レビュー
音楽力を高めた新型「サイバーナビ」でミュージッククルーズしてみた
“0999系”サイバーナビの音楽ストリーミングを試す
(2015/7/10 00:00)
5月下旬より順次発売されたカロッツェリア(パイオニア)の新型「サイバーナビ」。8V型ラージサイズの「AVIC-ZH0999LS」「AVIC-ZH0999L」、1DIN+1DINの「AVIC-VH0999S」「AVIC-VH0999」、200mmワイドサイズの「AVIC-ZH0999WS」「AVIC-ZH0777W」、2DIN「AVIC-ZH0999S」「AVIC-ZH0999」「AVIC-ZH0777」がラインアップされている。
この内、型番に“0999”が含まれるものがいわゆる“0999系”モデルとして、音楽ストリーミングにパイオニア独自の楽曲解析技術を加え、新たな音楽ソースとしてまとめあげた「ミュージッククルーズチャンネル」を実装した製品になる。今回、1DIN+1DINのAVIC-VH0999Sを搭載したクルマを使って、サイバーナビの新たな音楽力を試してみた。ナビ機能などの詳細なレビューについては別記事を参照していただきたい。
音楽聞き放題感覚を味わえるミュージッククルーズチャンネル
音楽ストリーミングを実現するミュージッククルーズチャンネルは、スマートフォンに専用アプリ「ミュージッククルーズチャンネル」を入れ、サイバーナビとBluetoothで接続することで基本的な設定を完了する。音楽ストリーミング配信は、携帯電話の「着うた」などで知られるレコチョクが担当。配信料は年間税別3000円となっているが、サイバーナビを購入すれば1年間の使用権が付属するため、初回起動時から1年間無料で楽しめる。
ミュージッククルーズチャンネルアプリに契約情報を入れ、一度サイバーナビとBluetooth接続が確立できたら、後はスマートフォンをあれこれ操作する必要はなくなる。アプリの起動や選曲までもサイバーナビの画面から操作でき、電話の着信があればハンズフリーでの通話にスムーズに移行できる。音楽も電話着信もBluetoothで制御されているからなのだろうが、スマートフォンの存在を意識せず、ドライブに集中できるのは、安全性の面からも大切なことだ。
配信曲数は、発売当初ですら130万曲と膨大なもので、今後順次増えていく。この配信曲を1曲1曲検索して聞くのではなく、あらかじめ用意された、「ヒッツ」「特選アーティスト」「マイチャンネル」というメニューから選択。ヒッツの中には「J-POP新着ヒッツ」「最新アニメ主題歌」「初夏ドライブで聞きたい50曲」などのテーマ別特選チャンネルが、特選アーティストの中には「小室哲哉」「ケツメイシ」「映画音楽大全集」などアーティスト別特選チャンネルが用意され、それぞれ約30曲の楽曲で構成されている。
実際に曲を聞こうと思い、信号待ちの最中にサイバーナビを操作してみたが、「AVmenu」の右上にあるので見つけやすいし、押しやすい。ミュージッククルーズチャンネルボタンを押した後に出る、「ヒッツ」「特選アーティスト」「マイチャンネル」も大きなボタンとなっており、使いやすさを優先したデザインなのだろう。
まずは「ヒッツ」を選択。その後はいつものメニューの大きさになり、「J-POP新着ヒッツ」を選んでみた。すると流れた曲は、西内まりやの「ありがとうForever...」。ジャケットデータも表示され、右側には楽曲の属性を解析して次の曲をお勧めするレコメンドチャンネルのボタンが並んでいる。このレコメンドチャンネルが単なる音楽ストリーム配信と異なるところで、楽曲の属性を独自解析して最大24種類のお勧め楽曲群を生成。テーマに沿った楽曲群に分岐していくことになる。自動で曲の属性を解析しているのも大したものだが、再生中の曲と同じテーマの曲を見つけ出してくるのは、膨大な楽曲を提供できる音楽ストリームサービスを利用できるメリットだろう。言わば、音楽に詳しい友人が24人いて、「この曲なら○○だから、組み合わせる曲はこれなんじゃね?」と、教えてくれるようなイメージと思えば間違いない。ただし、同時に表示されるのは3つまでで、切り替えるにはチャンネル更新ボタンを押す必要がある。座席は3つ、友人は最大24人、安全操作のために席を取り合っていますということになる。
