で受け入れられた3リッターカーというのは、「皆無」というのが現実だったのだ。

 しかし今や、誰もが知る“世界の量産車”が、そんなフレーズの実現に王手を掛ける。そのモデルの名はフォルクスワーゲン「ゴルフ」。初代モデル以降、数えて7代目となることから自ら「ゴルフ7」を名乗る最新モデルの、シリーズ中で最も燃費に優れた1.6リッター110PSエンジン搭載の「ブルーモーション」仕様では、最新のヨーロッパ複合燃費モード(NEDC)での結果が3.2L/100km。エントリー・グレードでさえも、3.8L/100kmという値を実現したのである。

ガソリンエンジンでも好燃費

 「いや、でもそれらはどちらもディーゼルでしょう!?」と、そんな声も聞こえてきそうだ。

 しかし、新型ゴルフで燃費に優れるのは、決してディーゼル仕様のみというわけではない。ガソリン・モデルはというと、「1リッター当たり100PS」という“高出力”を生み出すラインアップ中で最もパワフルな1.4リッターのターボ付きガソリン・エンジンに、オプションの気筒休止機構を加えた仕様で4.7L/100kmと、こちらも軽く「20km/L超え」のデータを叩き出している。

 ちなみに、前出NEDCのモードは、テスト中の最高速がわずかに80km/hに留まる日本のJC08モードなどとは異なり、それが120km/hにまで達する、欧州の現実に即したもの。これまでのゴルフ6でさえ、1.2もしくは1.4リッターのTSIモデルでは、高速道路を流すと20km/Lというデータが「日常茶飯事」だったが、新型はそんな従来型の燃費性能を確実に上回り、「シリーズを通じての平均値として、13.9%のCO2削減が見込める」と開発担当役員が豪語をするほどの仕上がりなのだ。

 もちろん、そんなコメントが自信をもって発せられる背景には、それを実現させるための数々の技術的な裏づけがあればこそ。そして、世界を代表する量産モデルでもあるゴルフの場合、材料置換などの“高価な技術”は使うことは許されず、「本国ドイツ市場でのスターティング・プライスは、従来型から据え置き!」ということを実現させたのも、開発陣の大きな自慢とされていることを付け加えておこう。

徹底した軽量化

 そうした厳しい条件の中で完成されたゴルフ7での大きなトピックが、まずは「最大で100kg」と紹介をされる大幅な軽量化だ。

 むろん、このモデルでの性能向上が、エアロダイナミクス性能アップなども含めた走行抵抗の低減など、あらゆる点での改良の成果が結集されたのは事実。が、これまで述べて来たような大幅な燃費向上の第一の立役者というのが、これまで増加を続けてきた車両重量が、初代ゴルフの誕生以来38年目にして、初めて低下傾向に転じたというポイントにあるのも間違いない。

 中でも特筆に値するのが、骨格部分のみでも23kgに及ぶというボディの軽量化だ。

 アルミやマグネシウム、カーボンなどといった高価なパーツに頼るのではなく、技術の進歩に伴って可能となった高張力鋼の使用部位拡大や、1つのクロスメンバーの中に11ものゾーンを作れるといった新しい差圧鋼板の採用、一般鋼板の最大6倍もの強度を実現させるホットプレス・パーツの採用拡大など、細かな工夫の積み重ねがそうした結果を生み出している。

 新たなインジェクション工法で生産される樹脂の採用による、ダッシュボードの20%の重量削減、後席バックレストの構造変更による最大7kgのシート重量の削減、新しい構造設計手法によるダッシュ・クロスメンバーの1.4kgの重量削減など、その軽量化へと努力はまさにあらゆる部分に及んでいるのだ。

 ちなみに、今回テストドライブしたモデルが搭載する1.4リッターのTSIエンジンは、シリンダーブロックを鋳鉄からアルミ製へと変更するなど従来型から抜本的な改良を実行。その結果、ここでも実に22kgという大幅な軽量化が実現をしているという。

