【インプレッション・リポート】
日産「NV350キャラバン」

Text by 岡本幸一郎



ハイエースへの逆襲
 このクラスの国内商用バン市場は、基本的に日産「キャラバン」とトヨタ「ハイエース」の2車種しか存在せず、両車は「双璧」をなしてもおかしくないところだが、ここしばらくはハイエースの独壇場となっている。

 ハイエースが支持される理由もうなずける。まず、ワイド、ロング、スーパーロング、ミドルルーフ、ハイルーフなど、驚くほど幅広いボディーバリエーションを誇ること。そして本来の商用バンとしてだけでなく、その室内空間の広さから、アルファードなどLLクラスミニバンよりも広い荷室を持つトランスポーターとしての需要に応えたこと。さらには、ハイエースをベースとしたカスタマイズが非常に盛んであることなどが考えられる。それに特化した専門誌が複数存在するほどの勢いだ。

 一方のキャラバンは、いつの間にか差をつけられた印象があるのは否めない。そんな状況を打破して巻き返しを図るべく、11年ぶりにモデルチェンジを実施。車名を「NV350キャラバン」に変え、全方位にわたって大幅な進化を果たした。そしてその特徴に「堂々として存在感のあるデザイン」「従来の商用車にはない先進装備」「広くて使い勝手のよい荷室空間」「クラストップの低燃費」という4点を掲げている。

 今回試乗したのは、バンの最上級(2WD、ロングボディー)である「プレミアムGX」で、エンジンは直列4気筒DOHC 2リッター「QR20DE」を搭載し、5速ATを組み合わせる。262万800円という価格は、セレナで一番人気のハイウェイスター Vセレクションと同等で、ハイエースで言うところの「スーパーGL」に相当する。バンの積載性を持ちながら、ワゴン的で快適な居住性を併せ持ったモデルだ。

今回試乗したのは直列4気筒DOHC 2リッターエンジンを搭載するバンの最上級モデル「プレミアムGX」

 エクステリアデザインについて、こうした商用バンはメーカーとしてもできることが限られるのはやむを得ないところだが、よくぞここまで仕上げたというのが第一印象だ。フロントマスクの表情は、いかにも日産車の一員らしい雰囲気で、サイドのキャラクターラインもワンボックスらしからぬ抑揚感がある。

 また、先代モデルでは対前面衝突時の安全性確保のため、フロントのオーバーハングがやけに長くなっていたところを、NV350キャラバンではフロントオーバーハングを詰めてホイールベースを伸ばし、バランスのよいルックスとなった。ルーフサイドのドリップチャンネル(雨どい)もなくされ、見た目がスッキリとした。

 欲を言うとスライドドアのレールを、もう少し目立たないようにできなかったかなという気もする。その方が、せっかくのキャラクターラインがより活きそうだからだ。また、全7色のボディーカラーのラインアップは無彩色が大半だが、撮影車の「タイガーアイブラウン」や、セレナにもある「オーロラモーブ」のような設定がある点も特徴だ。

乗用車ライクなインテリア

 インテリアも、本質は「働くクルマ」に違いないが、いかにも商用バンっぽさは薄く、乗用車的な雰囲気となっている。デザインもそうだし、質感の面でも頑張っていると思う。

 装備に目を向けると、商用バンながらインテリジェントキー、プッシュスタートボタン、足踏み式のパーキングブレーキなどといった先進的な装備が与えられたのも特筆できる。タコメーターも全車標準装備だ。GX系に備わる「ファインビジョンメーター」は、カラフルで見た目にも楽しく、ここにバックビューモニターが組み合わされていのもグッドアイデアだと思う。

 そして特徴的なスライドサイドウインドーは、従来の方式と比べて段差がなく、外からの見栄えがよい。ただ、もう少し開口部が広いほうが使い勝手がよいのでは、という気もする。実際のユーザーの声が気になるところだ。

NV350キャラバンの荷室はクラス最大となる3050mmに達した

クラス最大の荷室
 NV350キャラバン最大の訴求点である荷室については、従来よりも200mm以上も荷室長が拡大され、クラス最大となる3050mmに達したのがポイント。さらに、商用バンでは後席シートが一体可倒式となっているのが一般的なところ。プレミアムGXでは、分割可倒式リアシートを採用したのも特徴だろう。このおかげで3m程度の長尺物を積みつつ、後席にもう1人座ることができる。その2列目シートは、折りたたむための操作も至ってシンプルで、容易にアレンジできるところもよい。

 また、壁面には計24個のナットがあらかじめ仕込まれていて、アレンジする際にわざわざ穴を開けずに済む。さらにホイールハウスの上面が水平になっていて、隅までピッタリ寄せて荷物を積むことができるし、棚などを設置しやすくなっているところも特筆すべきポイントだ。さらにプレミアムGXでは、ホイールハウス上面に緩衝材が貼られ、傷がつきにくくている。

