【インプレッション・リポート】
フォルクスワーゲン ゴルフR&シロッコR



 現代フォルクスワーゲンのトップレンジに設定される「R」の称号。その最新モデルとなる「ゴルフR」と「シロッコR」が、このほど同時に日本上陸を果たした。プラットフォームを同じくするこの2台について、自動車ライターの武田公実氏によるインプレッションをお届けする。


フランクフルトショーで公開されたゴルフR

「R」の称号
 2009年9月にフランクフルトショーにて発表されたゴルフRは、ゴルフIV時代に初めて設定された「R32」の血統を継ぐ、6代目ゴルフのトップモデル。そしてシロッコRは、2009年のジュネーブショーにて約20年ぶりの復活を果たした新型シロッコをベースに、ニュルブルクリンク24時間レースで2年連続クラス優勝を果たした「シロッコGT24」の経験から培われたノウハウを注ぎ込んだスーパーバージョンである。

 シロッコRの概要とオフィシャルフォトは昨年5月末に公表されていたが、正式なワールドプレミアはゴルフRと同じく2009年9月のフランクフルトショーとなった。

 現在、最も注目されているフォルクスワーゲンともいうべきゴルフRとシロッコR。その2台が一堂に会した試乗会が日本国内で行われるということで、我々は会場に設定された神奈川・湯河原に赴いたのである。

ゴルフR、シロッコRともにボディー内外に「R」のエンブレムが散りばめられている

共通点と相違点
 すでにEUマーケットでは発売済みというゴルフRは、歴代R32のチャームポイントとなってきた3.2リッター狭角V型6気筒自然吸気エンジンを潔く放棄し、2リッター直列4気筒直噴ターボ、つまり「ゴルフGTI」や「アウディTT」などにも搭載される「2.0TFSI」ユニットと同系列のパワーユニットが与えられている。これは、近年フォルクスワーゲン/アウディ自身が世界のリーダーとなってきた、排気量のダウンサイジング・トレンドに従った方針転換と言えるだろう。

 ちなみにR用ユニットは、現行ゴルフGTI用の2.0TFSIエンジン(EA888)を大出力化したのではなく、ハイチューンを見越してより頑強な先代ゴルフGTI用エンジンのブロック(EA114)をベースにしていると言う。

ゴルフR(左)とシロッコRのエンジンルーム

 EU仕様のゴルフRには270PS/35.7kgmのスペックが与えられているが、日本仕様のエンジンは最高出力188kW(256PS)/6000rpm、最大トルク330Nm(33.7kgm)/2400-5200rpmに抑えられている。フォルクスワーゲン グループ ジャパンによると、これは日本市場を筆頭とする夏季に熱問題を抱える仕向け地に共通したチューニングとのことだ。それでも、5代目ゴルフ時代のR32の3.2リッターV6を6PSと1kgm上回る傍ら、10・15モード走行燃費は12.4km/Lという、R32対比で約2割アップにも相当する低燃費をマークする。

 もう1台のシロッコRは、こちらもEU向け仕様では265PSという、ゴルフRとも異なる専用チューニングを与えられているが、日本仕様ではゴルフRの場合と同じく最高出力188kW(256PS)/6000rpm、最大トルク330Nm(33.7kgm)/2400-5200rpmに抑えられている。また、ゴルフRよりも車重が120kg軽いこともあってか、10・15モード燃費は13km/Lという、高性能スポーツカーとしては極めて優れた数値をマーク。ゴルフRとともに、日本の平成22年度燃費基準も達成したとのことである。

 ゴルフRの駆動方式は、歴代のRシリーズと同じく「4モーション」。この4WDシステムは、先代のR32同様ハルデックス・カップリングを持つ、いわゆるスタンバイ4WDの一種。前後のトルク配分は、路面状況やスロットル開度に従って随時可変するものである。初代(ゴルフIV時代)のR32で初採用されて以来、第4世代に相当する今回の4モーションでは、初期のハルデックス式4WDにしばしば見られた、コーナーリング中に前後のトラクションが移動してしまうクセもかなりのレベルまで軽減され、非常にナチュラルかつリニアなハンドリングマナーを見せるようになった。

