インプレッション
クライスラー「グランドチェロキー」
Text by松田秀士(2013/11/19 11:48)
日本国内販売が開始された1993年から、「グランドチェロキー」は2万3562台を販売してきた。世界的にジープブランドの販売は好調で、2012年は欧州で28%増、日本市場では58%増と躍進している。2013年度はさらなる更新が予想されているのだ。
そのジープブランドのフラグシップモデルであるグランドチェロキーがマイナーチェンジされ、2014年モデルは内外装やトランスミッションなどが大幅に進化。マイナーチェンジと言うと普通は内外装のリフレッシュぐらいだが、今回のマイナーチェンジはかなり深い。
4グレード展開の新型グランドチェロキー
では日本国内に導入されるグレード展開を説明しよう。グレードは全部で4種類。Laredo(ラレード)、Limited(リミテッド)、Summit(サミット)、SRT8だ。
Laredoはエントリーモデル。そしてレザーシートやエアサスペンション等を装備する上級モデルがLimited。この2グレードにはV型6気筒DOHC 3604ccエンジンを採用している。さらに最上級グレードのSummitにはV型8気筒OHV 5654cc。そして最上級スポーツのSRT8にはV型8気筒OHV 6416ccエンジンが搭載される。以上4グレードのラインアップすべてに、エコモードを設定したZF製の8速ATが導入されたのだ。ここが新しい。
ただし、SummitとSRT8は12月以降の日本国内リリースとなるので、今回の試乗はV6 3.6リッターエンジンのLaredoとLimitedの2グレードということになる。
試乗会場は、中央自動車道 相模湖IC(インターチェンジ)からさらに山奥に入っていったキャンプ場で、オフローダーのテストドライブには絶好のステージ。しかし、近年のSUVはオンロードの走破性がもっとも重要であることは言うまでもない。ただ、本分である悪路走破性が高くなくてはSUVとしてのブランディングが成り立たない。この時代のSUVはその実力を使う場がなかったとしても、ホンモノの実力と装備を持っていることが重要。実はFFなんです、と言うような「なーんちゃってSUV」とは一線を画しているのだ。
会場であるキャンプ場内には特設コースが設営されていた。写真を見ていだければ分かると思うが、45度の傾斜がついた壁のようなコース、さらには対角線上だけの2輪で交互に走破するコース等がある。今回新しくなった8速ATとのコラボによる4WDの性能をしっかり認識するためなのだ。また本国からはアジア太平洋地区ビークルエンジニアリング・ディレクターのジョン・ボンザック氏が来日してニューモデルの紹介を行うという力のこもった試乗会である。
余談だが、試乗会後の連休には試乗会場となったキャンプ場でオーナーイベント「Jeep Real Festival 2013」が開催された。ユーザーを大切にする企業姿勢が垣間見え、Jeepのブランディングが成功している裏にはこのような企業努力があるのだと理解する。
マイナーチェンジの内容
さて、本題に入ろう。まず、エクステリアデザインはグランドチェロキー伝統の7スロットグリルと呼ばれる縦長スリットの丈を短くし、ヘッドランプユニットをコンパクト化したことで全体にスリムな上付きのアクセントとなった。これによってバンパー下が伸びた印象になっていて、その分アンダーカットすることでアプローチアングルが増大している。アプローチアングルはエアサスペンション装備モデルでは35.8°、スタンダードサスペンションでは31.3°。デパーチャーアングルはエアサス29.6°、スタンダード26.1°だ。斜面の頂上を乗り越える際の目安となるランプブレークオーバーアングルは、エアサス23.5°、スタンダード19.0°となっている。
また、バイキセノンヘッドライトとLEDクリアランスランプが全グレードに標準装備される。大型テールランプもLED化され、リアスポイラーも大きくなり空力と燃費改善に寄与しているのだ。さらに、Laredoを除く全グレードにデュアルエクゾーストが採用されていて、クローム処理されたマフラーカッターがアクセントになっている。
