インプレッション

ホンダ「ヴェゼル」

 2013年の東京モーターショーでこつ然と姿を現した小型SUVが注目の1台となった。それが本田技研工業の「ヴェゼル」だ。SUVはハッチバックなどの乗用車とミニバンの両方から流出する需要の受け皿として年々人気が高まり、ホンダもCR-Vなどをラインアップしているが、主としての販売先は北米を中心とした海外市場だ。海外でも販売される日本車の大部分が、日本で使うとサイズ感が合わなくなるというジレンマに陥る。トータルの生産台数を増やしてユーザーが買いやすい価格にしなければならない宿命がそうさせるのだが、最近では“ホントに日本で使い易いクルマとはなんだろう”という原点回帰の傾向が見られる。そんな状況にあって、ヴェゼルの登場はまさにタイムリーだ。

 ヴェゼルのコンセプトはSUVの枠に留まらない自由な発想で作られた。かつて一世を風靡したスペシャルティカーのような存在を意識したという。その結果、クーペのようなパーソナル性とミニバンのようなユーティリティという欲張った内容を盛り込んでいる。デザインはソリッド感があってサイドに強いキャラクターラインが入るダイナミックなもので、ボディー後半の絞り込みはクーペを彷彿とさせる。デザインは見る人によって感想が異なるところだが、従来のSUVにはなかったダイナミックな力強さは誰もが感じるところだろう。

 ボディーサイズは全長4295mmで、コンパクトだが機動力の高さを思わせる。また全幅は1770o、全高は1605mmで、適度にワイドで踏ん張り感のあるなかなかよいサイズだ。ホイールベースは2610mmと、このクラスのSUVとしては長いので安定感がある。

 ちなみに、ヴェゼルは開発時期が3代目フィットとほぼ同時だったので、一部では「ヴェゼルはフィットの派生車種」と思われているところもあるが、実際は見方によって異なるが、両モデルの共用部分は3割程度しかない。例えばホイールベースはフィットが2530mmであり、ヴェゼルは前述のようにさらに80mm長く取られている。トレッドもヴェゼルが1535/1540mmなのに対してフィットは1480/1470mm。こちらも50mm以上広がっていることからも、ボディーサイズはひとまわり上であることが分かる。

 サスペンション形式はフロントがストラット、リアは2WD(FF)がH型トーションビーム、4WDがド・ディオン式を使っている。こちらはフィット譲りで、リアは低床フロアを実現するため落とし込まれた位置に配置されている。

 エンジンは直噴1.5リッターのi-VTECに可変バルブタイミングのVTCを組み合わせたもの。フィット RS(97kW[132PS]/155Nm[15.8kgm])と同じエンジンだが細部のチューニングが異なっており、純ガソリンは最高出力が1kW下がる96kW(131PS)、ハイブリッドは最大トルクが1Nm高い156Nm(15.6kgm)となっている。フィットとの重量差、ヴェゼルのSUVとしての特性を考慮して、低回転からトルクを出すチューニングとしている。ちなみに、フィット ハイブリッドに搭載されているエンジンはアトキンソンサイクルで、ヴェゼルのハイブリッドで使うエンジンとは異なるものだ。

 組み合わされるトランスミッションは純ガソリンはCVT、ハイブリッドはデュアルクラッチの7速DCTを使い分ける。ちなみに、RS用の高出力エンジンとハイブリッドの組み合せはフィットにはないものだ。ハイブリッドシステムは基本的にフィットと共通。22kWを発生するモーターと5Ahのリチウムイオンバッテリーを48個搭載する。モーターはデュアルクラッチ内に組み込まれたコンパクトなものだ。

左が純ガソリンの「L15B」、右がハイブリッドの「LEB-H1」。エンジンの最高出力/最大トルクはハイブリッドに設定されるLEBが1kW/1Nm高く、さらに22kW/160Nmを発生するH1型モーターを組み合わせる

 前置きが長くなった。ヴェゼルのメカニズムについてはおいおい話を続けていくが、まずハンドルを握ってみよう。

スマートな走りを見せるハイブリッド×4WD

 乗降性は、もともとフロアが低いのですんなりとキャビンに乗り込めて、ドライバーズシートへの着座も容易だ。ヒップポイントはフィットより100oほど高いが着座に違和感はなく、高い位置から前方を見る安心感がある。Aピラーは最近のクルマの例にもれず、太いがやや後方に位置して角度が寝ているので視覚的にそれほど邪魔にならない。

 また、全幅が1770mmある恩恵でカップルディスタンスが広くとれ、しかもホンダ得意のセンタータンクレイアウトを採用。リアシートは後方に下げられているので後席乗員のレッグルームも余裕が生まれた。後席の乗降性も、デザインをクーペ的に仕上げているが、ドア形状が上方後端まで伸びているので良好だ。日常的に後席を使うユーザーも煩わしくないだろう。

