2012年は「パイクスピーク」にも注目!(前編)

標高4301mの高山で行われるヒルクライムレース。そのレースレギュレーションやレースウイークの練習方法など、ユニークなところがたくさんあります

 アメリカでインディ500に次いで歴史のあるレース「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」が、今年は7月8日に開催されます。私も2010年、2011年と取材に行っていて、今年も3度目の取材に行く予定です。そんな今年、パイクスは90回目を迎え、最も大きな変化を見せる年になりそうなのです。

 パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムは、コロラド州のパイクスピークという高山で行われるヒルクライムレースで、標高2862mの地点から4301mの頂上まで、標高差1439mのコースを約20km駆け上がり、誰が一番速く走れるかを競うレース。

 これまでのレースを盛り上げてきたのは、この標高の高さゆえの気温や天候変化などの自然との戦いと、未舗装であった路面。そこに名だたるラリーチームのマシンとドライバーが参戦しているのはもちろん、レースが始まった当初にはインディに参戦するようなフォーミュラマシンがこのコースに挑み、近年もナスカ―に出場するようなストックカーや大排気量のトラックヘッドなどが参戦している。そんなコースには場違いとも思えるマシンたちの挑戦がアメリカらしく、観る者の好奇心をあおっているのです。

雄大な風景とその中を走るマシンの姿をはじめて見たとき、私自身ももの凄いカルチャーショックを受けました。毎年、多くの観客が集まります

 そんなパイクスの今年の変化の1つが、完全舗装路になるということ。この数年、道路の舗装化が進められてきたパイクスピークは、ふだんは頂上までクルマで訪れることのできる数少ない山の観光道路です。一般の方にとってはより安全で快適なドライブが楽しめるようになるのですが、コースとマシンのギャップを楽しみたいレースファンとしては、正直面白みに欠ける気がしています。

 その一方で、パイクスのレースの歴史をちょっと変えることになりそうなのが、新たな注目カテゴリーである「EVクラス」。今年は、アメリカ国内はもちろんドイツや日本からなんと9台もエントリーしているのです。

 このレースでは1999年にホンダがEVマシンで1度出場。2009年からは塙郁夫さんがオリジナルEVマシンで参戦し、2011年は北米日産からリーフがエントリーして塙さんのマシンと2台のEVがパイクスに登場していたのですが、今年はイッキに9台も参戦するのです。しかもメーカーの看板をしょって登場する2チームも含め、日本人が4人もこのパイクスの登頂にEVで臨みます。たった2年ですがパイクスに行っているものとしても、「何だか凄いことになりそう?」と思わずにはいられません(笑)

 3月27日、パイクスで前人未到の総合6連覇を達成したモンスター田嶋さんが、今年からオリジナルのEVマシンで参戦することを発表。「2012 Team APEV with モンスタースポーツパイクスピークEVチャレンジ」は、「環境への取り組み」や「被災地支援」「日本を元気に」などを念頭に、モータースポーツを通じて今年1年活動を行っていくのだそうです。

 大排気量&大パワーのガソリン車で戦い続けてきたモンスター田嶋さんは、60歳になったらEVでパイクスに参戦することを考え、模索してきました。実際は61歳の誕生日を決勝日に迎え、ガソリン車で見事6連覇とコースレコード更新を成し遂げ、62歳のパイクスチャレンジからはEVマシンで行うことになるようです。

 当然ではありますが、いきなりEVで7連覇を狙っているそうです。目標は「昨年、世界新記録を築いた自分のガソリン車の記録を破ること」。現在、マシンの仕上げとご自身の軽量化の真っ最中。マシンの詳細はまた別の機会にご紹介させていただきたいと思います。

 田嶋さんはこのレースはもちろん、レース運営のベース地でもあるコロラドスプリングスでも超人気者の有名人。EVで参戦することになった田嶋さんへの注目度を、現地で取材したいと思っています。

2011年にモンスター田嶋さんが多くの強敵と戦い、見事にワールドレコード更新と総合優勝6連覇を成し遂げた瞬間3月下旬の体制発表での田嶋さんの決意表明は、EV参戦が初年度ながら“勝つ”というマジ(本気)度を強めていました参戦車両のイメージ

 またF1を撤退したトヨタがル・マン24時間レースに参戦するというニュースが先日飛び込んできましたが、その一方でF1を走らせていたTMG(TOYOTA MORTERSPORTS GmbH)が開発した「TMG EV P001」を、パイクスのレギュレーションに改造したモデルで参戦予定。このマシンは昨年夏にニュルブルクリンクでEVのコースレコードを出したことでも話題になったマシンです。

 ドライバーはモンテカルロラリーで優勝経験もある奴田原文雄さん。このプロジェクトをTMGと共に進めるRK1(日本)の神子氏によると、「シミュレーター上では10分は切れる」と言います。つまり、昨年10分の壁を破って優勝したモンスター田嶋さんの強力なライバルになりそう?

 何でもTMGの木下社長がラリー好きなのだそうで、トヨタの2014年WRCへの復帰も木下社長のような“好きモノ”がいるおかげのようで、実はこういう事が大事なのですよね。奴田原さんのマシンは、TMG内でもEVの別スタッフが動いていているのだとか。このチームはFIAが進めているEVレースへのコンストラクター参加も睨んで集まったスタッフのようです。何だか凄そう?

これまではラリー参戦がメインだった奴田原さんのヒルクライム参戦&走行は今から楽しみです

 奴田原さんは3年前にタレントの哀川翔さんのアドバイザーとしてパイクスに参戦した経験があるものの、ステアリングホイールを握るのは今回が初めて。「3年前に行った際に自分でも走ってみたいと思っていました。ダートが好きなのですが、パイクスのような峠道を走るのも好きです。コースが完全舗装路に変わることやEVで参戦することにはモータースポーツの新たな時代を感じています」とコメントしてくださいました。さらに奴田原さんは「TMG EV P001」のようなフォーミュラマシンでレースに出場するのも初めてなのだとか。お住まいのある北海道の雪解けを待って、「レーシングカートにも乗ってトレーニングしようかな(苦笑)」とおっしゃっていました。

 シェイクダウンは5月連休明けころにドイツのどこかのサーキットで行う予定だとか。体制発表は6月上旬に都内で行われるそうですから、シェイクダウンの結果もうかがえそうなプレス発表も楽しみです。

 今週は4人の日本人参戦ドライバーを紹介するつもりでしたが、2人の簡単な(これでも)紹介でこれだけのスペースが必要になってしまいました。来週は三菱自動車のi-MiEVのプロトタイプマシンで参戦する増岡浩さん、EV参戦が4年目となる塙郁夫さんが参戦するワケ、そしてパイクスの見所をもう少しご紹介したいと思います。

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2012年 4月 5日