噂は本当だった、というお話
手前からG'sプリウス、ヴィッツ、ノア、ヴォクシー |
「G'sのミニバン、いいらしいよ~」という噂を耳にしたのが確か去年の秋か今頃だったのではないかと思います。何がどうよいのか、その具体的な内容を聞いたわけではなく、ただ“よいらしい”と聞いただけで情報は停まっていました。先日、幸運にも、自らがハンドルを握って体験することができました。
「G Sports」通称「G's(ジーズ)」はトヨタのカスタマイズモデルです。それもトヨタ社内で企画、開発、販売を行うモデルということで、その点においてはどこかのメーカーに委託して仕上げていただくモデルとは異なります。
もちろん委託したモデルだって魅力的なモデルはあるわけですが、G'sモデルの場合、工場でクルマを製造する段階からカスタマイズを行える、さらにトヨタ車を熟知したテストドライバーたちがチューニングを行うといのがスポーティなハンドリングを好む人たちにとっては最大のメリットだと、自分が実際に走らせてみて再認識させられた次第です。
ボディー剛性の強化は、工場で行われるスポット溶接増しに始まり、補強パーツが取り付けられ、テストドライバーらによって専用開発されたサスペンション、ブレーキを装着。さらにタイヤ&ホイール、内外装のデザイン変更、それからG'sヴィッツ以外(ヴィッツはそもそもスポーツシートを採用しているため)はシートまでスポーティでカッチリと座ることのできるものを開発しているのです。
開発者たちも“スキモノ”ばかり。免許を取得して以来「AE86」(ハチロク)ばかりを乗り継ぐ方や、自分のクルマに様々なカスタマイズパーツを取り付けては失敗と、家族からの不評をかっていたというドリフトが趣味の方など、個性的なクルマ好き。正直なところ、お話をうかがう前はそんなユニークなプロフィールを持つとは思えない方たちが、モデル開発を行っていたんです。
例えばスポット増しの効果について伺った際にも「ただ数を増やせばいいわけではなくて、美味しい(最適な)場所があるんですよ~」と話すときの目の輝きが、「アンタも好きね~(ウッフン)」と私が心の中で呟くほど。正真正銘、クルマの中でも走り好き、という方たちによる走り好きのためのモデルだと実感させられました。「LF-Aとか86とか言ってるけど……」とトヨタのスポーツカーに対する熱意を疑う気持ちが0(ゼロ)ではなかった私でも、G'sモデルを開発した方たちの顔を見てお話しをうかがい、ハンドルを握ってみたら、トヨタが本気でスポーティなモデルを拡大していることがわかります。
手前がG's ノア/ヴォクシー。近年のミニバンは新型になるたびにボディー剛性が高まりハンドリングも向上しているけれど、まだまだ向上の余地はあるのだと実感 |
モデルラインナップは昨年6月にG'sモデル第1弾として登場したミニバンの「ノア/ヴォクシー」、今年10月には「ヴィッツ」、そして12月にはマイナーチェンジを行った「プリウス」を早速ベースモデルとして使用する「G'sプリウス」があります。つまりトヨタでも人気のある、ミニバンにコンパクトカーにエコカー。目の付け所がさすがですね。
ノア/ヴォクシーはボディーのロールが極めて少なく、ミニバンであることを忘れるほどガッチリ感が嬉しいモデル。家族のために走りの楽しさを諦めつつミニバンを購入した、運転好きのパパにおすすめです。
今年10月に発売が開始されたG'sヴィッツ。スタイリングはもちろんガッチリとタイヤが路面を捉える安定感とキュンキュンと曲がるハンドリングが魅力 |
ヴィッツはスポーティグレードの「RS」をベースに開発されているのですが、さらにボディーのスポット増しも行われ、剛性の高いボディーとサスペンションなどにより、タイトなコーナーでも安定感を感じつつキュンキュンと曲がる楽しさがやみつきになります。こちらは特にMTが楽しい。それにスタイルもベースモデルより個性的で、スポーティなモデルだからと言って変に尖っているわけではなく、上品にまとめられているところに好感が持てます。単なる毎日の足として扱いやすいコンパクトカーを選ぶのでも、個性的なスタイルと走らせていて楽しいモデルのほうが、より日々のクルマ生活も充実するのではないかと思います。
そしてプリウス。正直に言って、G'sのプリウスに乗ってしまうと、ベース車には乗れなくなってしまうかもしれません。エコカーでもハンドリングにこだわりたい方、またプリウスだらけの街中で、人と違った顔を持つプリウスに乗りたい人にもおすすめです。
ボディー剛性の強化は、コーナリングの限界値を高めるばかりでなく、直進安定性や路面のつなぎ目を通過する際の微妙な“ブルブル”や“ゴツン”を減らしてくれます。ヴィッツにしてもプリウスにしても、トヨタ車のボディー剛性はこれらを基準に作っていただきたいくらいです。
G'sのモデルたちはスポーティなハンドリングを楽しむ以前に、走りの質の高さが違う。そこで単なる“スキモノ”だけでなく、もっと幅広い一般的なユーザーに選ばれていいモデルだと思いました。
カスタマイズというと“走り屋の領域”と思っている人も少なくないのでは? でも人とは異なるスタイリングとステアリングを切った分だけ曲がる楽しさを気軽に楽しめる、交差点の右左折でも違いがわかるモデルとして、G'sはカスタマイズの固定概念を嬉しく崩してくれました。トヨタはこういうモデルの開発を継続的に行っていくべきですし、むしろこのボディー剛性の強化などの開発技術を、新型車のベース車両に活かすべきではないでしょうか。
そんなわけで、小耳にはさんだ噂話は本当だった、というお話しでした。
■飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
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(飯田裕子 )
2011年 12月 22日