インテリアでは8.4インチのタッチ式ディスプレイがセンターダッシュに配置されて、オーディオやエアコンなどのコントロールスイッチがその下に集約され使い勝手も向上した。このディスプレイは「Uconnect」と言って、音声コマンドによるエアコンの操作や接続された端末からのメールの送受信や読み上げも行えるものだ。「運転席温度22℃」と発声すれば設定してくれる便利モノ。また、運転席正面の計器盤は「マルチクラスターディスプレイ」と呼ばれる7インチディスプレイを採用し、表示方法(デザイン)を複数のレイアウトや情報から選択して表示させることができる。シートはサイズ的に日本人にもちょうどよい大きさ。Limited以上のグレードには前後席シートヒーターと前席にはベンチレート機能がプラスされている。
静粛性が高く、走りは快適そのもの
では、まずLimitedに試乗しよう。265/60の18インチタイヤはSUVらしいエアボリュームで迫力がある。さらに上級モデルのSummitとSRT8には20インチタイヤが装備される予定だ。
走り出して感動するのはとても静かなこと。SUVと言うよりは高級サルーンの乗り心地と言ってもよい。2915mmのロングホイールベースで後席も快適。リアシートの背もたれは前後12°のリクライニングが可能だ。リアドアの開放角は78°まで拡大され、Limitedには5段階で車高を調整するエアサスペンションが装備されていて、低くすることで乗降性も高くなる。そのエアサスペンションだがノーマルの車高を基準に高くなる方向に2種類ある。MAXで66mm高くなり、その次が33mm車高を上げることができる。下げる方向には「エアロモード」と言って約90km/h以上で13mm下げることが可能だ。そしてパークモードでは38mmも下げられるのだ。つまり、このパークモードが乗降時の利便性に一役買っている。
路面が舗装路であればその走りは快適そのもの。ボディーはタイヤから伝わる振動をいつまでも保有せずに瞬間的に処理する。つまり、「ブルン」「ビビビ」などといった余韻を引きずらない。つまり、それだけボディーの作りがしっかりしているということだ。LaredoとLimitedで市街地レベルの速度域ではハンドリングやコーナーリングに大きな差は感じられず、特に室内の音振に関しては大差ないと感じた。ただ、舗装路でも老朽化したような路面では、やはりLimitedのエアサスは路面への追従性がよく乗り心地もベターだ。また、この速度域で差が出るのはダートや岩場などの不整地路面だろう。
ただし、今回設営されていたトライアルコースでは大きな差は感じられなかった。つまり、ノーマルサスペンションのLaredoでもそこそこのオフロード性能を確保している。差が出るとすれば車高を高くしないと通過できないようなシチュエーションだろう。ただ、よほどのサバイバルでもない限りそのような道路を走ることはない。つまり、普通に走るオフロードではこの2車の差はイーブンだ。他に差があるとすればLimitedのエアサスは90km/h以上の速度で「エアロライドハイト」、つまり13mm車高が下がるので安定性と空気抵抗の軽減による燃費向上が期待される点だ。
また、この後に登場するSummitとSRT8にはエレクトロニック・リミテッドスリップデフを採用した「クォドラドライブⅡ」が搭載され、トラクションをキープするホイールに最大100%の駆動を配分できるので、よりロスの少ないオフロード性能を発揮するはずだ。
オフロード性能に関してはもう1つ「4WD LAWモード」がある。これはファイナルのギヤ比が上がるのでより駆動力を強めることができ、登坂路やぬかるみ路等で威力を発揮する。さらに走行する路面に合わせてSAND(砂)、MUD(泥)、ROCK(岩)、SNOW(雪)そしてAUTOの5パターンの走行モードが用意されている。エアサス装備車はこれに連動して車高を自動調整。今回の疑似オフロードコースではAUTOモードでもまったく問題なく走破することができた。
2014年モデルのグランドチェロキーは走りがとても静かになった。ロードノイズ、エンジンを含むメカニカルノイズ、風切り音。すべてがとても静か。それゆえオーディオの音質が素晴らしく聞こえる。Laredoにはベースとなる8スピーカーのオーディオが装着されているのだが、それでも十分な音質。Limitedにはアルパイン製の9スピーカー+サブウーハーが装備されている。さらにSummitにはHarman Kardon製の18スピーカー+サブウーハーが採用される。その音質は楽しみである。
より進化したグランドチェロキー。アメリカ版プレミアムSUVの真髄を改めて見せつけられた試乗会だった。