 一方のシロッコRの駆動方式は、Rシリーズでは初となる前輪駆動だが、現行型ゴルフGTIで初採用となった電子制御式のデファレンシャルロック・システムの「XDS」を採用していることもあって、スポーティで自然なフィールを保ちつつ、高いスタビリティを確保している。特にFFのシロッコRでは、低速域+低いギアで、シフトノブ基部のスイッチでESPをOFFにした上でスロットルを大きく開けると前輪がドタバタと激しいトルクステアを起こすことからも、件のXDSが強烈なパワーを巧みにしつけていることがよく分かる。

 また双方ともに、トランスミッションは欧州仕様では6速MTも用意されるが、日本仕様はパドルシフトを備えた6速デュアルクラッチAT「DSG」のみが組み合わせられる。

ブレーキキャリパーにもR

 ゴルフRとシロッコRは、ともにローダウンした専用スポーツサスペンションを装着。ショックアブソーバーおよびスタビライザーも強化した上に、アダプティブシャシーコントロール「DCC」を装備。さらに電動パワーステアリングを、よりスポーティな特性に変更するとともに、ブレーキについても「R」ロゴを配したブラック塗装のブレーキキャリパーを備えた、フロント345mm/リア310mmの大径ベンチレーテッドディスクで武装している。また、ゴルフRは225/40 R18、シロッコRは235/40 R18サイズのタイヤをスタンダードで装着。強大なパワーとトルクに対応している。

 加えて、エクステリアでは双方ともに専用のバンパースポイラー、ボディー同色のサイドスカート、大型ルーフスポイラーなどのエアロパーツに加えて、ゴルフはセンター2本出し、シロッコでは両サイド2本出しのマフラーが文字どおり“レーシング”な雰囲気を醸し出している。そして、艶やかなブラックにペイントされた大型フロントグリルやドアミラー、LEDポジションランプ、LEDテールランプなどが「特別なフォルクスワーゲン」であることを雄弁に物語っているのだ。

 インテリアでは、ブルーの指針を備えた計器や、Rのエンブレムを張りつけたステアリングホイール、レザー張りのスポーツシート、ドアシルプレートなどの専用アイテムを両車ともに装備し、上質かつスポーティな空間を実現した。さらに、現時点ではなぜかゴルフR限定なのだが、オプションでレザー&マイクロファイバー表皮のレカロ製スポーツシートもオプション設定されており、今回の試乗に供されたゴルフRにも装着されていたことをお伝えしておきたい。

ブルーの指針を持つ専用のメーターパネルゴルフRのレカロシートこちらはシロッコRのシート
インテリアはブラックのみ

 

性格のまったく異なる2台
 この日のテストドライブでは、まずゴルフRからステアリングが委ねられたのだが、まずはエンジンを始動した瞬間から、野太い排気音に驚かされることになった。ゴルフIV時代以来の歴代R32は、木管楽器を思わせる魅力的なエキゾーストサウンドでファンを魅了してきたが、今回のRではR32の狭角V6自然吸気から、直列4気筒+直噴ターボとなったことで、サウンドの官能性については若干寂しくなると覚悟していた。ところが、その危惧は良い方向に裏切られたことになる。R32とはサウンドのタイプこそ違うものの、レーシーで硬質な快音で筆者を魅了してくれたのだ。

 またR32用狭角V6のもう1つの魅力であったスロットルレスポンスについても、ゴルフRは筆者が事前に抱いていた意地の悪い期待を裏切った。ハイブーストのターボ車でありながら、ターボラグはまったくと言っていいほど感じられず、この点でも直噴直4ターボ化による弊害は最後まで感知できなかったのである。

