レビュー
【ナビレビュー】“爆速”を手に入れた新型「サイバーナビ AVIC-CL900」
完全リニューアルで従来比3倍以上の“サクサク動作”新サイバーナビ
2016年8月4日 00:00
市販カーナビの老舗ブランドであるパイオニアのカロッツェリア。GPSナビ黎明期から数々のモデルをリリースしており、ここしばらくはフラグシップとなる「サイバーナビ」、ボリュームゾーンを支えるハイスペックベーシック「楽ナビ」の2本を柱としたラインアップとなっている。
とくにサイバーナビは、いち早く地図メディアとしてDVD-ROMやHDDを採用したほか、スマートループやヘッドアップディスプレイ(AR HUDユニット)、ARスカウターといった先進機能を採り入れるなど、一歩先を行く製品を世に送り出してきた。
そんなサイバーナビだが、この2016年には久々のフルモデルチェンジを実施した。カーナビの場合、モデルチェンジと言っても、前モデルからのキャリーオーバーが色濃く残っていることが多いけれども、このモデルはCPUやストレージといったハードウェアはもちろん、ソフトウェア面においてもOSから刷新した完全なリニューアルとなっている。
新サイバーナビのラインアップは一般的な7V型ディスプレイモデルのほか、ひとまわり大きな8V型ディスプレイモデル、車種専用の音響データまで用意する10V型ディスプレイモデルを新たに用意している。それぞれの細かなスペックは、
製品リリース時の記事や発表会の記事などを参照してほしいが、ここで触れておきたいのは、8V型&10V型モデルは画面の解像度がこれまでのワイドVGA(800×480ドット)からワイドXGA(1280×720ドット)になったこと。
PCやスマートフォン、タブレットといった機器の高解像度化が進むなか、カーナビだけが取り残されていた感があったけれど、ようやくこうしたモデルが出現したのは嬉しい限り。ただし、現状では8V型&10V型モデルも、データは7V型モデルと同じワイドVGAベース。ワイドXGA表示はスケーリングによって実現している。ドットバイドット表示ではないため、美しさがスポイルされているのは残念だ。
さて、この新サイバーナビは幅広いラインアップを持つのが特長の1つとなっている。今回のレビューではその中から8V型ディスプレイ搭載の「AVIC‒CL900」をチョイス。いつものコースを走ってみた。本機には通信モジュールが同梱されていないため、今回はスマホを使ったテザリングによりスマートループ渋滞情報を取得している。BluetoothだけでなくWi-Fiテザリングも利用可能と、必要に応じて接続方法を選べるのが嬉しい。 ただ、一部モデルはまだ発売前であり、加えてシリーズそのものがまったくのブランニューモデルとあって、取材日時点では試すことができない機能もあったことをお断わりしておく。
具体的にはドライブサポート系の機能を実現する「マルチドライブアシストユニット(MAユニット)」付きのセットは発売日が9月、音楽配信サービスである「ミュージッククルーズチャンネル2」についても端末となるスマートフォンの関係で試用ができていない。ナビ機能では「フリーワード音声検索」やサーバーを使ったルート探索は、今後のアップデートで実装されるため、今回のレビューでは速度面の向上など、新型サイバーナビの基本機能を紹介していく。
ブランニューはダテじゃない! 従来比3倍以上を謳うレスポンスアップを実現
サイバーナビはパイオニアのカーナビにおけるフラグシップであることはもちろん、数ある市販カーナビの中でもトップクラスの高機能モデル、いわゆるハイエンドナビだ。その反動か、ここしばらくのモデルでは「レスポンスのわるさ」が課題となっていた。もちろん、それは同社でも認識しており、たびたび高速化を図ってきてはいたものの、「高速化→機能追加による速度低下→高速化」というループに入ってしまっていた。
このスパイラルから抜け出すための手段が、完全リニューアルによる従来モデルからの脱却だったわけだ。
こうした流れを汲んで誕生した新サイバーナビは、同社曰く「従来比3倍以上」の高速化が図られているという。だが、「高速化、高速化って言っても実際どうなのよ」と疑問に思う読者も少なからずいるハズだ。これはどんなに言葉で表現しても分かりにくいと思うので、まずは動画を見ていただきたい。
これまでにサイバーナビを使ったことがある人はもちろん、他社のカーナビを使っているユーザーから見ても十分に「速い」と言えるレベルではないだろうか。とくに目的地検索~ルート探索といったカーナビの主要操作となるシーケンスでの効果は絶大で、以前のモデルなら数分かかっていた操作を数十秒で完了するほど。
