【インプレッション・リポート】
メルセデス・ベンツ「Cクラス」

Text by 日下部保雄


 現行Cクラスの華々しいデビューは今でも印象に残っている。数多くのCクラスを外苑に並べて、新生Cクラスを強くアピールした。

 しかも新しいCクラスはスタイリッシュで、スリーポインテッドスターをグリルに埋め込んだデザインなどでメルセデス以外の新規ユーザーを取り込むことに成功し、日本でもヒット商品に成長した。

 2007年にデビューしたCクラスは、ダイナミック性能を「アジリティ」と言うキーワードで表現し、その後各メーカーもこの言葉を使うようになった。スタイル同様、俊敏な性能の訴求は多くのユーザーの支持を受け、Dセグメントのベストセラーとなっている。

 

大掛かりなマイナーチェンジ
 発表以来4年を迎えた今回のマイナーチェンジでは、通常の販売刺激策の内外装の変更に留まらず、心臓部のエンジンやトランスミッションの変更に及ぶ大掛かりなマイナーチェンジになり、よきライバルであるBMW 3シリーズに対抗する。

 エクステリアもこれまでのCクラスと大きく異なっている。グレードは従来同様にスリーポインテッドスターをグリルの上に掲げた「エレガンス」と、グリル内に大きく表現した「アバンギャルド」がある。もちろん基本的なシルエットは共通なので、すぐにCクラスと分かる。

 フロントマスクは、バンパーとヘッドランプの大幅なリファインから始まる。グリルは左右に広がり感のあるデザイン。ヘッドライトは最近のメルセデスの流儀に従って、吊り上がった目になっており、バンパーのエアインテークは下方に位置しているので、さらに安定したデザインになっている。

 ヘッドライトにオプションのキセノンを選択すると、C型に配置されたポジショライトを点灯した時に大きな特徴となる。コーナリングライト、ヘッドライトなどが直線状にデザインされていることで、奥行きのあるデザインを構成して立体感を持つことになった。ヘッドライト下部のウィンカーはLEDで非常に目立つ。

 同時にリアセクションのデザインも変更された。フロント同様にバンパーが横方向に広がり、テールランプもやや横に長く、スッキリした形状になったが、ステーションワゴンの開口部などには影響を与えていない。またテールランプの凹凸は今回フラットなものに変更されているのも印象が大きく変った要因だ。

7速ATとアイドリングストップで燃費向上
 このような変更を受けたボディーはCd値が0.26と言う非常に優れた値を示している。プリウスに匹敵する値であり、殆どのコンパクトカーよりも優れた値を示している。3ボックスのセダンがこれだけのCd値を達成するのは驚異だ。

 ビッグチェンジはインテリアにも至っている。これまでポップアップ式だったナビが、大きなメーターナセル内に収められることになった。メーターそのものがフルカラーの液晶になり、視認性が向上しただけではなく、新しさと高級感がグッと上がっている。操作系そのものは大きな変更はないので、従来のCクラスオーナーも違和感なく操作できる。そして何よりもインテリアのシボなども含めて、高級感のあるデザインになっている。

 エンジンも大きな変更があった。2009年にC200の4気筒1.8リッターエンジンが直噴化されると同時に、スーパーチャージャーからターボになっているが、今回はC250やC200に搭載される直列4気筒ユニットについては大きな変更はなく、そのまま継承される。しかしC350の自然吸気V型6気筒エンジンは3リッターから3.5リッターになり、なおかつ直噴化、リーンバーンと低燃費・クリーン化技術を同時に取り入れて一気に進化した。

 出力で言えばC200は従来どおりの135kW/270Nmで共通だが、C350は170kW/300Nmから225kW/370Nmに大幅にアップされている。にもかかわらず、燃費はこれまでのC350に比べて欧州燃費基準で31%の改善になっていることは注目すべきだろう。これにはアイドリングストップが導入されたことも見逃せない。

 トランスミッションもC200/C250では5速ATだったが、排気量の大きなモデルに搭載されていた7速AT「7G-TORONIC」に換装されることになった。7G-TORONICは5速に較べると重いが、ワイドレンジでギアレシオが選べるので、燃費にアドバンテージを活かせる。C350の方はもともと7G-TORONICなので変更はない。

C350の3.5リッターV型6気筒エンジン7G-TORONICアイドリングストップ機構が搭載された
C250の性能曲線C350の性能曲線

 

静音性向上でさらに上質に
 基本的なパッケージングは変らないので、説明はこれくらいにしておこう。メルセデスらしいカッチリしたドアを開けるといつものCクラスの空間がある。

 試乗した「C250 アバンギャルド・ステーションワゴン」は大きなスリーポインテッドスターをグリル内に装着したスポーティバージョンだが、さらに精悍になったことが印象的だ。日本でポピュラーなC200ではないのが残念だが、C250はC200のブーストアップ仕様で、出力的にはC200の135kW/270Nmに対して150kW/310Nmとかなりパワフルなエンジンとなる。

