【インプレッション・リポート】
三菱自動車工業「パジェロ」オンロード編

Text by 岡本幸一郎


 パジェロのオフロード試乗会からインターバルをおいて、一般道での試乗会が開催された。会場は三浦半島の突端に近い観音崎京急ホテル。半年ほど前に横浜横須賀道路が近くの馬堀海岸ICまで延び、アクセスしやすくなったおかげで、自動車メーカー各社の試乗会の新たな定番となりつつあるスポットで、我々もたびたび足を運ぶようになった。

クリーンディーゼルとなった新型パジェロを街中でインプレッション

 試乗日はあいにくの雨に見舞われ、本来の風光明媚な景色を見ることができず残念だったものの、海岸線の一般道や高速道路、ちょっとしたワインディングと、意外とバリエーションに富んだ走りを試すことができるので、ギンギンの走り系でなければ、クルマを味見するのになかなか適した場所だと思っている。

 試乗会場には従来の2010年型のディーゼルも比較用に用意されていて、見た目はまったく同じであることをあらためて確認。ところがどっこい、乗るとその差は歴然としているのは前回のオフロードと同じで、オンロードでは、その本領をより発揮させることができるはずと期待したい。

 おさらいすると、2011年型のポスト新長期規制に適合したクリーンディーゼルのスペックは、最高出力140kW(190PS)/3500rpm、最大トルク441Nm(45.0kgm)/2000rpm。1つ前の新長期規制に適合した2010年型のディーゼルは、最高出力125kW(170PS)/3800rpm、最大トルク370Nm(37.8kgm)/2000rpmだ。

 ピーク値の出力が12%、トルクが19%と、クリーンなだけでなくスペックも大きく向上していることも特徴で、ドライブするとまさにそのとおり。2000rpmで最大トルクを発生するのは従来と同じものの、そこから少し下の1000rpm台後半のピックアップがだいぶ違って、2010年型よりも格段によくなっている。ちょっと走っただけでも、この違いは即座に体感できるはずだ。ちなみに、この味付けが可能となった背景に、許容トルク容量の大きいアイシン製トランスミッションに換装されたことで、「今回、遠慮なくエンジントルクを上げることができた」(パワートレイン開発者談)という事情が少なからずあることも、念のためお伝えしておこう。

 2010年型も、2000rpmから上のディーゼルらしい、もりもりっと湧き出す太いトルク感をあらためて味わうと、こちらもそう捨てたものではないなと思うのだが、それでも、2000rpmでアウトプットされるピークトルクが370Nmから441Nmと大幅に上がっているとおり、2011年型ではよりフラットに安定した力強いトルクを得ることができる。それにより前回もオフロード同様、今回のオンロードでも特に市街地で多い発進・停止の扱いやすさが同様に向上していることが確認できた。また、高速道路での追い越しや再加速なども、より余裕を持ってこなしてくれるようになった。もともと低速トルクで有利なディーゼルの強味が、より大きくなっているわけだ。

 参考までにレッドゾーンは4200rpmあたりから。試してみると4700rpmぐらいまで回るのだが、回してみても楽しめるフィーリングというわけでもないし、最高出力の発生回転数が3500rpmなので、そこまで回してもあまり意味はない。

 圧縮比が従来の17から16に低くなったことも、少なからず効いていることも体感され、新旧を乗り比べると、よりその違いを感じ取ることができる。ガラガラというディーゼルっぽい音や振動がいくらか低減されている。おかげでアイドリング状態で停車しているときも、走行中のキャビンの快適性も、より高まっているように感じられた。

低回転からのトルクはストップ&ゴーの多い市街地でも有用。ディーゼル特有の振動も軽減されたようだ

 高速巡航は、ガソリン車よりもハイギヤードな設定により、100km/h巡航は約1900rpmという低回転でこなす。燃費についても、10・15モードの公表値で従来よりも+0.6~0.7km/Lも向上し、10.2~10.6km/Lを達成している。重量級のクロカン車にもかかわらず、この数値を達成したのは立派だ。

