パイクス・ピーク・インターナショナル・ヒルクライムレース2012(前編)

横浜ゴムがサポートする2台のEV。塙郁夫さんがドライブする「Her-02」(右)と、奴田原文雄さんがドライブする「TMG EV P002」

 パイクス・ピーク・インターナショナル・ヒルクライムレース2012(以後パイクス)が始まりました。今年のパイクスは大規模な山火事に見舞われたため延期され、1カ月と少し遅れて開催されました。

 山火事の焼け跡はパイクス・ピークに向かう途中でも確認できます。また開催時期がズレたからなのか、山火事が起こるほどの暑さのせいなのか、今年のパイクスは山に雪が全く残っていないというのも例年と異なる点。コロラドのロッキー山脈の一部であるこの山に訪れるのを楽しみにしている今年3年目のパイクス・ファンとしては、少し物足りない気持ちもあります。

 しかしレースの方は、日本人としてもアメリカのレースを訪れるビジターとしても、見どころの多い年と言えそうです。まずは、私が応援して3年目となる「チーム・ヨコハマ・EV チャレンジ」がエントリーするEVクラスの参加台数が、昨年(2011年)の2台から7台に増えました。

 “キング・オブ・パイクス”と呼ばれ、ここパイクスのレースで総合6連覇を遂げているモンスター田嶋さんがマシンをEVに変え、7連覇を目指して参戦。さらに三菱自動車から2台、F1も走らせていたトヨタのモータースポーツ部門「TMG」から1台、アメリカ国内から2台が参戦しています。ただ昨年参加していた日産リーフはおらず、日産には「リーフRC」なんていうレーシングマシンもあるのに登場してくれなかったのは残念です。

モンスター田嶋こと田嶋伸博さん(右)と「Monster Sport Pikes Peak Special」(左)が予選トップ。見た目にも仕上がりのよさを感じさせ、カメラを向けるとステキな笑顔を返してくれました
増岡 浩さんがドライブする三菱「i-MiEV Evolution」Elias AndersonさんのEV「Lightning XP12」の車検風景。レーシングカートの延長にあるようなEVレーシングマシン。バッテリー搭載量は少なめながら、とにかく軽い。下馬評では有望視される声もあり、“ダークホース”なんて呼ばれていましたMichael BreamのBMW「M3」はコンバージョンEV
山火事の焼け跡が残る山を見ながらパイクスピークに向かう頂上で遠くの雷雲が移動する様子を見ていたら、下る途中でドシャ降りの雨に降られました
おかげでコースが川のように光って、観光と思うとコレもまた美しかったパイクス・ピークの頂上
普段は観光有料道路。料金を支払うゲートのホワイトボードには「上りは2~3速、下りは1~2速を使え」「上りではエアコンを切れ」など、運転上の注意が書かれています

 パイクス・ピークは標高4301mもある高山(ちなみに富士山は3776m)でありながら、山頂までクルマで行くことができます。レースは、そのパイクス・ピークを駆け上がる観光有料道路を使って行われます。

 今年は記念すべき90回。ただし戦争などで中止されていた年も含めれば、96年前から始まったこのレースは、アメリカではインディ500に次ぐ歴史あるレースとしても有名です。その当時、未舗装だった道路は近年になって徐々に舗装化が進み、今年から全線舗装路になりました。

 90回記念イヤーに当たることで、ローカル感漂うパイクスも今年は少し華やかであり、さらにコースは完全舗装路化され、記念すべき年が新たなレース場面を生む節目になるのではないかと感じています。EVの台数が増えたこともその1つ。90回記念だからか、EV以外の参加台数もさらに増えました。

 さて、レースウイークは火曜日の車検から始まりました。練習走行や予選を一緒に走るクラスのクルマたちが朝から集まり、EV日本勢もここで初めて対面。ラリー経験が豊富であり日本でも有名なドライバーたちは、すでに顔見知りの仲ではありますが、場所もマシンも変わることで、彼らの表情には楽しさに加え緊張が混じって、少し違って見えます。あのモンスター田嶋さんも、少々ピリピリしていたみたい。近寄るのが少し怖かったのですが、翌日にはよい笑顔。その理由は後ほどわかります。

 ちなみにチーム・ヨコハマ・EVチャレンジは、EVプロトタイプレーシングカー「Her-02」で、ドライバーの塙 郁夫さんとともに参戦して、今年で4回目。少しずつ改良が進むものの、同じマシンでのチャレンジは3年目となります。

