インプレッション

マツダ「アクセラ ハイブリッド/ディーゼル プロトタイプ」

トヨタと同じでも全然違うハイブリッド

 アテンザのときもバリエーションが多すぎて選ぶのに悩むという声が少なくなかったそうだが、アクセラはさらに多く、マツダ初のハイブリッドが設定されることも大きな特徴だ。そのハイブリッドとディーゼルを含めたプロトタイプの試乗会が、ガソリンのみが用意された箱根に続いて伊豆で開催された。発売前に2度も試乗会が行われるのは異例のことだ。

 2010年にトヨタとマツダのハイブリッドに関する提携が伝えられたが、今回のアクセラはその成果が初めて世に出る車両ということになる。システムを大まかに説明すると、ハイブリッドのために専用化したスカイアクティブGの2.0リッター版ガソリンエンジンに、プリウスなどと基本的に同じ「THS」を組み合わせて構成されている。トヨタと共通のサプライヤーから部品の供給を受けるが、制御についてはマツダが独自に開発しているという。

 ここで気になるのは「THSをベースに使って、マツダが訴求する走りをどこまで実現できるのか」ということだ。THSが燃費に優れることはすでに実績から重々承知している。しかし、これまでドライブしたTHSの印象からすると、言いたいことはいろいろある。ひと言で表現すれば、ペダルワークに対するリニアリティがあまりに乏しいように感じていた。そこから劇的に変わることなど、あまり期待できないと思っていたのだ。

 ところが、いざドライブして恐れ入った。マツダの開発陣から聞いた「材料は同じでも、料理する人が異なれば違った味になる」との言葉どおり、走り始めてすぐにTHSとは違うことが分かった。どんなふうに運転しても反応があまり変わらない、THS特有のもっさりした感覚が薄れて、かなりリニアになっている。アクセルの踏み方を変えると、そのとおりに加速の仕方が変化する。それでいて、ハーフスロットルの領域では、モーターのトルクを活かして力強く引っ張ってくれるTHSの強みはそのまま受け継いでいる。

 アクセルを全開にすると、少しタイムラグがあってから強い加速体勢に入るあたりはさすがにこのシステムの宿命のようで、ガソリンほどの俊敏な吹け上がりは期待できないものの、日常的に使う領域ではいたってリニアなドライブフィールに仕上がっていて感心させられた。むしろ、トヨタの開発者もこの味付けを参考にすべきと思ったほどだ。

 走行モードにエコモードやスポーツモードといった調整機能はなく、ベストにセッティングした標準モードのみにした点にも大いに共感を覚える。少しぐらいセッティング変更できたほうが営業的には都合がよいのかもしれないが、本来「ベスト」というのは1つしかないもので、それがこのようにリニアに仕上がっていれば文句はない。

 ブレーキについては、油圧の部分はマツダで、回生発電が関係する部分はTHSの機構を譲り受けている。多少の違和感は残るものの、コントロール性はまずまずだ。エンジン停止~再始動での音や振動も小さく抑えられている。注意深くしていると再始動したことは感じ取れるが、停止はほぼ体感できない。

 車両重量はガソリン車に対して約120kg増となり、ドライブしても若干の重さを感じたが、リアアクスル上にバッテリーを搭載したことによって後軸重が増加し、相対的に前後重量配分が均等に近づいた影響があるのか、乗り心地のフラット感が増したように感じられた。ワインディングでは、重量物であるバッテリーをリアに積んだ影響で、後輪の内輪が大きく浮き上がるような挙動が出るのではと予想したがそんなこともなく、適度にロールしながら意図したラインを正確にトレースしていくことができた。

 欲を言うとバドルシフトがないのが惜しい。せっかくリニアなフィーリングに仕上がっているからこそ、より積極的にそれを引き出せるパドルシフトが欲しいところだ。また、ハイブリッド以外はオルガン式のアクセルペダルを採用しているのに対し、事情によりハイブリッドのペダルだけは吊り下げ式となっている。明確なデメリットこそ感じなかったものの、残念に感じる部分ではある。

より洗練されたディーゼルの走り

 ハイブリッドはセダンだけに設定、逆にディーゼルはハッチバックのみとなっている。外見上の相違点としては、ディーゼルはフロントグリルのシグネチャー上部が赤塗装となるほか、リアバンパー下部をピアノブラックに塗装、18インチ仕様のホイールも高輝度塗装となっており、ディーゼルは上級モデルとして位置づけられていることが分かる。