レコメンドチャンネルボタンが横長に伸びていることもあるが、なんとなく昔見たカセットテープのケースを思い出した。音楽CDが高価だったころ、レンタルレコード屋(記者の住んでいた三鷹は、レンタルレコードの大手に成長した「黎紅堂」が1号店を開いたところになる。もちろん、すぐに会員になっていた)で最新LPを借りて、一度メタルテープに録音して自分マスターを作成。それを、こんどはテーマ別にダビングして、クルマ用のカセットテープを作っていた。もちろんその際は、炎天下のクルマの中で放置しても困らないよう、安めのテープを使うなどの工夫はしていた。
そもそもクルマの中でレコードをかけることはできないので、音楽を聞きたければカセットテープを使うしかない。音楽CDが発売され、車載用音楽CDプレイヤーが出てからは、わざわざそんなことをしなくなったが、それまではカセットテープはマストな機器だった。
話がまったく横にそれたが、レコメンドチャンネルは、楽しい機能だ。そのまま聞いていても次の曲に行くが、あえてあるボタンを押すと、そのテーマの曲がながれてくる。1人で運転していると、「なるほど、この曲が来るのか」とか、「それは違うんじゃね?」みたいな1人突っ込みを繰り返すことになるので、大勢で楽しんでほしい機能だ。
そのほかマイチャンネルという機能があり、これは自分好みのオリジナルチャンネルを作ることがえできる機能。「1960年代リリース」「2010年代リリース」といった時代や、「明るい」「暗い」「出会い」といった気持ちなど、レコメンドチャンネルとして提示される複数の属性などを使って楽曲集を作り上げるもの。最大3つまで組み合わせることができるので、「夏」×「海」×「出会い」で、これからの季節にぴったりのオリジナル楽曲集を作り上げるのも楽しい。
このミュージッククルーズチャンネルでは、スマートフォンに歌詞情報も表示でき、別売のモニターを使えば、その歌詞情報を大きく映すこともできる。複数乗車でのドライブであれば、運転者以外は歌詞も見ながら音楽を楽しめる。さらにサイバーナビでは「BGM mode」も用意されており、ボーカル帯域の音量低減。要するにカラオケのように音楽を楽しめるわけだ。
このBGM mode以外にも、楽曲の美味しい部分をノンストップ再生するという「MIXTRAX」ボタンも用意。これを押すと、パイオニア独自のテクノロジーによりAメロ・Bメロ・サビを再生する「SHORT」と、イントロとエンディング付近の無音再生をほぼなくして楽しめる「LONG」と、2つのミックス再生が楽しめる。ミックス好きの人にはおもしろい機能だと思われるが、自分自身は音楽を最初から最後まで聞きたいほうなので、「なるほど」と思った程度になる。
音質は128kbitのAAC。これによるスマートフォンのデータ通信量は、10時間で0.8GB程度。スマートフォン内にキャッシュもされるので、トンネルなど電波の途切れたときにも、曲が途切れないよう工夫されている。
高音質化された“0999系”サイバーナビ
“0999系”サイバーナビでは、ユニットの高音質化が図られている。そもそも従来のサイバーナビも、カーナビとしては抜群の高音質ユニットだったが、従来よりハイグレードなオペアンプ、セラミックコンデンサの採用などでさらに高音質化。バイアンプ接続も可能になった。
バイアンプ接続は、サイバーナビからの4ch出力を、フロント2ch+リア2chに分配するのではなく、フロントのみで使い切ってしまう方式。フロントの片側のツイーターとウーファーをそれぞれ各1chで駆動、それぞれに割り当てることで、スピーカーをシッカリ動かしていく。
このバイアンプ接続で利用可能なスピーカーは、手軽なカスタムフィットスピーカーで、新製品の17cmセパレート2ウェイスピーカー「TS-C1720AII」と、ハイエンドの「TS-V172A」で、パイオニアのデモカーにはTS-V172Aがフロントに、両面駆動HVTサブウーファーのTS-WH1000Aがリアのラゲッジルームに取り付けられていた。
