レビュー
【タイヤレビュー】ダンロップの最新プレミアムコンフォート「ビューロ VE303」(後編)
「プレミアムタイヤらしい快適性と静粛性を味わわせてくれる」
(2013/5/2 00:00)
第3世代のビューロ VE303
2013年2月から順次発売が始まったダンロップ(住友ゴム工業)の「VEURO VE303(ビューロ ブイイー サンマルサン)」に、同社の岡山タイヤテストコースおよび周辺一般道で試乗した。
「ビューロ」シリーズはダンロップが誇るプレミアムコンフォートタイヤ。第3世代となるVE303では、高性能ラグジュアリーカーに相応しいタイヤとして、最上級の静粛性能を軸に、操縦安定性能、低燃費、ロングライフという4つ性能を追求している。
詳細は前編の記事を参照していただきたいが、第3世代のビューロは、プレミアムコンフォートタイヤでありながら、転がり抵抗性能「A」、ウェットグリップ性能「b」の低燃費タイヤとしての性能をあわせ持つタイヤになった。
●ダンロップの最新プレミアムコンフォート「ビューロ VE303」(前編)
http://car.watch.impress.co.jp/docs/review/20130501_597695.html
前世代のVE302とは、入力の伝わり方や音の印象がまったく別物となった
まず、ビューロ VE303と、従来製品のVE302を同じ仕様の新型クラウンに履かせて特殊路面を走り比べた印象から述べたい。
試乗コースの路面には、現実の路上にもよくありそうな何種類かの凹凸が設定されている。そこを車両を乗り換えながら綿密に比較したのだが、第一印象としては、VE303のほうが全体的にとても静かなタイヤとなっていた。VE302もわるくはないものの、VE303に比べると音のレベルは全体的に大きめに感じられた。
途中にやや大きめの出っ張りを越える個所があるのだが、そこでの乗り越え感にも分かりやすい違いがあった。VE302はカドが残ったままパンと入力が伝わってくる感じ。ところが、V303では同じ場所を走行しても入力のピークが丸められ、力の伝わるスピードが落ちているような感覚となっていた。高い車速で通過した場合、あまり違いを感じなくなるのだが、市街地で多用する60km/hあたりまでは、速度が低いほどその違いが出るようだ。
VE302は路面の状況が直に伝わってきて全体的にザラザラ感があるのに加え、ステアリングへのキックバックも大きめ。これが仮にスポーツタイヤであれば問題なく、スタンダードタイヤのようなパカパカとした軽薄な振動ではないのだが、プレミアムタイヤに求められるしっとりとした高級感ではVE303が優れている。転がり抵抗についても、一定速を維持しようとした際に違いを体感することが可能だ。やはりVE303のほうが抵抗感はかなり小さくなっていた。
ウェットグリップも大きく進化
振動や音の変化などを確認した後、VE303とVE302を装着した新型クラウンを、高速周回路と、水をまいたウェットスキッドパッドで乗り比べた。
ウェット路面となったスキッドパッドでは、まずVSCをONにした状態で、限界コーナリングを試すため、定常円旋回を行ってみた。一般的な使用状況であるVSCをONにした状態では、VE303のほうがピーク車速がVE302に比べ1割ほど高かった。ステアリングやシートから伝わってくるグリップ感についても、やはりVE303のほうが全体的に強く、旋回ブレーキを試みてもVE303のほうが完全停止までに要する時間が短い。路面をしっかり掴んでいる感覚があり、ABSがあまり介入しない。とくに止まる直前に違いが顕著に感じられた。
次にウェットグリップの特性を確認するため、VSCを完全にOFFにしてドリフトでの定常円旋回を実施。VE302は比較的簡単にスライド状態を維持することができたのに対し、VE303はグリップ自体が高く、滑らせても回復しやすいので、スライド状態を維持するのが難しかった。本来であれば、より高い車速で回れるのかもしれないが、ウェット路面でのドリフト定常円旋回については、筆者のスキルにおいては従来のVE302のほうがやりやすかった、とお伝えしておこう。もちろん、雨の高速道路や峠道など普段使いにおいては、VE303のウェットグリップの高さが安全走行へと直結しているのは言うまでもない。
