レビュー
【ナビレビュー】音楽ストリーミングが加わった「サイバーナビ AVIC-VH0999S」
「ナビ好き向けの孤高の存在」から裾野を広げようと一歩を踏み出した!?
(2015/7/8 00:00)
カロッツェリアのカーナビに初めて「サイバーナビ」の名前が付けられたのは1999年のこと。以来、同シリーズはフラグシップモデルとして、常に新しい機能を取り込みつつ進化を続けてきた。目立つところだけでも地図メディアにHDDを採用したり、プローブ情報を活用した「スマートループ渋滞情報」を搭載したりと、カーナビの進化に影響を与えてきた。
その最新型、2015年モデルのメインストリームとなるのが“0999系”だ。ラインアップはサイバーナビで初めて8V型モニターを採用した「AVIC-ZH0999L/LS」、200mmワイド2DINサイズの「AVIC-ZH099W/WS」、2DINサイズの「AVIC-ZH0999/S」、1DINサイズのインダッシュモニターと1DINサイズの本体を組み合わせた「AVIC-VH0999/S」。末尾の「S」の有無は「クルーズスカウターユニット」と「通信モジュール」が同梱になるか否かの違い。
合計4タイプ8機種のなかからレビューに用いたのは、1DIN+1DINメインユニットの組み合わせとなる「AVIC-VH0999S」。ハードウェア的には100GBのHDD、7V型ワイドVGAディスプレイ、CD/DVDプレイヤー、SDメモリーカード対応、USBマスストレージクラス対応、Bluetooth内蔵などなど。それに「S」付モデルなのでクルーズスカウターユニットと通信モジュールも付いてくる。フラグシップにふさわしい、まさに全部入りモデルだ。
専用音楽ストリーミング機能を搭載
2015年モデルの目玉となるのが「ミュージッククルーズチャンネル(MCC)」だ。これは「着うた」などの音楽配信を手がける「レコチョク」との協業により実現した音楽ストリーミング機能で、130万曲以上の楽曲をBluetooth接続したスマートフォン(&専用アプリ)を介して楽しめるもの。
カロッツェリアのナビにはもともとHDDに音楽を録音して楽しめる「ミュージックサーバー」が搭載されているけれど、音楽CDなりデータなりを持っていることが前提になる。要は手持ちの音楽を車内で楽しむ機能なワケだ。一方、MCCは「ヒッツ」や「特選アーティスト」といったチャンネルを選ぶことで、ラインアップされた曲を聞くことができる。チャンネル数は約50種類用意されており、一定期間で更新。さらに各チャンネルは約30曲で構成されるため、新曲はもちろん、今まで聞いたことがなかったジャンルやアーティストの曲に出会うことができるワケだ。また、パイオニア独自の楽曲解析技術により、配信されるすべての楽曲の「ジャンル」「テンポ」「時間帯」「気持ち」などによってレコメンドチャンネルを自動生成。選んだレコメンドチャンネルに合わせて選曲してくれる機能も用意されている。
この機能を使うためには、まずスマホ(Android/iPhone)に対応アプリ「ミュージッククルーズチャンネル」をインストールしておくことが必要。次にBluetooth接続を確立させる。ここまでやっておけば、あとは「AVメニュー」にある「MCC」アイコンをタッチするだけで、アプリが自動的に起動して使えるようになる。このあたりは“専用”ならではのお手軽さだ。128kbit AACデータによるストリーミングってことで音質が気になるところだけれど、走行している車内で聞くには十分と思える音質だ。
それに、街中やTVなどの媒体で音楽に触れる機会が少なくなっている現状もあって、聞いたことのない曲をたくさん聴くことができるのは新鮮な感じ。前述したように1つのチャンネルには約30曲が入っていて、キャッチーな曲が混ざっていると何気に覚えていて、2回目に耳にしてチャンネルがひとまわりしたのに気づいたりする。2時間程度は掛かっているはずなのに、新鮮さもあってか意外と短く感じられてしまう。また、データは3曲分ほどスマホ内にキャッシュされるため、トンネル内で通信が途切れたりしても安心だ。実際、テスト中もずっと流しっぱなしにしていたけれど、曲が途切れてしまうことはなかった。
MCCはレコチョクの「replay」というサービスを利用しており、年額3000円(税別)が必要となる。しかし、サイバーナビには1年間の使用権が付いているため、その期間は無料で利用できるのが嬉しい。もう1つコストが発生する要因となるのがスマホのデータ通信。データ量は10時間で0.8GB〜1.1GB程度とのことで、ヘビーに使うなら定額プランに加入しておくのが必須となる。
