【インプレッション・リポート】
フォルクスワーゲン「CC」

Text by 鈴木ケンイチ


 フォルクスワーゲンの日本における最上級モデル「CC」が7月24日より発売開始となった。

 フォルクスワーゲン「CC」とは2008年にデビューしたフォルクスワーゲン初の4ドアクーペ「パサート CC」の新世代モデルのこと。今回の意匠変更に合わせて名称を変更することになったのだ。名称変更の狙いはポジショニングの再定義にある。

 これまでは「パサート」の名称を持つため、どうしても派生モデルという印象が強かった。しかし、新型モデルは、パサートの一種ではなく、その上のポジションを担うことを期待された。つまり、パサートの範疇にとどまらず、さらに広いユーザー獲得を目指すためのネーミング変更なのだ。

 ちなみにパサート CCは2008年のデビュー以来、世界中で32万台も売れたという、隠れたヒットモデル。フォルクスワーゲン CCという名称からも、この新型モデルにかけるフォルクスワーゲンの期待の大きさを感じる。

 

ダウンサイジングエンジンとハイテク安全デバイスを搭載
 この新型となったCCの大きな特徴は4点。第1は、世界的に名称を「フォルクスワーゲン CC」に統一したこと。その狙いはすでに説明した通り。

 2つめは、スタイリッシュなクーペのフォルムはそのままに、フロント&リア回りの意匠を一新。昨年、先に新世代に進化したパサートシリーズ同様の水平基調を強調したデザインとなった。

 3つめの特徴は、ダウンサイジング戦略をしっかりと守ったパワートレインの選定だ。これまでのパサート CCは、3リッターV型6気筒と2リッター直列4気筒というエンジンを採用していたが、新しいCCは、1.8リッター直列4気筒直噴ターボ「TSI」エンジンとした。“フラッグシップといえば大排気量のマルチシリンダー”という過去の常識を破る、意欲的なラインアップと言っていいだろう。そして、そのエンジン選択の結果、JC08モード燃費13.4km/Lという、このクラスとしては優れた環境性能を実現している。

 そして最後の特徴が、フラッグシップにふさわしい快適装備や先進の安全デバイスの充実度だ。レーダーやカメラなどを利用して、事故を予防するプリクラッシュブレーキシステムや全車速追従機能、レーンキープアシストなどを標準装備とする。

 「プリクラッシュブレーキシステム(低速域追突回避・軽減ブレーキシステム)」は「Front Assist」と名付けられ、77GHzのレーダーを使って、車両前方を12度の角度で前方150mまでをモニターする。時速30km未満で前方に静止した障害物があれば、ドライバーに警告灯&ハンドル振動で警告。それでもブレーキを踏まない場合、車両が自動でブレーキングを行うというものだ。

 前走車をシステムが認識し、一定の車間距離を保つクルーズコントロールである「ACC(アダプティブクルーズコントロール/全車速追従機能)」も、同じレーダーを利用する。ちなみにシステムがコントロールするのはアクセル&ブレーキだけなので、ステアリング操作はドライバーが行う必要はあるけれど、渋滞などでは便利なシステムだ。

各種安全装備が搭載されるACCの表示
フロントグリルのフォルクスワーゲンのエンブレムに内蔵されたレーダーと、フロントウインドーのカメラでセンシングするリアビューカメラはリアのエンブレムに隠されている

 また、フロントウインドーに設置されたカメラを利用して、時速65km以上での走行時に走行車線からの逸脱を警告する「レーンキープアシスト“LaneAssist”」があるだけでなく、そのシステムをさらに発展させた「レーンチェンジアシストシステム“Side
Assist Plus”」も装備する。これは「レーンキープアシスト“LaneAssist”」に、斜め後方の車両接近を認知・警告する「“Side Assist”」の機能をミックスしたもの。

 センシングには超音波センサーとレーダー、カメラを利用する。ドライバーの死角となる斜め後方を走る車両が近づいてきたときに、ドライバーが気づかずに車線変更をしようとすると、車両が警告音・警告灯・ステアリングの振動で警告を発する。そして、ステアリングに修正する動きを発生させて、接触事故を未然に防ごうという機能だ。

 近年、スバルの予防安全技術「EyeSight」が人気を集める日本マーケットの動きに、しっかりと対応する姿勢は、さすがフォルクスワーゲンといったところだ。

 

IQの高いクルマ
 試乗会のスタート地点に並ぶCCたちを前にすると、全長4815mmものサイズが与えるボリューム感は相当なものがある。エッジのたったシャープなフロントグリル、ポジションに15個ものLEDを採用したヘッドランプとあわせ、クールでモダン、硬質な印象を得る。フラッグシップにふさわしい高級感が漂っていた。

 室内の眺めは、上質であるものの華美ではなく、“上品”“真面目”という言葉が脳裏に浮かぶ。フロントウインドーは、通常のパサートと比べれば確かに上下に狭いが、“若干”といった感じで十分な視界を得ることができる。クーペスタイルとはいえ、それほど攻めたパッケージングではないようだ。

 

 エンジンを始動するとタコメーターの針は800rpmで落ち着く。アイドルの回転数は高めではあるが、フロントウインドーに遮音材のフィルムを挟み込んだり、ダッシュボード内やドア内など、念入りに配置された遮音材のおかげもあってか、十分な静粛性が維持されており不快感はない。

 7速デュアルクラッチAT「DSG」のミートはスムーズで、低速でのギクシャク感はほとんど感じない。また、エンジンは、1500rpmも回すと最大トルクが発生するという低速トルク重視のキャラクター。そのため高めのアイドル回転数から、ちょっと回転を上げるだけでトルク・バンドに入るのだ。よほどの急加速をするのでなければ、発進で1.8リッターユニットの力不足を感じることはないだろう。

1.8 TSIエンジンのトルク&パワーカーブ

 アクセルを踏み続ければ、トルクカーブが示すとおりのフラットな加速を味わえる。そして、そのまま、あっけないほどにスルスルとタコメーターの針はレッドゾーンまで駆け上がる。1500~4500rpmの間、最大トルクを発揮し続ける特性は、官能的ではないが、下から上まで一定の力強さを引き出せる実用的なパワーユニットと言っていいだろう。また、最大出力118kW(160PS)は1425kgの車両重量に対して十分なスペック。よほどの飛ばし屋でなければ、不足はないはずだ。

 ハンドリングの躾は、「コンフォート・クーペ(CC)」の名前の由来通り、コンフォート指向だ。アジリティを追求するのではなく、ゆったりと狙ったラインにクルマを導く。スタイリッシュなクーペ=スポーティではなく、他の選択肢もあるというのが「フォルクスワーゲンCC」の主張なのだろう。

 試乗は、あいにくの雨。しかも狭く道も荒れている。また、交通量もそれなりに多いのだが、アベレージスピードは高い。そうした厳しい状況ではレーンキープアシストやプリクラッシュブレーキシステム“Front Assist”の存在は心強い。また、前を走行する車両に追従する「ACC(アダプティブクルーズコントロール/全車速追従機能)」は操作方法が比較的シンプル。いくら先進の技術とはいえUI(ユーザーインターフェイス)がわるくては、使い物にならない。そういう意味でCCの「ACC」は好印象を持った。

 試乗を振り返ってみると、CCの「賢さ」が強く心に残っていることに気づく。硬質でクールなルックス、華美に走らないインテリア、理知的な走りと安全装備の数々。こうしたCCならではの個性は、ライバルひしめく4ドアクーペ市場の中でも決して埋もれることはないだろう。IQの高いクルマを探している人なら、ぜひとも選択肢のひとつに加えるべき1台だ。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 8月 10日