インプレッション

スバル「インプレッサ スポーツ」「インプレッサ G4」(2014年モデル)

 年々進化するスバル車。「最新のポルシェが最良のポルシェ」という言葉があるように、ポルシェと同じ水平対向エンジンにこだわるスバル(富士重工業)もまた、「年改」という表現で多くのモデルを毎年進化させている。実は、スバルのBOXERエンジン(水平対向エンジン)は今年2月の時点で累計1500万台を生産しているのだ。この数値には改めて驚かされる。世界中でスバル車が認められている証と言えるだろう。

 今回ここで取り上げたいのは2014年終盤に改良が施された「インプレッサ」だ。最近はレガシィやWRXなどが騒がれていたから、その陰に隠れて目立たなくなっているのだが、日本の道路事情にジャストフィットのインプレッサは、今や“スバルのカローラ”と言ってもよいほどの存在感がある。キムタクと並ぶようなタレントを起用して、もっとTV-CMを打ってほしいモデルでもあるのだ。

試乗会の会場では、BOXERエンジン(水平対向エンジン)の生産累計1500万台をアピールするため、最初の搭載車となった「スバル1000」と搭載されたエンジンである「EA52型」も展示された

 さて、スバルはほとんどのモデルでシャシーやサスペンションなどの、いわゆるモジュールやパーツの共有化が進んでいるメーカーだ。そのなかでも基本的な骨格となるシャシーは、2011年に現在の「SIシャシー」と呼ばれるものに進化している。SIシャシーの基本は、フロントがストラット式サスペンションでリアにダブルウイッシュボーン式サスペンションを採用する高度なプラットフォームと言える。現在ではこのSIシャシーがほとんどのスバル車の基本プラットフォームになっているのだ。

 その一番の恩恵を受けているのがインプレッサだと個人的に考えている。例えばカローラのリアサスペンションはトーションビーム式という左右輪が1本の軸で繋がったサスペンションだが、インプレッサはSIシャシーゆえにダブルウイッシュボーン式。つまり、4輪独立懸架方式なのだ。当然、乗り心地やコーナーリング性能に差が出る。エントリーモデルとなる1.6リッターエンジン搭載の2WD(FF)モデルは160万円弱と、ライバルに比べてもリーズナブルな価格設定で、そんなモデルでも4輪独立懸架のリアにはダブルウイッシュボーン式サスペンションを装備しているのだ。個人的に、プラットフォームとサスペンションにおいてスバルは国内のトップメーカーであると考えている。

インプレッサ スポーツ 2.0i-S EyeSight
インプレッサ G4 2.0i EyeSight

 では、なぜダブルウイッシュボーン式サスペンションが素晴らしいのか。F1マシンの前後サスペンションもダブルウイッシュボーン式。F1マシンの走行シーンを思い出してほしい。前から見ると、ボディーからタイヤに延びる数本の棒のようなものがある。1本はフロントタイヤを左右に動かすための「タイロッド」で、ほかに上下に2本の棒があるはず。これが「サスペンションアーム」だ。上がアッパーアームで下がロワアーム。つまり、上下2本のアームを持つサスペンションをダブルウイッシュボーン式と呼んでいる。これに対してストラット式は、下側のロワアームのみを持つサスペンション形式のことを言い、フロントサスペンションに多く用いられているが、高級車は前後ともにダブルウイッシュボーン式が多い。

 では、ダブルウイッシュボーン式サスペンションのなにが優れているのかというと、サスペンションがストロークしてもタイヤの接地面の変化量が少なく、キャンバー角などによる接地面のコントロールが比較的容易にできるのだ。また、ロールセンターというコーナーリング時のロールに関係する中心点の移動が少なく、安定性にも優れている。このようにメリットは多いが、部品点数が多くなってコストが上がることと、サスペンションアームの長さが必要で、ボディースペースが制約を受けるなどのデメリットもある。そのため、大型高級車やスポーツカーに多く取り入れられているのだ。

 そんな高級なサスペンションをリアに採用するインプレッサだが、2014年の改良ではそのサスペンションのショックアブソーバーの減衰力やコイルスプリングのバネ定数の最適化が図られた。同時にステアリングギヤ比が16.0:1から14.5:1へとクイック化され、よりスポーティなハンドリングに進化している。

