【中国GP】
デフューザー問題が決着
雨が明暗を分けた、レッドブルとブロウンGP

上海インターナショナル・サーキット

 中国GP直前の4月14日、パリのFIA(国際自動車連盟)本部で開かれた国際控訴院(International Court of Appeal、以下ICA)で、フェラーリ、ルノー、レッドブルによる、ブロウンGP、トヨタ、ウィリアムズのディフューザーに関する双方からの聴聞が行われた。そして、ICAの判事たちは、ブロウンGP、トヨタ、ウィリアムズのディフューザーについて合法と判断したオーストラリアGPのスチュワード(競技審判団)たちの決定を支持。ダブルデッカー型と呼ばれるディフューザーが合法という判例ができた。一方、フェラーリ、ルノー、レッドブルは、抗議と提訴が通らなっただけでなく、この公判のための全費用の支払い義務が発生した。

早くも新ディフューザーが登場
 一部のメディアで誤った説明がなされているので、ここでICAについてちょっとご説明する。ICAは、FIAのモータースポーツにおける最高裁定機関で、ルールの解釈に関する最高機関。一般の社会で言えば最高裁判所にあたり、ここでの裁定が最終で絶対のものとなる。ルール解釈に関する問題が起きたとき、国内選手権戦は各国のモータースポーツ連盟での裁定機関から公判が始まり、最終段階の公判がICAとなるが、F1、WRC、ITCなどのワールドチャンピオンシップ戦での提訴は、直接ICA扱いとなる。

 このICAは各国から集まった法律の専門家による判事で構成され、公判の仕方も一般の裁判所とほぼ同じプロセスとなる。しかもこの判事たちは、法律家である上にモータースポーツにも造詣が深い人たちばかりという、スペシャリスト集団だ。ICAは場所こそパリのFIA本部に間借りしているが、組織と財務はFIAから独立していて、FIAの役員もその裁定には影響を及ぼせないようにされている。自身が弁護士でもあるマックス・モズレーFIA会長になってからICAと司法の独立性が強く確立されるようになった。

 しかし、メディアの中にはまだモズレー会長体制以前の記憶があるのか、いまだにICAがFIAの従属機関でその裁定にFIAの意向が強く及んでいると誤解しているものが多いのは残念なことだ。もしもICAがFIAの意向に強く影響を受けているとするなら、レギュレーションの条文のあいまいな部分を突いてきたブロウンGP、トヨタ、ウィリアムズのほうを非合法としただろう。レギュレーションをまとめたFIAの担当者たちには、その条文のあいまい性を突かれたこと自体、あまり心地よくないはずだからだ。

 もうひとつ、ディフューザーについて簡単に言及しよう。ディフューザーがなぜここまで争点になったかというと、それは極めて効率のよい空力部品で、空力性能規制がより厳しくなった今年のF1ではその重要性がより増しているからだ。

 「ディフューザー」は、日本語に直訳すると「拡散装置」で、車体の床の後ろ端をうまくはねあげた形にすることで、車体の底と路面との間を流れてきた空気を拡散させる装置を指している。ディフューザーで車体の底と路面との間隔を広げて空気を拡散させると、その直前の車体の底と路面との狭い隙間を流れる気流は、より速く流れ、その気圧は低くなる。そして、この低い気圧によって、車体は路面に吸い寄せられるようになる(車体の上の大気圧で路面に向かって押しつけられることでもある)。この車体の底と路面との間の気流を利用してダウンフォースを得る方法をグラウンドエフェクトといい、ウイングよりも小さい空気抵抗量でダウンフォースを効率よく発生できる利点がある。

ルノーはダブルデッカー型ディフューザーを自家用機で空輸、土曜日から装着した

 ブロウンGP、トヨタ、ウィリアムズは、このディフューザーの中央部分を、上下に2段構成の形にして、空気の拡散効果=車体と底との間の気流の速度を増す効果を上げて、グラウンドエフェクトによるダウンフォースをより稼いでいるとされている。

 この裁定を受けて、中国GPではマクラーレンが、ディフューザー上部分にあったフタのような部品を外し、テールランプ下に小さな気流制御板を設けて、暫定版のダブルデッカー型としてきた。ルノーは、新設計したダブルデッカー型ディフューザー(床部品と一体型)を1セット完成させ、チーム代表の自家用機で緊急空輸。これを土曜日からアロンソ車に装着した。これで、ハミルトンは目標としていた予選でのトップ10入りを達成した。アロンソは燃料搭載量を少なくした効果とあいまって、予選2番手に急浮上した。

決勝の雨ですべてが変わった
 この予選でもブロウン勢は安定した速さを見せたが、圧巻だったのはレッドブル勢の速さだった。レッドブルは、土曜日の午前にもドライブシャフトのCVジョイント部分にトラブルが出たことで、予選もあまり周回を重ねない戦いをした。とくにベッテルはQ2とQ3を1回のアタックにすべてをかけて、ポールポジションを獲得した。ウェバーも3番手につけた。
 予選上位勢の燃料搭載量は、アロンソ約9周分、ベッテル約12周分、ウェバー約13周分、バトン約17周分、バリチェロ約18周分となり、ブロウンGP勢が戦略上での自由度が大きく有利だった。さらに、ブロウンGPのBGP001はタイヤにやさしく、燃料を搭載して車体が重い状態でもタイヤの性能のよいところを長く維持できた。逆に、レッドブル勢はタイヤに厳しく、とくにスーパーソフト側には課題が残っていた。アロンソは、走り始めにすぐ性能のピークが出る(代償として性能が長持ちしにくい)スーパーソフトスタートでダッシュを決め、そのマージンで次の展開の優位につなげようとする策であることがうかがえた。ところが、こうした戦略や予想は、日曜日にすべてが崩れた。

