インプレッション
トヨタ「クラウン マジェスタ」
Text by 岡本幸一郎(2013/11/20 00:00)
運転して楽しいマジェスタになったのが第一印象
トップ・オブ・クラウン、そしてトヨタブランドのフラグシップモデル。マジェスタはそうした使命を与えられたクルマだ。ところが、クラウンがあれば十分とか、レクサスのLSやGSがあるのに、はたしてマジェスタが必要なのかという声もある。マジェスタはあまり売れていないという話を過去たびたび耳にしたのも事実だ。
しかし、トップ・オブ・クラウンにしてトヨタブランドのフラグシップとなるクルマの市場規模というのは、たとえそれがどんなに完成度が高かったとしても、あまり売れていないぐらいでいいのだろうと思っていた。
筆者としては「多くは期待しないものの、マジェスタの存在を否定するほどでもない」という気持ちだったが、1つ前のモデルになる5代目マジェスタにはいささかがっかりした。そもそも見た目があっさりしすぎていて、以前のような“マジェスタとしての重み”が感じられなかったところから始まり、乗ってもピンとこなかった。最初は路面からの入力を感じさせない味付けに「これはすごい」と喜んだのもつかの間、しばらく走っていると、それほど荒れていない路面にもかかわらず縦に横にと振動を繰り返す乗り心地は、まったく快適ではないと感じた。それもマジェスタで前席より肝心なはずの後席がだ。
手応えがまったくないステアリングにも閉口した。接地感に欠ける足まわりと合わせて、クルマを走らせるという感覚が極めて乏しい味付けには、いくら高級セダンとはいえ少々疑問に感じたものだ。ただし、ウルトラスムーズなエンジンと静粛性の高さは、さすがマジェスタというものがあった。
今度はどうなるのかと、期待と危惧が半々の気持ちで新型に乗った第一印象は、ひとことで表現すると「運転して楽しいマジェスタ」になっていた。プラットフォームはクラウンのストレッチ版であり、つまり新規となったレクサスのGSやISとは異なるものだが、ベースのクラウンも従来型よりずいぶんよくなっていたのは確認済み。
そしてクラウンの中におけるマジェスタの位置づけは、キャラクターから考えるとロイヤルの上にあるような気がするところだが、実際にはアスリートまで含めたクラウン全体のトップとなる。つまり乗り心地はもちろん、走行性能も大いに意識したモデルということだ。そのため、ダンパーや可変ステアリングなどはアスリートの3.5リッターモデルのものを用いている。
ドライブを始めてすぐ、従来型とはだいぶ違う方向性で造られたクルマであることが分かった。従来型と比べてステアリングフィールがしっかりしており、ドライバーの操作に対してあまり遅れることなく応答する感覚はまったく異質のもの。ホイールベースが伸ばされたこともあり、クラウンと比べると動きは穏やかだ。
5代目では揺れ始めるとなかなか収まらなかった足まわりは、快適な乗り心地を確保すべくよく動きながらも、瞬時に振動が収束する引き締まった味付けとなっている。従来型のマジェスタに見受けられたような不規則な動きを繰り返すようなことはない。ノーマルモードがその状態で、そこからスポーツモードは分かりやすく差別化されている。エンジンレスポンスや足まわりの硬さ、ステアリングの手応えが変化する。ノーマルモードのバランスがよいからこそ、ちょっとクセのある印象のスポーツモードがより活きてくるし、高速巡航はフラット感の高いスポーツモードのほうが快適だ。
分かりやすい高級感のある内外装
そして新型マジェスタは、見た目もなかなかよいなと素直に感じた。マジェスタ伝統の縦バーを用いたフロントグリルは華やかな印象で、精悍なヘッドライトとの組み合わせでクラウンの頂点にふさわしい威厳と高級感があるフロントマスクを構築している。アスリートはさておき、形状的にイメージが近いロイヤルと比べて明快な格上感がある。
75mm延長されたホイールベースによる伸びやかなサイドビューは、ボトムに配されたクローム加飾がさらにそれを引き立てているし、ホイールのデザインにも高級感がある。また、個人的にはマジェスタのような性格のクルマに赤いボディーカラーが設定されたことにも注目している。