 一方で、そんなこのエンジンにオプション設定された気筒休止機構は、そのための専用パーツが必要となるために重量増が避けられず。が、バルブ駆動カムの切り替えに簡便なメカニズムを用いたことで、その場合でも上乗せされる重さはわずか3kgに過ぎないという。すなわち、このユニットでも従来比で19kgもの軽量化を実現させたということだ。

クラスを超えた装備の充実ぶり

 そんなゴルフ7のルックスは、ご覧のように「どこから目にしてもゴルフそのもの」というのがまずは第一印象。が、実際にはもちろん“そのすべて”が新しくなっている。

 フォルクスワーゲンが推進する新モジュール戦略「MQB」の採用によって、エンジンの搭載方向を前方排気式から後方排気式へと変更。同時に、搭載レイアウトも前傾から後傾へと変更されたことで、アクスルの位置が従来より43mm前進。デザイナーは「これによってフロント・オーバーハングが減少すると共にノーズ部分が長くなり、“よりプレミアムなブロポーション”が実現できた」とそれを評価する。

 なるほど、ゴルフ7の見た目の質感の高さは、そんなエクステリアはもとよりインテリアのどこを見回しても、もはや全く文句の付けようがない。加えれば、そんな今度のモデルでは、そこに設定をされたさまざまなアイテムも、まさに「クラスを超えた」ものが多数だ。

 中でも、今回特に充実したのが、各種のドライバー支援システム。最初の衝撃後に自動的にブレーキをかけ続け、2次衝突による被害を軽減させる「マルチコリジョン・ブレーキ・システム」の標準採用に始まり、「up!」に採用されて話題の「シティ・エマージェンシー・ブレーキ」、事故に至る危険を検知すると、ウインドーやサンルーフを閉じ、シートベルトを巻き上げる「トゥアレグ」で初採用の「プロアクティブ乗員保護システム」や、カメラで車線を読み取り、ステアリングへの介入を行う「レーンアシスト」などを設定。先行車や対向車への幻惑を防止しつつ、可能な限り遠方を照射する「ダイナミック・ライトアシスト」も、このクラスのモデルとしてはまだ稀有な装備だ。

 電動式のパーキング・ブレーキや、電子制御式の可変減衰力ダンパー「DCC」も、同様に「クラスを超えた」と言える装備。いずれにしても、今度のゴルフのこうした設定は、“ゴルフ・クラス”とも紹介されるこうしたカテゴリーのモデルが検討する装備群のハードルを、一気に引き上げるのは間違いない。

想定を超える静かさ

 地中海に浮かぶイタリア領の島、サルディニアでの国際試乗会でテストドライブを行ったのは、前述のように新開発された140PSの最高出力と250Nmの最大トルクを発生するターボ付きの1.4リッター直噴ガソリン・エンジン搭載モデルと、それを上回る150PSという最高出力と、320Nmという圧倒的に大きな最大トルクを生み出すやはりターボ付きの2リッター直噴ディーゼル・エンジン搭載モデル。

 オプション設定の気筒休止機構を搭載した前者は、日本導入が見込まれる7速のデュアルクラッチトランスミッション「DSG」と、逆に導入は見込み薄の6速MT仕様の双方。また、「日本導入は未定」と注釈の付くディーゼルは、6速DSG仕様でテストドライブを行った。

 まずは、日本市場での“メイン車種”と想定されるガソリンのDSG仕様で走り始めると、その瞬間から衝撃を受けたのは「静けさ」だった。

 従来型ゴルフ6でも、静粛性はむしろその後にデビューの周辺ライバルたちを上回っていたもの。それを叩き台として開発される新型が、そんな従来型を上回る静粛性を実現させることは、当然“想定内”であったとは言える。

