レビュー

【タイヤレビュー】しっかり剛性感の高まった新型ミニバン用低燃費タイヤ「トランパス」シリーズ3製品

ミニバン用「トランパス mpZ」、軽用「トランパス LuK」、Lクラス用「トランパス LuII」

 ミニバン専用タイヤという独自のジャンルをトーヨータイヤは1995年に開拓。「TRANPATH(トランパス) mp」と名乗ったタイヤがそれだ。その後トランパスmpは時代に合わせた進化を開始。おおよそ4年のサイクルでモデルチェンジを重ねている。

 2013年末にモデルチェンジした「トランパス mpZ」は通算6代目となる。今回もまた時代の変化に対応した内容となっている。また、それだけでなく、ラグジュアリー志向のLクラスミニバン向けの「トランパス LuII」、そして新たなるトライアルとなる軽自動車専用の「トランパス LuK」が合わせて新登場する。今回はこの3タイプのタイヤについてお伝えする。

ミニバン用タイヤの定番トランパスが、3シリーズになって新登場した。左から軽自動車用のトランパス LuK、一般ミニバン用トランパス mpZ、Lクラスミニバン用「トランパス LuII」

低燃費に加え、剛性感を向上したミニバン用「トランパス mpZ」

袖ヶ浦フォレストレースウェイをミニバンで走行し、剛性感の向上をしっかり感じ取れた

 まずはシリーズの屋台骨といっても過言ではないトランパスmpZ。このタイヤは近年のミニバンの重量増に対応することがコンセプト。安全装備や豪華装備、そしてハイブリッド化によって、近年のミニバンはどんどん重たくなっている。いまや総重量で2t近くになるクルマも珍しくはない。以前に比べれば100kgくらいは重いだろう。

 そんな状況にも関わらずタイヤサイズはこれまでとさほど変わらない。だからこそタイヤ自体で頑張らねばというのがトーヨータイヤの考え方。ミニバン専用タイヤのパイオニアとしては譲れない戦いが始まったのである。

 そこでトランパス mpZは今まで以上にトレッド面のアウト側のブロックを高剛性リブ化。イン側については排水性も考えた細かいパターンとしている。さらに内部の両サイドにはスーパーハイターンアップ構造を採用することで横剛性を向上。これらの対策で重たいミニバンでもシッカリと支えられ、コーナーリングパワーを発揮。ふらつきの低減にも寄与しているという。

トランパス mpZは、サイズによって2種類のパターンが存在する。左が通常サイズ向けのパターン(215/60 R16)、右がワイドタイヤ向けパターン(235/50 R18)
非対称パターンを採用するトランパス mpZ。低燃費タイヤとなっており、転がり抵抗性能は「A」、ウェットグリップ性能はサイズによって異なり「b」もしくは「c」となる。左がイン側、右がアウト側で、各ブロックが大きく、剛性感に配慮されているのが分かる

 そんなトランパス mpZの試乗させていただくのはなんと袖ヶ浦フォレストレースウェイというサーキット。ミニバン専用タイヤでありながら試乗コースにサーキットを用意するくらい、トーヨータイヤは走りに対して自信満々なのだ。

 早速その効果を知ろうと、新旧のトランパス mpの試乗をしてみる。すると、mpZの進化はコーナー1つ走っただけで違いを感じ取れるほどだった。剛性感が明らかに高いのである。特にステアリングのニュートラル付近における操舵感は圧倒的な違いがあり、切り始めから切り込み応答までが連続したフィーリングで得られる。旧製品は切り始めの応答が薄く、遅れてGが立ち上がってくるイメージなのだ。

新旧のトランパスで、サーキットを走り比べてみた

 おかげでタブルレーンチェンジテスト時には揺れ返しも少なく、安定感がかなり増していた。ボディーの揺れが少なくレーンチェンジを繰り返すのである。重量が増したミニバンでもそれを感じさせることなく切り返すところこそ、トランパスmpZのよさといえるだろう。

 こうした剛性感の高さ、そしてコーナーリングパワーの拡大により、ステアリングの切れ角は小さくて済むように改められた。結果として走行後のトレッド面における摩耗肌はわるくなく、ブロックの崩れもほとんど見られなかった。耐摩耗ポリマーを採用し、摩耗ライフを向上させたことも効いているのだろう。重量が増したミニバンでサーキットを走ったにも関わらず、大したものである。

大きく重いLクラスミニバン向け低燃費タイヤ「トランパスLu II」

 続いてご紹介するのはラグジュアリー志向のミニバンに対応したトランパスLu II。アルファードやエルグランドをはじめとする、いわゆるLクラスミニバン向けのタイヤである。このタイヤはトランパス mpZと同様、高剛性によってシッカリ感を確保させた上で、静粛性や乗り心地も大切にしようと考えられたプレミアムタイヤだ。