インテリアも分かりやすい豪華さがあり、専用の木目調パネルやトップスキンレザーなどが赴きある質感を醸し出している。後席に座ると75mm拡大されたホイールベースの恩恵を実感する。かなり広々としていてクラウンとは段違い。木目調パネルを前席シートバックの背面に配し、後席乗員に対して高級感を演出しているのもクラウンとの違いだ。
後席の装備は、言うまでもなく後席重視の“Fバージョン”のほうが圧倒的によい。エアコンの仕様やサンシェードの有無も異なり、なかでも背もたれをリクライニングできるかどうかというのが大きな違い。後席にVIPを乗せるなら、迷わず“Fバージョン”を選ぶべきだろう。“Fバージョン”では標準装備のレザーシートだけでなくファブリックシートも選べるが、ファブリックの風合いもなかなか良好で捨てたものではない。また、ハイブリッド専用車ながらトランクはゴルフバッグが4つ積めるという広さがある。
価格は、従来型ではスターティングプライスが612万円で上は792万円とかなり大きな幅があったが、新型は基本的にシンプルなラインアップ。標準車が610万円とわずかに下がり、60万円高の“Fバージョン”はオプションというイメージで設定されている。60万円という価格差は内容の充実ぶりを考えると十分に見合うもので、むしろ買い得感を覚えるほどだ。
3.5リッターV6+モーターのみを設定
パワートレーンはレクサス GS450hと同じ3.5リッターV6+モーターのみ。もともとV8エンジンがメインで、4代目と5代目ではV8のみとしていたマジェスタながら、今回の6代目では開発の初期段階で早々にV8が選択肢から外されたらしく、ついにV6のハイブリッド専用車となった。
旧来からのマジェスタユーザーの反応が気になるところだが、全体の7割が法人ユーザーというマジェスタの場合、このセグメントでは望外の18.2km/LというJC08モード燃費やハイブリッドカーの好イメージが効いて、むしろ今のところ大いに歓迎という雰囲気らしい。また、これまで歴代モデルに4WD車を設定していたのもマジェスタの特徴だが、ハイブリッド専用車の6代目は2WD(FR)のみとなった。ただし、降雪地のユーザーから要望はあるとのことで、今後4WD車が追加される可能性は否定できないようだ。
V8の有無はさておき、V6+モーターのハイブリッドがマジェスタに用意されたことで、クラウンのハイブリッドが直4+モーターのみの設定とされたことにも合点がいく。
そんなことから、乗り味を従来モデルのV8搭載車と比較してもあまり意味がなく、むしろGS450hやクラウン ハイブリッドとの違いが気になるところ。率直に6代目マジェスタに乗ってどう感じたかを述べると、さすがに2.5リッター直4+モーターのクラウン ハイブリッドより力がある。静粛性に優れる車中でわずかに聞こえてくるエンジンの音質も、V6らしい上級感がある。軽いアクセルの踏み込みでもグッと前に進もうとする加速の感覚は、クラウンをはるかに上まわる力強さ。それでいて頻繁にEV走行モードになるのはクラウンと同じだ。エコモードにしても加速感の落ち込みが小さいところもよい。ただ、いずれにしてもタコメーターがないのは惜しい。
GS450hに対してはエンジンとモーターの制御が若干異なるようで、印象としてはややおとなしめに感じられた。また、GS450hではサウンドジェネレーターを用いて走りを演出していたが、マジェスタでは究極的な静粛性を実現するためにエンジンマウントを新設したほか、プロペラシャフト径の拡大、吸気の工夫、インシュレーターの容量アップ、リアドアガラスの板厚増などを実施。車内の会話明瞭度を極限まで高めたという。たしかにこの静かさは驚きのレベルだ。
冒頭で紹介した話に戻るが、マジェスタの市場規模というのはこのように完成度が高くても、あるいは仮に低かったとしてもそれほど変動しないのかもしれない。しかし、この最新版のマジェスタを手に入れたユーザーは、歴代モデルを愛用し、つき合いが深い人ほど非常に洗練された仕上がりであることを思い知らされるだろう。