地図操作においても、感圧式から静電式に変更されたタッチパネルのフィーリングはまさに「サクサク」。ピンチイン、ピンチアウトといったスマホライクな操作だけでなく、8方向タッチによるスクロール、ダブルタッチ/2点同時タッチによる地図の拡大/縮小といった操作も踏襲しており、従来モデルからの乗り替えユーザーもスムーズに操作することが可能。慣れてくるとシチュエーションによって使い分けることで、よりスピーディに目的の操作を行なうことができるなど、スピードアップは使い勝手の面にもよい印象をもたらしている。
また、動画は用意していないけれど、起動時間もかなり速くなっている。駐車場からすぐに目的地を探して出発したい、なんてときにも素早くスタートできるようになった。
操作という面では、これまで楽ナビに用意されていた「スマートコマンダー」がサイバーナビにも対応したのが大きな変更点。その上、楽ナビのコマンダーは赤外線による通信を行なっていたため装着場所が限定されていたが、サイバーナビ用ではBluetooth接続を採用。置き場所を選ばなくなったのは嬉しい。それ以外の部分は、ジョイスティック+ロータリーボリューム、「NAVI」と「AV」ボタンに加えて、任意のコマンドを直接実行できる2つの「カスタムダイレクトキー」を装備するといった点に大きな変更はない。ジョイスティックのボタンを押すことで実行できる「ダイレクトメニュー」はやはり便利だ。
ただ、カスタムダイレクトキーに割り当て可能な項目は、2015年モデルの楽ナビから追加された「ビューモードを切換える」「地図スケール切替え(500m/登録/25m)」といった項目がなくなっている。便利な機能だと思っていただけにちょっと残念だ。残念ついでにもう1つ書くと、AVとナビの操作を切り替えるスライドスイッチが小さく、どちらのモードになっているのか分かりにくいのも難点。簡単に動いてしまっては困るものの簡単に動かなければ面倒と、相反する部分だけに難しいところだけれども、大きめのシーソースイッチを使うなど、なんらかの工夫がほしいところだ。
新しくなったインターフェース&デザイン
メニュー体系は大幅な変更が加えられている。まず、本体に設けられたハードキーから「MENU」ボタンがなくなり、新たに「ホーム」ボタンが設けられた。「ホーム」の画面には自分がよく使う機能をセットしておくことができ、ボタンサイズも最小サイズとなる1×1のほか、横方向に拡大した1×2、縦横に拡大した2×2とサイズ変更できる。メニューからサイズを選ぶのではなく、画面上で直感的に変更できるのも便利だ。このホーム画面からは左右にフリックすることで「AV」「ナビ」のメニューなども表示できるようになっている。このあたりもとても分かりやすい。
地図画面も大きく変わった。地図フォーマットを変更したことにより表現力が大幅にアップしたことに加え、新たに採用した新型液晶パネルにより色階調表現も向上。従来モデルよりもスッキリと明るく、美しい地図となった。2015年モデルの楽ナビから導入された「冠水注意地点表示」「一時停止表示」「ゾーン30エリア表示」といった安全運転サポート系の表示にも対応している。
こうした地図画面には、操作ボタンやロゴマーク、各種アイコンが表示されているのが一般的。地図上の表示は便利ではあるものの、あまり情報が多くなると逆に見づらくなってしまう場合もある。そんなとき、今までならメニューから項目を選んでいちいちON/OFFの切り替えをしなければならなかったが、新サイバーナビでは「マルチレイヤマップ」という概念を導入。レイヤごとに簡単に設定可能としたのだ。しかも、このメニューは画面上部から下にフリックすることで現れる「インスタントメニュー」で呼び出し可能。今までなら「面倒だからそのままでいいや」となっていたところを、カンタン操作で変更を加えることができる。「地図上の情報は必要なときだけ表示したい」というコダワリ派のユーザーにはとくに嬉しい機能なのだ。
それ以外にも、フリーワード検索時に入力した文字から先読みして候補を表示してくれる「サジェスト入力」、検索時の候補表示画面で目的の施設の頭出しが簡単にできる「インデックスサーチ」など、地味ながら便利な機能が数多く搭載されている。しかも、処理速度が上がっているだけにこうした操作がきわめてスムーズ。ストレスなく気持ちよく操作できるのは、新サイバーナビの大きな美点と言えるだろう。