 しかし、このスポーツカー然としたサウンドとレスポンスに騙されがちなのだが、ハルデックス4WDシステムを持つゴルフRは、機敏なハンドリングよりもスタビリティを重視しているように思える。4気筒化によってノーズが軽くなったせいか、ハンドリングについても充分にスポーティなのだが、少なくとも体感的には1530kgという車重以上に重厚な乗り味を示してくれるのだ。同じ現行型ゴルフでも、FFで200PSのGTIはもっとアジリティ(敏捷性)を前面に押し出した性格付けがなされているように感じたことからも、これは間違いなく意図的に設定されたキャラクター、歴代R32からの「正常進化」というべきだろう。
 もちろんパワーが256PSもあるので、絶対的な速さにはまったく疑問を挟む余地はないし、その気になればワインディングやサーキットでも楽しめる車であることは間違いない。とはいえ、R(レーシング)の称号は持つものの、やはりこれまでのR32と同様、「オールラウンドな高速グランドツーリングカー」と見るのが正解と思うのだ。

 一方、次いでドライブすることになったシロッコRは、FFに割り切ったせいもあってか、ゴルフRとはまったく異なるキャラクターが与えられていた。もともと「ニュルブルクリンク24時間レースで活躍するレーシングカーのロードバージョン」を標榜するこの車は、FFのメリットを生かした1410kgという軽いウェイトを身上とするのだが、特にワインディングで走らせてみたら、とびっきりのハンドリングマシンとなっていることが判明したのだ。

 メーカー側のリリースによると、電動のパワーステアリングもよりスポーティな特性にチューニングされ、運動性能と走行安定性を高次元で両立させているとのことだが、たしかにノーズを狙ったラインにピタリと付けられるハンドリング特性とステアリングフィールには、思わず快哉を叫んでしまったほどだった。

 ブレーキについて言えば、その制動力には文句のつけようがない。これはゴルフRも同じことである。ただし、これはあくまで好みの域を出ないのだが、いささかサーボの効きが強めにも感じられる。筆者は2ペダル車では左足ブレーキを使用するのだが、シロッコRに乗った際、コーナーでクリッピングにさしかかる前にうっかりブレーキを“当て”たら、思いのほかブレーキが強く作動してしまって、若干ヒヤリとする場面があったことを白状してしまおう。ただし、これはシロッコRの楽しさについつい我を忘れてしまってのミスであり、車に責任を負わせてしまうのは少々失礼かもしれない。

 しかし、バケットシートのオプション設定がこちらにはないことと同じくらいに不思議に感じたのは、サウンドがゴルフRに比べるとほんの少しだけジェントルなこと。聞けば、シロッコRについてフォルクスワーゲン側が想定するユーザーのボリュームゾーンは、「子育てを終えた中・高年」あたりに設定されているとのことで、ゴルフRよりも少し“大人な”スポーツカーとして仕立てられているようなのだ。とはいえ、こちらも充分以上に弾けた快音を聴かせてくれることに変わりはなく、あくまでドライブが楽しめるキャラクターを見せてくれたことはいま一度強調しておきたい。

 たしかにサウンドの面では、ゴルフRのほうが若干ながら勇ましい気がしたのも否めないが、やはりゴルフRがグランドツーリングカーとしてのキャラクターを持つのに対し、シロッコRは純然たるスポーツカーとしての位置づけがなされているように感じられるのだ。

 同じテイストのエクステリアチューンが施されていることから、テストドライブの前には2台の性格付けが若干不明瞭な気もしていたのだが、実際に乗ってみれば2台はまったく別のタイプの車であることがよく分かった。

 ゴルフRはオールラウンドな高性能ツアラー。そしてシロッコRは、上質だが“熱い”キャラクターのリアルスポーツカー。この2台の内どちらを選ぶかは、オーナーのライフスタイルや車に求めるキャラクターによって答えが変わってくるだろうが、ただ1つ言えるのは、どちらのRも貴方に大きな満足を与えてくれるに違いないということである。

(武田公実)
2010年 3月 19日