西村直人のインテリア見聞録
【連載】西村直人のインテリア見聞録
第1回:マツダ「アクセラ」
(2014/1/2 00:00)
車内空間を主体にクルマの魅力を探ります
クルマの魅力の1つに“枠にとらわれない楽しさの演出”があるが、最近は車内でのエンターテイメント性を強く主張し、それを個性として売り出すニューモデルが多い。移動時間をもっと楽しく快適に、という発想は大いに盛り上げたいものの、今のそうしたムーブメントには迷いがあるのではないか、と私は感じている。
運転操作は決して単純な作業ではない。刻一刻と変化する道路環境に対して瞬時に判断し、そして行動に移す、いわばクリエイティブな時間の連続だ。この1年、“ぶつからないクルマ”に代表される「衝突被害軽減ブレーキ」の装着率が急激に高まったが、安全な運転環境の実現には、どこまで技術が進歩しようともドライバー、つまり人間を主体とした発想こそが大切であると考えている。
今回からスタートした「西村直人のインテリア見聞録」は、そうした運転操作を行う車内空間を主体に、クルマの魅力を探っていこうという新企画だ。エンジンスペックやコーナリング性能もクルマの魅力だが、クルマと接するほとんどの時間を人は車内空間で過ごす。いわば車内空間は人とクルマのコミュニケーションの場とも言える。そこには、いったいどんな要素が必要なのかを考えていきたい。
連載第1回目はマツダ「アクセラ」
記念すべき最初の1台は、マツダ「アクセラ」。エンジン、シャシー、パワートレーンと、フルSKYACTIVテクノロジーが投入されたモデルの第3弾だ。従来からの2.0リッターに新開発の1.5リッターが加わったガソリンのSKYACTIV-G、上質な走りと高い実用燃費数値を誇るクリーンディーゼルのSKYACTIV-D、そしてマツダ初の市販版ハイブリッドシステムであるSKYACTIV-HYBRIDなど、幅広いバリエーションを誇る。また、セダンにはハイブリッドと1.5リッターガソリンを設定し、スポーツを名乗る5ドアハッチバックボディーにはディーゼルと1.5リッター/2.0リッターガソリンを用意するなど、キャラクターに合わせてパワートレーンが使い分けられた。
エクステリアは先にデビューした「アテンザ」と共通する“魂動(こどう)”デザインを踏襲しているが、インテリアのデザインはアテンザと大きく違う。7.0インチのWVGA「センターディスプレイ」を中心にエアコンの吹き出し口と操作パネルを縦に並べながら、使用頻度の高い温度設定ダイヤルを運転席/助手席別に配置した。
一言で表現するなら、アテンザのオーソドックスなインテリアに対して、アクセラのそれは非常に独創的だ。ナビゲーションの操作系をシフトノブ下に集約することで、操作スイッチによってモニターが取り囲まれてしまうインダッシュナビにありがちな煩雑さを解消しつつ、ダッシュボードに大きな傾斜を設けたことで実質的な奥行き感が拡がった。
質感もアテンザから大きく向上した。ドアノブなど各部のシルバー加飾は手触りもよく、ステアリングスイッチ周辺のカーボン調加飾も走りのイメージを大切にするアクセラにマッチする。
シートは見た目こそフラットだが、横方向のホールド性が高く、なおかつ座面、バックレストともにサイズもたっぷりとしたものだ。座ったままの姿勢で操作できるラチェット式のシートリフターも操作力が軽く実用的。筆者(身長170㎝)はアップライトで前寄りのシートポジションが好みであるため、車種によってはステアリング位置とのバランスがわるくなるのだが、アクセラの場合はステアリングのチルト&テレスコピック機構の調整幅が大きいため、容易に好みのポジションを取ることができた。無段階調整が可能な電動パワーシートはもちろんのこと、通常の手動シートでも調整幅である1ノッチが細かいため、ロングドライブによる疲労で少しだけシートポジションをルーズにしたい場合にも重宝するだろう。
静粛性はパワーユニットで大きな違いを見せた。遮音材を各部におごっているものの、絶対的な音量はCセグメントの平均的なもので、エンジン透過音やロードノイズはそれなりにキャビンへと入ってくる。