高速周回路でのレーンチェンジ特性やコーナリング特性
高速周回路では、レーンチェンジや高速での限界コーナリングをはじめ、いろいろな走り方を試したのだが、乗り比べてまず違いを実感するのは静粛性だ。しかも、同じ構造の特殊吸音スポンジを持つ同社のル・マン 4で見られたような、一部の帯域をイコライザーで下げたような感じではなく、全体的に静かになっている。
ドライバビリティの面でも、VE303はしっかりした剛性感がありながら、硬い感じもない。振動の収束が速く、ライントレース性にも優れる。これには、ある方向には柔軟で、ある方向では強靭さを保つというアラミドの特性も効いていることと思う。また、素早い転舵に対しても腰砕けになる感覚がなく、アクセルを踏み込んで路面を蹴る感覚も頼もしい。一方、VE302ではVE303と比較すると、ゴロゴロと転がる感覚があり、路面の振動が生のまま伝わる感じ。ただし、それがタイヤの動きの“素直さ”にもつながっている。プレミアムコンフォート向けとしてみた場合には“VE303のほうが優れている”となるわけだが、VE302の素直な感触も、まだまだ捨てたものではないが……と思った次第だ。
比較試乗ではないものの、VE303を装着したレクサス「LS」とアウディ「A6」にも試乗した。レクサスLSとVE303の組み合わせは素晴らしいもので、LSの持つ車両自体の静粛性の高さと乗り心地に、VE303の静粛性としなやかさが相まって、まさに極上の快適な移動体となる。
一方、A6との組み合わせでは、クルマとしては優れたドライバビリティを持っているのだが、LSと乗り比べてしまうと、タイヤは静かなのに、車両自体のパワートレイン系などの静粛性があまり優れていないことが目立った。加えて、なぜかドラミングが出ていたり、なんとなくハンドリングに軽薄な印象を覚えた。このあたりはマッチングによるものか、難しいところだと思う。
一般道でのビューロ VE303の印象は?
ここまでは、ダンロップのテストコースでの印象をお届けした。ダンロップのテストコースは岡山県にあり、今回はテストコース周辺の一般道もビューロ VE303装着車で走ることができた。用意されていた車種は、日産「フーガハイブリッド」、BMW「535i」、メルセデス・ベンツ「E250」、トヨタ「アルファード」の4台。
その中で、もっとも印象がよかったのはフーガハイブリッドだ。ハイブリッド車のため、エンジンがかなり頻繁に止まりモーター走行に移行するのだが、そのときでもタイヤの発する音が気にならない。フーガハイブリッドには標準装着タイヤとして同じダンロップの「SP SPORT MAXX TT」という、やや運動性能志向の銘柄が指定されているのだが、それに比べると、突き上げ感がずいぶん抑えられ、快適性はかなり上がっていた。価格の問題などあるかもしれないが、クルマのキャラクターには、ビューロ VE303のほうが合っているように思えた。
BMW 535iは、標準ではランフラットタイヤを装着する。一般的なタイヤより、硬くなってしまいがちなランフラットタイヤに対応するため、部分的に減衰力を落とすなどサスペンションをそれに合わせてチューニングしている上、クルマ自体の特性として、リアサスペンションのマウントが柔らかくなっている。さらに、ステアリングはかなりクイックで、後輪操舵も行なうなど、各要素が複合的にからんで挙動を分析しにくい面がある。それでも、このBMW 535iとの組み合わせではしなやかさがあり、静粛性も高かった。高級車として相応しい快適性を実感することができた。
トヨタ アルファードとメルセデス・ベンツ E250については、さまざまなメディアが休みなく繰り返し試乗していたため、Car Watchが試乗する際には空気圧が上がり過ぎていた。この2車に関しては、評価不能とさせていただきたい。
ビューロ VE303は、トータルバランスを重視し、乗り心地を悪化させることのない範囲で、より操縦性の確保に配慮した印象で、ケーシングやリブに剛性感があり、操舵に対する応答遅れを感じることもない。走行性能になんら不満を感じさせることなく、プレミアムタイヤらしい快適性と静粛性を味わわせてくれるタイヤであった。