 運転席から降りてぐるりと後方にまわる。バックドアの開口部は大きいのでかさばる荷物も載せ易く、さらに開口部地上高が650mmしかない。そのままフロアの位置になるので重い荷物も楽に積み下ろし可能。トランク容量はホンダ計測で404L。リアシートを格納することなく大型のゴルフバッグ2個を余裕で搭載でき、ゴルフバッグのサイズによっては3個まで収められる。また、リアシートはチップアップ&ダイブダウンできるので、鉢植えなども積載できる要素を持っている。ハイブリッドと4WDはフロアがわずかに高くなるが、大きな差ではないので荷物の積載性はそれほど変わらないと考えてよいだろう。

 ハイブリッド×4WDの走りはなかなかスマートだ。車両重量は1370s(ハイブリッド Xの場合)に抑えられているので、まずは軽快。加速力も1.5リッターエンジン以上の実力を持っており、加速の伸びなどに好感度が高い。ちなみに、EV走行はスタート直後の瞬間だけで、すぐにエンジンを始動させて加速する。ヴェゼルにはもともとボタン操作などでEV走行に限定する機能はない。

 加速の連続性では、3代目フィット ハイブリッドの初期モデルはデュアルクラッチのつながりがわるい場合があり、ギクシャクしたこともあったが、ヴェゼルでは当初よりアップデートされてスムーズな発進と変速を行う。アクセルをパーシャル状態で踏んで、DCTが変速点で迷いそうな意地悪をしてもギクシャク感はない。アクセルオフではいつまでもタイヤが回っているような抵抗の少なさを感じる。特にコースティング機能への言及はないが、燃費改善の意欲は強い。

 燃費改善への努力は「リアクティブフォースペダル(RFP)」にも表れている。このRFPは必要以上にアクセルを踏み込んだ場合、ペダル反力を重くしてドライバーに注意を促し、実用燃費を高めるというシステムだ。さらに低ミュー路でもアクセル反力を大きくしてスリップを抑制する効果があるとされる。

 実際のドライブでは自然に重くなる感じで、意識しないと分からない程度に止められている。個人的にはもう少し作動を大きくしてもよいと思う。これはE-CONボタンを押すと反力が強くなり、さらに自分でも設定可能なので好みのポジションに合わせればよい。さらにRFPは低速時の衝突軽減ブレーキや誤発進抑制機能が働いたときにも作動して、ペダルに反力を与えてドライバーに注意を促すという。

ハイブリッドモデルのアクセルペダルには「RFP」と刻印されたプレートを設置
リアクティブフォースペダルはユーザー設定の変更画面で効き具合を上げ下げ可能
メーターパネル内左側の「マルチインフォメーション・ディスプレイ」にもペダルの踏み込み量を表示可能。グリーンの表示が明るく点灯するほど燃費がよいアクセルワークということになる
全車にメーカーオプション設定される7インチのナビ画面にもエコラン情報を表示できる

 ハイブリッドでは燃費向上技術だけでなく、スポーツモードを選択するとモーター出力も加えてアクセルのレスポンスがシャープになり、各ギヤを高めの回転でホールドするようになる。ヴェゼルのハイブリッドはかなり力があるが、さらに山道などでスポーツモードは使いやすく感じるだろう。

センターコンソールのシフトレバー後方に設置される「SPORT」と書かれたボタンを押してモード変更
スポーツモード選択時にはメーターパネルの表示が赤に変更される
スピードメーター外周の「フローティングネオンリング」はコーチング機能にも利用され、エコ運転の度合いが強くなるほどグリーンに発光する
メーターパネル左側にシフトインジケーターとパワー/チャージメーターを表示

 乗り心地はホンダ流に固めているがわるくない。路面からの突き上げに硬さは感じるもののうまく収束させており、大きめのギャップ通過ではうまく足が動いている。しなやかという感じではないがシャキッとしており気持ちがいい。インナーフレーム構造(骨格に外板を溶接する方法)を採ったことでボディー剛性が高いのもヴェゼルの特徴で、このしっかり感と乗り心地がよくバランスして、ヴェゼルに一体感をもたらしている。

 さらにハンドリングもなかなか軽快だ。昨今のSUVはアーバン型が多く、取りまわしが楽になっているとはいえ、ヴェゼルでは要所へのボディー補強に加えてパワートレーン系の振動抑制を図っている。さらにフロントに振幅感応型の新しい構造を持つダンパーを採用することで、ステアリングの切り始めから舵角一定のコーナーリングに至るまで、ロール量が適度に抑制され、そのスピードも自然。前後のロール軸が顕著に前下がりになっていることからもドライビングへのこだわりが感じられる。ドライバーの意図に素直でフットワークのよさを持っており、これは普通に走っても感じられる美点だ。電動パワーステアリングは切り始めにやや反力を感じるが、完成度は高く、大きな違和感はない。

