レビュー

【タイヤレビュー】横浜ゴムの最新ハイパフォーマンスラジアル「ADVAN FLEVA(アドバン・フレバ)」

ドライグリップに加え、頼もしいウェットグリップ性能を体感

横浜ゴムの最新ハイパフォーマンスラジアル「ADVAN FLEVA(アドバン・フレバ)」を装着したトヨタ自動車「86」の“ヒョウ柄ラッピングカー”。このヒョウ柄ラッピングカーによるキャンペーンも行なわれている

 横浜ゴムのトップブランドとして知られているADVAN(アドバン)。ピュアスポーツタイヤをイメージするが、ラインアップには高級セダン用のADVAN dB(デシベル)や欧州プレミアムブランドへのOE装着率が急速に増えているADVAN Sport V105などを持っている。

 今回発表されたADVAN FLEVA(フレバ) V701は、ピュアスポーツ系のADVAN NEOVA(ネオバ)の流れを汲みながら、より汎用的に広く軽快なフットワークを目指したタイヤである。実質上、併売されるS.Drive(エス・ドライブ)の後継となるが、乗り心地、ウェット性能など大幅に向上しており、サイズラインアップも豊富で適応車種は幅広い。

回転方向指定を持つフレバ V701のトレッドパターン。ドライグリップ性能に加え、ウェットグリップ性能も確保した新世代のスポーツタイヤ
剛性を高く保ったショルダー部のトレッドパターンと、ステアリングの切り始めの応答性を高くした中央部のトレッドパターン。設置面積重視のデザイン
ハイパフォーマンスカーの標準装着タイヤとなっているADVAN Sport V105と同様のプロファイル。このプロファイルもタイヤの性能を決める1つの要素
ショルダー部のパターンと、中央部のトレッドパターンの間にあるのがライトニングストレートグルーブ。ジグザグ状のラインがエッジ効果を持つという
写真中央に見えるカーブを描いた溝がクロウグルーブ。コーナリング時に有効溝長さを確保するという
近年の横浜ゴム製タイヤではスタンダードとなった凹モールドのブランド名。このこだわりは嬉しいところ
タイヤサイドウォールに刻まれる回転方向指定

 テストドライブは茨城県城里にあるJARI(日本自動車研究所)で行なわれた。快晴で気温はぐんぐん上昇していく中で、さまざまな興味深いテストが行なわれた。特に印象的なのはフレバとエス・ドライブのウェット路面での制動とスラロームテストである。

ウェット路面でのテストドライブ

 全長120mあるウェット路面はスプリンクラーで散水され、路面は通常のアスファルト。いわゆる氷盤を模した低μ(ミュー)路ではない。水深は一定に保たれる。

 ブレーキの制動テストはV-BOXで計測を行ない、計測方法は80km/hから5km/hまでの制動距離を比較する。実際には80km/hを超えたあたりからABSを効かせた全力での制動となり、80km/hになったところから計測を開始し、5km/hとなったところまでの距離を測る。もちろんV-BOXが自動的に計測を開始するので、計測の正確性は高い。

 テスト車両はフレバやエス・ドライブに相応しいトヨタ「86」で、タイヤサイズは215/45 R17だ。

 目標速度に達したところで蹴っ飛ばすようにブレーキペダルを踏み込む。フレバとエス・ドライブで各3回のテストを行なったが、いずれもフレバが24.5m前後でエス・ドライブに対して1m~1.5mの差で短く止まり、体感上でもABSの効くタイミングが遅く感じられた。

 ウェットでの違いが顕著だったのはウェットスラロームだ。初速度を60km/hに設定して挙動をチェックしたが、ステアリングの応答性に差があり(フレバのほうがしなやかにノーズの向きを変える)、リアがサチュレートするスラローム後半部分では、VSCの介入がエス・ドライブはワンテンポ早く起こるため、車速を上げるのは限界があり、ウェットでのグリップ力の違いが分かりやすく評価できた。

