魅惑の国の交通モラル

赤信号を平然と無視して通過するクルマの多さに驚いた。夜は赤信号で停止するほうが、追突のリスクがあってキケンなところも少なくないのだとか

 韓国のインチョンに1週間ほど出張していました。そこで改めて交通環境について思ったことがあります。自動車大国&先進国はドライバーの質やモラルの高さが必要だと。っていうか、外国から見て良質なクルマを造っているなら、その国の交通意識も高くなくちゃバランスが保てないし、クルマの素晴らしさに対して説得力も欠けるんじゃないかと感じた次第です。その国の中を走るクルマたちがルールを守るのはもちろん、それなりにモラルを持って走行していることで、クルマの魅力だって増すものではないでしょうか。

 実は私にとって韓国は、中国に並んで、できればクルマの運転をしたくない国の1つです。その印象は、初めて訪れたたときのソウルの街中から受けたもので、クルマが多いのはもちろんのこと、あちこちでホーンがけたたましく鳴り響き、最低限のルールは守られているようでも、モラルなど感じられない様子に恐れ慄きました。

 「郷に入れば郷士従え」という言葉ありますから、必要に迫られ「こういうもの」と分かれば最大限の身の安全を考えて運転するのでしょうけど、日本人ドライバーとしての常識やルールがベースの「こういうもの(モラルや常識)」は通用しない。だから運転しなくて済むなら、その方が心身の負担が少なくていいでしょう。ちなみに欧米ではその国のルールを知って運転すれば、日本人の「こういうもの」は通用するという認識を私は持っています。我々の計り知れない“非”常識な部分が多い国ほど運転したくないわけで、そのへんのところはご理解いただけるでしょう。

 ところが先日訪れていたインチョンの郊外はクルマの数もそれほど多くはなく、クルマの流れにも余裕が感じられ、これなら私も運転できそうと思えたのです。欧米の輸入車を見かける頻度も、以前よりも増えました。韓国メーカーのクルマも、古いクルマやどこかのメーカーのコピーを思わせるモデルも少なくなかった中で、デザイン性の高さや質感の向上ぶりが、傍から見てうかがえる機会も多かったのです。

 少し話は逸れますが、例えばヒュンダイの「ソナタ」や、フォルクスワーゲンからやってきたデザイナー、ピーター・シュライヤーが手掛けたキア「K5」など、最新モデルのデザインのカッコよさに目を奪われる機会も多く、韓国メーカーが力を付けてきたことも身を持って感じました。

韓国も郊外でなら運転してみたいと思えたのが、開発が進む松島(ソンド)新都市の街。開発途中ゆえにトラックやダンプカーも多く、信号無視や速度の遅いクルマをあおるように鳴るホーンのけたたましさが、街中には不似合いな印象を持った松島新都市はデザイン性の高いビルやマンションが多く、ビル見学をしながらクルマに乗っているのも楽しかった
ヒュンダイ「ソナタ ハイブリッド」キア「K5」

 デザイン性にも優れる韓国車が颯爽と走っている姿を目にすると、ますます交通環境の改善が感じられるわけですが、運転モラルの高い現地の方のお話を聞いていると、まだまだ油断はできない模様です。例えば信号無視は減らないとか、立場の強いバスをはじめ、タクシードライバーの運転も横暴だとか……。これらは日本の比ではないレベルだそうです。信号無視については実際に毎日、何台ものクルマが赤信号を通過していく姿を見かけましたし、夜は赤信号で止まらない方がむしろ安全というお話でした。貸し切りバスに乗ってイベント会場にやって来た日本人が、バスの運転が荒くて怖かったという話も聞きました。速度が遅いクルマをあおるようにホーンを鳴らすトラックもたくさんいました。広い道路に美しいビルが立ち並ぶ街に似合わない交通マナー。こういう様子を見聞きするにつけ、やっぱり……というか残念な印象を抱くのはムリもないことでしょう?

2009年に完成した総延長が約21kmという仁川(インチョン)大橋。新しい街や道路、立派な橋もできる街並みの中には、スマートなドライバーが運転するスタイリッシュなクルマが似合う。ソウル市内の運転マナーも徐々に改善されているらしく、韓国の交通環境も変わっていくのだろう

 街中を走るクルマの質やデザイン性が上がった現在の韓国だからこそ、もう少しドライバーのマナーが向上していたらいいのに……。もちろん、日本だってドライバーの意識については改善したらもっとよくなると思います。例えば欧州でもドイツなどに行くと、「日本ももう少しドライバーのモラルが向上したらいいのに」と思うわけです。しかし少なくとも、素晴らしいクルマが生み出される国としてのモラルは保たれていると感じたのでした。

 良質なクルマを造る国は、ドライバーも良質であってほしい。韓国に行ってクルマの進化を感じると同時にクルマ社会への不安を抱き、そんなことを考えたのでした。

 付け加えるなら、決して高価でなくてもヘルシーで美味しいご飯が食べられる国に、無謀な運転は似合いません。エステやお買いもの、世界遺産めぐりも楽しめる国に住む人たちは、無謀な運転をしちゃいけません。これは近々、観光で再び韓国を訪れたい私の、筋の通らない意見ですが、海外からのビジターとしては交通モラルで民度をレベルを感じることができる言う点は、間違ってないでしょう。韓国はそれだけビジターにとって魅力的な国なんですもの……。

 そして人の国(のフリ)を見ては我が国も……。ドライビングルールはもちろん、マナー向上に一層努めたいものです。

韓国と言えば、ボディーに貼り付けられた青いスポンジが独特。新車にはドア開閉の際の傷を防ぐ青いスポンジ状のプロテクターが装着されているのだが、納車後もそれを貼りつけたまま乗っているオーナーがとても多い傷防止のプロテクターには写真のようなアフターパーツも売られているそうだ。美しいデザインを持つ韓国車もこの青いスポンジが妙に生活感を強めているように思えたのだが、これも韓国のクルマ文化の1つなのだろう

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2011年 8月 19日