外観も高級感のあるトランパスLu II。サイドウォールの造形にも配慮されており、足下をしっかり引き締める
トランパスLu IIのトレッドパターン。イン・アウト非対称パターンを採用。右がアウト側

 トレッドパターンはトランパス mpZとは明らかに異なり、低溝容積化をさらに突き進めた印象。ただし、Lクラスミニバンの重量があれば、ウエットは特別問題がないらしい。mpZと同様、コンパウンドの見直しを行い、ウエットグリップを向上させることができたからこそ、このようなトライができたのだろう。また、イン側とアウト側のブロックサイズを変化させることで、剛性を確保しようとした考え方は変わらずだ。しかしながら、イン側とアウト側のブロックピッチを分散させることで、それぞれが発生するノイズを打ち消そうとしているところが見所の1つ。これにより高周波のノイズの低減に成功したという。

トランパスLu IIのトレッドパターンを拡大。転がり抵抗性能「A」、ウェットグリップ性能「b」を達成した低燃費タイヤ。タイヤ構造を強化しているため、大型ブロックを採用しながら、細い溝を切ることでブロック剛性が出過ぎないようにしている。振動や騒音にとくに配慮してあるという

 乗り心地に対する考えはリブに出ている。リブに対して細かな切れ込みを数多く入れているところがポイントだそうだ。すなわち、トレッド面の剛性バランスを適正化することで乗り心地を生み出そうというわけだ。ちなみにトランパスLuIIもシッカリ感を追い求めているため、内部構造はトランパスmpZと同様となっている。その状況でも乗り心地を追及した結果が、このトレッドパターンに表れているのだ。

 そんなトランパスLuIIで街中を流してみる。すると、たしかに高周波ノイズはカットされており、後部座席に座ったとしても快適性はきちんと備わっているように感じた。乗り心地については、先代のLuのようにソフトタッチではないものの、路面からの入力を一発で収束する感覚にあふれており、不快な揺れが感じられないところがよさだと感じた。

 こんな上質な仕上がりがありながらも、サーキットで走ればシッカリ感は抜群。トランパスmpZで感じられた連続性のあるステアフィールと剛性感は相変わらずという感覚が得られた。おかげでLクラスミニバンながらもサーキットを楽しむことさえ可能としてしまったほど。トランパスLuIIは上質さと走りを両立したタイヤだ。

高く進化する軽自動車に対応した「トランパス LuK」

 最後は遂に軽自動車専用のタイヤを立ち上げることになった、トランパス LuKだ。最近の軽自動車は空間を確保するために全高を高くする傾向にあるのは皆さんご存知のとおり。全長や全幅が制限されている軽自動車でいかに室内空間を豊かにするかを模索した結果がそこにある。だが、冷静に考えれば物理的にはバランスのわるい方向へと突き進んでいることは紛れもない事実。全幅と全高の比率は、すでに5ナンバークラスのミニバンよりもわるい数値になるクルマが出てきている。それにも関わらずタイヤサイズは変わらず。だからこそ、軽自動車専用のタイヤが必要になるという答えが出てきたのだ。

 コンセプトや造りに関しては前述した2つのタイヤと何ら変わることはない。シッカリ感を高めること、そしてふらつきを抑制することが狙いである。また、静粛性を得にくい軽自動車を考え、トレッドパターンをトランパス LuII譲りとしているところも面白い。こんなツラ構えをした軽自動車用のタイヤはなかなか存在しない。

軽自動車用のトランパス LuK。こちらも低燃費タイヤとなっており、転がり抵抗性能は「A」、ウェットグリップ性能は「c」
軽自動車用ではありながら、Luブランドのためかサイドウォールのデザインにも配慮。製品ロゴも金型代が高く付く凹文字で刻まれていた
トランパス LuKのトレッドパターン。軽自動車用でありながら非対称パターンを採用。右がアウト側

 走ってみると、ステアリングの操舵感は的確であり、軽用に設計されていなかった旧トランパス mpFと比べればそこには確かに雲泥の差が存在していたことに感心。操舵角を最小限で留めコーナーをクリアして行く様は、まるでスポーツラジアルでも装着したのかと思えるほどである。そんな頼りがいのある仕上がりだったため、編集者とカメラマンの3名乗車でダブルレーンチェンジをはじめとするあらゆるシーンを走ったが不安感は一切なかった。外から見るとかなりロールしているように見えるが、車内はいたって平和なのだ。

 また、ソフトさは感じられないものの、入力を瞬時に収束させる乗り心地や、シャー音を解消しているなどの快適性もマル。全ての走行を終えてタイヤの摩耗肌を見てみてもブロック全体はきちんと保たれていた。これならライフも期待できる。

 このように新たに生まれ変わったトランパスシリーズは、クルマがアンバランスになろうとも、タイヤをシッカリさせることでそれをクリアしようという意図が読み取れるタイヤだった。昔から持つ専用タイヤ思想は、どんな悪条件でもモノともせずということを立証してみせたのである。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。