インプレッション

STI「フォレスター tS」

筆者と左からSTI 取締役 商品開発部 部長 森宏志氏、STI 車体技術部 部長 毛利豊彦氏、STI 商品開発部 車体実験グループ 担当部長 渋谷真氏

 スバル(富士重工業)の「フォレスター」をベースに、よりオンロード嗜好に振ったSUVコンプリートカー「フォレスター tS」がSTI(スバルテクニカインターナショナル)より300台限定でリリースされた。

 tSシリーズは、エンジン本体には手を入れずにコンピューターチューンなどの補器類でアップデートを図り、ボディーやサスペンションに注力してパフォーマンスと乗りやすさを追求したモデル。しかも、パーツ購入で個別にチューニングするよりも価格的に大幅にリーズナブルという魅力もウリ。そして、なんといっても台数限定販売なので、すぐに売り切れてしまうことでも知られているのだ。

 そのフォレスター tSとはどのようなモデルなのだろうか? STIによると、輸入車もターゲットにオンロードでの“走りのSUV”を嗜好する層に向けて開発したとのこと。つまり、素のフォレスターではオンロードの走行性能にもの足りなさを感じているユーザーに向けて、STIの味付けで勝負をかけている。そのSTIの味付けは「強靭でしなやかな走り」という二律背反するものだ。

フォレスター tSのボディーサイズ(参考値)は4595×1795×1700mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2640mm。車両重量(参考値)は1620kg。2015年4月5日までの期間限定販売となっており、販売台数は300台。価格は435万円
フロントまわりでは専用のフロントスポイラー、ブラックフロントグリル(チェリーレッドピンストライプ付)、フロントフォグランプベゼルなどを装着
ブラックの電動格納式リモコンドアミラー(LEDサイドターンランプ&ターンインジケーター付)
足下はBBS製の19インチ鍛造アルミホイール(シルバー)にブリヂストン「TURANZA(トランザ) ER33」(タイヤサイズ:245/45 R19 98Y)の組み合わせ。キャリパーはブレンボ製(フロント4ピストン/リア2ピストン)
各部にtSオーナメントが付けられる
リアバンパーにチェリーレッドピンストライプが奢られるほか、STI製リアアンダースポイラーを装着
搭載する水平対向4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「FA20」エンジンは、最高出力206kW(280PS)/5700rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/2000-5600rpmを発生
ブラックを基調としたスポーティなインテリア
専用品となる本革巻ステアリングホイール
STIロゴ入りのシフトレバーも本革巻。トランスミッションはリニアトロニックCVTだ
専用マルチファンクションディスプレイでは、オープニング画面(写真中)とウェルカム画面(写真右)の表示も可能
エンジンやリニアトロニック、4WD、VDCなどを最適制御して悪路走破性を高める「X-MODE」スイッチ
260km/hまで刻まれるスピードメーターにもSTIのロゴが入る
レッドベゼル付シルバーダイヤル&ピアノブラック調エアコンスイッチ
アルミパッド付スポーツペダル
遮音材付きフロアマットを採用して静粛性を高めている
ブラックパンチングウルトラスエード/本革のコンビネーションシート。レッドステッチのアクセントがスポーティな印象を高めている
後席は6:4分割可倒式

現代版ドイツ系SUVのような乗り味

 では、実際に走らせながら何がどう変わっているのかをリポートしよう。一般道でのフィーリングは確かにチューンドサスペンションという印象で締まりの効いた硬いサスペンションだ。試乗会場は河口湖近辺で、ここではさまざまなワインディングが待ち構えている。さらに舗装も荒れていて、スポーツサスペンションにはハードルの高い路面だ。季節による寒暖の差が激しい地域では、温度差や凍結により路面の歪みや亀裂が多い。そのような路面を走ると硬めのサスペンションではゴツゴツとした振動がボディーに直接入り、ボディーが細かく振動する。いわゆるバイブレーションだ。

 SUVはもともとオフロードにターゲットを置いているから、サスペンションが振動を吸収して乗り心地がよいもの、というのは今のSUVには当てはまらない。最近のSUVはオンロードでの走りを重視してサスペンションをハードにセッティングする。ルーフが高いがゆえにモーメントの大きなSUVのロールを押さえこむ手法が、特にドイツ系のSUVでは主流になってきている。

 そんな現代版ドイツ系SUVの味を濃くしているのが、今回のフォレスター tSといえるだろう。乗り心地は決してよいとはいえないが、突き上げ感が少なく余韻が残らないタイプでまったく気にならない。特にギャップを通過した後のボディー振動が少なくワンアクションで納まるので居心地がよい。これらは、フレキシブルドロースティフナーやフレキシブルサポートサブフレームリヤ等によるボディー補強が功を奏しているのだろう。中でもフレキシブルドロースティフナーはボディーを補強するというものではなく、フロア下面とサイドフレーム間をつなぐことでリアサスペンションの追従性を高めるというもの。つまり、掛け橋のような補強のバーとは元々考え方が違うのである。このような補強パーツはSTI独自のもので、他にあまり見たことがない。

