インプレッション

ポルシェ「911 カレラ(ターボ)」(海外試乗)

カレラにダウンサイズ・ターボ搭載

 今では、小型で安価な実用車にまでごく当たり前に使われるようになったターボチャージャーテクノロジー。けれども、およそ半世紀前に初めて自動車用として使われるようになった黎明期には、それは技術的なハードルの高さもあって、ごく一部の高価で特別スポーティなモデル用のエンジンに限って採用された稀有なアイテムに過ぎなかった。

 そうした中にあって、1973年のフランクフルト・モーターショーでいち早く市販車への搭載を発表したポルシェの動きは、まさにパイオニアそのものと言えるもの。1960年代終わりのモータースポーツへの挑戦で、より大排気量のエンジン車と戦うためにターボ付きエンジン搭載のレーシングマシンを開発。そのノウハウを活用して完成された3.0リッターの水平対向6気筒ユニットを搭載したのが、初代の「911ターボ」だ。

 以来、ターボチャージャー付きエンジンはこのブランドのキーテクノロジーの1つ。例えば、最新の911ターボ系グレードに搭載される3.8リッターエンジンには、ガソリン・ユニット用としては世界で唯一の可変タービンジオメトリー付きのターボチャージャーが採用されている。

 一方、911の基幹モデルであるカレラ系の心臓部には一貫して自然吸気エンジンが採用されてきた。そしてそれがまた1つのセールスポイントであったのも事実。圧倒的なパワーとトルクでは当然「911ターボ」には敵わないが、シャープなレスポンスや官能的なサウンドという点で勝るとも劣らないのが「カレラ」の心臓――そんなキャラクターが、これまでの911シリーズには長年に渡って定着してきたのだ。

 それゆえに、「カレラシリーズのエンジンがダウンサイズ・ターボ化される」というニュースが流れた時、ショックを受けたファンは少なくなかったはず。要は“時代の要請”に応えるべく、ついにダウンサイズ・ターボエンジンの搭載に踏み切ったというのが、新しいカレラシリーズでの最大のニュース。かくしてちょっと複雑な気持ちを抱きつつ、国際試乗会が開催されるスペイン領テネリフェ島へと赴いた。

撮影した「911 カレラ S」(7速PDK)のボディサイズは4499×1810×1295mm(全長×全幅×全高。7速PDK)、ホイールベースは2450mm。日本での販売価格は1584万1000円(7速MT仕様は1519万1000円)
新型911 カレラのエクステリアでは、4灯式ウエルカムホームライトを備えたヘッドライト、4灯式ブレーキランプが備わるとともに、新たに縦スリットのエンジンフードやリセスカバーのないドアハンドルを採用。Cd値は0.30を実現
写真では見えないものの、リアのボンネットフード下に新開発の水平対向6気筒 3.0リッターツインターボエンジンを搭載。カレラを含め先代モデルから出力は15kW(20PS)、トルクは60Nm増となり、911 カレラ Sでは最高出力309kW(420PS)/6500rpm、最大トルク500Nm/1700-5000rpmを発生。最高速は308km/h、0-100km/h加速は4.3秒とアナウンスされている
インテリアではマルチタッチディスプレイ付きの「PCM(ポルシェ・コミュニケーション・マネージメントシステム)」が新たに標準装備されたほか、新デザインのステアリングを採用

従来モデルからの変更点

 新型カレラシリーズの見分け方は、ボディのリアセクションに目をやれば比較的容易だ。

 ターボチャージャー装着で新たな冷却マネージメントが必要になった新型では、これまでの横型から縦型へと変更されたリアスポイラー上のスクリーン部分から取り込んだ外気を、インタークーラー冷却後に後輪後部の低い位置から排出。そのために新設されたエグゾーストベントが、新型ならではの明確なアクセントとなっている。

こちらは7速PDK仕様のみの設定となる「911 カレラ カブリオレ」。Sグレードと同じ水平対向6気筒 3.0リッターツインターボエンジンを搭載するが、最高出力は272kW(370PS)/6500rpm、最大トルクは450Nm/1700-5000rpmとなる。最高速は290km/h、0-100km/h加速は4.6秒。日本での販売価格は1510万円

 新造形の前後バンパーやグラフィックが変更されたライト類も、一見で「どこか新しいナ」と感じさせるポイント。サイドビューもスッキリしたと思ったら、こちらはドアのアウターハンドルまわりにあったベゼルが消滅していることに気が付いた。

 一方、インテリア部分でまず目立つのは、最新のポルシェ車で好んで用いられている新デザインのステアリングホイール。オプションの「スポーツクロノパッケージ」を選択した場合、そこに「918スパイダーからの流用」と謳われるダイヤルも装着される。走行モード切り替えに加え、PDK仕様ではその中央にあるスイッチを押すことで、トランスミッションやエンジンマネージメントが20秒間に渡って「最大加速を発揮できる設定に変更」という機能も目新しい。

 今回のリファインを機に、これまで日本仕様には適用のなかったポルシェ独自のテレマティクスシステム「PCM(ポルシェ・コミュニケーション・マネージメントシステム)」が、ようやく導入されるというのも嬉しいニュース。その日本向けスペックはまだ完全に確定していないという。しかし、タッチスクリーン&ボイスコントロール対応のナビゲーションシステムのほか、スマートフォンとの接続など本国仕様に準じた機能が使用可能になることが予想される。

新エンジンは「エモーショナルであることこそが最も重要」

 クーペにカブリオレ、ベースグレードにSグレード、そしてMTにPDKとさまざまな仕様が試乗車として用意されていた中にあって、今回テストドライブを行なったのはクーペボディの「カレラ S」(MT/PDK)と、「カレラ カブリオレ」(PDK)。

