【インプレッション・リポート】
STI「フォレスターtS」

Text by 岡本幸一郎


 フォレスターのマイナーチェンジ発表の同日、2010年6月のレガシィに続き、フォレスターにも「tS」がラインアップされたことが発表された。受注期間は2011年3月末までで、限定300台の販売となる。ベース車と発表は同時だが、こちらの発売は少し遅れて2010年12月24日からとなる。

 おさらいすると、tSというのは従来の「tuned by STI」に相当するモデルで、スバルではなくSTI(スバルテクニカインターナショナル)の扱い。でも販売は全国のスバル特約店となる。エンジンには手を入れず、シャシーをファインチューンすることで“強靭でしなやかな走り”を実現するのがtSのコンセプト。内外装にベース車には設定のないtS専用のアイテムの数々が与えられるのも魅力だが、今回マイナーチェンジで追加されたベース車の「S-EDITION」が、標準でSTI製のアルミホイールが装着されたため、パッと見はかなり似てしまった……。

 車両価格は、S-EDITIONが312万9000円であるのに対し、tSは362万2500円と、その差は約50万円。装着パーツを見ると、約50万円という価格差は小さいように思えてくるのだが、価格差と得られるバリューの差がどんなものなのか、S-EIDITIONから、tSではどうなっているのか、興味深いところだ。

 エンジンはベース車と同じでWRX STI A-Lineゆずりの2.5リッターターボを若干デチューンしたもの。これにtSには、STIチューニングのダンパー、スプリング、フレキシブルタワーバー、フレキシブルサポート、フレキシブルドロースティフナーなどが装着される。さらに、ブッシュ類にもチューニングが施されている。ホイールも、S-EDITION標準装着のホイールに「STI」のロゴが入っていたりして、意匠は似ているものの、よく見ると違って、重量も1本あたり400gほど軽いらしい。

 ボディーカラーは、S-EDITIONはホワイトとシルバー、ブラックのモノトーン系4色であるのに対し、tSも4色というのは同じだが、明るいシルバーがなく、おなじみWRブルーが選べるのは大きな違い。スバルファンにとってはそれだけでも欲しくなるのでは!?

 室内では、ピラーやルーフがブラックで統一されているのもベース車との大きな違い。また、S-EDITIONでは少々安っぽく見えた青いシートも、tSでは本革とアルカンターラを組み合わせた、ブラックに赤ステッチを配した質感の高いものとなっており、筆者の好みは圧倒的にこちらだ。そのほか、メーターやステアリングホイール、ATセレクターやドアトリム、インパネ加飾なども異なる。むしろ、パッと見ではフロントのハーフスポイラーの有無しか気付かないエクステリアよりも、インテリアの違いのほうが大きいわけだ。

ベース車であるS-EDITIONとの最大の違いはフロントスポイラーだが、アルミホイールもデザインの異なる専用品となっている。ボディーカラーのWRブルーはベース車にはない設定
フロントフェイスリップタイプではなくハーフバンパータイプとなるフロントスポイラーフロントスポイラーにはSTIのエンブレムも
グリルにはtSのエンブレムが付くベース車のS-EDITIONにもSTI製アルミホイールが付くが、tSのほうが新しくて軽いものとなるリア周り
ボクサーサウンドを奏でるスポーツマフラーを装備リアゲートの助手席側にSTIエンブレム、運転席側にtSのエンブレムがつく
エンジンはベース車と同じ2.5リッターターボ。出力なども同じフレキシブルタワーバー手前はインプレッサ用のフレキシブルタワーバー。ブラケットやバーの形状を変更し、剛性をフォレスターに最適化している
サスペンションはダンパー、スプリングともに専用。車高も15mmダウンしているフレキシブルドロースティフナー。引っ張り方向に効く

 そして肝心の走りは、「似て非なる」という感じではなく、「上には上がある」という印象だった。ベースのS-EIDITIONも、SUVとしてはかなりよくできた走りを手に入れてしていたのは、少し前にお伝えしたとおりだが、こちらのtSには、走ることの楽しさ、スポーツを感じさせるものが加わっていた。

 試乗コースは、東京・三鷹のSTIから中央道~富士五湖道路を経て、河口湖を往復するSTIおなじみのルート。一般道、高速道路と、河口湖近辺ではちょっとしたワインディングを試すこともできる。まずはSTIの敷地を出て一般道を経由し、中央高速へ。乗り心地の悪化はまったく感じられず、むしろ極めてフラットな姿勢が心地よい。運転感覚としてSUVという感覚が希薄なのは、ベース車もしかりだったが、tSではもっとその印象が増す。そして、ステアリングインフォメーションが増していて、レーンチェンジする際の反応のよさが、ベース車との違いとして感じられた。ベース車にステアリングを操作すること自体が楽しいという感覚はなかったが、tSにはそれがあるのだ。

 スプリングレートはほぼ3割増しで、ダンピングはかなり強めに効かせているとのこと。振幅の大きめの振動も、一発で収束させるが、そのわりにストロークの動き出しにフリクションがなく、入力の角が丸められていて、突き上げ感らしきものもない。ベース車に比べると、入力により起こる振動の振幅がだいぶ短くなっていて、いかにも引き締まった足まわりという印象。また、ベース車よりも接地感が増えていることで、タイヤは共通ながら、路面のざらついた感じまで乗員に伝わってくる。

 STI辰己氏によると、「人によってはこれをいやがるかもしれないが、ある程度は意図して出している」とのこと。途中、後席にも乗ってみたところ、乗り心地は前席同様に悪くない。これなら後ろに乗せた家族から不評の声を聞かされることもないだろう。運動性能や操安性と快適性はトレードオフの関係にあるように思われがちだが、こうして両方を引き上げることができるというよい見本のようなクルマ。そして、その落としどころが絶妙という印象だ。

 また、マフラー交換により、サウンドの印象が大きく変わっている。エンジン自体は、S-EDITIONからまったく手をつけていないが、このエンジンは、現在のラインアップとしては珍しく、不等長エキマニを持つことを再認識した次第。3000rpmぐらいから、いわゆるボクサーサウンドを轟かせ、さらに上まで回すと、シャーッという音も混ざるなど、けっこう盛大に音は聞こえる。これはむしろ、このクルマとしての演出の部分だと思う。ちなみにこのマフラーは、STIの市販品とは違うもので、これから商品化されるものとのことだ。

高速道路の大きめの振動も一発で収束させるサスペンションセッティングで乗り心地も快適

 ワインディングを走ると、S-EDITIONでも十分と感じていた運動性能が、さらに高まっていることを思い知らされる。ロールもよく抑えられており、まったくロールさせないのではなく、微妙にロールすることで、クルマの動きがドライバーにより伝わりやすくなっている。ベース車よりもさらに応答遅れがなく、走りの一体感が増している。これにフォレスターの持ち前の低重心など素性のよさが加わると、もはやその走り味は、視線だけちょっと高めのスポーツカーという印象だ。

峠道でも車高の高さを感じさせないスポーティなハンドリングを実現している

 おさらいすると、フォレスターtSの価格は362万2500円。そして、S-EDITIONの価格は312万9000円。約50万円の価格差で、限定300台。買い得感の高さもあるが、それよりも実際にこのクルマならばこそ実現している走りのよさを手に入れることができる、そこに価値を見い出せる人には、早めのアクションをお勧めしたい。

 ちなみに、用意される試乗車の数は限られるが、過去、「tuned by STI」やレガシィtSでも、試乗した人が購入にいたる比率は非常に高いと言う。その事実が物語ることを、あえて説明する必要もないだろう。

ベースグレードのS-EDITIONと比較

インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 2月 8日