 ボディーのバリエーションについても、標準のボディー幅でスーパーロングのハイルーフ仕様が選べるのは、ハイエースとの相違点の1つだ。

 そんな具合で、ここまで挙げたデザインや荷室の使い勝手などが気に入れば、それだけで十分に選ぶ理由になると思う。

外からの見栄えがよいスライドサイドウインドーや、壁面に計24個のナットを仕込むなど、デザインや使い勝手などに優れる

VDCの設定は欲しかった
 ただし、いくつか残念な点もある。まず、VDC(ビークルダイナミクスコントロール)の設定がないこと。義務化まで時間的猶予はないはずだが、なぜか設定されていない。そもそも重心が高く横転の可能性が普通の乗用車よりも高い、こういうクルマこそ必要なのではないだろうか?

 さらに、後席の中央は2点式のシートベルトが装着されており、ヘッドレストもない。というのは、保安基準で3点式シートベルトが義務化されたのは乗用車に限っての話で、商用車は対象外となっている。要するに国土交通省の基準に大きな問題があるわけだが、「でもウチはやりました!」という気概を日産が見せてくれると、なおよかったと思う。

 また、快適装備面ではオートエアコンの設定がない点が惜しい。検討はあったようだが、コスト増ほか諸事情から見送られたとのこと。ライバルのハイエースには設定があるのだし、声の大きさによっては再検討もあるとのことだったので、ぜひ今後に期待したいと思う。

QR20DEエンジンは最高出力96kW(130PS)/5600rpm、最大トルク178Nm(18.1kgm)/4400rpmを発生。燃料は無鉛レギュラーガソリン

“カド”がとれた乗り心地のよさ
 NV350キャラバンは、燃費も大きな訴求ポイントだ。その真骨頂は、直列4気筒DOHC 2.5リッターの新開発クリーンディーゼルエンジン「YD25DDTi」搭載車のJC08モード燃費が12.2km/Lとのことで、YD25DDTiについては改めてお伝えするとして、今回のQR20DE搭載車は同9.9km/hをマークしている。今回の試乗でも、首都高と市街地を半々ぐらいの割合で走り、ほぼそれに近い数字を表示したので、わるくないと思う。

 一方で、今回試乗したもっとも非力なQR20DE搭載車では、パワーが物足りないとの声もあったらしいが、筆者としては商用バンでこれだけ走れば十分というのが率直な印象だ。プレミアムGX(2WD)のQR20DE搭載車の車重は1810kg。2リッターの自然吸気ガソリンエンジンに5速ATの組み合わせでは、いささか厳しいような気もするところだが、それほど不満を感じることなく走ることができる。

 足まわりはどうか? 見てのとおりのモデルなので重心高は高く、車重も軽くはない。シャシーの造りも基本的には旧来の商用バンそのものであるなど、走りにおいて有利なことなど何もないのだが、これがどうしてなかなかの仕上がりだった。冒頭で挙げた4つの注力点に含まれていなかったが、実は今回のモデルチェンジで、足まわりはかなり力を入れた部分だと開発者は述べている。

 走ってすぐに気づくのは、動きが随分シャキッとしたことだ。従来はステアリングを切っても反応が曖昧なフィーリングだったところ、スッとあまり遅れなく応答するようになった。さらにホイールベースの延長もあって、操縦安定性も向上しているのが分かる。

 また、乗り心地が快適になったことも直感。運転席はもちろん後席についても、かなり乗り心地がよいのが印象的だった。一般的に、商用バンは荷物をそれなりに搭載した状態に合わせて足まわりをセッティングするので、空荷では固く感じて当たり前。

 ところがNV350キャラバンは、路面からの入力の“カド”が上手く丸められていて、ゴツゴツした印象が薄いし、不要に跳ねない。聞いたところでは、リーフスプリングの枚数を減らすことで、リーフ同士の板間の摩擦を低減するとともに、シャックルをよりスムーズに動くよう工夫するなど、フリクションの低減を図ったのだと言う。それらがちゃんと効いているのだろう。

 また、後席ではシートのクッションが厚めになったことも、乗り心地のよさに少なからず貢献しているはずだ。ちなみにホイールベースの拡大もあってか、最小回転半径は従来の4.9mから2WDのバンで5.2mに増えているのだが、切れ角は十分に大きいので、不自由することはないだろう。

 こうした商用バンでは、日常的に使う人の感想が非常に重要になると思うが、NV350キャラバンはおそらく評判が評判を呼び、ハイエースの独壇場である国内商用バン市場に大なり小なり風穴を開けるのではないかと思う。

 また、アフターマーケットの盛り上がりが販売の動向に大きな影響を与えることは、すでにハイエースでも証明されているが、NV350キャラバンもオーテックのライダーのようなモデルがすでにラインアップしているし、同社もアフターマーケットの拡大を後押しする方策を何らか考えているようなので、今後の展開を楽しみにして待ちたいと思う。

NV350キャラバン「ライダー」

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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 8月 6日