多くの人は、カーオーディオ空間を構築する際、フロント2ch、リア2chの4ch構成としているだろう。これは車室全体に音が行き渡り、囲まれ感のある音場空間を作り上げることができる。ただ、人間の耳は2つしかなく、音楽ソースもステレオであるのなら、本来は2chあれば十分な立体音場空間を作り上げられるはず。バイアンプによるサイバーナビの2ch再生は、スピーカーに適切なエネルギーを供給することで、そうしたしっかりした音場再生を目指す助けになるものだろう。
では、実際にデモカーの音を走りながら聞いてよかったのかと問われると、「あまり音を追い込んでいる雰囲気はないながら、すっきりした解像感のあるきれいな音が聞こえてくる」というもの。メインユニットがカーナビでもあり、しかも内蔵アンプ。激しく感動することはないが、かといって、よくない音と指摘できる人は1人もいないだろう。音の世界はなかなか奥が深いが、ある程度までいってしまえば後は好みの問題。“0999系”のサイバーナビは、その好みの問題で語ってよいメインユニットだと思う。
実は“0999系”のサイバーナビの音のよさに気がつくのは、ほかのクルマに乗ったとき。とくにデッドニングやオーディオチューニングされていないクルマに乗りかえると、「あ、“0999系”のサイバーナビって、音がいいいんだ」と気がつく。素直でスタンダードな音作りなのだろう。外部アンプを導入して音作りする際のベースとしては、とても適したポテンシャルを持っているのではないだろうか。
今回、音の評価には、自身のロスレスによるiPodライブラリーを用いた。The Beetles「Anthology 2 DISC1 Yesterday」や、パイオニアのサウンドコンテストでも使われた「さよならの夏 〜コクリコ坂から〜」など、音場感の難しめのものもしっかりと鳴ってくれる。揚々ととか、艶やかにとかではなく、誠実に鳴るという印象だった。
カロッツェリアのサイバーナビは、パイオニアのトップ製品であり、さまざまな意思が込められているのだと思う。ナビとして機能はもちろんトップクラスながら、「楽ナビ」シリーズの性能が底上げされた結果、自車位置精度やルートの適切さ、地図の鮮度など、ナビとしての最重要機能にそれほどの差はなくなっている。
そこで近年のサイバーナビでは、AR機能によるクルーズスカウターや、AR HUDなど、ドライバーの運転する楽しさを増す方向に機能追加されてきたように思える。ところが“0999系”モデルでは、8型の追加などトピックはあるが、メインに打ち出しているのは音楽聞き放題のミュージッククルーズチャンネル。“音楽”の新しい楽しみ方を提案してきた形だ。
ミュージッククルーズチャンネルのカセットテープ状の(と自分には見える)レコメンドチャンネルボタンを視界の隅に捉えながら運転していると、そういえば車載音楽CDプレイヤーも、音楽CDチェンジャーも、HDDによるミュージックサーバーも、初めて購入して楽しんだのはカロッツェリア製品だったことを思い出す。“0999系”サイバーナビは、カセットから音楽CD、そしてHDDからメモリへと変わってきた音楽ソースが、クラウドからの音楽ストリーミングに変わるきっかけとなる製品なのだろう。
唯一気になったのは、スマートフォンによる歌詞情報表示。これは、ドライバーは見てはならないため、まったく楽しくない機能だが、助手席やリアシートに座る人に取っては、とても楽しい機能。ミニバンにリアモニターを導入すれば、盛り上がること間違いなしだが、「サイバーナビはカラオケナビに進化していくのか?」と、ちょっと悩んでしまった機能だった。
“0999系”サイバーナビは、カセットや音楽CDで数十曲、音楽CDチェンジャーで百数十曲、HDD録音やメモリで数千曲〜数万曲と増えてきたメインユニットの能力を 、音楽ストリーミングの機能を取り込むことで130万曲(あくまで当初の数字)へ2桁ジャンプアップさせた。さらに独自の音楽解析技術で使いやすいよう工夫してある。新型サイバーナビの登場は、 「そういえばあのサイバーナビからクルマの音楽ストリーミングって当たり前になったんだっけ?」と記憶される製品になるだろう。