 しかし、実際にはその“飛び幅”は「想定を超えるもの」だったのだ。今度のゴルフではもはや、前後席間での“ヒソヒソ話し”も無理なくできてしまうほど。例の気筒休止機構が作動をすると、メーター内に2気筒運転中の表示が現れると同時に、それまでにはなかった低周波音がわずかに加わる。が、それも予め「そんな機構が付いている」ことを知ったうえで、「注意深く耳を傾けていれば何とか認識ができる」、と、その程度のものに過ぎない。

 いずれにしても、このモデルで感じた静粛性の高さは、もはや驚愕のレベル以外の何ものでもない。これもまた、新たな“ゴルフ・クラス”の基準として、これから世に出るライバル車の開発陣を大いに驚かせ、そして苦しめることになるだろう。

 フットワーク・テイストは路面を問わずしなやか。ここでも、「クラスを超えた」という印象が再現された。ただし、ここにはテスト車が、オプション設定の可変減衰力ダンパーDCCを装着していたことは考慮の必要はあるだろう。

 実は、今回乗った3車にはすべてこのアイテムが採用され、“素の仕様”には乗れていない。また、ゴルフ7には2種類の異なったリアサスペンションが設定され、「90kW以上の出力を発するエンジンには、よりポテンシャルの高い『モジュラー・パフォーマンス・サスペンション』、それ以下の出力のエンジン車には、より軽量な『モジュラー・ライトウエイト・サスペンション』を採用」と使い分けが行われている。

 ガソリン・エンジン車の場合、1.4TSI車は前者を適用で、1.2TSI車は後者を適用という分類。ただし今回は1.4リッターの、それもオプションのDCC付き車のみしかチェックできていないので、よりベーシックな仕様がどのようなフットワークを実現させているかは、大いに気になるポイントだ。

 それでも、荒れた路面を走行した際の不快なキックバックの遮断などを含めると、「もはやオーソドックスな油圧式は超えたな」と思わせる電動式パワーステアリングが伝えるフィーリングや、例の大幅軽量化が効いたと思われる全般により軽快になった身のこなしなど、基本的な走りが好印象であったのは間違いナシ。もちろん、そうしたフットワーク・テイストの好印象は、まずは高い剛性感をしっかりと味わわせてくれた新しいボディがあってのことであるのは言うまでもない。

1.4TSIのDSGが圧倒的にオススメ

 今回のテストドライブでは、同じ新開発のガソリン・エンジンを搭載しながら、実はDSG仕様の方が明快に動力性能の印象がよかった事実も付け加えておきたい。

 先進のダウンサイジング・ユニットとして知られるTSIエンジンは、しかし実は“スイートスポット”を外すと急激に精彩を欠いてしまう傾向がある。具体的にはこの新しい1.4リッターターボエンジンの場合、「1500rpm付近から下ではトルク感が弱く、逆に5000rpm付近から上のパワーにも欠ける」という具合だ。

 それゆえ、MT仕様では的確なシフト操作をサボッてそうしたゾーンに入ってしまうと、走りの力感は突然に、しかも大きくダウンをしてしまうのだ。このエンジンとMTという組み合わせの場合、小気味よく走らせるためには意外にも“マメ”なシフト操作が必要になるということだ。

 一方で、当然ながら頻繁なシフトを物ともせず、しかもMTよりも多段化されているため各ギア間のステップ比が小さいDSGであれば、そうしたゾーンは巧みに自動回避をして、“おいしい部分”のみを効率よく引き出すことができる。率直なところ、MTがもたらすドライビングの楽しさは十分に理解をしているつもりでも、ことこのモデルに限っては「DSGの方が圧倒的にオススメ」と実感した。すなわち、日本仕様がDSGに限られるのは、結果として大成功と言える。

 前述のように、今回はディーゼル・モデルもテストドライブできたが、結論からすればその動力性能もまた、やはり「1.4TSIのDSG車には及ばない」というのが個人的な印象となった。

