時代とともに変わるクルマと色

この企画展示は10月30日まで横浜の日産グローバル本社ギャラリーで開催中。最終日の30日には、日産デザイナーとJAFCAの方とのトークショーも開催されるそうです

 私は新しいクルマから旧いものまで、いろんなクルマが好きなんです。そこで最近気になっていたのが、現在日産グローバル本社ギャラリーで開催されている「NISSAN Color Design Story -時代を彩った日産車たち-」(10月3日~30日)。その展示を見た後にその様子をご紹介しようと思ったのですが、そのために短時間ながらクルマの色について調べたり聞いたりしてみたところ、改めて色ってオモシロイと感じました。

 ボディーカラーって、どうやって決めているかご存知でしょうか。では、インターカラー(国際流行色協会)はご存知ですか? 現在世界13か国が加盟しており、発足当時は女性ファッションの流行色を議論するところから始まっているのだそうですが、今やトレンドカラーの提案はファッションにとどまらず、様々なプロダクトデザインにも影響を与えています。

 日本にも日本流行色協会(JAFCA)があり、世界会議に参加するほか、色にまつわる様々な活動を行っています。JAFCAではインタカラーの傾向を参考にしながら、国内向けのトレンドカラーを1年半前に検討し選定しているそうで、その中に「自動車色彩分科会」もあります。

 たまたまお会いする機会のあったスバルのデザイナーの方にも、トレンドカラーについてうかがってみたところ、カラーデザイナーには常にその情報が入ってくるそうです。デザイナーの方たちはそのトレンドを参考にしながら、ボディー形状やアクセントラインなどをより一層に魅力的に際立たせることができるような色調を、独自に作り採用するのだとか。

天井が高く開放感のあるギャラリーにゆったりと展示された7台。のんびりとご覧になってみてはいかがでしょうか

 私の大先輩の自動車評論家で、デザインジャーナリストでもある千葉匠さんは、JAFCAが毎年12月に主催する「カラーアワード」の審査員も務めていらっしゃいます。千葉さんはトレンドカラーについて「ベースにあるのは時代の気分や価値観であり、それはファッションでもクルマでも同じ。しかしメタリック色はクルマ特有のものですね。またクルマはファッションほど着替えられないから、どうしても定番色が売れるわけだけど、定番色であっても変化をつけている」とおっしゃっています。

 赤や白、シルバーにしたって、確かに時代とともに変化しています。塗装工程や塗料の進化により繊細かつ微妙な色調の新しい色も大量生産可能になっている今は、斬新なボディーを強調するかのようなボディーカラーも増えているわけなんです。千葉さんいわく、今はエコや癒しを感じさせる色や、ブラウンなどがトレンドだともおっしゃっていました。

 クルマ選びにボディーカラーは重要な要素。これまではこういうクルマに乗る人って?と運転席を覗くことがありましたが、今後はさらに「こんな方がこんなボディーカラーを選んでいるのか」などと見てしまいそうです。

 過去を懐かしむように日産車の展示を見たはずが、現在からこの先のボディーカラーについても興味が湧いてしまったわけです。今回の展示は、インターカラーが発足する以前の日本でも流行色の傾向があったこと、また色へのこだわりの強さのようなものをたった7台の展示ながら感じられ、さらに色々な楽しみ方もできました。

 旧い時代のものでは、ブルーグレーの1937年式のダットサン16型クーペから始まるため、現役当時を知らない展示車では色やカタチ、サイズ、インテリアなども含め、現代のクルマと何となく比べてみたり。またその時代を知るモデルなら、当時流行った音楽を聴くと思い出が甦るように、当時の出来事やそのクルマに乗っていた人たちのことなどを知らず知らずのうちに懐かしく振り返える私がいました。

 例えば1937年式のダットサン16型クーペが採用したブルーグレーは当時の人気カラーであり多、くのメーカーが1950年代頃までボディーカラーの主流として採用していたそうです。だからこそ我々にとって今ではレトロな雰囲気を醸し出す色と感じられるわけですが、今ならユニークなダットサンクーペも当時の街並みにはカッコよくマッチしていたのだろうと想像しました。

16型ダットサンクーペ(1937年)。すべての展示車の後方にはその色にまつまる解説が掲示されていますブルーグレーの色合いというか風合いは、今見ると癒し系色に思えるのは私だけでしょうか手前のダットサンが誕生してから73年後に誕生したリーフ。ブルーグレー色のダットサンのお尻、可愛い!リーフがクールに見えます

 シャンパンゴール色の1966式シルビアに続き、グランプリマルーンというアズキ色をした1972年式フェアレディ240Zの展示車の前では、私がOLをしていたときの同僚の女の子の彼氏がZ好きで「彼はアズキ色のZに乗っているです~」と言った彼女に「そんなに旧いクルマが好きな彼に付き合うの大変ね」と言った記憶が思い出されました(笑)。

 1973年式のスカイラインH/T GT-R(ケンメリ・スカイライン)はシルバーかと思いきや、内装色の黒との調和が重視され、オレンジが強いこのレッドは新たなGT-Rへの挑戦「色」でもあったのだとか。確かにレッドのケンメリもカッコイイ。トヨタKP61型スターレットとかマツダのファミリアも、同系のレッドが人気だったんじゃないかと思います。当時の流行色であったレッドが今とは違うオレンジ系のレッドであったことも懐かしく振り返ることができました。

シルビア(1966年)元同僚の彼氏も乗っていたアズキ色(グランプリマルーン)のフェアレディZ(1972年)
“ケンメリ”スカイライン(1973年)ケンメリの外装色は内装のブラックとの調和が重視されたそうで、特別に助手席側から撮影させていただいたところ、メーターのフレームの深さが強調される結果に……。逆にメーター類がいかにドライバーに向けられたものかがわかるのでは? デザインの詳細は実際に運転席側から覗いて確認してみてください

 さらに時代は現在に近づき、1988年式のセドリックシーマ、1991年式フィガロ、そして2010年式のリーフで完結。「おやおや、結局はリーフの宣伝をしたかったのでは?」と意地悪な深読みをした私も、その後の千葉さんのお話しで、エコカーが増えている今はドギツイ色は減っていて、エコロジーとか癒しが感じられる色が今のトレンドなのだと知り、リーフのブルーが“今らしい”と、改めて納得。

 数十年後に同じようにクルマをボディーカラーで振り返ったときに、どんな感想を抱くのでしょう。私にとってはそんな過去から未来を感じさせる企画展示でした。ご興味のある方は行ってみてください。ちょっとした解説が色の意味や我々のボディーカラーに対する感性を刺激してくれるかもしれません。流行色については、身近なプロダクトに取り入れる参考になるかもしれません。

セドリックシーマ(1988年)。バブル期という景気のよい時代が華々しく感じられたりもして……解説では「グレイッシュブルー」と紹介されていましたが、展示車はなぜかグリーン。しかし、この淡いグリーンメタリックも上品さを醸し出してました
フィガロ(1991年)。Be-1、PAOに続く日産パイクカーシリーズの第3弾でした各展示車はぜひ、内装もご覧あれ。雰囲気や時代の変化、クルマの進化を感じることができますそして2010年に誕生したリーフ

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2011年 10月 20日