【インプレッション・リポート】
ホンダ「フィット シャトル」

Text by 日下部保雄


 3月11日の震災の直後に発表される予定だったフィット シャトル。ホンダは震災の被害で研究所施設が大きなダメージを蒙るなど、生産はもちろん、開発現場も混乱したが予想以上の早い立ち直りで、生産再開にこぎつけた。

 すでにフィット シャトルの情報は多く流れているので、販売店への問い合わせは多く、さらにマーケットの関心も非常に高かった。その反響の大きさを裏付けるように発売2週間で受注は1万2000台を超えて、月間販売目標の4000台を大きく上回っている。プリウスαもそうだったが、マーケットが生産が滞っていた新車、それも新型車に対して乾ききっていたことを物語る。

 フィット シャトルは、シビック シャトルのネーミングを引き継いだワゴンで、プリウスαと違って3列シートの設定はない。すべて2列5人乗りとなる。初代シビック シャトルが誕生したのは1980年代の活気あふれる時代で、ホンダも自由な発想でクルマ作りにさまざまなアプローチを行い、ホンダらしさ全開の時代だった。シビック シャトルは2ドアハッチバック、4ドアセダン、クーペのCR-Xと合わせて4つの柱を成す、全高を高くしたワゴンだった。当時はまだこのような発想はなく、極めて斬新で何かワクワクさせるものを感じさせてくれたのがシビック シャトルだ。

初代シャトル「シビック シャトル」

 フィットもシャトルのネーミングを継承したことでワクワクする空間を作れただろうか。

 ホンダが主張するフィット シャトルの位置づけは経済性と環境性能を持ちながらスモールカーより1つ上のクラスを目指している。コンパクトカーのサイズとスモールカーの経済性、ミドルセダンの上質さを狙ったとされる。

 サイズはフィットより一回り大きい。全長は510㎜長い4410㎜。全高は15㎜高い1540㎜となっている。ただし全幅は1695㎜とフィットと変わらず、ホイールベースも2500㎜と変わっていない。一回り大きくなったと言ってもタワーパーキングに入れるサイズであることがフィット シャトルの大きな強みだ。クラスは違うが、少し前に登場したプリウスαは3列シートの設定車もあるので全高1575㎜と高く、タワーパーキングに入れないことが多い。

 このフィット シャトルには、大きく分けて2モデルある。コンベンショナルなガソリンエンジンモデルと、ハイブリットモデルだ。前者は1.5リッターのSOHC 16バルブで88kW(120PS)/6600rpm、145Nm(14.8kgm)/4800rpmの出力を出しており、いずれにしても低中速トルク重視のエンジンだ。

 後者は1.3リッターのSOHC 8バルブ。最高出力65kW(88PS)/5800rpm、最大トルク121Nm(12.3kgm)/4500rpmのi-VTECガソリンエンジンに、最高出力10kW(14PS)/1500rpm、最大トルク78Nm(8.0kgm)/1000rpmを発生するモーターを組み合わせている。ハイブリットシステムは2ステージ(気筒休止と走行モード)で、シビックからは簡略化されているが燃費はJC08モードで25km/Lをマーク。この数字はフィット ハイブリッドの26km/Lとほとんど変わらず。10・15モードでは同じ30km/Lとなっている。

フィット シャトル ハイブリッドの1.3リッターエンジン+IMAハイブリッドシステムハイブリッドのメーターパネル。走行状態によって色が変わる
通常モデルは1.5リッターエンジンを搭載通常モデルのメーターパネル

 ニッケル水素バッテリーも床下にきれいに収まっており、ラゲッジルームでは有効な床下収納ボックスも活用できる。もっともコンベンショナルモデルは電池がない分、さらに広大な床下収納ができ、フロアを取っ払うとさらに大きなラゲッジルームが誕生する。

 荷室高は945㎜と相当高く、完全にフラットになる後席をワンタッチで倒すと奥行2mの空間が出現する。フィットは燃料タンクをフロントシート下に設置するセンタータンクレイアウトという方式を編み出して空間マジックを作り上げたが、フィット シャトルでもその効果の高さはこの荷室空間にも現れている。何しろ地上からフロアまでの高さが540㎜と低く、嵩張る荷物の収納はもちろん、室内高の高さも燃料タンクの位置をずらしたことが大きい。ちなみに荷室開口部も広く取られており、とにかくバックドアを開けた時の開放感はフィット シャトル独特のものだ。

完全にフラットになるラゲッジルーム。後席は写真のように折りたためる
フィット シャトル ハイブリッドのラゲッジルーム下スペースこちらは通常モデル。電池を搭載しないため、より大きなスペースが用意される

 フィットより一回り大きいフィット シャトルの重量は1200kgで、一方のフィット ハイブリッドは1130kg。したがって70kgほどフィット シャトルが重いが、これを打ち消すほどの燃費向上技術を取り入れている。ホンダのエンジニアのコメントによると“隅のゴミをかき集めるような作業”で燃費を少しずつ向上させる努力をした結果が10・15モード30km/Lになったと言う。

 その技術とはEV走行時のイグニッションカット(これまでは火花を飛ばしていた)、ブレーキの引きずり防止のためにパッドを開くスプリングを入れ、空力を改善して特に開口部を小さくしてCD値を下げ、エンジンピストンのオイル流れをよくし、ハイブリットのマネージメントの細かい改良を行う。1つ1つを見ると大きな効果は期待できないが、ちりも積もれば何とやらで、燃費を向上させることができた。

