インプレッション

マツダ「プレマシー」

スカイアクティブとは何ぞや?

 2010年7月に登場したマツダ「プレマシー」が、1月にマイナーチェンジした。今回のトピックはスカイアクティブが搭載されたということだ。スカイアクティブ搭載車は今では広がりをみせ、TV-CMなどでも盛んに宣伝が行われている。だが、スカイアクティブとは一体何なのだろうと疑問に思っている人も多いことだろう。

 そもそも、スカイアクティブとは電気自動車(EV)でもなければハイブリッド(HV)カーでもなく、もちろん新たな便利グッズでもない。実は内燃機関、トランスミッション、ボディー、シャシー、そしてタイヤに至るまで、すべての領域に対して高効率を求めることで環境性能を高めようという技術、それがスカイアクティブである。

 まず、ガソリンエンジンについてはハイブリッド化や過給機などを使うわけではなく、自然吸気エンジンを高圧縮化することで高燃費を達成した。ATはロックアップ率を高めることでMT並のダイレクトさを実現し、スリップロスを低減することで無駄を省いている。また、ボディーやサスペンションに関しては新たなる思想を取り込み、ハイグリップが見込めないエコタイヤであってもきちんと走れるようにセットアップを行っている。こうした取り組みを行うコンセプトが、スカイアクティブ搭載車というわけだ。

撮影車両は20S-SKYACTIV L Package(ラディアントエボニーマイカ)の17インチタイヤ装着車。ボディーサイズは4585×1750×1615mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2750mm。乗車定員は7名
20S-SKYACTIV L Packageのインテリア。室内サイズは2565×1490×1240mm(室内長×室内幅×室内高)

欧州車に習った足まわりの味付け

 実は現行プレマシーが登場した時、ボディーやサスペンションに関してはこの思想が取り込まれていた。マツダのシャシー開発陣はプレマシーを開発する際、まずタイヤのグリップに依存せずに素晴らしい走りを展開していた、かつてのメルセデス・ベンツ(W124)やルノー・キャトルなどを徹底的に解析したのだとか。そこで見えてきたことは、フロントタイヤの内輪を浮かさずに外輪を沈ませ、しっかりと接地&応答させること。そして、その際リアはフロントに対してロールしないようにすることがポイントだと悟ったと言う。このセッティングが、プレマシーにはそもそも与えられていたのだ。

 発売当時、スカイアクティブというコンセプトが表に出ることはなかったが、実はこのセッティングが行われたプレマシーの走りは、かなり好感触だった。とても7人乗りとは思えぬ走りを展開し、ワインディングをサラリと駆け抜けたことにとにかく感心した。そのセッティングは今回のマイナーチェンジでも変わらない。マイナーチェンジで15インチ仕様の燃費優先モデルが登場したが、タイヤのグリップに依存しないという当初のコンセプトがあったこともあり、変更する必要がなかったというのが本当のところのようだ。

20S-SKYACTIV L Packageのパワートレーンは、直列4気筒 DOHC 2.0リッター直噴エンジン(SKYACTIV-G 2.0)に6速AT(SKYACTIV-DRIVE)の組み合わせ。エンジンの最高出力は111kW(151PS)/6000rpm、最大トルクは190Nm(19.4kgm)/4100rpm

 今回のマイナーチェンジでもっとも大きな変更を受けたのは、エンジンとトランスミッションである。エンジンは「SKYACTIV-G 2.0」と呼ばれる高効率の直列4気筒 DOHC 2.0リッター直噴ガソリンエンジンに変更された。これにロックアップ率を高めた「SKYACTIV-DRIVE」と呼ばれる6速ATが組み合わされている。これにより、JC08モード燃費はかつての14.0km/Lから16.2km/L(15インチ装着車)へと向上。2リッタークラスのミニバンとしてはトップの低燃費を実現している。

 ちなみにこの数値は、何故かプレマシーと購入比較する人が多いというホンダ「フリード」と同等の燃費。2リッタークラスでいざとなれば力強い動力性能が得られ、さらには広々とした室内空間をはじめとするゆとりを得ながら、出費は1.5リッターエンジン並みというのは嬉しいところだ。