 また、路面からのノイズが小さく感じられ、耳障りな音質がカットされている。これはカーペットに遮音材を貼り付ける処理がなされているからなのだそうだ。ここでのカーペットとはマットではなく、車体の床全面に張り巡らされている絨毯のことだ。つまり、ベース車両のフォレスターとはひと味違う室内の高級感は、このようなパーツを組み合わせてバランスを取ることで達成している。

 ハンドリングは操舵初期の応答性を重要視している。つまり、ステアリングを切り込めばすぐにフロントタイヤが反応し、フロントセクションにヨーモーメントが発生するのだ。この応答の時間は0.08秒以下に抑えられている。これはフォレスターXTの0.11秒に対して実に30%も速いヨー応答だ。欧州SUVモデル(VW「ティグアン」と思われる)でも0.09秒といったところなので、フォレスター tSがいかに速いかが分かるだろう。フロントが応答してヨーモーメントが発生した後、車体にスリップアングルが付き、リアタイヤが応答することにより横Gが発生してコーナーリングが始まる。このときの横G発生までの応答時間は0.1秒で、欧州SUVと同等レベル、フォレスターXTは0.14秒だ。

 実際に走らせたフィーリングでは、コーナーリングでの応答が速くロールするよりもヨー方向へのモーメントが強く出るが、すぐにロール方向にも動き出すので比較的ナチュラルで安心感がステアリングからも感じられる。そして、横Gを増やしてロールがどんどん深くなっていっても、バンプラバーが強く当たってロールを機械的に止めるのでもなく、スプリングレートなりのロール角で安定してコーナーリングする。コーナーリング中、路面のギャップに対して突き上げ感が少なく外乱による姿勢の乱れもほとんど感じられない。モーメントの大きなSUVでのオンロードスポーツ性能はこういった姿勢の乱れが気になるところだが、実に正確なライントレース性だ。

 これらの走りを支えているのが15mmのローダウンを可能にする専用サスペンションだ。フロントのダンパーは倒立式で剛性アップを狙っている。フロントタイヤの応答がボディーに逃げてしまうのを防止するフレキシブルタワーバーをはじめ、前述したフレキシブルドロースティフナーを前後に装着、さらにフレキシブルサポートサブフレームリア、サブフレームブッシュ、フロントに装着されるスタビライザーブッシュはサイドカットされない円柱モノで手組みによって装着される。またクランプスティフナーの板厚もアップされている。

倒立式フロントストラットとコイルスプリング
リアダンパーとコイルスプリング
ボディーの端と端に引っ張りのテンションをかけ、ボディー入力時のたわみを抑えているSTI製フレキシブルドロースティフナー(写真はリア)
STI製フレキシブルタワーバー

 そのほかにも、フロント4ピストン/リア2ピストンのブレンボ製ブレーキキャリパーとBBS製19インチアルミホイールがこの走りを支えている。新設計のBBSアルミホイールは従来品よりもかなりの軽量化が達成されている。245/45のブリヂストンタイヤは吊るしの製品で、専用タイヤを開発しないことで誰もがリーズナブルにアフターマーケットで購入できるというわけだ。

 ところで、フォレスター初となるブレンボブレーキ+先進運転支援システム「EyeSight」にも、フォレスター tSに合わせたセットアップが行われているので安心だ。ちなみにEyeSightの仕様はver.2で、車高のローダウンとブレンボブレーキの制動力にもプログラムの合わせ込みが施されている。

低中開度での発生トルクが増すようなセットアップ

 では動力性能はどうか。エンジンはECUチューンによってアクセル低中開度での発生トルクが増すようなセットアップになっているという。さらに、S#モードでのステップ変速をクロスレシオ化しているのだ。つまり、シフトアップ時に次のギヤにシフトアップしてもこれまでよりも回転が下がらず、繋がりのよい心地よいシフト操作が体感できる。

 実際に走らせた印象では、1速で約60km/h、2速で約100km/hだったので肝心のワインディングではこの1&2速をもっとクロスレシオ化した方が楽しめるかも?と感じた。3速以上のクロス化はサーキットでしか楽しめないだろう。それでも高速道路での加速では繋がりのよさが加速感の向上に貢献している。

 そして、CVTにオイルクーラーが採用されたことも意味がある。CVTはオイル温度が上昇するとマニュアルモードでのシフト操作ができなくなってしまうので、スポーツモデルにはこれは必須だろう。

 欧州勢にも負けない走行性能、そして持つことの喜び。大人のSUVとしての価値は高い。といいながら、今ごろにはすでに予定台数を販売してしまっているかもしれない。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:中野英幸