【インプレッション・リポート】
GM「キャディラック エスカレード」

Text by 日下部保雄


 「キャディラック」ブランドはGMのフラッグシップであると同時にアメリカの誇りでもある。キャディラック エスカレードは、フォードのプレミアムSUVである「ナビゲーター」のカウンターパンチとして誕生した車種だ。さすがにビッグなアメリカのトップモデルだけにそのサイズは巨大だ。これでも北米で見ると不思議と普通に見えてしまうから、かの国のサイズ感が分かろうというものだ。

キャディラック エスカレードの試乗ということもあって、普段よりフォーマルな服装で試乗を行ってみた。ホワイトのモデルが上級グレードのプラチナム

 デカイデカイと言っていても実際はどの位なのか、掴めない具体的な数字を挙げてみよう。全長は軽く5mを超えており、日本車ではこのサイズに匹敵する長さを持っているのはレクサス「LS」のロングボディーと「センチュリー」だけとなる。エスカレードの5155㎜に対してLSのロングは5180㎜、センチュリーは5270㎜あり、いずれもエスカレードを凌駕しているが、エスカレードがこれらのリムジンよりも大きく感じるのは、横から見た時はその全高、前から見た時は全幅に圧倒される。全高は1945㎜で、少なくとも日本車のSUVにはこれだけの高さはなく、1905㎜を超えるのはミニバンの「アルファード/ヴェルファイア」だけになる。さらに全幅は2040㎜というワイドぶりで、当然ながら2mを超える全幅を持つ日本車はない。ホイールベースも2950㎜に達する。



 キャディラックのアイデンティティを継承するフロントマスクは上下に大きく広がり、迫力があり、全幅一杯に配された縦長のヘッドランプもこのワイド感を盛り上げる。大きいクルマをさらに大きく見せているところがアメリカ車らしい。デザインは意外とリアに進むほどアメリカ車らしい華やかさを保ちつつフロントに比べるとオーソドックスになる。

 ビッグなエスカレードに乗り込むとインテリアもキャディラックらしいアメリカンラグジュアリーの世界が広がる。キャビンに乗り込むとアイポイントが高いだけで、横に広がり感のある豪華だが、アメリカンらしいシンプルさを併せ持ったインテリアが待っている。

 クルマのグローバル化が進み極端な話、どのクルマに乗っても似たような感じを受けることがあるが、キャディラックはすぐにそれと分かるオーラがある。駆逐されてしまったアメリカの電化製品にも似た香りがあるが、キャディラックの存在はGMの復活と共に輝きだした。

 この大きなボディーサイズ、四角いいかにも空力の悪そうなデザインにもかかわらずCD値は0.363を達成しているのは細部の処理が巧みであるためか。エンジンはオールアルミV型8気筒の6.2リッターというボディーサイズに合わせてビッグだ。エンジン形式は、今や当然のようになっているDOHCではなく昔ながらのOHV。大排気量のトルクで引っ張るタイプのSUVなので、それほど高回転域を必要としない点、軽いOHVで十分という判断だと思われる。ただ昔ながらのOHVでないことは可変バルブタイミングと可変気筒休止システム(V8からV4)などを盛り込んで、現代の厳しい燃費規制に対応していることでも分かる。

気筒休止システムを持つV型8気筒 0HV 6.2リッターエンジン

 最高出力は301kW(409PS)/5700rpm、最大トルクは563Nm(57.4kgm)/4300rpmを出している。数字だけ見ると出力、トルクともに意外と回転数が高く感じられるが、実際はかなり低い回転数からトルクを出しているので、それほど回転を上げる必要は感じられない。そして嬉しいのは一応ハイオクガソリン推薦なのだが、レギュラーも使用可であること。何しろ98Lも入る燃料タンクなので、レギュラーとハイオクでは結構な差がついてしまうので有難い。

 トランスミッションは6速のATでハイトルクを生かしてギヤリングは高く設定している。ちなみに100㎞/h時の6速でのエンジン回転数は1500rpmにとどまる。今やトランスミッションの多段化は世の趨勢だが、大排気量エンジンには大容量のトランスミッションが必用で、既存の信頼性の高い6速ATを採用したようだ。何しろ約60㎏mのトルクに耐えられるトランスミッションはGMとしてもそうそうはないだろう。

 駆動システムはフルタイムは通常フロント40、リア60の駆動力配分を持つフルタイム4WDとなっているが本格的なオフローダーというよりも、オールマイティな走行性能を発揮するための全輪駆動といったほうがキャディラックらしくシックリくる。この4WDシステムはGMのスタビリティトラック、つまり姿勢制御装置と連携しており、トラクションと姿勢安定性に効果を発揮できる。

 ボディーはラダーフレームをビルトインするタイプで、そこにサスペンションユニットが取りつけられる。フロントはダブルウィッシュボーン、リアは4リンクのリジットになる。ダンパーはマグネティックライドを採用して、きめ細かい減衰力のコントロールを行う。これはダンパーオイルに磁性体を入れ電流を流すことで減衰力を変えるシステムで、GMやアウディなどの一部車種で使われており、減衰力を無段階に、きめ細かい制御ができることが特徴だ。

 そして装着タイヤがいかにもアメリカンSUVらしい。何と22インチの大径サイズのM+S(マッドアンドスノー)を履いているのだ。サイズはP285/45 R22 110Hで最高速レンジは高くないが、クロームのホイールと相まって派手さをまき散らしている。エスカレードの重量はフレーム付ということもあり2600㎏にも達しているが、テイストはイメージどおりのアメリカ車らしさに溢れていた。