と、運用には若干のコストが必要にはなるものの、ボーカルをキャンセルする機能に加え、スマホやリアモニター(オプション)に歌詞を表示する機能を用意。カラオケが楽しめるなんてプラスアルファ的な要素も持っている。あらかじめ音楽CDなどを用意しておく必要もないので、帰省のような旅行で長時間ドライブするときに強い味方になってくれそうだ。
ナビ機能は先代をほぼ踏襲
カーナビ面ではメニューボタンを押した際などに表示される「セントラルメニュー」を一新。目的の操作が見つけやすくなったのが見た目での大きな変更点。
機能面では「フリーワード音声検索」時の認識率がアップしたのがポイント。これは辞書と音声認識エンジンの追加によるもので、長い施設名なども確かに一発で入力OK。クラウド型の宿命で、長いときには認識に20秒程度掛かってしまうものの、多少長いワードでもかなりの確率で正しく入力できた。短いワードだとタッチパネルで入力した方が速いこともあるけれど、10文字以上あるようなワードなら逆転して音声の方が速く入力可能! カーナビに音声入力が搭載されるようになって結構経つけれど、これなら入力方法の主役の座をゲットできるパフォーマンスがあるレベルだ。
地図表示は普通の2D表示「ノーマルビュー」のほかに、3Dタイプの「スカイビュー」、ドライバー目線の「ドライバーズビュー」、左右2画面で異なる縮尺や視点の地図を表示できる「ツインビュー」、音楽や映像と地図を同時に表示する「AVサイドビュー」など豊富なモードが用意されている。加えて施設名などの文字情報を拡大したり、道路を目立つ表示にしたり、100mスケールに一方通行表示を加えたりと、好みに合わせてカスタマイズできる。これらの切替が「ビュー」メニューから簡単に行えるのも便利だ。
地図画面でサイバーナビらしい機能となるのが、地図にない道路を走行軌跡を元に自動的に作成する「ロードクリエイター」。ただ道路として画面上に表示するだけでなく、ルート探索時にも使えるスグレモノだ。今回はそんなシチュエーションがなかったため実際に試す機会はなかったけれど、あちこちに出かける機会が多いなら嬉しい機能だ。
加えてサイバーナビには、地図や施設データを最新データに更新できる「マップチャージ」を搭載。高速道路や有料道路、主要道路といったあたりは毎月更新されるため、常に最新の地図が使える。しかも、通信モジュール同梱の本機なら、パソコンでデータをダウンロードしてSDカードにコピーしてうんぬん、なんて面倒な作業も不要。これが2018年までは無料で使えるのだから嬉しい(年に2回の全データ更新の際は、SDカードによるアップデートが必要)。
検索機能は前述したフリーワード音声検索をはじめ、「名称/マルチ検索」「住所」「電話番号」「ジャンル」「周辺」など多彩。特に周辺検索ではガソリンスタンドやコンビニ、ATM、ファミリーレストランを検索すると、営業時間内と時間外の施設を異なるアイコンで表示してくれる便利な機能も。ガス欠直前でようやく見つけたスタンドにたどり着いたものの、営業時間外で開いてなかった、なんて寂しい状況とは無縁なのだ。ついでに「Smart Loop」メニューからいくつか階層を掘り下げていく必要があるものの、ガソリン価格も調べることができる。
プローブ情報が威力を発揮するルート探索&案内
同社のナビが持つ最大の強みと言えるのが「スマートループ渋滞情報」だ。実際に走行しているクルマから届く情報を元に渋滞情報を配信する同機能は、VICSがカバーする約7万kmの10倍となる約70万km。事実上、細街路を除く日本国内すべての道路を網羅していることになる。サイバーナビでは2006年から蓄積されてきた情報を元にした渋滞予測データと、走行中のクルマから上がってくる「リアルタイムプローブ」情報を元にルートを探索。「6ルート探索」を選ぶと距離や所要時間などを元に「推奨(有料標準)」「推奨2(有料標準)」「推奨(有料回避)」「推奨2(有料回避)」「エコ優先(有料標準)」「幹線優先(有料標準)」をリストアップしてくれる。膨大なデータを元にしたルートは渋滞予測の確度が高く、到着時刻もかなり信頼できる。ただ、通信を伴うため探索にはそれ相応に時間が掛かるのがちょっと残念なところ。急いで出発したいときにはちょっとイライラしてしまうかもしれないが、経験的にはキチンと結果を見てから出かけた方が、結果的に早いなんてことが多い。まさにウサギとカメ的なアレってワケだ。
