【インプレッション・リポート】
アウディ「A1 スポーツバック」

Text by 飯田裕子


 3ドアモデルの「A1」の登場から1年半(2011年1月~)。今回新たに5ドアモデルである「A1 スポーツバック」が日本市場に登場した。

 A1はアウディのラインナップ中で最もコンパクトなエントリーモデル。コンパクトカーは、都心部でも郊外の1人1台の交通環境にあるユーザーにとっても、身近な存在であるのは周知のとおりだろう。先に登場した3ドアのA1は扱いやすいボディーサイズや高い環境性能はもちろん、個性的なスタイリングとプレミアムブランドらしい質感、そして俊敏なハンドリングがユニークな特徴だ。そして手頃な価格と環境性の高さを武器とする国産コンパクトカーとは異なる立ち位置が強調される、アウディらしいコンパクトモデルとして分かりやすい。

 遅れて登場したA1 スポーツバックは前述の印象に加え、3ドア定員4名のA1に対し5ドア定員5名へと実用性を高めていること、そしてそのために若干の変更のあった“スタイリング”が主なトピックとなる。これにより小さなお子さんのいるファミリーをはじめ、より幅広いユーザーにとって実用性を高めたことは明らかだ。

実用的になった室内
 A1 スポーツバックのボディーサイズは3970×1745×1440mm(全長×全幅×全高)。基本的なサイズは2ドアモデルと変わらない。が、細かくはスポーツバックの全幅が+5mm。これはリアドアのグリップ部がボディーサイドで最も突出した結果であり、広さに反映するものではない。

 デザインはBピラー以降が変更されスポーツバックのほうがBピラーが起き、ルーフ長が80mm延長され、ルーフのカーブも6mmほど上がった。これにより2ドアの円弧を描くようなルーフラインに比べ、後方に向かって幾分フラットにルーフの伸びたサイドビューからルーミーな雰囲気を強めている。エクステリアカラーについてはボディーカラーとルーフ、ルーフアーチにコントラストやアクセントを加えるオプションも選べる。

 また実際にインテリアの寸法が後席の座面~室内高で11mmのプラスと、クリアランスが広がっている。シートサイズやひざまわりの前席とのスペースは変わらないが、ヘッドクリアランスについてはこれまで微妙な高さであったところに、微妙な+αのクリアランスが加わり、たっぷりとは言い難いものの、やっと実用的になったと言えるだろう。

 リアドアの開口部は思ったより広く、チャイルドシートへのアクセス性も向上。開閉時のドアの動きがアウディモデルにしては軽めだが、おかげで扱いやすく、3段階のストッパーがあるヒンジはしっかりとしており、頼もしい。

 

角のとれた乗り心地
 走行面については1.4 TFSIエンジン+7速デュアル・クラッチ・トランスミッション「Sトロニック」の組み合わせのほか、サスペンション形式なども2ドアと違いはない。エンジンはインタークーラーターボ付で、低回転から伸びやかなトルクが得られ、ドライバーの要求に応じて十分な加速やスピードが得られる。ちなみに0-100km/hは9秒。スタートダッシュも気持ちよく、リニアに変化するステアリングトルクも相まって、高速やコーナリングではスポーティなドライブフィールも楽しめる。

 加えて、実は2ドアモデルの登場の際に感じた若干のコツコツとした乗り心地の硬さが、スポーツバックでは感じられなかった。シャシーやタイヤには変更がないとのことだが、剛性感や走りにカッチリとした印象はあるものの、乗り心地には角のとれたフラット感がある。これは欧州車にありがちなランニングチェンジが密かに行われたのではないかと推察する。となれば、同時に2ドアモデルも同様な乗り心地が与えられている?


 コンパクトなボディーサイズの街中での取り回しのメリットについて、今さら説明をするまでもないと思うが、運転席とボディーの一体感は狭い路地や路上駐車をかわしながら対向車とすれ違う際などに、思い通りに走ってくれるところが嬉しく、ストレスも少ないはずだ。郊外でカーブの多い道路環境を移動する機会の多い方にとってもこの軽快なコンパクトモデルならドライビングにも妥協はなさそうだ。

 A1には他モデルにも採用するトルクベクタリング(コーナリング時、内輪にブレーキをちょっとかけ、曲がりやすくする機能)をし、コーナリング性能を高めているのだ。アウディのエントリーモデルであっても、走りの魅力を欠かさぬ装備を採用していることがうかがえた。

時代の先端を行く環境性能
 JC08モード17.8km/Lという燃費は2ドア/5ドアともに同数値。この数値はダウンサイジング(排気量は小さいがパフォーマンスは高い)エンジンと7速Sトロニックトランスミッションとの組み合わせや、スタートストップ システム(アイドリングストップ機能)、電動パワーステアリング、LEDの採用、そしてボディーの軽量などによる。

 余談として加えるなら、A1の開発段階においてエアロダイナミクスの追及のために繰り返し行われた風洞試験により、ボディーをファインチューニングした結果、A1のCd値0.32は当初より0.08改善されたのだそうだ。これは100km走行あたり、0.6Lの燃費向上に相当する。A1はアウディがコンパクトクラスに投入する久しぶりのモデルであり、その新しさはデザイン性のみならず、時代の先端を行くモデルとしても環境性能へのこだわりが感じられる。

 昨年登場したA1は4000台以上を売り上げ、その販売状況は好調と言えそうだ。が、5ドアモデルのA1 スポーツバックが、その実用性の高さから日本市場では今後のA1モデルの中心になりそうだ。「デザインを優先するか、実用性を選ぶか……?」という選択肢がアウディのエントリーモデルでも行えるようになったことは、フルモデルチェンジに近い大きなニュースと言える。

 


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2012年 7月 9日