インプレッション
トヨタ「オーリス」(120T/袖ケ浦フォレストレースウェイ)
Text by 岡本幸一郎(2015/4/23 00:00)
埋没しないデザイン
2代目「オーリス」といえば、デビュー当時に頻繁に流れていた「~常識に尻を向けろ~」というトヨタ自動車らしからぬ激しいキャッチコピーとともに、一見トップレスの外国人女性に見える男性モデルが登場するTVCMがとても印象的だったことを思い出す。
このところトヨタでは奇抜なデザインのクルマが増えているが、その先駆けとなったのが2代目オーリスだった。かつてのトヨタになかったテイストのデザインは、「埋没しない」ことを意識したものだという。
ドライブフィールについても、初代オーリスのDNAである「直感性能」は、より進化した形で引き継がれていることを2代目オーリスの発売時に確認した。仮想敵をフォルクスワーゲン「ゴルフ」に設定して作り込んだというだけに、なかなかの仕上がりになっていたように思う。
ところが、デザインが「ヴィッツ」似であったものの、乗ればヴィッツとは違う基準で作られたクルマであることが伝わり、それなりに注目度のあった初代に比べると、2代目のデザインはずっと個性的になったのになぜか存在感は薄れてしまった。ハイブリッドがもてはやされる日本市場において、欧州向けのオーリスにはあるハイブリッドが国内向けには設定がないことも、事情はあるにせよ残念だった。
そんな2代目オーリスの登場から2年半が経過し、マイナーチェンジが実施された。変更点の大きな柱は内外装デザイン、衝突回避支援の機能が進化した先進の予防安全性能の充実、そして最大の注目点といえる、トヨタブランドとして初となる直噴ターボエンジンの設定だ。
その直噴ターボエンジンを搭載した新しい最上級グレード「120T」を、袖ケ浦フォレストレースウェイで試乗した。
直噴ターボ+CVTの相性は?
新しい直噴ターボエンジンの排気量は1.2リッターだ。これぐらいの排気量だと世の中では3気筒も増えているところだが、今回の「8NR-FTS」は4気筒となる。そしてトランスミッションにCVTを組み合わせることが大きな特徴だ。
まずは軽く流すと、最大トルクを1500rpmから発生させているスペックのとおり、低回転域から十分なトルクが出ていることが分かる。また、エンジン自体を見ると、ターボチャージャーや水冷式インタークーラーなど吸気系が非常にコンパクトにまとめられており、レスポンスを意識したものであることがうかがえるとおり、ターボラグはあまり感じられない。
エンジン回転が先行して上昇したり、アクセル操作に対する応答が遅れるなどCVT特有の症状もあまり気にならず、むしろCVTだからこそこれだけスムーズな加速フィールに仕上がっているように思えた。パドルシフトでマニュアル操作したときの変速の速度もまずまずだ。スポーツモードを選択すると、アクセルを踏んだ量よりもやや上の回転数を維持しながらマニュアルでシフトアップしたときのように上昇していく。
ただし、いまどきこれぐらいの直噴ターボなら、最大トルクが200Nmを超えていてもおかしくないところで、ややトルク感としては若干控えめに感じられた。ところが開発者に聞いたところでは、DCTではスムーズさに欠けるし、ATではトルクが唐突に立ち上がりすぎて乗りにくくなる恐れがあることから、燃費だけなくドライバビリティの面でも積極的にCVTをチョイスしたのだという。その意味では、仕上がりは開発者の狙ったとおりということのようだ。
さすがに素早いアクセルオンでついてこないことなど、CVTの宿命を感じる部分もあるものの、全体としてダウンサイジング直噴ターボとCVTというのは、けっこう相性がよいものだなと感じた。とくに日本の交通事情下でのメリットは小さくないように思う。
俊敏なフットワークは健在
足まわりについて、もともと2代目オーリスのリアサスペンションは1.5リッターの2WD車がトーションビーム、4WD車と1.8リッターの2WD車がダブルウィッシュボーンと差別化されていたのだが、最上級グレードの「120T」には、もちろん後者が採用された。
走ってみてまさに“直感”するのが心地よい俊敏さだ。単にステアリングがクイックなだけでなく、操舵に対してあまり応答遅れなく一体になってついてくる。とくにリアまわりに注力したという高いボディー剛性も効いていることに違いない。クローズドコースゆえ、それなりのペースで走ってみると、ノーズがスッと向きを変えるのに合わせて、リアは回頭性をアシストするような感じで流れるが、スタビリティは低くない、という感じのハンドリング特性であることが分かる。
乗り心地も、トーションビームではもう少し突き上げ感があったように記憶しているところ、こちらはしなやかだ。振動の収束も早い。さらに運転支援装置も大幅に進化した。自動ブレーキにより衝突を回避できる上限の車速も、一気に高まった。これも新しいオーリスの大きな武器になることに違いない。
このクラスのハッチバック車というのは、世界中の自動車メーカーがしのぎを削っているわけだが、2代目オーリスはなかなかに見どころのあるクルマではないかと思う。価格も内容のわりに買い得感があり、コストパフォーマンスにも優れるところもよい。
マイナーチェンジで商品力の向上を図った中でも、とくに今回の直噴ターボエンジン搭載車の追加は、より多くの人にいま一度オーリスに目を向けてもらう、よいきっかけになることに違いない。