動力性能と音圧がリンクしているのは1.5リッターモデルだ。グッとアクセルを踏み込むと2000rpmを超えたあたりから快音が車内に響き渡るが、すでにその回転域で実用に足るトルクがしっかりと出ているため加速力は力強く、すぐさまアクセルを抜き気味にしても失速感が非常に少ない。また、こうしたアクセルを抜く操作に対して6速ATのシフトアップタイミングが重なりやすいので、結果的にアクセルを踏み込む時間の短縮が見込め、燃費数値も向上する。
クラスでは貴重な存在の6速MTモデルの場合はさらにその印象が強くなる。シフト操作の際にクラッチを切ると、トランスミッションが発するかすかなバックラッシュ音が耳に届く。これをノイズととるか、クルマとの対話ととるかで評価は大きく分かれるが、筆者はスムーズな運転操作をサポートする要素として好意的にとらえた。
2.0リッターモデルはトルクにゆとりがあるため、当然、市街地ではアクセルの踏み込み量も少なく3000rpm以下では静粛性も高い。しかし、音質という点では1.5リッターが一歩上だ。2.0リッターエンジンはまろやかな音質ではあるものの、キックダウンやシフトダウンで高回転域を使用しても、スカッとした快音にはならないからだ。
その2.0リッターエンジンをベースとするハイブリッドは、さらに独特だ。ハイブリッドシステムはトヨタ「プリウス」のTHS-IIだが、エンジンやその周辺機器をマツダが独自に開発しているだけあって、エンジンの使い方にプリウスとの違いを見出せる。大げさに表現するなら、エンジンの高鳴りと加速感がリンクするのがアクセラの特徴だ。バッテリーのSOC(State of Charge:充電率)や車両状態に応じて、時にエンジン回転だけが先行するといったシーンが見受けられるTHS-IIでありながら、アクセラの場合はエンジンの常用回転域をプリウスよりも若干落としながら、モータートルクをうまく引出し加速感を生み出している。具体的には40km/h前後からアクセルを踏み込んだ場合、エンジンを中心として加速力が生み出されている感覚が強い。ハイブリッド感が薄まったという意見もあるようだが、筆者はこちらの味付けが好みだ。しかし、今回は燃費数値の測定は行っていないため、これはあくまで乗り味からの比較であることを付け加えておきたい。
エンジン音を抑えたことの弊害として、インバーター系から発せられる高周波音が耳につく場面が多く、20~30km/h前後では明らかに耳障りと感じられる場面もあった。まさしく二律背反の部分なのだろうが、遮音材の素材や配置を変更することで対処できる内容であるだろうから、順次、変更が加えられていくことに期待したい。
後席も前席同様にシートサイズはゆったりだ。しかし、ハイブリッドではタイヤハウスからのロードノイズが大きく侵入するため、ロングドライブでは少しきつい。このあたりはタイヤ選びで大きく変わってくるが、担当者いわく「ハイブリッドは燃費数値優先」ということもあり、あえての選択だったのかもしれない。
「アクセラ」のインテリアでもっとも特徴的なのが、運転操作と情報操作を明確に二分したコクピット設計「マツダ・コネクト」だ。ドライバー前方のインストルメントパネルには「アクティブ・ドライビング・ディスプレイ」とネーミングされた、樹脂製のややスモークがかったヘッドアップ・ディスプレイ(グレード別装備)が内蔵されている。そこには、速度やナビゲーションの簡易ルート案内(ルート設定時)のほか、車間距離インジケーターを表示するなど、運転操作に必要な走行情報が集約された。その下に位置するインパネ中央には大きなタコメーターを配し、そのタコメーターの右下にはデジタルスピードメーターが組み込まれた(ハイブリッド以外の「アクティブ・ドライビング・ディスプレイ」を装着したモデル)。