 車検を終えた午後は、コースの下見に行くというドライバーの塙さんとともに、パイクス・ピークに向かいました。アメリカも夏休み期間中。山頂を訪れるクルマの数の多さを、駐車するクルマの数で実感。日曜日の決勝には例年以上に観客が集まるかもしれません(ワクワク……)。

 水曜日から3日間が練習走行日。パイクスは一般客が訪れる前の約4時間が練習時間であり、この期間だけは特別に朝3時半にゲートが開き、5時半から走行が始まります。参加者を3グループに分け、コースも3セクションに分け、毎日違うセクションを練習するのです。

 3日間走ればコース全体をほぼ走ることになるのですが、フルコースを走れるのは日曜日のレース時にたった1回だけ。朝も早いのにフルコースを走れるのが当日の1回だけだなんて不親切なようだけれど、これがこのレースの特徴でもあるのです。

 EVクラスは今年はボトム→ミドル→トップと山の下から順々に走行が行われます。そうそう、ボトムセクションでは必ず走行順を決める予選=タイム計測もあります。この原稿を書いている今日は練習日初日。EVクラスは1位がモンスター田嶋さん、2位トヨタの奴田原さん、3位がアメリカのレーシングEVで4位が三菱の増岡さん、そして5位がチームヨコハマの塙さんでした。が、三菱の増岡さんは2回目の走行でコースアウトによりマシンを破損。日曜日のレースに向けてマシンの修復に取りかかるそうです。

ボトムセクション(Her-02の車載カメラで撮影)
Lightning XP12とドライバーのElias Andersonさん。走行を終えた表情がとても疲れていたので理由を聞いてみると、「朝の3時からココに来て早朝に走るなんて最悪、これが3日間も続くなんてウンザリする」と。このときまだ初日の走行1本目(苦笑)。楽しみで来ているとはいえ、正直な方でした
コースアウトしたi-MiEV Evolution。実はここ、過去にフォードのWRCワークスチームが参戦した際にも滑落したのをはじめ、同様のアクシデントが少なくないキケンなコーナーなのだそうです。チームは早速マシンの修復に取りかかっています。日曜日、レース本番にはまたあの速さを見せてくれることを楽しみにしています

 標高4301mの頂上を目指すコースは、徐々に木々が無くなり、赤い岩肌がむき出しになった路側にはガードレースのないところばかり。一歩間違えば転落も免れません。毎年のように事故も起きています。皆さんの無事を願いつつ、応援と取材をしていくつもりです。

 今年は主にEVクラスに注目しています。塙さん以外はEVのマシン製作も参戦も初。その中でもモンスター田嶋さんはコースを熟知しているものの、パイクスを走らせるのが初めてという方もいます。また単にEVマシンと言っても、参戦主旨もスペックもさまざま。そういうアレコレを加味しながら、それぞれのチームやドライバーに目を向けていこうと思っています。

 その一方でアメリカンな雰囲気がプンプンと漂うマシンも多数。またEVでもいきなり総合優勝を狙うモンスター田嶋さんに対し、これまでのライバルたちの走りも気になります。完全に舗装された道路は、単純に考えれば全体的にタイムアップするだろうけれど、高山の天気は変わりやすく、自然相手には運も必要です。

 たった1回のタイムアタックのために6日間を費やすこのレース。どんな展開になるのか、結果は来週ご報告したいと思います。

昨年は欠席だった、トラクターヘッド。これが山頂を目指す姿もアメリカらしい1983年式のアウディ「クワトロ」はタイムアタッククラスに参戦。パイクス・ピークと言えばクワトロ。実は今回、かつてミシェル・ムートンと共にクワトロでこのパイクスに参戦し活躍したワルター・ロールが「クワトロ S1」で参戦予定だったのに、日程の変更で参戦中止。見てみたかったな、残念今年から息子さんもドライバーとなり、パイクスに参戦するマードック親子の2台のマシン。お父さんは昨年のヴィンテージクラスの優勝者
ガードレールがほとんどない道路毎年、ボトムセクションでオフィシャルを務めるMichael Friendさん。「愛車のスバルはどうしたの?」と聞いたら「これに買い替えたんだよ」と嬉しそうに話してくれました。初めて訪れたパイクスで同じようにレッドフラッグと一緒に2ショット撮影をして以来、なぜか恒例になっています
個人的に大好きなヴィンテージクラス。V8のドロドロ~という音とともに走る姿はパイクスには欠かせない!と思う私

飯田裕子のCar Life Diary バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cld/

(飯田裕子 )
2012年 8月 10日