 もう1つよい点は静粛性。風切音が小さく、路面からのロードノイズもよく遮断されているのでコンパクトSUVとしてはかなり静かだと思う。

 4WDシステムは、CR-Vで使われたホンダ得意の「リアルタイムAWD」の進化型で、基本的には2WD(FF)だが後輪への駆動力の分配が繊細に行われ、安定性とハンドリングの両立を目指している。したがってオンロードでの体感上はほとんど感知できないが、コーナーの前半、アクセルオフの場合はFFとしてコーナリングの姿勢を作りやすくし、そこからアクセルの開度に合わせて後輪に駆動力を分配していく。メカニズムは多板クラッチとその油圧をコントロールする電動ポンプを組み合わせ、それをコントロールして状態にあった駆動力を指示するECUによって成立させている。雪道などのちょっとした低ミュー路で試したいシステムだ。ハイブリッド・AWDモデルのJC08モードは23.2q/L(重量が重くなるLパッケージ車は21.6q/L)となっている。

ヴェゼル専用セッティングを与えられたリアルタイムAWDを採用。旋回加速時に前後駆動力を最適に配分する
燃費も良好なハイブリッドの4WD車の登場は、雪国に暮らすユーザーから注目を集めているという

新しい時代を感じさせるホンダらしいモデル

 一方、コンベンショナルな純ガソリンのヴェゼルでは、直噴1.5リッター i-VTECエンジンを搭載し、組み合わされるトランスミッションは3代目フィットから使われている新開発のCVTとなる。新CVTは軽量化と伝達効率のアップ、それにいわゆるCVTのスリップロス感を減らすためレスポンスの向上が図られている。

 ただ、意図以上にアクセルに対して敏感で、発進では少しアクセル操作を加減してやらないと乗員の前後動が大きくなる。走り出してしまえば適度にスポーティで、日常的には“CVT感”を感じることはあまりないだろう。また、エンジンのパフォーマンスも1210kg(Sグレード)の重量に対して十分で、力強く走ってくれる。

 走りは軽快で、ハンドル操作に対してスッキリと反応するところが純ガソリン・FFモデルのポイントだが、乗り心地はちょっとハードでリアの突き上げが大きめだ。後席に座っていると硬いと感じるかもしれない。これは装着タイヤがハイブリッド・4WDモデルの試乗車(ハイブリッド X)は215/60 R16だったのに対し、こちらのSグレードは215/55 R17を装着。タイヤの銘柄自体も違うため、ロードノイズ、ハーシュネスともに影響が出て大きくなった可能性もある。半面、タイヤのCF(コーナーリングフォース)は高く、フットワークはよい。ちなみに、ハイブリッド Xはオプション品のアルミホイール装着によって17インチサイズを選択可能だ。

純ガソリンのSグレードに標準装備される215/55 R17タイヤ。アルミホイールはハイブリッド Zと同じスポーツタイプ
ハイブリッド Xに装着された215/60 R16タイヤ。純ガソリン/ハイブリッドともにベースグレードではスチールホイール+フルホイールキャップとなる
純ガソリンモデルでは常時発光式3眼メーターを採用
ハイブリッドモデルのメーターパネルでは右側のマルチインフォメーション・ディスプレイにナビのターン バイ ターン情報なども表示できる

 エンジンノートはハイブリッド、ガソリンともに3代目フィットとは排気系の取りまわしが違うのか、フィットの硬質感ある音から低音が混じった音になっているのはちょっぴり残念だ。もう1つ気になったのは、ヴェゼルには便利な「オートブレーキホールド機能」と「アイドリングストップ装置」が備わっているが、オートブレーキホールドを機能させるためにブレーキを強く踏んで停車し、エンジンが停止してブレーキホールドが作動した状態でブレーキペダルから足を離すとアイドリングストップが解除されてエンジンが再始動しまう。ハードルはありそうだが、今後の改善が求められる。

 また、ハイブリッドのFFモデルは後輪に駆動システムがなく、前後重量配分が前寄りになっているためか、乗り心地という面では4WDの方がしなやかだった。

 さて、いろいろとインプレッションを記してきたが、ヴェゼルはクーペのようなインテリア、ダイナミックなエクステリア、そしてハンドルを握って楽しくユーティリティに優れたSUVだった。後席の乗り心地など、もう少し抑えの効いたものにしたいところもあるが、新しい時代を感じさせるホンダらしいモデルだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。