 グレードは標準グレードと上級グレードのプラチナムがあり、プラチナムに設定されているパワーリトラクタブルアシストステップはドアを開けると自動的にサイドステップが出てくるタイプ。これが出っぱなしだと不注意に向う脛をぶつけて痛い思いをするが、その心配はない。

高さのあるコクピット。ステップがないと、乗り込むのに苦労するだろう22インチの大径タイヤ。サイズはP285/45 R22 110H

 ステップグリップを握ってキャビンに乗り込むが、そのビッグサイズゆえによじ登るという感じになる。乗降性はわるくないしタップリとしたドライバーズシートもアメリカ車らしくて好ましい。そしてドライバーシートからはアイポイントが高いのに驚く。見晴らしはまるでバスに乗っているようで、四角いボンネットのため直前のサイズも掴みやすい。周囲もサイドビューとフロントエンドはルームミラーに映し出されるモニターでわかりやすいし、バックビューモニターもあって物理的なビッグサイズはどうしようもないが、視覚的にはかなりクリアになっている。

ちなみに日本の道路ではかなり大きく、狭いところはさすがに厳しい。高速や街中でも広い道をユッタリと流す時にエスカレードの強みが発揮される。

 セカンドシートもスライドはしないが、大きくてレッグルームも十分だ。エスカレードは基本的に2列目シートの使用までを想定しており、サードシートの北米での扱いはあくまでもエマージェンシーだ。とは言ってもアクセスは結構凝っている。Cピラーに付いているボタンを押すと2列目シートがバックレストと共に座面まで持ち上がり、アクセスを容易にしている。ただしサードシートに乗り込むとこれまでタップリしていたフロント/セカンドシートに比べて平板でクッションも薄く、フロアも高いので足が延ばせず窮屈だ。

 しかも3列目シートは折りたためるものの、収納ができずにかさ張ったり長尺物の荷物を載せるときは取り外さなければならない。しかし取り外しはかなり面倒なので、このあたりの使い方は北米と日本のガレージ環境の違いもうかがい知ることができる。

1列目シート2列目シートで、オーディオ装備を確認中3列目シートは、さすがにこのサイズのクルマでも足下がやや窮屈だ
3列目シートは、跳ね上げたり、取り外したりできる

 さて大き目のハンドルを握って2.6tの巨体を動かしてみると、予想どおり余裕の低速トルクでユッタリとしかも力強く走り出す。エンジンのピックアップは意外とよいが爆発的に突っ走る感じでもない。アクセルを強く踏み込むと期待にそぐわず、アメリカンV8のマッスルなエキゾーストノートと共に、しっかりした加速を演じる。パワーが有り余るという感じではないが、期待どおりのパワーユニットだ。アクセルコントロールは過敏でなく、扱いやすく乱暴な運転にならないのが好ましい。

 このエンジン、気筒休止を行うがアクセルオフでも簡単にV4モードになる。しかも運転していて違和感はまったくなく、第一4気筒になったことさえ気づかないほど滑らかだ。ちなみに都内と首都高速を流した時の燃費は5km/L台。6.2リッターエンジン、2.6tの車体の割には相対的にわるくない数字だと思うが……。

 6速ATのトランスミッションはコラムシフトだが、使い方としては一端Dレンジに入れたら、そのままでマニュアルシフトをするケースはまずないので、余分なスペースを取られずに合理的だ。変速も低い回転で行われるので変速ショックはほとんど感じない。

 ステアリングホイールはロック・ツウ・ロック3回転強と意外と少ない。そして操舵力は比較的軽い設定で、この大きなSUVが軽く動かせるようにチューニングされている。かといって操舵力としては軽すぎず、日本車から乗り換えても違和感はない。欧州車に乗り慣れたドライバーには少し軽く感じるだろう。

 ステアリングのニュートラル付近は比較的手ごたえを出しており、ステアリングがどこを向いているのか分からない大昔のアメリカ車のようなことはないので、安心してステアリングホイールを握れる。


落ち着いた作りのコックピット。各素材を活かした仕上げになっている

 走行中はフレーム付らしくモノコックボディーとは違ったユラユラとした味がある。カッチリした剛性を誇る欧州勢とも日本のランクルとも違って、北米のフリーウェイでの段差路をハンドル取られも少なく、路面からのショックも軽くいなしてくれるにはちょうどよいセッティングじゃなかろうか。日本では少し緩く感じられるのは確かだが、これもエスカレードの味だろう。

 街中をはじめとして高速道路などではステアリングホイールに軽く手を添えていればシュルシュルと力強く走ってくれ、ストレスは極めて少ない。クルマがゆるく作られている分、緊張しながらドライブするということがない。この辺がキャディラックがほかのブランドと違うところで、グレード感は違うが欧州車調のフォードのエクスプローラーとはかなり性格が異なっている。

各部にカメラを装備し、走行中にモニターもできる
バックカメラはステアリング舵角連動タイプ。大きなクルマなので、ありがたい装備

 コーナリングをうんぬんするクルマではないが、適度なペースを保って緩いコーナーを走っている限りは満足できるロール感を持っている。タイトコーナーになるとさすがに舵の効きに限界があり、大きなロールを伴い、このジャンルはエスカレードの得意分野でないことが分かる。誤解されるといけないが、かなり踏ん張ってくれることは間違いなく、極限までロールが進むとロールスタビリティコントロールが働き、転倒防止システムが作動する。クイックに動き回るのは得意ではないが、ツイスティなコースでステアリングを切っても安心感のある不思議な感覚だ。

 このエスカレードのステアリングホイールを握り、ラグジュアリーな気分に浸って走っていると、存在感のあるスタイルから注目度が非常に高いことに気付く。エスカレードに乗るにはそれなりの心得が必要になりそうだ……。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 9月 18日