インプレッサ スポーツ 2.0i-S EyeSightのインパネ。ピアノブラック調パネルを使って質感を向上させたほか、メーターパネルでは大型2眼式メーターをブルーパネル化し、外周に金属調リングを設定。さらにメーター間に3.5インチカラー液晶によるマルチインフォメーションディスプレイを追加した
シート表皮はファブリック/合皮のコンビネーションタイプ。2014年モデルからシルバーステッチが採用され、存在感を高めている
水平対向4気筒DOHC 2.0リッターの「FB20」エンジンは、最高出力110kW(150PS)/6200rpm、最大トルク196Nm(20.0kgm)/4200rpmを発生。リニアトロニックCVTは6速マニュアルモードを備えている

ソフト化したサスペンションフィールとクイックなステアリングを両立

 走り始めて感じるのは、乗り心地がよくなっていることだ。ステアリングギヤ比をスポーティ方向に振っているのでサスペンションもハードにセットし直したのかと思いきや、実際はソフト方向に感じる。これは、主にショックアブソーバーのバンプ(縮み側)の減衰を落としていることが理由とのこと。アブソーバー内バルブのオリフィス径などを変更しているので、リバンプ(伸び側)の減衰変更はないものの若干特性が変わっているようだ。また、スプリングレートにも変更はないが、よりショックアブソーバーの動きがよくなるような処置がとられている。

 そのメカニズムについてはコイルスプリングの端末の形状を変更しているとのこと。そのロジックが興味深いところだが、聞き出すことができなかった。また、リアブッシュを固めているそうだ。なるほど、サスペンションフィールは以前と比べてソフトなのに、スポーティなハンドリングに感じるのはこのあたりのギミックなのだと納得。リアの接地感が高く、ステアリングがクイックなので早いステアリングワークでもクルマが不安定にならないのだ。

インプレッサ スポーツ 2.0i-S EyeSightの走行シーン
インプレッサ G4 2.0i EyeSightの走行シーン

 さて、このハンドリングに関しては17インチタイヤを履くSモデルの方の完成度が高く感じる。16インチモデルでは、若干スムーズさが落ちるように感じるのだ。いずれにしろ、それなりにコーナーリングを攻めると、クルマがロールしてバンプストッピングラバーでロールが制限されたはじめたあと、アンダーステアの傾向にはっきりと変化するのが一般的。この傾向のほうが安全で、16インチモデルははっきりと変化が起こり、17インチモデルは徐々にアンダーステアに変化していく。

 また、ハンドリングだけではなく静粛性と乗り心地も16インチと17インチで異なる。これは主に17インチのSには遮音材、制振材が多く使われていることに起因するようだ。特に後席の乗り心地に関しては、Sのシートの材質が優れていることが大きい。さらに高速走行では、セダンのG4よりも5ドアハッチバックのスポーツの方が静かだと感じる。どちらのモデルにもリアワイパーがあり、スポーツよりもG4のほうが空気の流れ上にワイパーがあるため、わずかに静粛性が異なるのだろう。特に後席に座っていただけにそう感じたのかもしれない。

2.0i-S EyeSightに装着されるダンロップ(住友ゴム工業)製の205/50 R17タイヤ
2.0i EyeSightに装着されるヨコハマタイヤ(横浜ゴム)製の205/55 R16タイヤ
ファブリック/合皮のコンビシートとなるインプレッサ スポーツ 2.0i-S EyeSightの後席。6:4分割可倒式でラゲッジスペースを拡大できる
ジャージ/トリコットを採用するインプレッサ G4 2.0i EyeSightの後席。6:4分割可倒式トランクスルーを採用する

 フロントマスクを一新し、インテリアにもピアノブラックパネルを使うなど、内外装ともに洗練された印象のインプレッサ。さらにアイサイトが第3バージョンに進化してアクティブレーンキープ機能が追加されるなど、さまざまな面でアップデートされている。今後はハイブリッドモデルの登場も予定しているなど、ますますライバル車との競争力を高めることが予想され、目を離すことができない。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:堤晋一