 天気予報では、日曜日のレース終了後に雨とされていた。だが、雨は決勝前からかなり強く降り続けた。これで、セーフティーカー先導によるスタートになり、規定に従い全車最も排水性能が高いウェットタイヤを装着して出走した。雨脚は弱まらず、20台のマシンが走行しても路面の水がなかなか減らなかった。結果、セーフティーカーによる周回が続いた。そしてついにアロンソが7周目に燃料補給に向かった。これでアロンソは最下位に転落。しかも、その翌周にセーフティーカー先導が終わったことで、アロンソとルノーの戦略は瓦解してしまった。

 一方、ウェットコンディションと8周に及んだセーフティーカー先導のおかげで燃費が楽になったことが、レッドブル勢には好都合だった。ウェバーとベッテルはそれぞれ14周目と15周目にピットストップを済ませ、大きく順位を落とさないで済んだ。その間にバトンがトップに立ち、自身のピットストップで優位に立つためにレッドブル勢との差を稼ごうとした。ところが、ここでトゥルーリにクビサが追突。その処理のためにセーフティーカーがふたたび入った。不運にもバトンはこのセーフティーカー周回に入った後で1回目のピットストップをすることになった。まだ隊列が整う前だったので、2番手で復帰できたが、トップの座をベッテルに明け渡すことになってしまった。

金、土曜日の晴れから一転、雨の日曜日となった中国GP
ブロウンGPはタイヤにやさしい特性が裏目に出た

雨がレッドブルに有利に
 23周目にレースが再開となると、ベッテルは2位のバトンを引き離しにかかった。そして、2番手バトンが3番手のウェバーとバトルをしている間に、ベッテルは独走態勢を築いてしまった。

 この段階で、バトンが苦境にあることが明白になった。ウェバーとのバトルの中で、バトンはバックストレートで車体をウィービングさせていた。これは、タイヤを発熱させようとする動きだった。BGP001は、ドライではタイヤにやさしく2種類のタイヤに幅広く対応できるのだが、ウェットではタイヤの発熱が悪く、タイヤの機能を引き出せていなかった。レッドブルのRB5はその逆で、ドライではタイヤに厳しい傾向が強いが、ウェットではタイヤを上手く発熱させて、その性能を存分に引き出せていた。

 この差は、ラップタイムでも明らかで、レッドブル勢が1分53秒台前半を連発できたのに対して、ブロウンGP勢は一瞬雨足がやや弱まったタイミングに1分53秒台に入れただけだった。さらに、2度目のピットストップを終えると、レッドブル勢は1分52秒台に入ったが、バトンは1分53秒台中盤が精一杯だった。この雨脚が弱まった間の42周目にバリチェロが1分52秒592のファステストラップを記録したが、表彰台からは遠い4番手だった。

 この段階で、レッドブル勢とブロウンGP勢との勝負がつき、トップ3は、ベッテル、ウェバー、バトンでほぼ確定的になった。あとは、ふたたび雨脚が強くなる中で、ミスやクラッシュに巻き込まれないことと、レッドブル勢は頻発するマシントラブルの不安との戦いだった。だが、ウェット路面は、ドライ路面よりもグリップが弱く、走行速度も遅いため、車体、とくに駆動系やサスペンションといったRB5の弱い部分への負担が少ない条件だったことも、レッドブル勢には好都合となった。

 勝敗にはマシンの特性が大きなウエイトを占めたが、それでもベッテル、ウェバー、バトン、バリチェロと、雨を得意とするドライバーたちによる戦いは、人間が極限の技を競い合う、極上のバトルを展開した。自分自身とマシンの全力を出し切った4人は、レース後マシンを降りると、アスリートとして互いに健闘をたたえあった。そこには、スポーツとしてのさわやかな瞬間があった。

レッドブルの2人、ベッテルとウェバーが1-2フィニッシュを決めた

 このほかに目を向けると、マクラーレンがコバライネン5位、ハミルトン6位と矢継ぎ早のマシン改良の努力に結果がともない始めた。7位のグロックは途中、フロントウイングを壊してペースを落としてしまっての結果だった。8位は、今季唯一の新人ブエミが3戦目で初入賞を果たし、当初は疑問視されていた評価を覆してみせた。

 現行レギレーションでは、予選開始からセットアップ変更ができない。そのため今回のように決勝日に雨になっても、フロントウイングの角度変更と冷却装置のダクトの変更程度しか変更できない。そのため、現代のF1マシンは、ドライでもウェットでも幅広い対応ができるマシンが理想だが、その実現は極めて難しい。

 今回は、ウェットのレッドブルの優位性が見えた。だが、次のバーレーンGPは、ドライで暑く、タイヤとブレーキへの負担が大きく、暑さによる信頼性への影響も懸念される。これを克服するのは、ブロウンGPなのか、レッドブルなのか、それともハード側タイヤで速いウィリアムズか、新ディフューザーでマクラーレンとルノーが速さを増すのか? そして、不運で入賞どまりのトヨタがテスト経験豊富なコースで結果を出しに来るのか? いずれにせよ、バーレーンこそが、序盤戦での勢力図を明確に示す場になるはずだ。

URL
FIA(英文)
http://www.fia.com/
The Official Formula 1 Website(F1公式サイト、英文)
http://www.formula1.com/

バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/f1_ogutan/

(Text:小倉茂徳)
2009年4月27日