インプレッション

トヨタ「オーリス」(120T/袖ケ浦フォレストレースウェイ)

埋没しないデザイン

 2代目「オーリス」といえば、デビュー当時に頻繁に流れていた「~常識に尻を向けろ~」というトヨタ自動車らしからぬ激しいキャッチコピーとともに、一見トップレスの外国人女性に見える男性モデルが登場するTVCMがとても印象的だったことを思い出す。

 このところトヨタでは奇抜なデザインのクルマが増えているが、その先駆けとなったのが2代目オーリスだった。かつてのトヨタになかったテイストのデザインは、「埋没しない」ことを意識したものだという。

 ドライブフィールについても、初代オーリスのDNAである「直感性能」は、より進化した形で引き継がれていることを2代目オーリスの発売時に確認した。仮想敵をフォルクスワーゲン「ゴルフ」に設定して作り込んだというだけに、なかなかの仕上がりになっていたように思う。

 ところが、デザインが「ヴィッツ」似であったものの、乗ればヴィッツとは違う基準で作られたクルマであることが伝わり、それなりに注目度のあった初代に比べると、2代目のデザインはずっと個性的になったのになぜか存在感は薄れてしまった。ハイブリッドがもてはやされる日本市場において、欧州向けのオーリスにはあるハイブリッドが国内向けには設定がないことも、事情はあるにせよ残念だった。

 そんな2代目オーリスの登場から2年半が経過し、マイナーチェンジが実施された。変更点の大きな柱は内外装デザイン、衝突回避支援の機能が進化した先進の予防安全性能の充実、そして最大の注目点といえる、トヨタブランドとして初となる直噴ターボエンジンの設定だ。

 その直噴ターボエンジンを搭載した新しい最上級グレード「120T」を、袖ケ浦フォレストレースウェイで試乗した。

4月にマイナーチェンジを行った「オーリス」の新グレード「120T」。新開発の直列4気筒DOHC 1.2リッター直噴ターボ「8NR-FTS」エンジンを搭載し、価格は259万37円。ボディーサイズは4330×1760×1480mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2600mm。車両重量は2WD車でもっとも重い1300kgだが、JC08モード燃費はもっとも優れる19.4km/Lを実現
マイナーチェンジにより、エクステリアではメッキモールを配したアッパーグリル、バンパーコーナー部まで開口を広げたフロントロアグリル、水平基調のリアバンパーを採用。また、今回のマイナーチェンジで新たに衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense C」を採用(1.5リッター車のみオプション設定、そのほかは標準搭載)。衝突回避支援型プリクラッシュセーフティ(PCS)、レーンディパーチャ―アラート(LDA)、オートマチックハイビーム(AHB)機能を有する
インテリアではピアノブラックとサテンクロームメッキ加飾を組み合わせたセンタークラスターをはじめ、グレードごとに異なる加飾を施したインストルメントパネルを採用。メーターまわりでは2眼コンビネーションメーターに4.2インチTFTカラーマルチインフォメーションディスプレイを組み合わせた
120Tでは本革/ウルトラスエード/合成皮革を組み合わせた専用シートを採用。これに加え、シートヒーター(運転席/助手席)、自動防眩インナーミラー、クルーズコントロールといった快適装備を標準装備する

直噴ターボ+CVTの相性は?

「8NR-FTS」エンジンの最高出力は85kW(116PS)/5200-5600rpm、最大トルクは185Nm(18.9kgm)/1500-4000rpm

 新しい直噴ターボエンジンの排気量は1.2リッターだ。これぐらいの排気量だと世の中では3気筒も増えているところだが、今回の「8NR-FTS」は4気筒となる。そしてトランスミッションにCVTを組み合わせることが大きな特徴だ。

 まずは軽く流すと、最大トルクを1500rpmから発生させているスペックのとおり、低回転域から十分なトルクが出ていることが分かる。また、エンジン自体を見ると、ターボチャージャーや水冷式インタークーラーなど吸気系が非常にコンパクトにまとめられており、レスポンスを意識したものであることがうかがえるとおり、ターボラグはあまり感じられない。

 エンジン回転が先行して上昇したり、アクセル操作に対する応答が遅れるなどCVT特有の症状もあまり気にならず、むしろCVTだからこそこれだけスムーズな加速フィールに仕上がっているように思えた。パドルシフトでマニュアル操作したときの変速の速度もまずまずだ。スポーツモードを選択すると、アクセルを踏んだ量よりもやや上の回転数を維持しながらマニュアルでシフトアップしたときのように上昇していく。

 ただし、いまどきこれぐらいの直噴ターボなら、最大トルクが200Nmを超えていてもおかしくないところで、ややトルク感としては若干控えめに感じられた。ところが開発者に聞いたところでは、DCTではスムーズさに欠けるし、ATではトルクが唐突に立ち上がりすぎて乗りにくくなる恐れがあることから、燃費だけなくドライバビリティの面でも積極的にCVTをチョイスしたのだという。その意味では、仕上がりは開発者の狙ったとおりということのようだ。

 さすがに素早いアクセルオンでついてこないことなど、CVTの宿命を感じる部分もあるものの、全体としてダウンサイジング直噴ターボとCVTというのは、けっこう相性がよいものだなと感じた。とくに日本の交通事情下でのメリットは小さくないように思う。

俊敏なフットワークは健在

 足まわりについて、もともと2代目オーリスのリアサスペンションは1.5リッターの2WD車がトーションビーム、4WD車と1.8リッターの2WD車がダブルウィッシュボーンと差別化されていたのだが、最上級グレードの「120T」には、もちろん後者が採用された。

 走ってみてまさに“直感”するのが心地よい俊敏さだ。単にステアリングがクイックなだけでなく、操舵に対してあまり応答遅れなく一体になってついてくる。とくにリアまわりに注力したという高いボディー剛性も効いていることに違いない。クローズドコースゆえ、それなりのペースで走ってみると、ノーズがスッと向きを変えるのに合わせて、リアは回頭性をアシストするような感じで流れるが、スタビリティは低くない、という感じのハンドリング特性であることが分かる。

 乗り心地も、トーションビームではもう少し突き上げ感があったように記憶しているところ、こちらはしなやかだ。振動の収束も早い。さらに運転支援装置も大幅に進化した。自動ブレーキにより衝突を回避できる上限の車速も、一気に高まった。これも新しいオーリスの大きな武器になることに違いない。

 このクラスのハッチバック車というのは、世界中の自動車メーカーがしのぎを削っているわけだが、2代目オーリスはなかなかに見どころのあるクルマではないかと思う。価格も内容のわりに買い得感があり、コストパフォーマンスにも優れるところもよい。

 マイナーチェンジで商品力の向上を図った中でも、とくに今回の直噴ターボエンジン搭載車の追加は、より多くの人にいま一度オーリスに目を向けてもらう、よいきっかけになることに違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