インプレッション

スバル「XV(2014年モデル)」

 インプレッサの5ドアハッチバックをベースに、ルーフレールなどクロスオーバーとしての意匠をまとい、初代「インプレッサ XV」が発売されたのが2010年6月。その後、2012年10月にフルモデルチェンジし、初代では見送られた実質的な車高アップが図られ、クロスオーバーとしての実力も兼ね備えた本質的なSUVモデルへと進化した。また、2013年6月にはスバル初となるハイブリッドモデル「XV ハイブリッド」も追加されている。

 その現行モデルに改良が加えられた。今回のモデルは2014年の11月に改良され、すでに販売されているが、今回試乗の機会を得たので改めて紹介しよう。

XV 2.0i-L EyeSight。ボディーカラーは「デザートカーキ」

 まず、一番のトピックはバージョン3に進化したアイサイトがガソリン車に新しく採用されたこと。さらに内装の質感、燃費性能、走行性能、静粛性など全方位的に性能進化している。

 まずは内装の質感向上から見ていこう。シートに座ってドライビングポジションを取ると、メーターパネル中央に追加された3.5インチカラー液晶のマルチインフォメーションディスプレイが目に飛び込んでくる。これによって、アイサイトでの前方車両との車間距離、作動状況など運転に必要な情報が一目瞭然だ。また、メーターパネル自体も金属調リングやブルーパネルの採用により新鮮な印象を受ける。スマートフォンの充電用に、2基のUSB電源がフロントセンタートレイ内に設置されていることも嬉しい。このほかに、オプションではあるがSDナビゲーションシステムが採用され、直接タッチ操作が可能なセンターディスプレイとなっている。利便性を含めた質感は明らかに進化している。

XV 2.0i-L EyeSightのインテリア。本革巻きのステアリングとセレクトレバーは全車標準装備。本革シートは「ブラックレザーセレクション」として2.0i以外のグレードにオプション設定
インパネ中央の「マルチファンクションディスプレイ」は瞬間燃費、平均燃費、航続可能距離などさまざまな情報を表示可能
大型2眼式メーターのあいだに3.5インチカラー液晶の「マルチインフォメーションディスプレイ」を追加

快適性を高めつつ、スポーティなハンドリングも維持

 では走り出してみよう。今回のXVの改良は、乗り心地と静粛性アップだ。まず、乗り心地についてはダンパーに変更が加えられた。フロント、リアともにダンパーのバンプ側(縮み側)の減衰を落としている。それと同時にダンパーそのもののフリクションを低減し、よりスムーズに動くようにしているのだ。スプリングやスタビライザーなどのレートは変更されておらず、ダンパーのみによって乗り心地と走行安定性の向上を図っている。実際に走らせてみると、サスペンションの締まり感はこれまでとそれほど違いは感じられないが、路面の凸凹やギャップに対する突き上げ感などは明らかに減少している。特にこれまでは、リアサスペンションが跳ねてしまう現象が感じられたけれども、今回の改良でそれらはほとんど感じなくなった。

 同時に、静粛性もかなり改良されている。これは防音材や制振材などの追加によって静粛性が高まったとのことだ。サスペンションの突き上げと静粛性に関しては、私がいつもテストコースの1つとして選んでいる西湘バイパスで確認したのだが、不快と感じないレベルにまで進化していて驚いた。

 つまり、今回の改良ではコンフォート性に重点が置かれたわけだが、実はハンドリング面でも改良が加えられている。それはステアリングギヤ比がクイック化されたことだ。これによって、コンフォート性の追究で若干スポイルされるかもしれないスポーティな挙動を補う目的があったのだろう。それに伴い、リアサスペンションのブッシュ類が強化されている。こちらは、乗り心地の改良とは相反する仕様変更と見られるかもしれないが、ステアリングスピードが速くなったことに対してリアの追従性をしっかりさせる目的から行われた改良だ。つまり、サスペンション系はソフトになったけれども、ステアリングとリアサスペンションブッシュの改良によって、スポーティなハンドリングはそのまま維持されているといえるわけだ。

 では、注目のアイサイトだ。今回のXVの進化の目玉は、このアイサイトがver.3(バージョン3)に進化したことだろう。アイサイトver.3は「レヴォーグ」で初めて採用された最新のもの。ver.2と比べてver.3でなにが変わったかというと、衝突回避をする速度が約30km/h以下から約50km/h以下に引き上げられたことだ。そして、カラー認識となったことによって前方車両のブレーキランプを認識できるようになっている。進化したステレオカメラによるこれらの安全性向上は著しいものがある。

 そしてさらにもう1つ、車線からのはみ出しを予防する操舵支援機構「アクティブレーンキープ」が装備された。これによって前方車両に追従しながらも、車線から自車がはみ出さないように走れるようになったのだ。こちらも西湘バイパスを使って実際に試乗しながら、バージョンアップされたアイサイトを試してみた。アクティブクルーズコントロールをONにして、さらにアクティブレーンキープもONにする。

特別仕様車の「XV POP STAR」。ボディーカラーは「サンライズイエロー」

 アクティブクルーズコントロールは、前方車両の速度の増減に対する反応が以前よりも早くなったように感じる。このあたりはレヴォーグなどと同じようなレスポンスだ。そしてアクティブレーンキープ。こちらは、車線からはみ出しそうになったところで車線中央に戻すようステアリングにトルクが加えられ、明らかに安全になっているといえる。ただし、はみ出しそうになったときに制御して、車線からの逸脱を防止するというだけで、車線の中央を維持するものではなかった。XVはもともと直進安定性が高いので、普通に走っている限りこのアクティブレーンキープのお世話になることはないと思われるけれども、このあたりの制御がレヴォーグとは少し違う。

 XVは今回の改良によって、アクティブレーンキープの追加をはじめ、プリクラッシュブレーキや全車速追従機能付クルーズコントロールの性能向上でクラストップの安全性を実現し、乗り心地も含めた質感の向上によってひとクラス上級なモデルへと進化している。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:堤晋一