 ちなみにフィット ハイブリッドにこの技術を入れると多少向上するものの、数字に表れるほどではないと言う。重量のあるシャトルでこそ効果を発揮する技術だと言う。

 まず、フィット シャトル ハイブリットから試乗してみた。試乗コースは都内の市街地と首都高速である。暗い地下駐車場から太陽の照る都心に出ると一気に気分が明るくなる。フィット シャトルらしい天候だ。

ハイブリッドはミシュランのENERGY SAVERを装着

 装着タイヤはミシュランのENERGY SAVERでタイヤサイズは185/60 R15。市街地に出るとすぐにフィットより重みのある乗り心地に気付く。従来のフィットよりも路面からの当たりがソフトになっており、特にリアからの突き上げが小さくなっている。平坦に見える路面でも幾分は凸凹もあり、うねりもあるが比較的フラットな姿勢を保ったまま通過できるので、これまでになく突上げ感が少ない。確かに1クラス、フィットのスモールクラスからは上がったような印象を持つ。

 ハンドリングは安心してドライブできるかということがポイントになるが、従来のフィットがキビキビ感を出すためにリアサスをはじめ、固める傾向にあったためにリア側は突き上げ感があったがフィット シャトル ハイブリッドでは穏やかになっている。首都高速程度の交通の流れでは従来のフィットに比べるとハンドルの保舵感が高くなり、直進性が向上している。フィット シャトル ハイブリッドではリアサスのキャンバーを1度から1度50分に増していること関係がありそうだ。こちらは重量増のハイブリッドに対応したチューニングだが、ほかの面でも効果があるということだと思う。


 コーナリング時の前後ロールも若干あるが、フィット シャトルの性格にはぴったりだし、通常型のフィットもこれぐらいのほうが乗りやすいと思った次第。この乗り心地とハンドリングは1.5リッターの通常モデルだと印象は一変する。こちらはバッテリーがない分リアが軽いせいか、路面凹凸ではリアの跳ね上げが強めで、フィットほどではないがフィット シャトル ハイブリッドほどの落ち着きがなかった。特にリアシートの乗り心地は劣っていると言わざるを得ない。

 ハンドリングもガソリンエンジンモデルはハイブリッドに比べるとリアの接地感がやや薄い傾向にある。いずれにしてもハイブリッドもガソリンエンジンモデルも高速の直進安定性はもう少し欲しいところだ。

 ボディーはワゴン化に伴いリアまわりの剛性を上げているが、これもハンドリングに多少貢献している感じがする。サスペンションの必要以上の動きを抑えている効果が、大きいように思う。リアホイールまわりとリアダンパー間の補強が効いているようだ。

 バフォーマンスは、少なくとも2人乗車ではまったく持って不満はない。発進でも追い越し加速でも、不足のない性能を示してくれる。ハイブリッドのほうが力強さを感じるのは、モーターの出力特性で、アクセルの踏みに対してレスポンスよく反応するのは、ホンダのシステムのよいところでもある。クルージング燃費も優れているので、高速クルージングでは特に燃費を伸ばすことができる。

 フィットに比べ遮音材などをおごられているので、かなり静粛性は向上している。この種のワゴンはリアから入ってくるノイズが大きいが、シャトルはCピラーとDピラーのまわりに遮音材を詰めており、これが効率よくノイズをカットしている。さらにフロントまわりから入るワサワサしたノイズも小さいと思ったら、三角窓の板厚を増しているとのこと。さらにハイブリッドではフロントピラーにも吸音材を配していた。

リアまわり内側には多くの遮音材が詰められているリアフェンダー内側の遮音材

 ちなみにフィット ハイブリッドから取り入れられた、センターピラーやフロアカーペットの遮音材は、フィット シャトルでは全車に継承されている。総じてこの意味でもスモールクラスの域を超えており、シャトルの狙いどおりになっている。

 スモールから上のクラスという意味では、フロントシートにミドルクラスのフレームを使っており、座り心地の改善を目指しており、座り心地は平板にお尻が当たるが落ち着きはよい。前後方向でもう少し膝下のサポートが欲しくなるが、これは乗降性や使う人の身長にも起因するところだろう。また座面の感触はフィットよりも質感が高い。リアシートは変わっていないが、相変わらず上下方向、レッグルームともにタップリしており開放感のある空間で感心する。

 インテリアのグレードアップも加飾などで図っているが、オリジナルのフィットがポップな感じなのでちょっとチグハグした感じがする。質感の向上は難しいものだ。

ダッシュボードやステアリングまわりは、フィットと異なる加飾が施されている

 フィットから大きく重くなっているにもかかわらず燃費は同等。運転して楽しいかと言えば正直それほどでもないが、ホンダ独自のセンタータンクとコンパクトなハイブリットシステムを活かした空間効率は素晴らしい(電池のないガソリンエンジンモデルならなおさら)。道具として使い倒せる面白さがある。

 価格はハイブリッド同士の比較では、フィット ハイブリッドの159万円に対し、フィット シャトル ハイブリッドは181万円からナビセレクションの233万まで。1.5リッターでは、フィットの約150万円に対して161万円からとなっている。ボディー形状や各部の変更が大幅になされているにもかかわらず、頑張った値付けになっていると思う。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 10月 14日