インプレッション

トヨタ「アクア」「アクア G's」

37.0km/LというJC08モード燃費世界一を達成したアクア

師走の富士スピードウェイやその周辺でアクアを試乗。ボディーカラーは今回の改良で追加されたディープアメジストマイカメタリック

 2011年12月の発売から2年を経て、ハイブリッドカー「アクア」が小改良を行った。通常、約2年を目安に外観や内装にまで手を入れたマイナーチェンジを行う国産車が多い中、アクアの外観に変更点はない。したがって、今回は小改良に留まるのだという。

 とはいえ、その中身はかなり多岐にわたっていて、アクアユーザーならずともグッとくるものばかりだ。しかも、燃費性能に至っては従来モデルを1.6km/L上回る37.0km/Lを達成し、「フィット ハイブリッド」が手にしたJC08モード燃費世界一の称号を見事奪回している。

 「37.0km/Lの達成にはエンジンとハイブリッド制御の2方面から取り組みました。シリンダーヘッドにはダイヤモンドライクカーボンをコーティング処理してフリクションを低減し、ハイブリッドシステムではエンジンの始動/停止に工夫を凝らしています」(トヨタ自動車 HVシステム制御開発部 森崎啓介氏)という。

 ちなみに、37.0km/Lに対する貢献度は、エンジン1に対して、ハイブリッド制御が3程度となるというが、その制御はどんなものなのか?

アクアに搭載される1.5リッターハイブリッドシステム。制御や低フリクション化を図ることで、JC08モード37.0km/Lを達成するグレードが用意された

 エンジン始動時は、早めにスロットルを開けて吸入時の空気抵抗を減らしながらエンジンパワーを早期に引き出している。また、ここで生み出したエンジンパワーのうち、走行に必要としないエネルギー(≒余剰分)はTHS IIの制御によりバッテリーに蓄えてエネルギーを保存する制御を施した。つまり、シリンダー内のポンピングロスをなくして空気を吸い込むことで、より早く始動しつつ、エネルギーの最適化を図っている。すぐにでも実用化できそうな技術だが、エンジンを始動すれば同然、爆発のショックが発生するため、それを抑える処理が必要になる。新型ではエンジン始動にあわせて、モーターを数mmsecで動かしてエンジントルクを吸収しているという。

 一方のエンジン停止時は、それにかかる時間を減らすことで燃料消費を抑えている。とはいえやみくもにエンジンを早く止めればいいというわけでなく、次のエンジン始動を考慮した位置でクランクを止めなければ意味がないわけで、新型アクアでは回転しているクランクトルクの打消しにもモーターを使い、最適な位置でのエンジン停止が行われている。

 こうした技術は同じ型式のパワートレーンを搭載する「カローラ ハイブリッド」にも早期に適応できそうだが、机上だけではやはり無理で、実車での開発が必須となるという。同様に、ハイブリッド制御の変更ならば、CPUの書き換えで対応が可能だろうと早計するも、こちらもパソコンのバージョンアップのようにはいかないようだ。

 燃費値が伸びることは非常に素晴らしいことで、こうした技術力の高まりはどこまで究極に迫れるのかなど興味はつきない。しかし、カタログ燃費値がクルマ選びの尺度として大きなウエイトを占めている現在、そこだけがクローズアップされクルマの評価の大部分がなされてしまうのは、クルマ好きとしては“何か違うよな……”と感じてしまう。

 初代「プリウス」の登場はセンセーショナルで、世界中の自動車メーカーが震撼した。2011年12月に登場したアクアは、その初代がもつ強烈な個性をそのままに2代目プリウスのパワートレーンを大幅に刷新して成立させた。結果、低価格で燃費値がよいクルマであれという命題は見事に達成され、日本のみならず、北米(現地名:プリウスC)をはじめ各国のユーザーからも大きな支持を受けている。

 一方で、アクアにはストイックな部分もあった。しっかり感を強調したサスペンションのセッティングは乗り心地が硬めで、最小限に留められた遮音材の適用はエンジン透過音(とくに高音域)の侵入を許してしまった。トヨタとて、これをよしとしていたわけではないが、限られたコストと開発時間のなかで命題を達成するためには、かなり大胆な割り切りが必要だったのだろう。

 「アクアを導入してからも開発の手は緩めず、燃費値の向上には取り組んできました。また、ユーザーの方々からご指摘をいただいていた乗り心地や静粛性についても、今回は大きな変更を加えています」と話すのは、アクア開発者のひとり柳原雅彦氏(トヨタ自動車 製品企画本部)。技術の積み重ねこそ、アクア最大の武器だという。

 柳原氏が示す大きな変更とは、ボディー補強と遮音性の向上だ。まず、乗り心地を改善するためボディーそのものに手を入れた。ダッシュパネル部分の板厚を0.05mm厚くするとともに、フロントサスペンション下部やクロスメンバー部にスポット打点を追加することで、さらなる高剛性ボディーを作り出している。その上で、乗り心地を滑らかにするためショックアブソーバーの減衰力を調整した。

 通常、こうした変更はサスペンションに手を入れるのみで行われる場合が多く、それが今回のような小改良であればなおさらなのだが、2020年のコンパクトカーを謳って登場したアクアのこと。「ハンパな改良はしない!」という強い意志のもと、本気の改善を目指したことが分かる。

 遮音性については、2013年6月にボディーカラーや装備の見直しを行った時点で、エンジンとキャビンを隔てるバルクヘッド部分に遮音材を加えていたが、今回、さらにドアトリムにも遮音材を追加するとともに、ホワイトボディーのスポット部分にもシールを貼ることで空洞をふさぎ、各部から漏れる音を徹底して低減している。