 基本的にCX-5やアテンザと同じエンジンは、5500rpmまでスムーズに吹け上がる、相変わらず回して楽しいディーゼルだ。低回転域から力強く、アクセルを踏み込むとブーストがかかってグンとトルクが増していく。動力性能はかなり強力で、アクセルオン後に一瞬だけホイールスピンしてからトラクションコントロールが作動する。完全に抑え込むのではなく、これぐらいのほうが“いかにもパワフルなクルマに乗っている”と感じられてよいと思う。また、従来とは仕様をわずかに変えたとのことで、実際にも全体的により滑らかな回転フィールになったように感じられた。

 ディーゼルのミッションは6速ATと6速MTが設定されており、ATはMT同等とまでは言わないが、ロックアップ領域の広くてダイレクト感がある。一方で、ギア比はMTのほうがワイドで高速巡航向けなのだが、MTの試乗車がやけに調子がよかった影響もあり、ATよりもかなり速く感じられた。また、MTでゼロ発進するときに、アテンザのディーゼルで感じた最初のひと転がりでトルクがついてこない感覚がなくなっている。

 今回は修善寺サイクルスポーツセンターのコースを、タイヤからスキール音を鳴らさない程度のペースで走ることが許されたのだが、ガソリンよりも100kgほど車重が重いディーゼルは、適度に重量感が加わったことでよりしっとりした乗り味になっている。ディーゼルの試乗車のタイヤは、AT/MTともにダンロップの「SPスポーツマックス」が装着されており、限界が高く、車両とのマッチングもよかった。試乗時は悪天候でヘビーウェットだったのだが、4輪がしなやかに路面を捉えていることを常に実感しながらドライブできたので、恐怖感を覚えることはなかった。

 微小舵を与えたときの反応が正確で応答遅れもなく、切り返しても発散気味になることなく前後が一体としてついてくるので、ほとんど修正舵を必要としない。このあたりはほかのパワートレーンを積むアクセラも同じ傾向だが、ディーゼルの仕上がりのよさが引き立って感じられた。

ハイブリッド/ディーゼルの試乗車に加え、会場には東京モーターショーに出品された「Mazda3 SKYACTIV-CNGコンセプト」が置かれ、撮影が可能となっていた
トランク内に75Lの容量を持つCNGタンクを設置。シフトパネル前方にガソリン/CNGの切り替えスイッチが用意されている

やはり軽快な1.5リッターガソリン

 以前、箱根でも試乗しているが、ガソリン仕様の2.0リッター 6速MTをコース内で、1.5リッターの6速ATと6速MTを公道で再チェックした。1.5リッター車はやはり全体的に軽快さが際立つ。新型アクセラでもっとも非力な動力源であり、伊豆スカイラインのようなアップダウンが強いワインディングを走ると、上り勾配ではさすがに非力さを感じるのは否めない。

 しかし、高回転まで回したときの吹け上がりのスムーズさとサウンドは、2.0リッターをわずかながらしのぐように感じたのは箱根での試乗時と同じだった。動力性能的にも、市街地をメインで走るような使い方であれば1.5リッターで大きな不満はないと思うし、なにより鼻先の軽さが心地よい。また、箱根で試乗したときよりも心なしかリアのスタビリティが上がったように感じられた。

 なお、試乗車に積まれていた車検証の記載によると、ハッチバックのMTとセダンのATで、同じガソリン仕様でも前軸重はATのほうが30kg重く、ボディー形状が異なりながらも後軸重は同一となっていた。

 こうして1日、さまざまなアクセラのプロトタイプに試乗したが、全体としては発売への期待がより大きく膨らんだ。このよさを早く一般ユーザーのみなさんにも味わっていただきたいと感じた次第である。ハイブリッドとディーゼルを初めてドライブし、あらためてガソリンにも試乗したことで、アクセラに設定されたすべてのパワートレーンを確認できたことになるが、いずれも概ね好印象だった。

 ディーゼルは予想どおりの良好さで、ガソリンのよさも再確認できた。ハイブリッドは予想よりもずっとよい仕上がりだった。それぞれに美点があるので、オススメを訊かれたときに回答に困ってしまいそうだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