探索したルートを実際に走り出してみれば、これはもう快適なドライブが楽しめる。交差点拡大図も一般的なものから、交差点に近づくにつれて交差点周辺から中心へとアングルが変化していく「オートアングルチェンジ」、ドライバー目線で案内してくれる「ドライバーズビュー」、矢印のみでシンプルに案内する「アローガイド」と多彩に用意されている。若干、普通の交差点拡大図が分かりにくい印象だけれども、まぁ、好みの問題といった程度。慣れてしまえば気にならないレベルだろう。
カメラの実写映像と案内表示を重ね合わせて表示する「ARスカウターモード」もサイバーナビならではの機能。最近のナビで多くなった「実写ベースのイラストで案内」なんて面倒なことはせずに、実写をそのまま使っちゃえというある意味チカラワザ的なもの。この機能はルート案内だけでなく、前車との車間距離や走行中の道路の速度制限、横断歩道警告などもあって安全面にも貢献してくれる。
先代モデルからカメラが100万画素になったこともあり、夜間やトンネル内でも鮮明な映像を実現。見ていて楽しいだけでなく、実用的な機能と言える。と、フォローをしつつ重箱の隅を突かせてもらうと、現行モデルのワイドVGAディスプレイではさすがにもう力不足。せっかくの高解像度映像が生かし切れていない感が強い。ここらでどーんとフルHDぐらいまで進化してほしいところだ。
もう1つ、このカメラを使って実現しているのが、特定のポイント画像を共有できるクラウド型情報共有サービス「スマートループ アイ」。撮影&アップロードは自動的に行われ、ナビ画面にも自動的にポップアップ表示される。山間部で霧が出ているなんてことが分かったり、標高が高い場所の路面に積雪がある、なんてシチュエーションで使うことができればかなり有用になりそう。ただし、アップロードされた情報を見る限り、現状では装着車両がまだまだ少なく、情報が提供されているスポットも限定的だ。まだ道半ばなところで、今後の動向に期待したい。
カロッツェリアナビならではの自車位置精度は健在。高速道路と一般道が上下に並んでいる場所や、GPSの電波を受信することができない地下駐車場、さらには一般道のアンダーパスと側道といった微妙なポイントなど、ほかのナビが苦手とするような場所でも完璧な精度を発揮した。こういった場所で道を間違えてしまっても、リルートはほぼ瞬時に行われるので安心だ。さらに、そんな精度があってこその駐車場マップもありがたい存在。大規模な駐車場や出入口が複数あるなんて場合は本当に便利だと思う。カーナビならではの機能なので、ぜひ収録ポイントを拡大してほしいところだ。
さらなる音質アップを実現
AV面でのトピックはバイアンプモードの追加だ。「それってナニよ」って人のためにカンタンに説明すると、通常ナビが持つ4ch出力は前後左右のスピーカーに対して各1chずつを利用する。フロントドアにツイーターとウーハーが設置されている場合、1chを分岐させて使うことになる。
これがバイアンプ接続では1つのスピーカーに対して1ch使えるようになる。例えばフロントドアのツイーターとウーハーで各1ch、それを左右で計4chって具合。例えばタイムアライメントを利用する場合、通常ではウーハーとツィーターを同じ数値にするしかなかったのが、バイアンプ接続では別々の数値を指定できるようになるので、音圧や距離をより明確に設定できる。この場合、リアスピーカーが使えなくなるのでサラウンド的な包まれ感はなくなってしまうものの、いわゆる前方定位の音場空間が手軽に楽しめるワケだ。
対応ソースは、冒頭で書いたMCC以外は従来どおり。フルセグ地デジ放送をはじめ、最大1万2500曲の録音が可能なミュージックサーバー、CD/DVD、USB、SDメモリーカード、Bluetooth(A2DP、AVRCP)などなど。もちろんiPhone/iPodも接続可能だ。
最強の名がふさわしいハイパフォーマンスモデル
カロッツェリアにはボリュームゾーン向けの「楽ナビ」が用意されており、そちらも年々高機能化が進んでサイバーナビにどんどん迫ってきている状況。そんななかでの差別化のキーとなったのがMCC。これまで「ナビ好き向けの孤高の存在」だったサイバーナビだけれども、より裾野を広げようと一歩を踏み出したと言えるだろう。
正直なところ、サイバーナビは機能面では検索、ルート探索、ルート案内、渋滞対応、そして精度と文句の付けようがない。今回は紹介していないけれど、ヘッドアップディスプレイを使った「AR HUDビュー」など、サイバーナビでしか楽しめない先進性も持っている。先代モデルからルート探索やスクロールといった面は高速化され、ほぼストレスを感じることがなくなっている点も大きい。機能面を重視するなら間違いなく購入リストの筆頭に挙げられるモデルだ。
【追記】地図更新の個所に、全データ更新について追記しました。