爆速ルート探索と安心ルート案内
ルート探索は「推奨/有料標準」をベースに、「推奨2/有料標準」「推奨/有料回避」「推奨2/有料回避」「時間優先/有料標準」「幹線優先/有料標準」の計6パターンを用意。従来用意されていた「エコ優先/有料標準」が姿を消し、「時間優先/有料標準」に変更されている以外、見た目には変わっていない。通信を利用して膨大なデータを持つサーバー側でルートを探索する「スーパールート探索」も用意されているが、バージョンアップでの対応となっているため今のところ利用することができないのは残念だ。
とはいえ、従来機ではけっこうなストレス要因となっていたルート探索は、新サイバーナビでは「爆速」といっても過言ではないほど速くなった。推奨1ルートだけなら瞬時だし、6ルート探索だって誇張ではなくまさにあっという間だ。
設定されたルートを走り出してみると、従来機とはちょっと違うことに気づく。分岐点での案内を行なう交差点拡大図はだいぶデフォルメ度がアップし、主要道とそれ以外はグレーの明度を変えて表示するようになった。平たく言えば「シンプルな方向になった」ってことだけれども、実際に交差点でチラ見するとこれがとってもイイ感じに分かりやすいのだ。また、サイバーナビで伝統的に用意されてきた「オートアングルチェンジ」のようなエンタメ系の案内は消滅。ちょっと寂しいような気がするけれど、実用上はまったく気にならない。その一方で、パフォーマンスの向上によりリルート速度は大幅にアップ。案内と異なる方向に進んでから5mも走るとリルートを開始して、すぐに新しいルートが提示された。初めての場所では大きな安心をもたらしてくれるはずだ。
サイバーナビと言えば、ウリの1つと言えるのが自車位置精度。新サイバーナビでは新たに専用ICを中枢とする自車位置精度専用システム「レグルス」を搭載。GPSをはじめとして日本の準天頂衛星「みちびき」、ロシアの衛星測位システム「グロナス」といった衛星からのデータに加え、上下左右、回転方向の加速度&角速度を検出する「6軸3Dハイブリッドセンサー」からのデータを演算処理。自車位置精度が飛躍的に向上している。
とは言ったものの、先代サイバーナビでも自車位置精度はすでにトップクラス。いつもどおり、首都高速道路と一般道が上下に併走する場所や地下駐車場などを走ってみたものの、いつもと変わることなく正確な自社位置を表示し続けた。唯一、若干の違いを感じたのが案内ルートをわざと外れて、高速道路から一般道に下りるというシチュエーション。これまでは側道を半分程度まで進んだところでリルートを開始していたが、本機では「これから側道を下るぞ」ぐらいのタイミングでリルートされた。リルートの速度が上がったためなのか、自車位置精度がアップしたためなのかは判然としないものの、使う立場からは嬉しい結果と言える。
基本を磨いたAV機能
AV面の大きな進化も新サイバーナビの大きなトピック。パイオニアのハイエンドオーディオ「カロッツェリアx」のエンジニアを開発陣に迎え、筐体構造からプリント基板のパターン設計などを一新。パーツに関してもカロッツェリアxと同等の「サウンドマスタークロック回路」を搭載するほか、フルカスタムオーディオ用アルミ電解コンデンサー、ナビ専用大容量コンデンサー、果てはノイズ低減に貢献する銅メッキビスまで採用するなどこだわり抜いた内容となっている。
この音質面については、別途レビューをする機会もあると思うので、それをお待ちいただきたい。
最後に対応ソースにも触れておくと、フルセグ地デジTV放送をはじめ、CD/DVD、USBデバイス、SDメモリーカード、Bluetoothオーディオ、iPhone/iPodといったところ。音楽CDを録音するミュージックサーバーはHDDレスとなったため、楽ナビと同じくSDメモリーカードに保存するスタイルへと変更されている。
新型サイバーナビの魅力は?
インターフェースや使い勝手はとてもよくできているし、動作もサクサク。詳細な渋滞情報を取得できるスマートループも実用的で便利だ。これだけでも十分にカーナビとしては「買い」といえるレベル。ただ、サイバーナビを購入候補に挙げるユーザーが望むのは、フラグシップならではの高機能。「MAユニット」やサーバーを使った機能が使えるようになってからが本領発揮となるハズ。最終的な評価はそのときまで持ち越しとしたい。
とはいえ、サイバーナビファンにとっては長年の懸案がクリアになったのは嬉しいところ。新型は多くのユーザーが待ち望んでいた「サクサク動作のサイバーナビ」に仕上がっているのは間違いない。