【バーレーンGP】
ヨーロッパラウンド目前で、相次ぐマシン改善
トヨタはタイヤ選択で沈む

 ヨーロッパから遠く離れて、人も機材も飛行機で移動する序盤の「フライ・アウェイ(fly away)」戦。その最後の戦いはバーレーンGP。しかも、中国GPの翌週開催という強行軍になった。

バーレーン・インターナショナルサーキット

功を奏したマクラーレン、ルノーらの改良
 その中でもマシンに改良や変更もあった。ルノーは前回アロンソ車1台分しか間に合わなかった新型フロア+ディフューザーの一体部品に追加が到着し、ピケ車にも装着。フロントウイングもカスケードウイングなどと呼ばれる小さな翼が翼端板に追加された。マクラーレンは複数のサイドポンツーンを持ち込み、比較検討していた。

 ウィリアムズはリアウイングの翼端板を、レッドブルと同様に車体のフロアまで伸ばしたものを1セット完成させ、ロズベルグ車に装着した。翼端板を下まで延長することで、翼端板がディフューザーの外側の隔壁と一体になり、隔壁を後方に延長したのと同様になる。これによって、ディフューザーで車体の底と路面との間の気流をより引き抜きやすくして、リアタイヤ付近でのダウンフォースを増やし、安定性を増す効果が期待できる。

ルノー、ウィリアムズ、マクラーレン、フォースインディアは空力を改善してきた

 そして、フォースインディアは、フロントウイング、サイドポンツーン、ディフューザーと大幅な変更を施したマシンを投入してきた。

 改良の効果はそれぞれだったが、予選ではマクラーレンのハミルトンが5番手、ルノーはアロンソが7番手、ウィリアムズはロズベルグが9番手と、それぞれトップ10入りをはたした。フォースインディアも2台とも予選最下位を脱出した上、上位とのタイム差が縮まったおかげで、予選1回目(Q1)の戦いがより激しく、見応えがあるものになった。

 一方、大きなアップデートを次回のスペインGPに控えたフェラーリとBMWザウバーは、バーレーンでは予選から苦戦した。ただ、バーレーンのコースには4本のストレートがあり、KERS(運動エネルギー回生システム)による加速性能向上で、決勝での追い抜きと順位防衛や、ストレートでのスピード向上によるラップタイム向上への効果が見込まれた。そのため、マクラーレン、フェラーリ、ルノー、BMWザウバーのKERS搭載可能4チームの8台は、全車KERSを採用してきた。

トヨタは初のフロントロー独占に沸いた

トヨタの誤算
 だがこうしたチームのマシン改良やKERSによるタイム向上も、レッドブルとブロウンGPには勝てなかった。そして、このレッドブルとブロウンGPよりも予選で上を行ったのが、トヨタの2台だった。トヨタは、2005年の日本GP以来のポールポジション獲得で、フロントロウ独占はチーム初の快挙だった。

 ポールポジションを獲得したトゥルーリの予選終了後の車重が648.5kg、グロックが643kgだった。これは、それぞれ決勝でスタートからほぼ13周と11周分という、他よりもわずかに軽めの燃料搭載量だった。このわずかな軽さを利用して、スタートの最前列を占めた。そこには、トヨタの初優勝に向けた戦略があった。

 決勝は晴れ。気温38度、路面温度51度でスタートを迎えた。タイヤは、コバライネン、BMWザウバーの2台、ブルデーだけが今回の硬めのタイヤであるミディアムを選択。それ以外は全車スーパーソフトだった。スーパーソフトは、性能がすぐに発揮されてダッシュ力はあるが、その後の性能低下も早めとなる。とくに、燃料を積んで重い車重で、路面温度が高いと、性能低下がより早くなるのが常だ。

 すると、上位勢でもっとも燃料搭載量が少ない、トヨタの2台はとても有利だった。トヨタの戦略は、路面温度と少なめの燃料搭載量でスーパーソフトタイヤのよいところを最大限に引き出し、序盤のダッシュでリードを奪う。そして、このリードでその後のピットストップもすべて有利に展開しようということが容易に読めた。

 スタートでグロック、トゥルーリの順でトヨタの2台がトップを独占。燃料搭載量がより少ないグロックが前に出たのは、トヨタにとってより理想的な展開だった。唯一の不安は、3番手に上がってきたバトンがトヨタ2台と同じハイペースで迫ってきたことだった。路面状態はスーパーソフトタイヤに最適で、燃料搭載量が多くてもタイヤの消耗は少なくなっていた。これはバトンらやや燃料を多めに積んでいた上位勢にとって追い風で、トヨタにとって小さな誤算だった。だが、トヨタにはさらに大きな誤算が待ちうけていた。

 1回目のピットストップを、グロック11周目、トゥルーリ12周目で行った。ここでトヨタは両ドライバーに今回の硬め側のタイヤであるミディアムを装着。ミディアムは、性能発揮の始まりが5周から7周目とやや遅いが、性能が長持ちし、しかも高い路面温度で燃料搭載量が重くても対応しやすい。逆に夕方にかかるレース終盤では路面温度が落ちて、ミディアムでは厳しくなる。トヨタは、まだ路面温度が高いここでミディアムの特性を利用する作戦に出た。当然長くなる走行距離にあわせて燃料搭載量も多くした。重い燃料搭載量と50度前後の高い路面温度を考えれば、正しいタイヤ選択と戦略のはずだった。