エス・ドライブによるウェット路面走行
フレバによるウェット路面走行

 フレバはエス・ドライブ同様に排水に優位な方向性パターンと4本のストレートグルーブを採用しているが、ウェット性能で定評あるADVAN Sport V105からコンバートされたプロファイルで、トレッド面圧をコントロールすることで効率的な排水ができているようだ。さらにウェットで威力を発揮するのがコンパウンドで、タイヤの柔軟性に貢献する大量のシリカを効率よく分散してウェットグリップも上がっている。

 現役のエス・ドライブとの最も大きな違いは、このウェットグリップにあるが、ドライでもフィーリングは異なる。エス・ドライブの持ち味はドシッとした安心感のあるグリップ力で、スポーツカーに限らず多くのカテゴリーのクルマに適応性があるので、スポーツライクなフィーリングが味わえる。

 一方、フレバは応答性が素直でフレキシブルなハンドリングを持ち味とする。同じコーナーで速度を一定にして走った時にライントレース性で僅かに違いがあり、フレバはステアリング操舵角が微妙に小さい。正確なライントレース性が身上だ。個人的にはステアリングセンターの舵保感がもう少しあるとよいのだが、このあたりは嗜好も入るだろう。

 乗り心地はエス・ドライブも意外なほど荒れた路面でのドシンとしたショックはよく吸収されているが、フレバではさらにしなやかで、腰はあるがマイルドな味になっている。

 また快適性のもう1つの要素はノイズだ。摩耗するとノイズが大きくなるのは多くのタイヤに見られるが、グリップを志向するスポーツタイヤは特にその傾向が強い。今回は新車のフォルクスワーゲン「ゴルフ」(225/45 R17)を使用し、フレバ、エス・ドライブとも8000km走行した摩耗タイヤでのノイズチェックを行なった。各タイヤで一定速の60km/hと80km/hでの感覚評価だが、フレバは明らかにパターンノイズが小さく、速度を変えてもノイズの変化は殆どない。磨耗タイヤでもノイズの発生はよく抑えられていることが理解できた。

 ロングドライブではタイヤノイズはジワジワと疲労に効いてくるが、フレバはこの点でもスポーツタイヤとは思えないほどの快適性を保っている。

 摩耗時の静粛性維持には、タイヤパターンの横要素の溝を非貫通にすることで偏磨耗を減らしノイズの向上を抑えるのが効果的とされており、それを実証したのがこのテストだ。

 これらのテストは一般路を模したJARIの外周路で行なったが、適度なワインディングロードもあってなかなか楽しい。この外周路ではゴルフのほかに、プジョー「308GTi」とトヨタ 86、さらにメルセデス「A180」が用意され、それぞれ楽しめたが、特に86とのマッチングのよさが印象的だった。

外周路での走行も確認した

 もう1つハンドリングテストに、旋回試験路に設けられたスラロームとレーンチェンジ、ウェット路面のJターンなどが組み合わされたシンプルなコースが作られており、プジョー「208GTi」とスバル「レヴォーグ」でトライすることができた。

 このコースでは大きな横Gと共にウェット路面に入る設定になっているので、挙動変化がよく分かる。重量の軽いプジョー 208GTi(205/45 R17)では僅かなアクセルコントロールでコーナリングラインをそれほど乱さずに旋回でき、このウェットJターンに続くドライのスラロームでもハンドル操舵に対してしなやかに反応して気持ちがよい。

 一方、重量のあるレヴォーグ(225/45 R18)では、もう少しアクセルを丁寧に扱わなければならないが、レーンチェンジのハンドルの切り返しでもタイヤ剛性がしっかりして、腰があり、レヴォーグらしい軽快感と安定性に磨きがかかる。

ステアリング操作やアクセルの調整は必要だが、急なウェット路面に対しても高い対応力を持つ。タイヤ剛性があり、ウェットグリップ性能も「a」というフレバならではの走行シーン

 フレバ V701は守備範囲が広い。日常の快適な乗り心地と使いやすさはそのままに、よく粘る軽快なフットワークはスポーティさが欲しい多くのドライバーに支持されるだろう。また温帯モンスーン気候の雨が多い日本では、格段に向上したウェットグリップ性能は頼もしい。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