 最初に驚いたのは、遮音材の適正配置で静粛性が向上したこと。特にエンジンノイズが格段に抑えられていたのには、えらく感銘を受けた。正直、これまでのC200のエンジンノイズはガラガラとあまり品のある音ではなかったが、これだけでも上質になった感じだ。

 試乗したアバンギャルドはフロント225/45 R17、リア245/40 R17のコンチネンタル・スポーツコンタクト5を履いているが、ロードノイズはサイズを考えると妥当。こちらも遮音材がよく効いている印象がある。

 乗り心地は、後述する同じタイヤを履く「C350 ダイナミックハンドリングパッケージ」より突上げ感は小さいが、全体的なダンピングバランスからするとC250 アバンギャルドの方が収束性が若干劣る。もっとも、両車とも「快適」の言葉で括ることができるので、むしろ好みの問題となるかも知れない。どちらにしても大きなギャップで多少跳ね上げられるが、接地性は高く、総じてメルセデスらしい質感の乗り心地が堪能できる。

改善されたドライバビリティ
 これまでの5速ATは発進時にトランスミッションと燃料制御のプログラムの整合性がイマイチで、発進時にアクセルの踏み込みに対して反応しないケースもあり、ドライバビリティの点でそれほど感心しなかった。新しい駆動系はこの点で改善されており、格段にドライバビリティが向上した。スタート時でも乗りやすい。

 エンジン性能は低回転からタップリとしたトルクがあって、ユッタリと流す時でも、俊敏な加速が必要な時でも、どちらも満足できるエンジンだ。またトランスミッションの変速もショックが少ない。多段だが、変速が忙しくてビジーと言う感じは持たなかった。

 そしてアイドリングストップ。停車するとかなり素早いタイミングでエンジンを停止し、再始動もブレーキペダルから足を離すとたちどころにかかる。もちろん条件によってはアイドリングストップが効かない場面もあるが、逆にエンジンが止まらないと違和感を覚えるようになってしまった。

 ハンドリングはメルセデスらしいケレンミのない素直なもの。市街地では小回りが効き、大抵の街中駐車場でも躊躇なく入っていける柔軟性を持つ一方、ワインディングロードではハンドルを切った分、正確に反応するシャシー性能の高さを堪能できる。試乗車がアバンギャルド仕様の大きなタイヤを履いていたことにもよるが、ニュートラルステアの素性のよさには、舌を巻かざるを得ない。

 また高速では、高い直進性でリラックスしてドライブできることもメルセデスらしい。リアのスタビリティが非常に高いのがメルセデスの素晴らしいところだ。ステアリングホイールに伝わってくる路面とのコンタクトフィールもしっかりしているので、雲の上を走っているような不安感な全くない。

 もともとCクラスは、轍や傾斜した路面による若干のワンダリング傾向があるが、この面でもハンドルを軽く押さえているだけで十分。メルセデスのシャシー性能にはいつもリスペクトせざるを得ない。

 

快感のコーナーリング
 一方、C350 ダイナミックハンドリングパッケージ装着車に試乗したが、こちらも履くタイヤはフロント225/45 R17、リア245/40 R17のコンチネンタル・スポーツコンタクト5でC250 アバンギャルドと共通だった。こちらはちょっと締められたサスペンションと強大なストッピングパワーを生む4ピストンのブレーキシステムを装備している。

 乗り心地は予想以上に快適だったのに感心した。ダイナミックハンドリングパッケージは文字どおりハンドリングを重視したサスペンションに仕上げられているが、多少の突上げはあるものの、上下の動きが自然に収束し、腹に応えるようなムリヤリ収束させるような不自然な動きは一切なく、わるい印象は1つも持たなかった。

 また小径のステアリングホイールのために操舵力は多少重めに感じるが、これがこのクルマに適度にクイックなハンドリングを与えており小気味よい。ライントレース性も、中速度のコーナーが連続するようなコースでは独壇場だ。ハンドルを切るタイミングとアクセルワークを組み合わせて、次々と現れるコーナーをクリアしていく時は快感ですらある。

 エンジンはV6らしい振動はほとんど感じず、滑らで振動が少ない。そして自然吸気らしくレスポンスがシャープなので、この点でもダイナミックハンドリングパッケージが活きてくる。

 従来のC300よりノイズ、振動とも上質になっており、加えて出力特性は4気筒同様、低回転からフラットなトルクを出している。しかもトルク特性は過敏ではなく、よくコントロールされており、発進直後から粘り強い加速をするので、こちらのドライバビリティはC250よりも優れている。

 またアイドリングストップも前述のように自然だが、このシステム、残念ながら認証の問題で最初は日本に導入されないようだ。

 そしてスマートなのは強力なブレーキマナー。踏力とストロークに応じて自然に速度が落ちていく。ドライバーの期待値以上のブレーキフィールとパワーで素晴らしい減速ができ、実に頼もしい。

 Cクラスのビッグマイナーチェンジは、BMWやアウディなどの強力なDセグメントのライバルに対して、メルセデスに大きな力を与えることは間違いないだろう。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 4月 25日