 内外装の変更については最小限に留められたという印象。外装ではエクステリアカラーのバリエーション変更、フロントグリルガーニッシュの色調変更、そして高輝度アルミホイールが加わったくらい。室内はピアノブラックパネルが上級モデルに追加されたほか、スカイアクティブ専用のメーターが備わっている。

 このメーターはインテリジェント・ドライブ・マスター(i-DM)と呼ばれ、エコドライブへ向けたコーチング機能とティーチング機能が備わっている。まず、コーチング機能はアクセルやブレーキ操作をリアルタイムに判定。エコで優しい運転ができるとグリーンに点灯する便利な機能だ。なめらかで的確な運転をするとブルーになる。一方、急加速や急ブレーキ、急なステアリング操作などで体が揺れる運転だとホワイトに変化することから、これに従ってドライブすれば無理なくエコドライブができるようになる。運転終了後にはその日の運転を点数で示してくれることから、ゲーム的に楽しむこともできる。エコドライブを少しでも浸透させようという努力がこのi-DMには詰まっている。

外観は変わらずとも中身は進化

 今回の試乗会では、珍しく新旧のモデルが並べられ、比較することを許された。この手法、実はとても珍しいことで、よほどの自信がなければできることではないと思う。せっかくなので徹底的に比較をしてみることにする。

15インチタイヤを装着する20S-SKYACTIV(ジールレッドマイカ)

 まずはエクステリアを見比べてみると、どこがどう変化したのかさえ一見して判断することは難しい。つまり、それほど内外装の変更は少ないのだ。中身を磨き上げたのだから着飾る必要がないという自信の表れなのだろう。

 まず旧型の走りがどうだったのかを確認するために試乗を開始。そこで感じたことは、このクルマも充分にまだまだ魅力的だということだった。低速からのトルクはきちんとしているし、要求すればしっかり加速してくれる。燃費に関しては劣るのだろうが、デメリットはそれくらい? なんて思えてくる。拘りまくって完成させたシャシーの仕上がりは相変わらずで、ミニバンであることを意識しない仕上がり。これは十分にドライバーズカーだ。

 だが、新型に乗り換えてみると、旧型に対する思いは吹き飛んでしまった。それは街乗りの段階からとにかく応答よくツキのよいパワーユニットが存在したからだ。低速からアクセルの要求どおりに立ち上がり、まるでMTかのようなダイレクト感を生むテイストは、やはりスカイアクティブならではの世界。ごく低速域でロックアップを開始し、今までよりも低回転できちんとトルクを発生させるエンジンを自由自在に操れるのだ。この感覚を知ってしまうと、旧型は明らかにパワーがスリップしている感覚があり、ダイレクト感が乏しかったと判断できる。だから無駄にアクセルを踏んでしまったりするシーンが生まれ、結果的に燃費も出にくかったのだろう。

 ただし、減速側に関しては旧型のほうがスムーズな面があった。聞くところによれば、これはロックアップを極低速まで行うことで排ガスをクリーンにしようとしているためなのだとか。重箱の隅を突くレベルの話ではあるが、ここがスムーズになれば完璧ではないかと考える。今後の進化に期待していたいところだ。

 シャシーに関しては15インチにダウンされたことがどう出るかと心配していたが、タイヤのグリップに依存しないセッティングのおかげで、高速ワインディングでもしっかりと曲がってくれることを確認。15インチ化でエアボリュームが増えたことで、ダンピングがやや良好になった感覚もある。エコを追及したからネガが出る、なんてことは一切ないと思えたところに、スカイアクティブの本気度が伺える。

 プレマシーが行った今回のスカイアクティブ化は、スカイアクティブという考え方がいかに我慢を強いることなくエコ性能を追求したかを感じさせてくれる絶好の機会だった。クルマの全域を磨き上げればエコだって走りだって満足できるものが造れる。スカイアクティブとはそういう技術であることを教えられたような気がした。

【お詫びと訂正】記事初出時、「インテリジェント・ドライブ・マスター(i-DM)」のインジケータ表示の説明に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。