 こうした数々の変更だが、乗ってみると確かにその効果は大きく、大げさではなくスタートして10mでその違いが判るほど。例えば、路面のちょっとした段差(マンホールのふた部分など)を通過した際、ステアリングやシートから身体に伝わる振動は明らかにマイルドになっている。また、ガソリンスタンドなどから歩道を乗り越え車道へ出る際の大きな段差でも、タイヤが接地した瞬間に車体に加わった大きな入力が分散され、しっかりといなしているのを感じ取ることができる。この大きな入力のいなし方は従来型の弱点だったが、新型は見事にそれを払拭してきた。

 走りはどうか? システム出力100PSに変更がないため、速さの面だけでみれば従来型と同等。しかし、新型はマフラー容量をアップさせているため排気音の特性が少しだが変わっている。加えて、遮音材追加などの相乗効果によってロードノイズ以外の静粛性は大きく向上した。

 具体的には、従来型で気になったエンジンの高音域が大幅にカットされた。軽量ボディー(1050kg~)のアクアだが、高負荷領域においてエンジンを高回転域で維持する時間が長くなるTHS IIの特性上、エンジンが存在を強く主張する場面が多かった。そこを新型では高音域をカットする方向で遮音性を高めている。絶対的な音量の変化は微々たるものだろうが、低負荷での走行シーンであってもこうした音質の変化は一様に貢献してくれるため、乗る人すべてに価値のある改善だ。

マフラーが変更されているものの、大きな外観の変更点はない
低燃費タイヤであるブリヂストンのエコピア EP25を装着

 装着タイヤは従来型と同じブリヂストンの「エコピア EP25」だが、ハイブリッドモデルが追加されたカローラシリーズにも採用されている最新版にアップデートされた。ただ、新型アクアではマッチングが図りきれていないところもあるようで、60km/h前後でのロードノイズが気になった。ボディー全体の静粛性が向上した二律背反の部分でもあるため、従来型と同レベルのロードノイズであっても新型は不利になってしまう。ここが気になるユーザーには、パターンノイズが低いとされるワンランク上のタイヤに交換されることをおすすめしたい。

 乗り心地は全般的に向上しているし、しなやかさも増している。しかし、ある速度域にのみ振動が増えることも確認できた。60~70km/h付近で走行中、運転席と助手席のバックレストに小刻みな振動が発生するのだ。ちなみに試乗車はトヨタが用意し完全に整備された車両であり、もちろんタイヤの空気圧も適正値。

 もっとも、今回の取材は師走の早朝、外気温にして-3℃の中、完全に冷え切ったコールドスタート状態であったため、ショックアブソーバーの減衰がしぶく、さらに“ブラックソフトレザーセレクション”のレザーシート仕様車であったため、寒さでその表皮の張りが強くなり、結果として振動を誘発していたのかもしれない。いずれにしても、ここはロングドライブなどで取材を重ねてから改めて結果を報告したい。

アクアのマルチファンクションモニターはカラー液晶が使われている。上級車のプリウスよりも進化している部分だ

新型アクアのおすすめはズバリ「G's」

アグレッシブなエクステリアとなるアクア G's

 新型アクアに加わったG'sにも10分程度だがクローズドエリアで試乗した。G's史上8番手となった「アクアG's」は、ベースグレードである「G」に大開口グリルをはじめとした専用のエクステリアパーツに加えて、ローダウンサスペンション(ダウン量:約25mm)、フロントサスペンションメンバー後端ブレース、フロアセンターブレース、ロッカーフランジ/ドアオープニングスポット溶接打点の追加など機能パーツやボディー補強が施されたスポーツモデルだ。タイヤにはグリップ力に優れたブリヂストンの「ポテンザ RE050A(195/45R17)」がおごられ、切削光輝タイプのアルミホイールを組み合わせた。

 G's専用のブラックで統一されたインテリアで目を引くのは専用のスポーティシートだ。シートレールの関係からかヒップポイントがわずかに上がっているのだが、それがドライビングポジションを最適化しているのがいい。見かけ倒しではなく、バックレスト/座面ともにホールド性も高められている。

G'sならではの装備が奢られている

 なによりうれしいのが、専用の機能パーツがボディーのしっかり感を強調していることだ。G'sのセオリーどおり、パワートレーンには手が加わっていないものの走り出した瞬間からまるで別物で、差額33万円以上の価値はある。「ノア/ヴォクシー」や「アルファード/ヴェルファイア」のG'sでも感じたことだが、G'sの手法はこうしたミニバンや今回のアクアのように、激しい走りをイメージしていないモデルでの存在価値が高いと感じている。走行性能の絶対値が上がることもそうだが、走りの基本となる骨格を太くすることで、クルマ本来の持ち味が際立つからだ。

見えないところにも、G'sならではの装備が。パワートレーンに変更はないが、走りの性能は格段に向上していた

 結論のベストバイ。新型アクアのおすすめはズバリ「G's」。走りの質感というか、高揚感/エモーショナル感みたいなものをこのG'sは持っていたからだ。燃費値37.0km/Lを達成した技術力には感服するが、いざクルマ選びの候補に新型アクアがあるのであれば、車両重量が1090kgを超えると33.8km/Lになってしまうことも考慮すべきだろう。

 もっとも、それでも「フィット ハイブリッド」の実用的なグレード(163万5000円のベースモデル以外)より0.2km/L上回っているため世界一であることには変わりないのだが、アクアらしく乗ろうとすると各種用意されているパッケージオプションを装着したくなるし、そもそもサイドエアバッグをオプション装着するだけで、ベースグレードの「L」以外は車両重量1090kgとなるわけだから、カタログ燃費数値には早々に見切りをつけ、自分だけのアクアをカスタマイズして乗るべきだと強く思うが。

 冒頭の“何か違う”と感じた答えを、新型アクアはしっかりと持っていた。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員