 2台のカレラ Sには、標準の電子制御式可変減衰力ダンパー「PASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム)」に加え、アクセル線形などの設定を一括して変更させる「スポーツクロノパッケージ」や、低速域での操舵力を低減させて取りまわし性を向上させる「パワーステアリングプラス」をオプション装着。カレラ カブリオレには前出アイテムに加え、車両センターに寄せられた2本のテールパイプが視覚的な新しさもアピールする「スポーツエグゾーストシステム」などもオプション装着されていた。

 まずはカレラ Sへと乗り込み、エンジンに火を入れる。と同時に気が付いたのが、これまでのカレラシリーズと同様、明確に「911らしさ」を演じてくれるそのサウンドだった。

 走り去る新型のサウンドを外で耳にしていると、加速初期には軽い“口笛”のような音色が排気音に混じるのが、従来型とは異なる部分。けれども、総じて言えばそのサウンドの質は「明らかに911 カレラそのもの」と表現できるもの。排気量がダウンした上にターボチャージャーでエネルギーを回収しながらも、電子デバイスの類に頼ることなくこの音を作り出すには、きっと並々ならぬ努力が必要であったに違いない。

 そんなサウンドにホッとひと安心しつつ、アクセルペダルを踏み込んで行くと、今度はMT仕様であれPDK仕様であれ、それが際立つ速さの持ち主であることをすぐさま教えられた。自然吸気の従来型エンジンが5600rpmという高いポイントで最大トルクを発したのに対し、新型ではわずかに1700rpmから。そんなデータも示すように、低回転域でのトルク感がグンと厚みを増していることは間違いない。

 けれども、嬉しいのはそれにも関わらずアクセルワークに対する加速の抑揚感がきちんと、かつ自然に演じられていること。低回転域からの厚いトルク感も、平板的で退屈な印象を与えてしまうどころか、最高出力の発生ポイントとなる6500rpmを目がけてシャープなパワーの伸び感が継続。そのままレブリミッターが作動する7500rpmまで軽々と吹け切ってしまう点が、何とも魅力的なのだ。

 かくして「ターボチャージャーがアドオンされても、その情感の豊かさは従来型に対して全く損なわれていない」というのがこの新しい心臓の実力。新エンジンの開発にあたっては「エモーショナルであることこそが最も重要」と語っていた開発陣の言葉が見事に具現化されたのは、当然ながら冒頭に記したようなターボチャージャー付きエンジン開発の長いノウハウがあったからでもあるはずだ。

 ちなみに、専用のターボチャージャーやエグゾーストシステム、エンジンマネージメントシステムの採用などで、同じ3.0リッターという排気量ながらSグレード用のエンジンの方がより迫力なパワフルさを味わわせてくれる。

 一方で、今回はクーペ比で70kgというウェイトハンデを持つカブリオレで味わったベースグレードでのフィーリングも、基本的には「Sグレードと同様のキャラクター」と報告できるものだ。何しろ、今回乗ったスポーツクロノパッケージ付きのカブリオレ(PDK)でも0-100km/h加速は4.6秒、最高速も290km/hというのだから、それはもう「十分過ぎるほどに速い」と言えるもの。これが、同仕様のSクーペでは3.9秒に306km/hと、もはや“スーパーカー級”と呼べるスペックとなる。

 こうして、率直なところ「従来型比で約12%の向上」という燃費の話題よりも、もはや確実に1ランク上のパフォーマンスを手に入れたパワーパックの仕上がりに感心というのが、新型に対するファースト・インプレッション。さらに、スプリングやスタビライザーの仕様を変更の上で「PASM」を全モデルに標準装備化。エンジントルクの向上に対応してリアホイールを0.5インチ拡幅したうえ、ブレーキもさらに大容量化と、結局あらゆる部分に手が加えられたそのフットワークが自在でゴキゲンなハンドリングとともに、従来型でもほとんど「文句ナシ」だったコンフォート性までをさらに向上させ、911カレラ史上で最も上質と言える乗り味を実現させていたことにも舌を巻かざるを得なかった。

 今回はテスト車の関係で、Sグレードに初めてオプション設定されたリアのアクティブステアリング装着モデルを十分に試すことができなかったのは残念。だが、それを差し置いてもフットワークのレベルアップは明らかで、その進化は一体どこまで続くのかとちょっと空恐ろしくなってしまうほど。ちなみに前出のリアアクティブステアリングに加え、セラミックコンポジットブレーキ「PCCB」など、走り関連のオプションアイテムをフル装着したカレラ S(PDK)は、ニュルブルクリンクの旧コースを従来型よりも8秒マイナスというラップタイムで駆け抜けるという。

 ドアミラー死角内に接近する車両をLEDランプで警告する「レーンデパーチャーウォーニング」や、衝突後のシステム介入で二次衝突による被害を軽減させる「ポストコリジョンブレーキシステム」の設定、スイッチ操作から5秒以内にアプローチアングルを3度増しとして、段差乗り越えを容易化する油圧式の「フロントリフトシステム」の新設定など、装備レベルをより充実させたのも最新モデルでの特徴となる。

 単なる効率アップに留まらず、「ますます完璧なる世界屈指のスポーツカーへと成長を続けているな」というのが、最新のカレラシリーズをテストドライブしての911という歴史あるブランドに対する率直な印象だ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は、2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式にしてようやく1万kmを突破したばかりの“オリジナル型”スマート、2001年式にしてこちらは2013年に10万kmを突破したルポGTI。「きっと“ピエヒの夢”に違いないこんな採算度外視? の拘りのスモールカーは、もう永遠に生まれ得ないだろう……」と手放せなくなった“ルポ蔵”ことルポGTIは、ドイツ・フランクフルト空港近くの地下パーキングに置き去り中。

http://blog.livedoor.jp/karmin2/