 しかし、スタートでミディアムタイヤを選択したコバライネン、BMWザウバー勢、ブルデーの4人は、いずれもラップタイムが向上していなかった。この4人は燃料搭載量も多かったのだが、その重量によるラップタイムの低下分を差し引いても、より遅いペースだった。

 ハミルトンにスーパーソフト、コバライネンにミディアムを装着させたマクラーレンは、2種類のタイヤによる違いをより正確に把握し、ミディアムがスーパーソフトよりも約1秒ラップタイムが遅いと分析。そのため、無線でハミルトンに1回目のピットストップでもスーパーソフトで行くことを提案していた。つまり、この段階で、決勝でメインに使えるタイヤはミディアムではなく、スーパーソフトになっていた。

 実は、このことは事前にブリヂストンも予測し、リリース上にも今回はスーパーソフトがメインになり、ミディアムをどう使いこなすかが決勝のカギになるとしていた。しかし大部分のチームとドライバーは、開幕戦でスーパーソフトが数周で激しく性能低下を起こした経験と、バーレーンの暑い路面温度と激しいブレーキングを求めるコース特性もあって、このブリヂストンの予測とは逆のタイヤに対する「常識的な」見方をしていたのだった。

 ピットストップで、ミディアムを装着したトヨタの2台はチームの戦略と期待に反して、ペースが上がらず、スーパーソフトを装着した他の上位勢よりも1周につき1秒前後遅い周回が続いた。これで、序盤に築いたリードは完全に崩壊し、むしろ遅れになっていった。

 路面にタイヤがあわないトヨタの2台は、2回目のピットストップを早めてスーパーソフトに戻したいところだ。だが、長めの周回を想定して燃料搭載量を多くしていために、その重量が減る前にスーパーソフトを装着するとタイヤの消耗が早まり、また大幅なラップタイム低下を招く危険性が極めて高かった。この時点で、トヨタの2台は燃料の重量がある程度減るまではなすすべがない状況となり、スタート前にはほぼ目前にあった優勝が絶望的に遠のいてしまった。

優勝はまたもバトン

やっぱり強いブロウンGP。舞台はヨーロッパへ
 一方、バトンは他の大部分のドライバーと同様に1回目のピットストップでもスーパーソフトを選択してハイペースを維持して、トップに立った。幸運にもバトンの後ろでは、2番手以下が互いにバトルをしあうことでペースが落ちることが多かった。おかげで、バトンは自分のペースを自由にコントロールして2度目のピットストップ後もトップを快走。高温の中で心配された冷却にも問題なくゴールまで走りきることができた。

 2位は、レッドブルのベッテルだった。ベッテルはスタート直後にハミルトンを抜けず、その遅いペースにつきあったことでタイヤにグレイニング(ささくれ摩耗)ができ、ペースがより落ちてしまった。これが序盤で優勝戦線から遠のく要因になった。レース終盤でも、最後に残したミディアムタイヤが44度まで下がった路面温度にあわず、スパートができなかった。この問題は、最後にミディアムを装着した大部分のドライバーが遭遇した。

 唯一例外だったのがブロウンGP勢で、とくにバトンが顕著だった。これは、バトンのマシンとタイヤの性能を引き出す巧みなドライビングテクニックと、BGP001のドライ路面でのタイヤに対する幅広い適応能力によるところが大きかった。逆に、最後にスーパーソフトに戻したトヨタ勢はハイペースを取り戻したが、トップ奪還は不可能な状況だった。それでも、果敢な追い上げでトゥルーリが3位、グロックが7位になった。

 このほか、マシン改修が功を奏したハミルトンが4位。バリチェロは3回ピットストップ戦略が裏目に出ての5位だった。6位はライコネンで、フェラーリはやっと今季初ポイントを獲得できた。

 8位は、アロンソだった。アロンソはスタート前に「今のマシンでは入賞が目標だ」としていたが、それを有言実行してみせた。しかも、アロンソのマシンは、レース中に口に水を送るドリンクポンプが故障し、一切の水分補給もないまま、より暑いコクピットの中で、ヘルメットとレーシングスーツのフル装備状態で、1時間半にわたって激しいGに耐えて、バトルをした。ゴール後、マシンから降りて車検場を出たアロンソは、脱水症状で倒れてしまった。アロンソは入賞という目標達成のためには、体力の極限まで戦う姿勢を示した。これは、マシンの性能で遅れをとっているルノーチーム対して開発促進をより強くうながすことになっただろう。

やはりタイヤに泣かされたベッテル水分補給なしで戦ったアロンソ

 F1は、機材をトラックで移動できるヨーロッパに戻る。その初戦であるスペインGPでは、ルノーをはじめ多くのチームが改良版マシンを投入する予定だ。序盤戦ではブロウンGPを筆頭に、レッドブル、トヨタが新たな3強となった。ここに、改良版マシンで昨年までの上位勢チームが絡んでくるのか? それとも、ブロウンGPやトヨタも改良版でより速さを増してさらに優位を確保するのか? 一方、レッドブルは改良版をモナコで投入すると言う。スペインからまたF1の新たな展開が始まり、新たな勢力図を作ることになる。

URL
FIA(英文)
http://www.fia.com/
The Official Formula 1 Website(F1公式サイト、英文)
http://www.formula1.com/

バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/f1_ogutan/

(Text:小倉茂徳)
2009年5月8日