このヘッドアップ・ディスプレイは投影式といって、設置した場所から約1.5m先に焦点距離が合わせられているため、運転中、外界に焦点を合わせているときでも、自然と数字や矢印などの情報に対する合焦スピードを速められる。また、わずか20cm足らずだが、タコメーターの位置から視線が上方に持ち上げられることで視線移動が少なくなるため安全性も高められる。筆者は幼少期から視力は十分ながら遠視を患っているため、近くから遠くへ、遠くから近くへと合焦を繰り返すことが苦手なのだが、「アクティブ・ドライビング・ディスプレイ」は非常にありがたい装備に感じられた。
樹脂製のディスプレイ形状は試行錯誤を繰り返したというが、角を丸めた台形型のディスプレイは外界の視界を妨げず、それでいて朝日や西日が厳しいこの季節の逆光をまともに受けても、必要な情報を青字でくっきりと浮かび上がらせてくれる。表示部分はドライバーの視線位置に応じて高さが調整できるため、大柄な男性から小柄な女性まで合わせやすい。また、その際の調整ダイヤルには、後述するコマンダ・ノブを用いているため、まさに運転操作をするそのままの姿勢で微調整が一発で行えた。
細かなことだが、運転中に必要な情報を表示するわけだから、実際にその運転ポジションでの位置調整が望ましいことは言うまでもない。このことは、ドアミラーやルームミラーの調整にも言えるのだが、ことドアミラーに至っては、スイッチが手を伸ばした位置にないため、適正な調整をしづらい車種も未だに多い。
インストルメントパネル中央上部には、7.0インチのWVGA「センターディスプレイ」が配されており、停車中はタッチパネル操作も受け付ける。このディスプレイにはカーナビゲーション画面のほか、燃費数値や「i-DM」をはじめとしたアプリケーション画面、オーディオなどのエンターテイメント画面、ハンズフリーフォン操作のコミュニケーション画面、そして、先ほどの「アクティブ・ドライビング・ディスプレイ」をはじめとした調整画面の表示が可能だ。
操作には、シフトレバー下にあるコマンダ・スイッチとコマンダ・ノブで構成された「コマンダーコントロール」を使うのだが、この位置と重さが絶妙であるだけでなく、コマンダ・ノブに至ってはクリック感が強いため運転中のブラインドタッチでの操作性が非常に高い。コマンダ・ノブの上部には、左からエンターテイメント/ホーム/ナビゲーションへのダイレクトボタンがあり、セレクター右側には戻るボタン、左側には任意の機能を登録できるフェイバリットボタンがそれぞれ配置されている。また、コマンダ・ノブから独立した左上には、サイズの小さなボリュームノブがあり、これらを使い分けることで手元を確認することなく望み通りの操作が行える。
「ステアリングから左手をスッと下ろした位置にコマンダ・ノブがくるように、アームレストを含めて配置にはmm単位でこだわりました。また、ノブの自重も熟慮しながら、最適な重さとなるよう調整を繰り返しました」(マツダ 車両開発本部 大池太郎氏)というように、停車時のカーナビルート設定や、運転中のボリューム調整などでは高い操作性を披露した。アクセラでは快適・利便情報と位置付けたこうした情報操作を、「コマンダーコントロール」と「センターディスプレイ」に機能ごと分担させている。
半テンポ遅れるカーナビの拡大/縮小機能
役割分担がきちんと整理されている一方で、操作時のレスポンスという意味では若干の不満が残る。カーナビで頻繁に使用する拡大/縮小機能をコマンダ・ノブで行うと、半テンポ(約0.5秒)ほど表示が遅れてしまうからだ。取材したどの試乗車でも発生していた事象であったため、担当者に説明を求めたがその場ではハッキリとした理由が分からなかった。しかし、リルート機能が働いている状況ではなく、停車中にも発生していたことから、SDカード型カーナビゲーションに割り当てられるメモリ不足、もしくはカードそのものの読み込みスピード不足に起因しているようだ。