 確かに、320Nmという自然吸気の3リッター・ガソリンエンジンにも匹敵する大トルクは圧倒的で、それゆえ“ツボ”にはまった時のこのモデルの加速のパンチ感には目を見張るものがある。

 しかし、逆にそれだけに、そこを外した場合に感じる“落差”は小さくない。

 同じDSGでも、ガソリン・モデルが7速仕様を用いるのにこちらは6速で、その分シフト時のエンジン回転数が大きく変動してしまうといった事情や、こちらの最大トルク値を発するエンジン回転数が1750rpmからであるので対しガソリン・ユニットでは1500rpmからと、むしろ低回転域の粘りでもガソリン・ユニットの方が優れるといった理由も小さくないはず。ゴルフ7の特長である静粛性の高さも、比べればやはりガソリン・モデルの方が有利という印象を受けることになった。

 いずれにしても、今回乗った3車の中では、1.4TSIのDSGの印象が抜きん出ていたのだ。このモデルに乗れば、「今度のゴルフはこんなによくなったのか!」と、従来型のユーザーも誰もが即座にそう納得するに違いない。

エモーショナルではないのがキャラクター

 それでは、そんなゴルフ7に“死角”は存在しないのか? 確かに、すでに申し分のない完成度に達していた従来型をベースにその美点に大きく磨きを掛けたというモデルだけに、文句のつけどころなどすこぶる少ないのは確かだ。

 ただし、それでも気になる部分が皆無であったというわけではない。個人的には、その最たるものとして感じられたのは、「エンジンブレーキがほとんど利かないこと」だった。

 世界の市場で、燃費の向上こそがトッププライオリティと位置付けられる今の時代、エンジンブレーキに逆風が吹いているのは間違いない。一度高まった速度はなるべくそれをキープしたままに、アクセルをOFFにできるタイミングを可能な限り早めて「惰性で転がして行く」ことで燃費を向上させる、というのが世界の潮流となりつつあるからだ。

 実際、ゴルフ7でもDSG車の場合には「エコ」モードを選択すると、アクセルOFFとともにエンジンとトランスミッション間のクラッチが切り離されて、そこから先はアイドリング状態のまま惰性で走行を続けるいゆわる“コースティング”の機能が盛り込まれた。

 そんなメカニズムが作動をすれば、「エンジンブレーキが利かない」のは当然。しかしゴルフ7の場合、そんなモードを選ばなくても異様と思えるほどに「エンジンブレーキ力は微々たるものに過ぎない」のだ。

 実は、例えエンジンブレーキ力に上乗せが欲しいと、パドルを操作してダウンシフトを行っても、エンジン回転数が高まるのみでそこではやはりさしたる減速感は得られない。ハッキリ言えば、クルージング中の前車との車間を調整したい場合には、もはや躊躇わずにブレーキを踏むしかないのだ。これは、少なくとも「ブレーキランプは頻繁に点滅させたくない」と考える自身にとって、余り嬉しい状況とは言えない。

 実は、前述のようにMT仕様でのフィーリングを余り好ましく思えなかったのには、「アクセルOFFでもエンジン回転の下がり方がすこぶる緩慢」という点にも一因があった。見方を変えれば、それは新しいエンジンがいかに小さな抵抗で回っているかの証とも言えるのかも知れないが、恐らくそんなフィーリングは、少なくとも“スポーツ派のドライバー”が好むキャラクターからは、ハッキリと一線を画したものであると思う。

 さまざまなポイントで実用車としては文句ナシの仕上がりを示すゴルフ7。が、それがいわゆる“ドライビング・プレジャー”に長けたものか? と問われると、そこでは素直にYESとは言えない引っ掛かり感が残るのだ。端的に言えば「よくできてはいるが、エモーショナルな走りの味わいを享受させてくれる存在とは言えない」というのがまた、ゴルフ7というモデルのキャラクターでもあるということだ。

(河村康彦)