 当然ながら、このおかげで長い航続距離を実現しているというのもガソリンに比べての大きなアドバンテージ。88Lという燃料タンク容量を考えると、計算上はだいたい160kmほども違うことになる。ガソリンスタンドの店舗数が減りつつある昨今ではなおのこと、この差は小さくない。

 もう1つ、今回、ブレーキオーバーライドが採用されたこともニュースだ。ただし、これはもちろん万一の際の安全性を考えると効果的だが、一方で左足ブレーキが使いにくくなるという側面もある。かくいう筆者は左足ブレーキ派で、右足の踏み替えの手間の面でも、市街地をスムーズに運転する上でも左足ブレーキは有効と考えて実行している。ところが、ブレーキオーバーライドにより、アクセルとブレーキペダルを同時に踏むとすぐにスロットルが絞られてしまうようでは、大半のワザが使えなくなってしまう。だから何秒かタイムラグがあるほうがよいと思っているのだが、現状では、すぐ直後に作動するタイプと、タイムラグのあるタイプの両方がある。

 2011年型パジェロの場合は、タイムラグが1.5秒に設定されている。この時間があれば、左足ブレーキを概ね問題なく使うことができそうだ。実はこの1.5秒というタイムラグの設定には、ラリードライバー増岡氏の助言もあったらしい。増岡氏のオフロードランに同乗した際、どんなシチュエーションでもアクセルを全閉にする瞬間は作らず、一定の開度でスロットルを開けておき、そして左足ブレーキで荷重やスピードを調整していたのが印象的だったのだが、そのテクニックを駆使することを妨げない範囲で、安全性との両立を考えて導き出されたのが、1.5秒という時間とのことだった。納得である。

 そして、今回とくに変更があったわけではないが、あらためてパジェロの走りを味わってみて、よくできたクルマであることを再認識した次第である。パジェロは、軸足をオフロードに置きながらも、もともとオンロードも大得意。むろん、最近の乗用車をベースとするクロスオーバーSUVほどの身軽さはないし、重心も高く、キビキビと走れるわけではないが、乗り心地はいたって良好だ。これはモノコックボディーに4輪独立懸架という、オンロードに適した機構を採用しているおかげも大きい。それはけっしてオフを犠牲にしてオンにひよったわけではなく、オフの性能を高めつつオンとの両立を図る上で最良と判断したがゆえの産物であることは、伊豆のオフロード試乗会でも確認済みだ。

 また、パジェロは室内の上質感もかなりのもの。本革シートや本木目パネルが標準装備される最上級のスーパーエクシードともなれば、雰囲気はもう高級車並みだ。惜しいのは、カーナビのアップデートが行き届いていないことや、地デジ等への対応がディーラーオプションのみの設定である点など、遅れているのが否めないことも挙げられる。まあ、文字に書くのは簡単で、なかなか少数販売車にそこまで手は回らないことは承知だが、とりあえずそういう事情も少なからずあることは、お伝えしておかねばなるまい。

 今のところパジェロの受注状況では、ディーゼルが全体の7割に達するらしい。根強いディーゼルファンにとって、パジェロにこれほど総合力の高いディーゼル車がラインアップされているのは頼もしい限り。このトルク感や燃費は、ガソリンエンジン車にはないものだし、今回の2011年型では、クリーンなだけでなく、よりエコでパワフルになり、その実力がさらに高まったのは大きな朗報だと思う。正直、価格差の大きさや、軽油代が上昇してガソリンとの価格差が小さくなったことを前提とすると、いくら燃費がよくても、あるいは補助金や減税のメリットを考慮しても、経済性でガソリン車よりもトクすることはおそらくないと思う。このクルマは、「ディーゼルの乗り味がたまらなく好き!」という人にとって選ぶ価値があるんだと思う。そして選べば、ドライバビリティと燃費のよさが、予想を上回る満足度を与えてくれることだろう。

2010年 11月 8日