マツダでは今後、すべての車種にマツダ・コネクトを順次採り入れていくという。このように運転操作と情報操作を明確に二分した設計の開発背景には、ドライバーの安全性を最優先したいという安全思想がある。事故を誘発する不注意運転の要因を“わき見”であると定義した場合、マツダではカーナビ画面などを「見る」わき見、「意識」が運転から遠のくわき見、「操作」によるわき見の3つがその代表であると分析。よって、その最小化こそが安全運転に近づくと結論づけたのだ。
マツダ・コネクトは数々のHMI(Human Machine Interface)で支えられている。今回のアクセラで言えば、「アクティブ・ドライビング・ディスプレイ」「センターディスプレイ」「コマンダーコントロール」の3点がそれにあたる。HMIとは、人(ヒューマン)と、機械(マシン)との間で、情報をやり取りするための手段や、そのために用いられているシステム/ソフトウェアの総称だ。代表例を挙げると、パソコンでのキーボードやマウスがそれにあたる。マツダ・コネクトでは、これらにボイスコントロール機能も一部に織り込みながら、運転に集中できる環境と、情報を瞬時に取得できる環境の両方を手に入れようと試みたのだ。
2013年11月に開催された東京モーターショーでは、このマツダ・コネクトが目指した近未来を映像で紹介(http://youtu.be/r5IpIideLEk)するコーナーが設けられていたが、そこでは車内空間というパーソナルスペースの新しい活用方法がいくつも描かれていた。アクセラでは、新たに「Aha RADIO」とスマートフォンとの連携によるTwitterやFacebookの音声読み上げ機能が利用できるが、映像ではそこからさらに踏み込み、仮想ディスプレイを使ったWeb検索ができるようになるなど、無限の広がりを見せている。
しかしながら現状は、「車内で扱うべき情報」と「あったらいいな的な情報」が混在し、それが一度に運転中のドライバーに提供されることの不条理(≒安全運転を意識する脳と、情報を処理するために使う脳、それぞれに対する影響)にまでに及ぶ定義づけがなされていない。これは自動車メーカーに限らず、あらゆるメーカーのIT担当者も頭を悩ませている課題である。マツダ自身、まだ迷いがあるというが、マツダ・コネクトはそうした情報を取得するために開発されたツールであり、ドライバーや同乗者の使いやすさを命題に生まれたHMIであることは確かだ。
「現在の『マツダ・コネクト』は生まれたばかりのフェーズ1です。そこから提供される情報も含めて、将来的にはフェーズ2、フェーズ3へと進化を遂げます」(大池氏)というように、ドライバーにふさわしい情報は、これから時間をかけて吟味されていくことだろう。
マツダ・コネクトの今後に期待
ところで、情報が取捨選択の段階であることを象徴する事象の1つに、変更が加えられた「i-DM」の表示方法が挙げられる。車両の加速度や減速度を、緑/青/白の3色を使い分けながら表示することで、ドライバーとの対話を図るマツダ渾身のドライビングマスター機能だ。単なるエコロジカルな運転をアドバイスするだけに止まらない機能に、マツダの独創性が感じられる。
i-DMの評価すべきポイントは、青色で表示する“しなやかな運転”という、人とクルマがインタラクティブ性を保つ上で、非常に大切な要素を教えてくれることにあった。しかも、これまで採用されてきたi-DMは、今回の「アクティブ・ドライビング・ディスプレイ」がそうであるように、メーター内部に一定面積のカラー液晶による表示部を設け、外界からの視線を下方へ移動させることなく、リアルタイムで自分の運転スタイルを反芻することができた。
それが今回のアクセラでは、直径2mmほどのLEDの点に変更されてしまった。表示面積が一気に減ってしまった(上部画像の赤線で囲んだ部分)のだ。設計上は3色の違いを認識するのに必要な光量を確保しているのかもしれないが、たとえばドライバーがアクティブ・ドライビング・ディスプレイを通して(≒視線を落とさずに)運転する場面では、残念ながらこのLEDはほとんど役に立っていない。これは非常に惜しい。
とは言え、運転環境の構築に対する新たな設計思想の導入は始まったばかりだ。次なる世界への第一歩を踏み出したマツダの今後に期待したい。